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サーよし!2  作者: たらふく
374/413

374 ダブルス対決




フロアを出たところで、トーマスはある人物とすれ違った瞬間、愕然としていた。


オーマイガー・・

神よ・・

そんなに僕が・・お嫌いですか・・

お願いだから・・呪いから解放してくださーい・・


そしてトーマスは十字を切って天を仰いだ。

そう、トーマスとすれ違ったのは、まるちゃんこと、丸山だったのである。

丸山は阿部と瓜二つで、日置らも本人と見紛うほどだった。

善光寺チームは桐花に負けた後も、ここに残って試合を観ていたのである。


桐花のベイビーは・・コートに立っていたはず・・

なぜ・・ここにいますかー・・


ベイビーとは阿部のことである。


「へ・・ヘイ・・ユー・・」


トーマスは恐る恐る声をかけた。

呼ばれた丸山はキョトンとしながらも、トーマスが増江の監督だということは知っていた。


「あなたー・・なぜ・・ここにいますかー・・」

「え?」

「し・・試合・・」


トーマスはフロアを指した。

丸山は阿部と間違われていることが、すぐにわかった。


「さあ、なぜでしょう」


丸山はニッコリと笑って、トーマスをからかった。


「オーノー・・」


日本には・・忍者がいまーす・・

これはきっと・・分身の術・・

いや・・呪いに違いありませーん・・


そこでトーマスは目を擦り、まじまじと丸山を見た。

丸山はその様子が面白くて、また笑った。


「あなたー・・忍術を使ってますねー・・」

「あはは」

「試合で・・そんなもの使っちゃダメでーす・・」

「増江、試合ですよね」

「あなたも・・試合でーす・・」

「行かなくてもいいんですか?」

「僕は・・ちょっと・・」

「どうしたんですか」


この子は・・忍術を使ってる・・

ならば・・呪文のことも知ってるはずでーす・・

オーダーも書き間違えてしまったし・・

もう怯えている場合ではないでーす・・


「あの・・訊きたいことがありまーす・・」

「はい」

「日本の呪文・・知ってますかー・・」

「呪文?」

「さっき・・試合で唱えてましたー・・」

「それ、なんですか」

「ね・・ねぇ・・」

「え・・」

「うっ・・う・・し・・」


トーマスは「不吉な言葉」を発したことで、思わず口に手を当てた。


「ああ~あれですか」


丸山はすぐにわかった。

そしてトーマスが呪文だと勘違いしていることが面白かった。


「あれは、呪文じゃないですよ」

「え・・」

「あれは十二支といって――」


そこで丸山は丁寧に説明した。

するとトーマスの表情は見る見る明るくなり、「あはは、そーでしたかー!」と心底安堵していた。


「でも、あなたー忍術はいけませーん」

「あはは、それも間違いですよ」

「なぜですかー」

「私と阿部さんは、似てるってだけです」

「え・・」

「私は丸山。桐花の子は阿部さん。赤の他人ですよ」

「なにーーーっ!そんなことあるんですかー」

「あるんです」

「あはは、丸山さーん、忍術じゃなかったんですねー」

「はい」

「ホッとしましたー、どうもありがとうー」

「いいえ、どうしたしまして」

「丸山さーん、ベンチに来てくださーい」


トーマスは丸山の腕を掴んだ。


「いえいえ、私、観客席へ行きますので」

「おおー悲しいでーす」

「では」


そして丸山は、ペコリと一礼して階段へ向かった。



―――コートでは。



3本練習も終わり、いよいよ試合が始まろうとしていた。

白坂も相馬も、共にシェイクの攻撃型だった。

というより、藤波らは全員がシェイクの攻撃型だったのだ。

そもそもヨーロッパの選手は、その体格とパワーを活かし、この型が主流でペンの選手などいないに等しく、それは女子も同じだ。

トーマスの下で鍛えられた彼女らは、元々の型から現在に変えられていた。


ジャンケンに勝った阿部は、サーブを選択した。

阿部は森上にサインを出し「1本!」と気合の入った声を挙げた。

方やレシーブに着いた白坂は、平然と構えに入った。


阿部はまず、小さな下回転のサーブをネット前に出した。

フォアで構えていた白坂は、スッと足を動かし、バックで切って返した。

これは単なるツッツキではなく、横回転も入ったボールは、森上のフォアを流れるように鋭く入った。


森上はすぐさま足を動かし、抜群のタイミングでボールを捉えた。

そしてそのまま、鋭く強打した。


パシーン!


フォアを襲ったボールに、増江以外の誰もが先取点を取ったと思った。


決まった!


