表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サーよし!2  作者: たらふく
370/413

370 本部の命(めい)

                 



―――ここは本部席。



役員ら四人は話し合っていた。

そう、十二支で数えることに疑義を抱いていたのだ。

極めて当然なことである。


「ここは、元に戻させるべきですよ」

「でも・・1セット終わりましたからね・・」


この者は、もっと早くに注意すべきだと思っていた。


「しかし・・両校の監督は動かないですね・・」

「やはり、こんなルール違反は正すべきですよ」

「でも今さら・・」

「いいえ。ここで認めてしまうと他の者に示しがつきませんし、今後、同じことをやる者が出て来ないとは限りません」

「確かにそうですね・・」

「予選ならともかく、これはインターハイなんですよ」

「わかりました。私が行きます」


役員長の竹田(たけだ)が席を立ちあがった。


「竹田さん、お願いします」

「私たちも行きましょうか?」

「いえ、私だけでいいです」


そして竹田は7コートに向かったのである。



―――桐花ベンチでは。



「中川さん、ゴルゴってなんなの?」


中川は日置の前に立っていた。

日置は勝ったことより、先に謎を訊いた。


「あはは、先生もおめーらも、驚き桃の木だったろうさね」

「いや、勝ったんはええんやけど、ゴルゴってなんなんよ。しかも干支てなんなん」


阿部が訊いた。


「こちとらアメリカ人じゃねぇんだ。なにがワンツースリーでぇ」

「中川さんね、英語で数えられることを死の宣告だって言ってね。急かされてる気がして嫌なんだって」


日置が答えた。


「死の宣告・・」

「まあ、それはわかるけど、ゴルゴってなんなんよ」


重富が訊いた。


「かぁ~~おめーら、まだわかんねぇのかよ。デューク東郷・・さね・・」

「いや、もっとわからんし」

「デューク東郷てぇ、この試合に出てるぅん?」


森上は、中川がやたらと変な呼び名を付けることで、また誰かに「あだ名」をつけたのだと勘違いした。


「あはは!もしデュークが試合に出てたら、おめー撃ち殺されんぞ」


阿部も森上も重富も和子も、『ゴルゴ13』を知らなかった。

そもそも成人男性向けの漫画など、知る機会もなかったし、ましてや読むこともなかったのだ。


「で、ゴルゴってなんなの」


そう、日置も知らなかったのだ。


「かあ~~さいとうたかを先生の大ヒット作品を知らねぇとは、こっちが驚き桃の木さね」


中川は呆れていた。


「ま、ゴルゴのことはあとで説明してやっからよ」


その頃、ベンチ後方で見ていた植木は「ゴルゴて・・ぷっ」と笑いを堪えつつも、その意味は知っていた。


「ゴルゴのことはいいとして、中川さん」


日置が呼んだ。


「おうよ」

「このセットで決めるよ」

「あたぼうさね!」


その頃、竹田は主審のところに到着していた。


「きみ」

「はい」

「促進のことなんだけどね」

「はい」

「なぜ十二支で数えてるんだ?」

「あ・・はい・・それは・・」


そこで主審は事の経緯を説明した。

すると竹田は「桐花の要望だったのか」と呟いた。


「でも・・渋沢さんも納得した上での事だったんです・・」

「ダメダメ。次のセットは元に戻しなさい」

「はい・・」


主審はそう返答したものの、あの中川が譲るはずがないと思った。


「それなら・・桐花に直接言ってくれませんか・・」

「無論だ」


そして竹田は桐花ベンチに行った。


「あの、いいですか」


竹田に声をかけられた日置と彼女らは、黙ったまま竹田を見た。


「私、本部の竹田と申します」

「はい」


日置は軽く会釈をした。


「ラリー中のカウントのことですが、元に戻してください」


そう言われ、日置は当然の指摘だと思った。

けれども元に戻すと、中川は自滅する。

ここは、どうしたものか、と。


「おいおい、竹田さんとやら」


中川は、当然のように黙っていなかった。

そして竹田は中川の話しぶりに唖然とした。


「カウントのことだがよ、あちらさんも合意の上なんだぜ」

「きみ、合意だとか、そんなことは関係ないんだぞ」

「ちょっと待てって。無理やりじゃねぇんだ。だったらそれでいいじゃねぇかよ」

