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サーよし!2  作者: たらふく
36/413

36 一年生大会




―――そして試合当日。



森上と阿部は、体育館の前で日置の到着を待っていた。


「恵美ちゃん、なんで私服なん?」


阿部が訊いた。

森上はTシャツとGパンを身に着けていた。

阿部は、卓球部のジャージを着ていた。


「うん~実はなぁ、バイト休む、いうん、親には内緒にしてんねぇん」

「ああ~、小島先輩が代わってくれたってこと?」

「それもやしぃ、休んで試合に出るなんて言うたらぁ、絶対に反対されるからぁ」

「そうなんやあ」

「今後はぁ、ちゃんと言わなあかんと思てんねぇん」

「そらそや。黙って続けられへんもんな」

「そうやねぇん」

「それにしても先生、遅いなあ」


今は、八時四十五分だ。

試合まで、十五分しかない。


「練習できる言うてはったけど、恵美ちゃん、どうする?」

「そやなあ、とりあえず中に入ってみよかぁ」


そして二人は、中へ入った。

フロアもそうだが、ロビーにも大勢の選手でごった返していた。


「台、空いてないで」


阿部がフロアを覗いて言った。


「ほんまやなぁ」

「恵美ちゃん、今のうちに着替えた方がええで」

「うん、ほなら着替えて来るぅ」


そして森上は、更衣室を探しにこの場を去った。



―――その頃、本部席では。



三神高校の監督、皆藤は椅子に座りながら、組み合わせ表を見ていた。


日置くん・・インターハイ予選は出てなかったので、今年度は無理かと思っていましたが・・

そうですか・・二人、獲得しましたか・・

どんな選手か楽しみです・・


「皆藤さん、おはようございます」


本部役員の一人である、三善みよしが声をかけた。


「おはよう」

「皆藤さん、なんだか嬉しそうですね」


三善は椅子に腰を下ろしながら訊いた。


「桐花が出てるんですよ」

「へぇー、そうなんですね」


三善も早速、組み合わせ表を開いた。


「森上と阿部、ですか」

「そうです」

「二人だけ・・?」

「二人でもいいじゃないですか。これで今後、シングルとダブルスには出ることが可能です」

「どんな選手なんですかね」

「うーん、日置くんは引き抜きはしないので、おそらく素人でしょうけど、たった半年間で素人を準優勝させた日置くんですよ」


日置は、小島ら八人を団体の一年生大会で準優勝させていた。


「そうなんですよね」

「あの日置くんです。タダでは転びませんよ」―――



そしてとうとう時間は九時を迎えた。


「恵美ちゃん、どうする?」


二人はロビーで日置を待っていた。


「先生ぇ、どないしはったんやろなぁ」


「ただいまより、開会式を行います。選手の皆さんは練習を止めて集合してください」


本部席から放送がかかった。


「集合せなあかんみたいやで」


阿部が言った。


「ほな、行こかぁ」


そして二人は、不安を抱えながらフロアへ入り、他校の選手に紛れて適当に座った。



―――その頃、小島は。



「小島彩華と申します。本日はよろしくお願いします」


小島は、店長や従業員の前で挨拶をした。


「小島さんは、森上さんのピンチヒッターで、なにも知らへんから、みんな教えたってな」


店長の毛利が言った。


「わかりました」


従業員は、パン製造に男性が二人と、店内担当の中年女性が二人いた。

このうちの一人は、先日、日置にパンを販売した今井いまいという女性だ。


「ほな、小島さん」


今井が声をかけた。


「はい」

「店は十時開店やから、表を掃除してくれる?」

「はいっ!」

「それが終わったら、表のドア拭きな」

「はいっ!」

「あはは、元気ええね」

「はいっ!元気が取り柄ですので、なんでも申し付けてください」

「うん。終わったら声かけてね」


小島はパン屋の制服を着ていた。

白の開襟シャツの上に、格子柄の入ったカーキー色のベスト、下も格子柄の入ったカーキー色のズボンを穿いていた。

そして頭には、これまたカーキー色のベレー帽を被っていた。


小島は、せっせと働いた。

元々家事が得意な小島は、掃除もなんら苦にならなかった。

