表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サーよし!2  作者: たらふく
348/413

348 板と裏




―――「阿部さんと森上さん、すごいわ~~~!」



観客席で亜希子が興奮していた。

その隣りには節江とトミが座っていた。

節江は、亜希子が阿部らの試合を観て「すごいわ~~行け行け~~」と叫んでいたところ声をかけたのだ。

そして同じチームに娘がいると確認したというわけだ。

亜希子は下船に間に合わず、いわば仕方なく付いてきたことを話すと、節江もトミも爆笑していた。

なるほど、それでつっかけか、と。


「わしやこ、ようわかりぁせんが、こげな全国大会なんじゃもののぉ、みんな強かろうにのぉ」

「トミさん!今はね、阿部さんと森上さんが大差で勝ったのよ!」

「そうか、そうか」

「おかさんよ、次は重富さんいう子じゃけにの」

「ほおほお」

「郡司さんっ」


亜希子は節江を呼んだ。


「はい」

「一緒に叫びましょう!」

「え・・」

「重富さん~~~頑張れ~~って、叫ぶのよ!」

「えぇ・・」


節江は引いていた。


「ほらほら。私がせーのって言うから、そのあとね!」

「あはは」


思わずトミは笑っていた。


「いや・・私はええですけに・・」

「あら~そんなこと言わないで~」

「いえいえ・・どうぞお一人で・・」

「そうなの~、仕方がないわね。じゃ、私は叫ぶわね」


そして亜希子は手に口を当てて、叫ぼうとした時だった。


「重富さん~~!頑張れ~~~!」


なんと亜希子に合わせてトミが叫んだのである。


「あはは、トミさん、ナイスよ~~!」

「案外、気持ちのええもんじゃが」

「でしょ~~」


トミの横で節江は唖然としていた。


「おかさん・・」

「わーも叫びゃあええんじゃが」

「いやいや・・私やこ・・」


声に気付いた重富は、観客席を見上げてニコッと笑っていた。



―――コートでは。



3本練習も終わり、いよいよ試合が始まろうとしていた。


「お願いします!」


互いに一礼し、サーブを選択した重富は「1本!」と大きな声を発した。


よし・・

カットマンやから、必殺サーブはあまり意味がない・・

ここは・・まずロングサーブで下げて・・


重富はバックコースから、フォアの上回転のロングサーブをバッククロスへ出した。

それと同時にラケットを反転させ、板に持ち替えた。

奥野はなんなくカットで返した。

重富は前後に揺さぶるべく、フォア前にチョコンとストップをかけた。

慌てて前に走り寄った奥野はツッツキで返したものの、ボールは高く上がった。

そう、板の対応が上手くいかなかったのだ。


重富はコースを狙って打ちに出た。

すると奥野は慌てて後ろへ下がって構えた。

奥野の動きを見た重富は、寸でのところでストップをかけた。

唖然としたまま奥野は、台上でツーバウンドするボールを見ていた。


「サーよし!」


重富は力強くガッツポーズをした。


「よーーし、ナイスボール!」


日置は手を叩いていた。


「とみちゃん、ナイス~~~!」

「もう1本やでぇ~~!」

「ナイスストップです~~!」

「よっしゃーーー!重富、マルコメ奥野は板が苦手だとよ!遠慮なく、ガンガンぶちかましてやんな!」


うん・・中川さんの言う通りやな・・

マルコメ奥野は・・板が嫌みたいやな・・


重富も、今しがたの奥野の返球で見抜いていた。


ほならここは・・

板でサーブを出そか・・


そして重富はサーブを出す構えに入った。

けれども面は裏だ。

重富はさっきと同じサーブを、ボールがあたる寸前にラケットを反転させて板で出した。

裏で出すと思っていた奥野は、同じようにカットで返したが、ボールはまた高く上がった。


ダメだ・・

今度こそ打たれる・・


こう思った奥野は、また慌てて後ろへ下がった。

すると重富はラケットを反転させ、裏でスマッシュを打ち込んだ。


パシーン!


ええっ!

嘘でしょ!