「ダメだ。そもそも十二支ってなんなんだ。ふざけているとしか思えないぞ」

「おいおい、こちとら真剣も真剣さね。あくまでも私は勝つためにやってんだ」

「ルールに則って勝つのが当然だ」

「っんな、堅てぇこと言うなよ」


そこで竹田は日置に視線を移した。


「きみ、監督ですね」

「はい」

「なぜ、こんなふざけた真似を黙って見てたんですか」

「中川が言ったように、浅草西も納得しましたので」


日置は苦し紛れの言い訳をした。


「きみ、これインターハイですよ」


竹田は呆れ口調で言った。


「はい・・」

「本部は認めません」

「・・・」

「いいですか。元に戻さない場合、没収試合とします」

「なにーーーーっ!」


中川が叫んだ。


「おいおい、おめー、没収試合ったぁ、一体どういう了見でぇ!」

「ルール違反だから当然だ」

「だから、相手も合意の上だっつってんだろがよ!」

「中川さん」


日置が肩を叩いて止めた。


「なんだよ!」

「あの、没収試合と言うのは中川の試合のことですか」


日置は中川を無視して訊いた。


「いえ、桐花対浅草西のことです」

「えっ」

「このまま続けるようでしたら、浅草西の勝ちと見做します」


中川のみならず、阿部も重富も森上も和子も絶句していた。

あり得ない、と。


「わかりました。元に戻します」


日置が慌ててそう言った。


「おい、おめー」


中川が竹田を呼ぶと「戻します、戻します」と阿部が竹田に頭を下げた。

そして重富も森上も「戻しますから、お願いします」と阿部に倣った。


「いいですか、二度とこんなことがないように」


竹田は強い口調で念を押した。


「それと監督さん」

「はい」

「もっと監督としての自覚を持っていただかないと」

「申し訳ありません」


日置は深々と頭を下げた。

こうして本部の命により、十二支は却下されたのである。

そうと知った渋沢は、俄然息を吹き返した。

方や中川は、「死の宣告」に苛まれ、2セット目を落とし、さらには3セット目も落として負けたのである。



―――桐花ベンチでは。



「おのれぇ~~~」


ベンチに戻った中川は、不完全燃焼の試合にイライラが募っていた。


「中川さん」


日置が呼んだ。


「なんでぇ」

「実力で負けたわけじゃないからね」

「だからなんだってんでぇ!」

「きみには今後、徹底して促進をやらせるからね」

「私に死ねってのかい!」

「なに言ってるの。試合ではカットマンとあたる可能性だって高いんだよ」

「くっそ~~~」

「三神には須藤さんがいるんだよ」


日置は来年のことを言った。


「むっ」

「勝たないとダメでしょ」

「ふんっ。よーーし、こうなったら促進だろうが突進だろうが、やってやろうじゃねぇか!」

「突進は、あんた、いっつもやってるやん」


阿部が突っ込んだ。


「チビ助、おめーうるせぇよ」

「さて、森上さん」


森上は日置の前に立っていた。


「いいね、徹底的に叩きのめすんだよ」


日置は余計なことは言わなかった。

そう、森上の圧勝は確信していたからだ。


「はいぃ」

「よし、じゃ行っておいで」


そして森上の肩をポンと叩いた。


「恵美ちゃん、しっかりな!」

「森上さん、またすごいのん、見せてや!」

「先輩~~ファイトです!」

「よーし、森上よ。フーテン芳賀をぶちのめしてやんな!」


中川は森上の背中をバーンと叩いた。


「わかったぁ」


そして森上は静かにコートへ向かった。



―――浅草西ベンチでは。



前原は渋沢が勝ったとはいえ、芳賀では話にならないと落胆していた。

そう、4-1でうちが負ける、と。


「ほうちゃん」


それでも前原は、口を開いた。


「はい・・」


芳賀は既に委縮している様子だ。


「気持ちだけは負けないこと」

「はい・・」

「きみは、浅草西の選手なんだ。堂々と戦えばいい」

「は・・はい・・」

「よし。頑張って」


前原は芳賀の肩をポンと軽く叩いた。


「ほうちゃん、しっかりね」


渋沢が言った。


「まだ負けてないよ。しっかり」

「頑張れ、ほうちゃん」

「マイペースだよ」


西井らも懸命に励ました。


「う・・うん」


芳賀は頼りなく頷いた。

そしてトボトボとコートに向かったのである―――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