これも森上のため、桐花のため、ひいては日置のためだと思うと、体は自然に動いていた。

その後、パンの陳列の仕方、レジスターの打ち方なども習い、小島は直ぐに覚えた。

この様子を、店長の毛利も、従業員たちも温かく見守っていた。



―――一方で体育館では。



開会式も終わり、選手たちは試合に備え、各コートに分かれて行った。


「恵美ちゃん・・私らどうしたらええんやろ・・」


阿部は不安げだった。


「とりあえずぅ、組み合わせ表を貰いに行こかぁ」

「ああ・・そやな」


そして二人は本部席へ向かった。


「あの、すみません」


阿部が三善に声をかけた。


「はい」

「組み合わせ表、頂けますか」

「はい、どうぞ」


三善は阿部に一部渡した。


「きみたち」


皆藤が声をかけた。


「はい」

「きみたち、桐花の選手ですね」


皆藤は、ジャージを見てわかった。


「はい、そうです」


阿部が答えた。


「日置くんは、どうしたのですか」

「ああ・・まだ来てはらへんのです」

「あらら・・どうしたのでしょうね」

「うーん・・八時半に集合て、言うてはったんですけど・・」

「まあ、そのうち来るでしょう」


そこで皆藤は、ひときわ背の高い森上を見た。


「きみ、身長は何センチですか」

「はいぃ、170ですぅ」

「おお、これは高いですね」


この子は背も高いが・・

体つきが普通の子と違う・・

日置くん・・この子は、一体、どんな選手ですか・・

楽しみでなりませんよ・・


皆藤は早くも、森上に興味を抱いていた。


「きみたち、頑張りなさい」

「はいっ」

「はいぃ」


そして二人は本部席を後にした。


「えっと~・・恵美ちゃんは、ここやから、5コートやな。ほんで、私はここやから、12コートや」


阿部は歩きながら、森上に説明した。


「そうなんやぁ」

「でもな、試合はまだやで」


各コートには、ブロックごとにコートが振り分けられていた。

1から16ブロックまであり、1ブロックは1コート、2ブロックは2コート、といった具合だ。


「恵美ちゃんは、四試合目。私は三試合目や」

「うん~ありがとぉ」

「ほんでな、最初の試合は、お互いから審判を出すねん」

「へぇ~」

「んで、試合に負けたら、そのまま残って審判するんやで」


阿部は、蒲内の『卓球日誌』を読んでいたので、ルールや試合進行など、全て把握していた―――



「え・・嘘やろ・・」


フロアの隅で、小谷田の監督、中澤が思わず呟いた。


「どうしたんですか」


中井田の監督、日下部が答えた。


「あそこで立ってる大きな女子、あれ森上やないか!」


そう、中澤は森上の両親に「小谷田に欲しい」と声をかけていたが、頑として断られていた。

なのに今、その森上が桐花のジャージを着て立っているではないか。


「森上?」

「あの子、素人なんやけど、ものすごい身体能力なんや。俺はそれを買って、声をかけたのに断られたんや・・」

「でも、桐花のジャージを着てますね」

「そこやん!なんでや。なんでなんや」

「うーん・・」

「あっ!日置監督か。そらな、日置監督はかっこええで!でもさ、それはないやろ!」

「まあまあ・・中澤さん、落ち着いて」

「なんやねん!世の中、かっこええもんが得をするて、どないやねん!」

「まあ・・森上さんも女子ですからね」

「ずるい!うう~~ずるいですわ。世の中、不公平ですわあ~」


中澤は泣き真似をした。

と同時に、あの日置が森上を育てているのだ。

中澤は、寒気がするほど既に脅威を感じていた。



―――その頃、日置は。



うっ・・ダメだ・・起き上がれない・・


日置は、さっき熱を計った。

すると39℃もあったのだ。


でも・・行かないと・・

あの子たちが待ってる・・


日置は懸命に起き上がろうとしたが、全く体が動かない。


この時間だと・・試合は始まっているかもしれないけど・・

まだ間に合う・・


そこで日置は、這いつくばりながら、風呂へ入った。

そう、熱いシャワーを浴びれば、熱を下げられると思ったからだ。

けれども日置は、シャワーの湯を出したまま、半ば意識は朦朧としていた。

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