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サーよし!2  作者: たらふく
356/413

356 迫る準決勝




―――ここは、第15コート。



中川は準決勝までの僅かな時間を使って、滝本東の応援に来ていた。

なぜなら、相手は愛豊島だからである。


「それで、今は3-0で負けているのね・・」


中川は、崖っぷちに追い込まれたことを言った。


「そやねん」


大河が答えた。


「大河くんも試合に出たのね・・」


大河はタオルで汗を拭いていた。


「うん」


中川はなんと声をかけていいのか、困惑していた。


「愛豊島は別格や」

「・・・」

「きみらは、勝ってるんやろ?」

「うん・・」

「あはは、なんやねんその顔」


大河は中川の情けない表情を見て笑った。

するとそこへ、愛豊島ベンチに日置が現れた。

手塚は椅子から立ち上がって深々と頭を下げており、選手らも手塚に倣っていた。


「え・・日置監督やん」


大河はその様子を見て驚いていた。

そして中川を見た。


「知り合いなん?」

「愛豊島ってね・・」

「うん」

「その・・実はうちの監督の母校なの・・」

「へぇー!そうやったんや」

「で・・向こうの監督は教え子なの・・」

「そうなんや」

「でも私は、滝本東に勝ってほしいわ」

「ありがとう」


大河はニッコリと微笑んだ。

そこで日置が滝本東ベンチに目を向けると、中川がいるのを確認した。


ああ・・そうか・・

大河くんがいるんだもんね・・


そして日置はニッコリと笑って、中川に手を振った。


おいおい・・先生よ・・

なにを呑気に手なんか振ってやがんでぇ・・

こちとら、崖っぷちに追い込まれてるってのによ!


「おらあ~~!川藤かわとう!試合はこっからだ!ナイフが刺さっても倒れなけりゃ命は続くんでぇ!」


中川は思わずそう叫んだ。

川藤とは、滝本東のキャプテンでありエースだ。

監督の小川は振り向いて、またこの子か、と少々呆れていた。

けれども大河もチームメイトも、全く驚きもしなかった。

中川の声に振り向いた川藤は、「やっぱり来てたんか」と言った。


「挽回っすよ!」

「1本!」

「行けるっすよ!」


チームメイトらも檄を飛ばしていた。


「大河くん」


中川が呼んだ。


「なに」

「相手の男子、名前はなんて言うのかしら」

大友おおともやで」

「そうなのね」


そして中川は口に手を当てた。


「おい!愛豊島野郎の大友!リードしてると思っていい気になんなよ!」


言われた大友は唖然としていた。

なんなんだ、きみは、と。

それは手塚も選手らも同じだった。

中川にガンを飛ばされた者も、改めて驚いていた。


「監督、あの子、なんなんですかね」


手塚は呆れつつも、日置にそう訊いた。


「あの子はうちの選手だよ」

「え・・」

「中川っていうの。あんなだけど、気を悪くしないでね」

「ええええ~~~選手!」


手塚は思った。

礼儀を尊ぶ日置のことだ。

さそがし手を焼いているだろうと。


「うん」

「な・・なんか・・すごく個性的ですね」

「この試合も勝ちそうだし、手塚」

「はいっ」

「優勝しかないよ」

「はいっ!無論そのつもりです!」

「じゃ、きみたちも頑張るんだよ」


日置は彼らにそう言った。


「はい!ありがとうございます!」


彼らは深々と頭を下げていた。

そして日置はこの場を後にした。


その後、中川の応援もむなしく滝本東は4-0で愛豊島に完敗した。


「大河くん・・」


中川は気の毒そうに声をかけた。


「なに」

「こんなことでめげないでね・・」

「うん。平気やで」


大河はニッコリと笑った。


「それより、きみやん」

「え・・」

「もうすぐ準決ちゃうん」

「えぇ・・そうなのだけれど・・」

「ほなはよ、チームに戻った方がええで」

「うん・・」

「僕、応援してるし」


大河くん・・

チームは完敗したのに・・なんて優しいの・・

よーし、こうなったら・・大河くんの分まで頑張るわっ!


「私、頑張るわ!」

「うん、頑張ってな」

「じゃ私、チームへ戻るわね」

「うん」


すると他の者も「中川さん、頑張りや」や「きみらやったら優勝できるで」と励ました。


「誰に言ってやがんでぇ!あたぼうさね!」


中川は右手を高く挙げて足早にこの場を去った。


「それにしても中川さんて、大河と話す時と、全然ちゃうな」


チームメイトの一人がそう言って笑った。


「大河にベタボレやからな」


別の者がそう言った。


「なに言うてんねん」


大河は迷惑そうに答えた。


「よし、お前ら」


監督の小川が彼らに向けて口を開いた。


「この後の準決と決勝、観客席で観るからな」

「うーす!」


そして滝本東一行はロビーに向かって歩いて行った。



―――一方で日置らの元へ戻った中川は。



「おかえり」


日置はニッコリと笑って迎えた。


「ふんっ。なにが愛豊島でぇ」


中川は不満げだった。


「あんた、もうすぐ準決やのに、ウロウロしたらあかんやろ」


阿部がたしなめた。


「滝本東、残念やったな」


重富が言った。


「まあ、仕方ねぇやな。勝負は勝負でぇ」

「きみの言う通り。勝負は厳しいの」

「ふんっ」

「さあ、その厳しさに挑む時だよ」


日置は試合開始時間が迫っていることを言った。


「はいっ!」

「おうよ!」


そして桐花チームは第7コートへ向かった。



―――浅草西ベンチでは。



既にコートの後ろで待っている浅草西の彼女らは、前原を囲んで立っていた。


「さて、今日の大一番が来たよ」

「はいっ」

「きみたちも観た通り、桐花は強豪チームだ」

「はいっ」

「特に森上さんだね」

「はいっ」

「彼女の実力は高校生でトップといっても過言じゃない。そこでなんたけどね、森上さんを外して2点は捨てるからね」


前原は、自校のエースとではなく、あえて下位の者と当てさせ、4-2で勝つことを言った。


「先生、ダブルスも捨てるってことですか」


渋沢が訊いた。


「そうだよ」

「そんな・・ダブルスも勝てないと思ってるんですか」

「うん」


前原はあっさりとそう言った。


「だから、しぶちゃんをシングルで二回出す。そしてダブルスは、くろちゃん、たくちゃん、きみたちだよ」


黒崎くろさきは三番手、田久保たくぼは四番手である。


「そうなると、西井ちゃんはシングル1回だけですか」


西井は渋沢と組んでいる二番手だ。


「そうなるね」

「そんな・・シングルだけなんて、もったいないですよ」

「しぶちゃんとにしちゃんで3点取る。あと1点をくろちゃん、たくちゃん、ほうちやん、きみたちのシングルで取る」


ほうちゃんとは、五番手の芳賀ほうがのことだ。


「これで行くしかない」


断言する前原に、彼女らも納得するしかなかった。


「僕は負けるつもりは毛頭ない。よって、危ない橋を渡ることはあえてしない」


前原はドライな性格である。

つまり、相手のエースである森上に勝ってこそ云々というような「根性論」よりも、確実に勝つ方を選択したというわけだ。


「いいね、必ず勝つ。これしかないよ」

「はいっ」


ほどなくして両校はコートに整列し、いよいよ準決勝が始まろうとしていた。

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