裏も使うんだ・・


バックコースを逃げていくようなボールを、奥野は懸命に追いかけた。

そしてラケットにあてたものの、ボールは横にオーバーした。


「サーよし!」


重富は、また力強くガッツポーズをした。


「よーーし!ナイスコース!」


よし・・

重富さん、それだよ・・

徹底してコースを狙うんだよ・・


日置はこう思っていた。


「ナイスボール!」

「とみちゃん~~!ナイスやでぇ~~!」

「っしゃあ~~~!まさか裏で打つとは思わなかったろうぜ!さあ~~もっと攪乱してやんな!」

「よーーし!ナイスコースです!」



―――善光寺ベンチでは。



「どんまい、どんまい!」


仲本は口に手をあてて叫んでいた。


「奥ちゃん!今から今から!」

「挽回するよ!」

「次、1本よ!」

「頑張るよ!」


彼女らも大声で檄を飛ばしていた。


「中川さんはカットマンか・・」


次に出る山根は、アップをしながら中川を見ていた。


「山根ちゃんの好きなタイプだよね」


岩谷が言った。

そう、山根はカットマンを得意としていた。


「うん」


山根はニッコリと笑った。

そして自分で必ず1点取れると確信めいた気持ちがあった。


それにしても・・美人だな・・


こんな風に思う山根であった。



―――コートでは。



重富は日置の指示通り、徹底してコースを狙っていた。

そのコースも右かと思えば左に、その逆も然りで、重富は奥野の動きを見ては裏をかく技で翻弄した。

その奥野といえば、ただでさえやりにくい板に加え、ラリー中に裏で打つ場合もあり、おまけにコースが厳しい。

ボールを追いかけるも、常に数センチ横を通り過ぎる有様だった。


そして試合は18-6と重富が大きくリードしていた。


よし・・ここで1本取るために、必殺サーブを出してみよか・・


こう考えた重富はサーブを出す構えに入った。

右手の指がラケットを回す仕草は、もはや体の一部かのように「無意識」に動いていた。


重富さん・・

反転技が、ほんと上手くなったよね・・

それだけじゃない・・

板と裏の扱いをマスターし・・

必殺サーブも身に着けた・・

きみ・・

卓球始めて・・まだ一年も経ってないんだよ・・


そこで日置はアップをする中川を見た。


重富さんだけじゃない・・

中川さんだって・・まだ一年経ってないんだよね・・

この子はズボールを編み出し・・

それを武器に予選も近畿大会も勝ち抜いた・・


「なに見てんでぇ」


視線に気が付いた中川がそう言った。


「なんでもないよ」


日置はニッコリと笑った。


それに・・この気の強さなんだよね・・

中川の本当の武器は・・メンタルの強さだ・・


「よっしゃあ~~~!チビ助直伝のガレージサーブ!あれやぁ~~取れねぇぜ!」


重富のサーブが決まったところだった。


「とみちゃん~~ナイスサーブ!」

「レシーブ、しっかりなあ~~!」


そして日置は阿部と森上を見た。


阿部さんも・・森上さんも・・

本当の意味で卓球に打ち込めるようになったのは・・

去年の二学期になってからなんだよね・・

みんな、まだたった一年なんだよ・・

この子たちは・・本当にすごい・・


「よーーし、重富さん、ラスト2本だよ!」


日置はコートに目を向けて、大声で叫んだ。

その後、重富は1セット目を21-6、2セット目を21-5で勝ち、桐花は2-0とリードした―――



「さて、中川さん」


中川は日置の前に立っていた。


「おうよ!」

「遠慮は無用だ。出だしからガンガン行こう」

「誰に言ってんでぇ!この中川さまのデビュー戦だぜ。マルコメ野郎を叩き潰してくれるわ!」


中川は亜希子のことでストレスが溜まっていたため、とても前のめりになっていた。


「あのね、ガンガン行くってことは、無茶をするって意味じゃないよ。わかってるね」

「わかってらぁな!」

「とにかく落ち着いてやること」

「かあ~~こちとら、落ち着き払ってる中川愛子と、もっぱらの噂よ」

「うん、わかった。じゃ、徹底的に叩きのめしておいで」


日置は中川の肩をポンと叩いた。


「中川さん、しっかりな!」

「ファイトやでぇ~!」

「中川さん、頑張ってな!」

「先輩、ズボール、期待してます!」


彼女らも中川を励ました。


「おうよ!とっととマルコメ山根を料理して、森上にバトンタッチだ!」


そう言って中川は、意気揚々とコートに向かった。



―――観客席では。



「うーん、今の重富も、どえらい選手やな」


上田がそう言った。


「あのラケットは、特別なんですか?」


柴田が訊いた。


「特別というわけやないが、板の選手は珍しいんや」

「へぇー。卓球って、板のラケットも使えるんですか」

「そや」


上田は思った。

桐花に引き抜きはない。

素人であるあの子たちに、一体どんな魔法をかけたんだ、と。

思い返せば小島らの時代もそうだった。

一年生大会とはいえ、素人をたった半年で準優勝させ、二年後にはインターハイでベスト8に入るまでに成長させた。

目の前の子たちは、それ以上だと。


「日置くんは、素人を育てるプロやな」

「きゃ・・私も日置先生に教えてもらったら、上手くなれますかね」

「お前な・・あんだけ強くなるためには、どれほど苦しい練習せなあかんのか、わかってんのか」

「ああ~私も郡司さんみたいに追いかけたらよかったなあ~」

「アホか。お前、もう三年やないか」

「あはは、そうでした~」

「あっ、あの子、出てきたぞ」


上田は中川のことを言った。


「あはは、あの子、面白いですよね」

「山戸辺の選手も、気の強いんやら色々おったけど、中川は別の意味ですごいな」


上田は中川がどんな試合をするのか楽しみだったが、ズボールを見て度肝を抜かれることになるのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