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サーよし!2  作者: たらふく
364/413

364 消えた写真の謎




―――ここは日置のマンション。



小島は写真が消えたことが気になっていた。

心霊現象だと確信していた小島だが、日置の勘違いという可能性もある。

そう、小島は写真を見つけ出し、心霊現象ではなかったんだと確認したかったのだ。

なぜなら消えたということは、ここで現象が起こったのであり、今後もその可能性が否めないからである。

そうなると、ここへ来るのが恐ろしくて足が遠のく。

それは嫌だ、と。


そして小島は鍵を開けてそっとドアを開けた。

カーテンが閉まっている部屋は薄暗く、小島は真っ先に台所の電気を点けた。


シーン・・


そう、シーンという音が聴こえそうなほど、当然だが部屋は静まり返っていた。


うっ・・

やっぱり、やめとこかな・・


一瞬足がすくんだ。


せやけど・・

なんとかして・・写真を見つけんことには・・


そして小島は、玄関からベランダの扉の前まで全速力で走り、慌ててカーテンを開けた。

すると太陽の陽が射し、部屋はとても明るくなった。


うん・・

そう・・まだ昼やん・・

怖ない・・怖ない・・


そして小島はどこから探そうと、部屋を見渡していた。


そりゃそやな・・

やっぱり・・あの引き出しからやん・・


そう、心霊写真が「いる」、あの引き出しである。

そしてローキャビネットへゆっくりと近づこうとした時であった。


ガチャ・・

ギギィ・・


なんと玄関のドアがゆっくりと開いたではないか。


ええっ!

先生か?


まさかこんなに早く帰るはずがない。

だとしたら、誰なんだ、と。

「やつ」しかいないではないか、と。


小島は卒倒しそうになりながらも「やつ」を見てはいけないと、慌てて隣の部屋へ身を隠した。


嘘やん・・

嘘やん・・

うわあ・・怖い・・どうしょう・・

お願いやから・・こっちへ来んといて・・


そして小島はなにも聴こえないように、耳を塞いで目を瞑った。


「慎吾・・不用心にも程があるで」


そう、入って来たのは西藤だった。

日置が帰る前に写真を戻そうと訪れたのだ。


「ほんで電気点けっぱなしやがな。アホちゃうか」


西藤は独り言を呟きながら電気を消したが、小島には聴こえなかった。


「えーっと・・佳代子は引き出し、言うとったな。まあそれにしても」


西藤は部屋が整頓されていることに、小島の気遣いを感じた。


「どれどれ・・」


そこで西藤は休憩も兼ねてテレビをつけた。

けれども音が小さくて聴こえない。


「なんじゃ、こりゃ」


音量・・音量・・

どこやねん・・


自宅のテレビとは異なることもあり、西藤は音量のつまみを大きくひねった。


パラッパラパラパーーー!


