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サーよし!2  作者: たらふく
338/413

338 似たもの親子




やがて乗船を終えた船は、小豆島に向けて出港した。

その間、中川と日置はずっと亜希子の様子を見ていた。

亜希子の傍についている増田は、見事な客捌きに面食らっていた。


「船長、すごいですね!」

「いやいや、きみ。海の男として当然だぞ」


もはや亜希子は、増田を「きみ」呼ばわりして胸を張った。


「船長、男と違いますやん」

「あはは、そうだったわね」

「せやけど、見事なもんですよ」

「私さ~、こういうの好きなのよ」

「そうなんですね」

「だって、お客様の笑顔見るのって、楽しいし嬉しいじゃない」

「はい、仰る通りです」

「いいかね、きみも精進したまえ」

「はっ」


増田はそう言って敬礼した。


かあちゃん・・

マジでなにやってんでぇ・・


「中川さん」


日置が呼んだ。


「なんでぇ・・」

「声、かけたほうがいいんじゃないの」

「かけるっつったってよ・・」

「ほら、そもそもこの船に、きみが乗ってるの、知ってらっしゃるでしょ」

「まあ・・そうだけどよ・・」

「だったら、そうした方がいいよ」

「・・・」

「それに、なぜ船長やってらっしゃるのか、理由も知りたいでしょ」

「まあ・・な・・」

「僕が、かけようか?」

「いや・・私が行く」


そして中川は亜希子に向かってズカズカと進んだ。

その後を日置も続いた。


「かあちゃんよ」


中川が呼ぶと亜希子は振り向いた。


「あっ!愛子~~!」


亜希子は嬉しそうに、中川を抱きしめた。


「船長、この子が娘さんですか」


増田が訊いた。


「そうなのよ!娘の愛子よ!」

「ひゃあ・・めっちゃ美人ですね」

「でしょ?」

「お母さん、どうも・・」


日置は戸惑いながら一礼した。


「あら~~先生!いつも娘がお世話になってます」

「いえ・・」

「この人、先生なんですか」


増田が訊いた。


「そうなのよ!日置先生よ!」

「ひゃあ・・これまた男前の・・」

「かあちゃんよ!」


中川が怒鳴った。


「なによ」

「ここでなにやってんでぇ!」

「なにって、船長よ」

「だから、船長ってなんだって訊いてんだよ!」

「あっ、そうだったわ!」

「なんでぇ!」

「私さ、あんたにお守り渡そうと思って、この船に乗ったのよ」

「はあ?」

「それでさ~慌てて降りようとしたんだけど、間に合わなくてね~」

「いやいや、ちげーだろ」

「なにが?」

「なんで船長なんかやってんだって訊いてんだよ!」


増田は、中川の言葉遣いに驚いていた。


「どう?これ、似合ってるでしょ」

「だーかーらー!」

「あはは、実はさ~――」


亜希子は事の経緯を詳しく説明した。

すると中川は呆れたように亜希子を見ていたが、実に母親らしいと思っていた。

そして日置は、まさにこの母にしてこの子ありだと思った。


「しっかしよー、間違えて乗ったにせよ、ふつー船長なんてやるか?」

「ってことで、私には任務があるので、操舵室に戻るのであるっ」

「操舵室って、丸いあれかよ」


中川は舵のことを言った。


「そうそう、面舵いっぱーいってやつね」

「にしてもよ、その服と靴。誰んだよ」

「船長のよ」

「よく貸してくれたっつーか、よく許可してくれたよな」

「どう?お母さん、上手だったでしょ」

「でさ、高松まで行くのかよ」

「あっ、それよそれ!もうさ、この際だから、試合に付いて行くわ」

「ええええ~~~!」


中川は嫌だった。

なぜなら、大河と話をすると、絶対に口を挟んでくるに違いないからだ。


「いいって。引き返せよ」

「なによ~!せっかく母君が応援してあげるってのに!」

「船長・・」


増田が呼んだ。


「なんだね」

「ご主人・・待っておられるんとちゃいますか」

「ああ、実は主人は出張中なのだよ」

「えっ」

「だってさ~、あの時、ああでも言わないと、テロリスト犯として警察に突き出されると思ったのよ」

「テロリストって、なんでぇ」

「私さ、シージャック犯だと思われたのよ」

「いやいや、思ってませんて。船長が勝手に勘違いしたんですよ」


増田は慌てて弁解した。


「船長って、どっちの船長だ」

「ああ、きみのお母さん」

「あの、お母さん」


日置が呼んだ。


「はい?」

