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サーよし!2  作者: たらふく
345/413

345 坊主の呪い?




そしていよいよ対戦の時が来た。

両チームはコートに整列して、日置と相手の監督は審判にオーダーを提出した。

その際、なぜか善光寺の女子らは、阿部を見ていた。


な・・なんで・・私を見てるん・・


阿部は寒気がして、審判に目を向けた。


「ただ今より、善光寺高校対桐花学園の試合を行います。トップ、中辻(なかつじ)池谷(いけたに)対阿部、森上」


阿部は小さくなって手を挙げ、森上は堂々と手を挙げた。

そして中辻と池谷は、手を挙げながら阿部を見ていた。


「二番、奥野(おくの)対重富」


双方は手を挙げて一礼した。


「三番、山根やまね対中川」

「おうよ!」


中川がそう言って手を挙げると、監督も彼女らも驚いていた。

変なのがいるぞ、と。

もし、この言葉を口にしていたら「おめーらには言われたくねぇぜ」と、中川は突っ込んでいただろう。


「四番、岩谷いわたに対森上」


双方は手を挙げて一礼した。


「五番、中辻対郡司」

「はいっ!」


和子は思わず声を出して手を挙げた。


「六番、奥野対阿部」


双方は手を挙げて一礼した。


「ラスト、池谷対重富。お願いします!」


審判がそう言うと、双方は「お願いします!」と一礼してそれぞれベンチに下がった―――



「よーし、チビ助、森上よ。マルコメ野郎をぶっ倒してやんな!」

「あのさ・・」


阿部が小声で呟いた。


「なんでぇ」

「なんか・・向こうの子ら、私ばっかり見とったんやけど・・」

「っんなもん、気にするこたぁねぇぜ」

「せやかて・・気持ち悪いし・・」

「阿部さん」


日置が呼んだ。


「はい・・」

「そんなの偶然。中川さんの言うように、気にすることはないよ」

「そう・・ですか・・」

「そやで、阿部さん。もう写真のことは解決したやろ」


重富が言った。


「先輩、ファイトですよ!」

「うん・・わかってる・・」


阿部はどうにも納得がいかなかった。

坊主という偶然に加え、なぜみんなが自分を見ていたのか、と。

やっぱり、なにか関係があるんじゃないのか、と。


「千賀ちゃぁん」


森上が呼んだ。


「なに・・」

「ここへは何しに来たぁん」

「え・・」

「勝つため、優勝するためやろぉ」

「うん・・」

「あんだけ練習したんはぁ、なんのためなぁん」

「・・・」

「必殺サーブ編み出したんはぁ、なんのためなぁん」

「・・・」

「千賀ちゃんが、そんなんやったらぁ、勝たれへんよぉ」


森上はいつになく口数が多かった。

それもそのはず、ここへ来たのは優勝するためだ。

そのために三神に勝ったのであり、近畿大会も優勝したのだ。

それを、大事な一回戦を前にして、なにをいらんこと考えているんだ、と。


「阿部さん、森上さん」


呼ばれて二人は日置の前に立った。


「さあ、大事なダブルスだよ」

「はい・・」

「はいぃ!」


阿部の元気のない返事を聞いて、日置は「森上さん」と呼んだ。


「きみが阿部さんをリードするんだよ」

「はいぃ!」

「出だしは様子を見ながら、落ち着いてやること」

「はいぃ!」

「大丈夫。きみたちなら勝てる。いいね?」


日置は阿部に目を向けた。


「はい・・」

「ほら、しっかり!」


日置は阿部の肩に両手を置いた。


「徹底的に叩きのめしておいで」


そして二人の肩をポンと叩いた。


「阿部さん~~~!森上さん~~~!しっかりね~~~~!」


コートに近い観客席では、亜希子が口に手を当てて叫んでいた。

その近くでは節江とトミ、上田と柴田も見守っていた。



―――一方、善光寺ベンチでは。



「それにしても、びっくりしたね・・」

「あんなそっくりな子、いるんだね」

「まるで双子だもんね」

「そうそう。戻って来たのかと思ったよ」

「まるちゃん、元気にしてるのかな・・」


彼女らは、口々にそう言いながら袈裟を脱いでいた。

無論、試合はポロシャツと短パンで行う。

その実、彼女らが阿部を見ていたのは、かつてのチームメイトだった女子にそっくりだったからである。

そもそも仏教校の善光寺高校は、練習以外に修行も行う。

まるちゃんこと丸山まるやまは、修業が辛くて転校したというわけだ。

ちなみに善光寺高校は、初出場だった。


「ほら、お前ら」


監督の仲本なかともが呼んだ。

すると中辻と池谷は、仲本の前に立った。


「森上は大きい選手だ。だからおそらくドライブ型で、阿部は前陣型だろう」

「はいっ」

「まずは様子を見ること。具体的な作戦はそれからだ」

「はいっ」

「よし。頑張れ」


そして二人はゆっくりとコートに向かった。

やがてコートに着いた両チームは、3本練習を始めた。

中辻はペンの裏、池谷はペンの一枚だった。


それにしても似てる・・


中辻と池谷は、練習の合間にも時々阿部を見ていた。

一方で阿部は、また見られることを不気味に感じていた。


なんなん・・