大音量が流れたと同時に「お昼のニュースです!今朝、大阪市内で!――」とアナウンサーが大声で喋っていた。


「うわっ、なんやねん!」


西藤は慌てていたが、この大音量はさすがに小島の耳にも届いた。


えっ・・

テレビ・・点いてる・・

幽霊って・・テレビ視るんか・・

っんな・・アホな・・

せやけど・・めっちゃ音、大きいやん・・

一体・・なんなんや・・


そこで小島は恐る恐る片目だけ覗かせた。


えっ・・

あの後姿は・・西藤さんやん・・

よ・・よかった・・


小島は死ぬほど安心し、立ち上がって「西藤さん」と声をかけた。

けれども西藤は音量のつまみをうまく戻せないばかりか、大音量の中、小島の声など聴こえるはずもなかった。


そら、聴こえんわな・・


小島は手を貸そうと、西藤に近づいた。

するとその時、ようやく音量が調節された。


「西藤さん」


呼ばれた西藤は「ぎゃああああああ~~~~!」と叫び、その声に驚いた小島も「ぎゃああああああ~~~!」と叫んだのだった。


「あっ・・あっ・・彩ちゃんやないか!」

「どうも・・こんにちは・・」

「あんた、いてたんかいな!」

「はい・・向こうの部屋に・・」

「もう~~言うてえな!ああ~~寿命が縮まったで」

「私もまさか、西藤さんやとは思わずに・・」


そして二人は、なぜここに来たのかの理由を説明しあった。

すると小島は写真が消えたのは、心霊現象ではなかったことに心底、安堵していた。


「あはは、彩ちゃん、あんた怖がりなんやな」

「はい、めっちゃ怖がりなんです」

「これ、見るか?」


西藤は裏返しで写真を見せた。


「いっ・・いえっ、いいです・・」

「ほんま、佳代子ときたら、アホとしか言いようがないで」

「でも、先生のお母さんでよかったです」

「これ、どこにしまっとったんや?」

「あそこの引き出しです」


そして西藤は「所定」の場所に写真を入れて閉めた。


「ええか。このこと、慎吾に言うたらあかんで」

「はい」

「それにしてもあんた、部屋、きちんと片付けてくれてるんやな」


西藤は優しく微笑んだ。


「いえ・・そんな・・」

「そやっ、こんな辛気臭いとこにおらんと、ご飯でも食べに行こか」

「え・・」

「私が奢ったる」

「いえ、そんな」

「まあまあ、そう言わんと。あんたは私の孫になるんやからな」


西藤がそう言うと、小島は「はい」と嬉しそうに笑ったのだった。



―――ここは体育館の観客席。



「え、大河。愛豊島、観ぃひんのか」


席を立ちあがった大河に森田が訊いた。


「うん。ちょっと向こう行って来る」

「中川さんか?」

「うん」

「ほな、俺も行くわ」


そして二人は観客席をぐるりと回り、中川が立っているコートに近くに腰を落とした。


「中川さーん、頑張りやー!」


声を挙げたのは森田だった。

声に気が付いた中川は、振り向いて観客席を見上げた。


あっ!

あの麗しきご尊顔は・・大河くんっ!


大河はニコニコと笑って、軽く手を振っていた。


きゃ~~~~大河くん!

わざわざ私の試合を・・

なんて優しいのかしら・・

よーし、これで勇気リンリン、百人力よ!


「大河くーん!」


中川は大きく手を振っていた。


「俺が呼んだのに」


森田は無視されたことで、苦笑していた。


「相手の子、カットマンか」


大河が言った。


「ほな、促進やな」

「うん」


「いたわっ、大河くん!」


そこで誰かが後ろから声をかけた。

大河と森田は振り向いたが、そこに立っていたのはなんと亜希子だったのだ。


「あ・・」


大河は少しだけ頭を下げた。


「やだ~~探してたのよ~」


亜希子はそう言いながら階段を下り、「ここ、いいよね」と、大河の隣に座ったのだ。

大河は酷く戸惑った。

そう、何を言われるのだろう、と。


「私さ~、あなたに無礼なこと言っちゃって、悪かったと反省してるのよ」


亜希子は高松駅で、大河のことを娘に言い寄る不逞な男と勘違いしたのだ。


「いえ、気にしてませんから」

「ほんとにごめんなさいね」

「いえ、もういいですから」

「そう?許してくれてありがとう」


大河は優しく微笑んだ。


「で?ここに座ってるってことは、愛子の応援?」

「はい」

「まあ~なんていい子なの。それであなたも?」


亜希子は森田にも訊いた。


「はい」

「そうなのね・・愛子は幸せ者よね」


そこで亜希子はコートに向かって「愛子~~~!頑張るのよ~~~!」と叫んだ。


なにっ!

この声は・・かあちゃんだ・・


中川はまた振り向いて見上げた。

すると大河の横に亜希子が座っているではないか。


「ここよ~~~!ここ!ほら、この子たちも!」


亜希子はそう言いながら、なんと大河の肩を抱いたのだ。


おのれぇ~~~~~!

クソババア~~~~!

この私ですら、まだ触れたことがねぇってのによ!

おめーーー許さねぇからな!


「離れろ!離れろ!」


中川は下から亜希子に叫んだ。


「愛子!なにやってるのよ。向こうの子、待ってるわよ!」

「うるせぇ!直ちに離れろ!さもねぇとぶっ殺すぞ!」


そこで日置も前に出て、観客席を見上げた。


ああ・・そういうことね・・


日置はその様子を見て苦笑していた。

そしてすったもんだの挙句、結局大河と森田は別の席へ移動し、事なきを得たのだった―――

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