阿部もそうだった。

けれども森上は違った。

いや、決まったと思ったが、次の瞬間、相馬の動きを見た森上は、ボールは返って来ると目で追っていた。

相馬は前では間に合わないと思い、なんと後ろに下がって構えていたのだ。

そして相馬は、その場から腕を振り下し、ボールを擦り上げた。


ポーンと高く上がったボールは、阿部のフォアクロスを襲った。

そう、ロビングである。

けれども単なる「それ」ではない。

下から擦り上げたボールには、鋭い前進回転がかかっていた。

ロビングが苦手な阿部は、打とうかどうか迷った。


合せるだけやったら・・打たれる・・

ここは・・コースを狙って・・前に落とす・・


こう考えた阿部は、ネット前に落とそうと決めた。

ボールがバウンドした瞬間、阿部はラケットを出した。

ところがである。

なんとボールは、阿部のラケットを素通りし、後ろへ飛んで行ったのだ。


え・・

曲がった・・


阿部は呆然としていた。

そう、相馬のドライブは横回転もかかっていたのだ。

たとえるなら、攻撃型のズボールとでも言うべきか。


白坂と相馬は互いを見て「よし」と小さな声を挙げた。


「千賀ちゃん、どんまいやでぇ」


森上は冷静にそう言った。


「ボール・・曲がった・・」

「横回転も入ってたんやろけどぉ、曲がるのは右だけやでぇ」

「そやな・・」

「ズボールみたいにぃ、鋭角に曲がるわけやないからぁ、回転も読めるよぉ」

「うん」

「どんまいぃ、どんまいぃ」


森上は阿部の肩をポンポンと叩いた。


「阿部さん、どんまいだよ!」


日置はパンパンと手を叩いた。


「チビ助ーー!あんなもん、森上に比べりゃ屁でもねぇやな!」

「阿部さん、どんまい!」

「先輩、次1本ですよ!」


彼女らも、懸命に声を挙げた。

方や増江ベンチでは、誰も声を挙げずにコートを見ているだけだった。

そう、当然だ、といわんばかりに。


日置は思った。

相馬のドライブの威力は、森上には及ばない。

今しがたのは、ロビングだっだけに阿部は後逸してしまったのだ、と。

上回転に加え、横回転もかかっていたにせよ、ボールの回転具合を見定めれば、阿部なら取れる、と。


「さあー、1本!1本!」


日置は手を叩いて檄を飛ばした。


阿部は気を取り直し、森上にサインを出した。

森上は黙って頷いた。


「1本!」


阿部は気合の気入った声を発し、センターラインにナックルのロングサーブを出した。

白坂はまた足を右へ動かし、バックハンドで対応した。

そのスピードたるや、目を見張るほどだ。

けれども森上は、バックストレートに入ったボールに、信じられないほどの速さで回り込み、カウンターで叩き込んだ。

バッククロスを逃げるようなボールに、相馬はバックハンドですぐさま対応した。

そう、森上のボールが抜けないのだ。


フォアストレートに入ったボールに、阿部は合わせるしかなかった。

あまりにもスピードが速すぎて間に合わないのだ。

けれども阿部の送ったコースがよかった。

フォアコースぎりぎりの深いところへ入ったボールに、白坂はドライブをかけた。


そこで森上は相馬の動きを見た。


よし・・ここは・・


フォアに入ったボールを、森上は相馬の体をめがけて渾身の力でスーパードライブを放った。


「おおおおお~~~!」


館内から歓声が挙がった。

まるで男子のようじゃないか、と。


相馬は一歩動きが遅れ、体を詰まらせた。


くそっ・・


相馬は懸命にラケットにあてたが、ボールはネットに引っかかりミスをした。


「サーよし!」


阿部と森上は顔を見合わせて、力強いガッツポーズをした。


「よーーし!ナイスボール!」


日置はパンッと一拍手した。


「ナイスボーーーール!」

「きゃ~~先輩、ナイスです!」

「っしゃあ~~~~!森上ーーーガンガン行けぇ~~~~!」


彼女らも大声援を送った。


「阿部さん!」


日置が呼ぶと、阿部と森上は振り向いた。


「今のでいいよ!ナイスコースだ!」


日置は合わせて対処したことなど、気にするなと言いたかった。


「はいっ」


阿部は力強く頷いた。



―――一方で白坂と相馬は。



コートに背を向けて話をしていた。


「やっぱり威力は相当なもんだよね」


白坂は森上のことを言った。


「でもさ、景ちゃんのほうが上だよ」

「それはわかってる」


そもそも増江には、右利きで森上以上のドライブを打てる者がいなかった。

そう、景浦はサウスポーだったのだ。

右利きと左利きでは、たとえば横回転のかかったドライブだと、飛ぶ方向が逆になる。

常に景浦のボールを受けてきた彼女らにとって、森上のドライブなど返せるのだが、左右逆となると、そう簡単にはいかないものだ。

それならトーマスがいるじゃないか、と思うのは当然だろうが、なんとトーマスもサウスポーだったのだ。


「森上さ、ミドルを狙って来たよね」


相馬が言った。


「そうだね」

「ちょっと、これはきついかな・・」

「いやいや、阿部を狙えばいいよ」

「だね」

「森上に打たせる前に、阿部を撃沈」

「頼んだよ、白坂ちゃん」


相馬は森上へのレシーブのことを言った。



―――増江ベンチでは。



「あ、監督、戻って来たよ」


時雨がトーマスを見つけた。

トーマスは、フロアを出て行った時とは全く違い、明るく笑っていた。


「監督、大丈夫ですか」


藤波が訊いた。


「由美子~~」


トーマスはそう言いながら、藤波にハグをした。


「いいですから」


藤波はハグが嫌いだった。

そしてトーマスから離れた。


「由美子~~あれは呪文ではなかったのでーす」

「はあ?」

「亜希子が嘘を言ったのでーす。酷いよね」

「亜希子って誰ですか」

「よーし、これで何も怖くないね」


藤波は、この際呪文のことなどどうでもいいと思った。

なんだか知らないが、取り敢えずいつもの監督に戻っていることに安堵した。


「オー、同点ですかー。ヘイ!明美ーー智子ーー!」


呼ばれた白坂と相馬は振り向いた。


「ガンガン行くよーレッツゴー!」


彼女らも、なんだ、元気じゃないか、と安心したのである―――

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