私の背中に・・坊主がいてるんやろか・・

ほんま・・嫌や・・


なんとも消極的な阿部は、ラリー中にもミスが目立った。

そして、やたらと背中を気にしていた。


「チビ助!集中しろってんだ!」

「なんもいてへんで!」

「先輩~~!強気ですよ!」


中川らの檄など阿部には届いてなかった。


「なんか・・性格まで似てるよね・・」


ボールを拾いに行く際、中辻が阿部のことを言った。


「まるちゃん・・気か弱かったもんね」

「やっぱり双子じゃないの?」

「まさか。まるちゃんは一人っ子だよ」

「そうなんだけど・・生き別れとか・・」


そして二人は、また阿部を見ていた。

見られた阿部は、思わず下を向いた。


「ジャンケンしてください」


審判がそう促した。

そしていつもは阿部がジャンケンをするが、ここは森上が前に出た。

勝った森上は「サーブでお願いしますぅ」と言った。

中辻は、自分たちが立っているコートを選択した。


「ラブオール」


審判が試合開始を告げた。


「お願いします!」


双方は一礼した。


「千賀ちゃぁん」


森上が呼んだ。


「なに・・」

「サーブ、千賀ちゃんからやでぇ」

「あ・・うん・・」


阿部は情けない表情でボールを受け取った。


「しっかりなぁ」

「うん・・わかってる・・」


そして阿部はサーブを出す構えに入り、台の下でサインを出した。

森上は黙って頷いた。

阿部は声すら出さずに、ボールを持つ左手は少し震えていた。


対する中辻と池谷は、まるちゃんのことは一旦横に置いて、レシーブに着いた中辻は阿部が緊張していると見た。


「1本!」


中辻は張りのある声を挙げながら、台の下で送るコースのサインを出していた。

池谷も黙って頷いた。

そして阿部はサーブを出したが、なんとネットに引っかかりミスをしてしまった。


「あ・・」


阿部は出だしからミスをしたことで、とても嫌な予感がしていた。

そう、坊主の呪いではないのかと。


「どんまいやでぇ」


森上が言った。


「うん・・ごめん・・」


阿部は下を向いていた。


「チビ助~~~!下を向くんじゃねぇ!」

「どんまい、どんまいやで!」

「先輩、次1本ですよ!」


日置は阿部の恐怖心が、ここまでだとはと唖然とした。


「阿部さん!どんまいだよ!」


そして中辻と池谷は、タダで貰った先取点に「ラッキー!」と声を挙げていた。



―――観客席では。



「うーん」


上田が唸った。


「どうしたんですか?」


柴田が訊いた。


「あの子、緊張してるんかなあ」

「一回戦ですし、そら緊張するんじゃないですかね」

「まあ、そうやとは思うけどな」


それでも上田は納得しかねていた。

なぜなら、三神に勝つということは、並大抵ではない。

この試合はたとえインターハイとはいえ、三神に3-1で勝った子があそこまで緊張するのか、と。


そして阿部はなんと、二球目のサーブもミスをしたのだ。


「やっぱりおかしいな」

「よっぽど緊張してるんですね・・」

「いや、二球連続でサーブミスはあり得へんぞ」

「そうなんですか?」

「体調でも悪いんかなあ」


一方で阿部は、連続ミスをしたことで、やっぱり坊主の呪いだと思い始めていた。

そしてこの後も、ミスをするのではないかとの恐怖心に襲われていた。


「阿部さん!どんまい。ここからだよ!」


日置は落ち着けと言わんばかりに、手を叩いて檄を飛ばした。


「先生よ」


中川が呼んだ。


「なに?」

「チビ助・・このままだと、自滅し兼ねねぇぞ」

「うん・・」

「ここはタイムを取った方がいいんじゃねぇか」

「確かに、そうだね」


そして日置は「タイム取って」と二人に言った。

阿部と森上はベンチに下がって日置の前に立った。


「阿部さん」


日置が呼んだが、阿部は下を向いたままだ。


「どうしたの」

「・・・」

「写真のことが気になってるの?」

「きっと・・」

「ん?」

「私・・呪われてるんやと思うんです・・」

「えっ」

「せやから・・サーブミスを・・」

「いやいや、そんなことあり得ないって」

「でも・・あの子ら・・私ばっかり見るし・・」


その点は日置も不可解だった。

なぜ阿部ばかりを見るのか、と。


「チビ助よ」


中川が呼んだ。


「なに・・」

「おめー、この試合負けると、一生後悔すんぞ」

「・・・」

「っんなよ、呪いなんざ、蹴散らしてやんな!つーか、っんなもん、ありゃしねぇって」

「そやで。私もそう思う」


重富もそう言った。


「うん・・」

「え・・」


そこで和子は、フロアを歩く誰かを見て愕然としていた。


「郡司。どうしたってんでぇ」

「嘘・・あれ・・誰なら・・」


和子はそう言ったあと、阿部をまじまじと見ていた。


「え・・なに・・」


阿部はまた不気味に感じた。

そして日置と彼女らは、和子の視線を追った。

すると阿部と瓜二つの女子が、こっちに向かって歩いてきたのだった。

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