「よければ、二等室ですけど、来られませんか」

「えっ、いいんですの?」

「もう中川に会えましたし、任務は終了でいいんじゃないですかね」

「増田くん」


亜希子が呼んだ。


「はい」

「というわけなのだが、きみ、どう思うかね」

「まあ・・ええんとちゃいますかね」

「よし。では着替えるとしよう」


そして亜希子と増田は操舵室へ向かった。


「はあ・・ったくよ・・こんなバカみてぇなこと、あるか?」

「あるある」


日置は、どの口がそう言ってるんだ、とおかしくて仕方がなかった。


「あるあるって、なんでぇ」

「いや、別に」


それでも日置は笑っていた。


「かあちゃんにも、困ったもんだぜ」


日置は、その言葉、のしを付けて返すよと言いたかったが、口にはしなかった。


「きみ、お母さんに似たんだね」

「え?」

「リーダーシップを発揮できるところ」

「なに言ってんでぇ」

「でもさ、お母さんに試合を観てもらえるいい機会じゃない」

「かあ~~やめてくんな」

「どうして?」

「うるさくて仕方ねぇやな」

「あははは」


日置はまた笑った。


「なに笑ってんだよ!」

「あはは、ごめん、ごめん」

「ったくよー」

「でも、きみにお守りを届けるため来てくれたんだよね」

「まあな・・」

「いいお母さんじゃないか」

「うん・・」



―――ここは操舵室。



「ってことで、船長さん。名残惜しいけど、私は娘のところへ行くわね」


亜希子は着替えも済ませて、亀井にそう言った。


「はい、ご苦労様でした」

「お金は下船した時に払うからね」

「いや、いいですよ」

「え・・」

「短時間でしたけど、船長としての報酬と相殺します」

「いえいえ、そんなわけにはいかないわ」

「いいんですよ」


亀井はニッコリと笑った。


「あら・・なんだか申し訳ないわ・・」

「娘さんと会えて、よかったですね」

「そうなの!どうやって探そうかと思ってたんだけど、向こうから来てくれたの!」

「そうですか」

「じゃ、船長さん、副船長さん、増田さん。お世話になりました」


亜希子は丁寧に頭を下げた。


「こちらこそ」


亀井と増田も一礼し、副船長は振り向いて「お疲れさま」と言った。

そして亜希子はこの場を後にした。


「船長」


増田が呼んだ。


「なに」

「中川さん、仕事、よう出来る人でしたよ」

「うん、知ってる」

「え・・」

「僕も見てたんや」

「ああ・・そうだったんですか」

「あれやな・・女性の船員いうんも、ええかもな」

「そうですね」

「それにしても、おもろい人やったな」

「はい」


そして二人はそれぞれ持ち場に着いた。



―――デッキでは。



「愛子~~お待たせ~~」


走って来る亜希子の「なり」を見た中川は、なんじゃそれ、と驚いていた。


「おいおい、かあちゃんよ」

「なによ」

「なんでぇ、その服は」

「だってさ、すぐに帰るつもりだったんだもん」

「それで高松、行くのかよ」


中川は、つっかけのことを言った。


「そうよ。いいじゃない」

「ったくよー、近所のババアかよ」

「いいのいいの。先生、お待たせしてすみません」

「いいえ」


そして三人は二等室へ向かった。


「いいな、かあちゃん。みんな寝てんだから、静かにしろよ」

「わかってるわよ」

「にしてもよ~、コブつきで試合かよ」

「なによ~、あんたそれ、子供のことを言うのよ」

「わかってらぁな」

「まったく・・あっ!」


亜希子は何かを思い出したようだ。


「なんだよ」

「これよ、これ~」


亜希子は鞄からお守りを出した。


「肝心なこれを渡さないとね。はい」

「ああ・・ありがとな」


受け取った中川は、仰天していた。


「おいおい、かあちゃん!」

「なっ・・なによ・・」


亜希子は意味がわかっていた。


「安産祈願ってなんでぇ!」


そう、亜希子は間違えて買っていたのだ。


「安産祈願?」


日置も驚いていた。


「間違えて買ったんだけど、考えようによっては、いいかもよ」

「なにがいいってんでぇ!」

「勝利を産む。いや、産み出すのよ!」

「かあ~~まったく、かあちゃんには、開いた口が塞がんねぇって!」


日置は二人を見て、ニッコリと笑っていた。

そして、いい親子だな、と思った。

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