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サーよし!2  作者: たらふく
336/413

336 混乱する亜希子




その後、船員室へ連れて行こうと判断した船員だっが、まずは船長に報せるべきだと操舵室へ向かった。

その実、船員は亜希子が頭の「ふれた」人物だと勘ぐっていたのだ。

そして神戸港に到着した際、下船させて警察へ引き渡すのが得策だと考えていた。


「どこへ・・行くんですか・・」


亜希子は不安げに訊いた。

船員は黙ったまま歩き続けた。


「私は娘にこれを渡したいだけなの。それで間違って乗ってしまっただけなの」

「・・・」

「あなた・・聴こえてます?」

「はい」


それから二人は黙って歩き続け、やがて操舵室に到着した。


コンコン・・


船員はノックをして中へ入った。

舵を握っているのは副船長だった。


増田(ますだ)くん、どしたんや」


船長の亀井(かめい)が訊いた。

そしてここに相応しくない女性を見て、怪訝な表情を浮かべていた。


「その人、誰や」


亜希子はわけがわからず、ボ~ッと立っていた。


「なんでも、間違って乗船されたお客さんでして・・」

「間違って?」

「娘さんにお守りを渡すためだとか」

「あの、お客さん」


亀井は亜希子を呼んだ。


「はい・・」

「娘さんは、この船に乗ってるんですか」

「はい、乗ってます!」

「お一人で?」

「いえっ、先生とチームメイトと一緒です!」

「行き先はどちらですか」

「丸亀です、丸亀!」


船の終着点は高松だが、亜希子は体育館の場所を言った。


「丸亀・・でしたら高松まで行かれるんですね」

「いえっ、丸亀です!」


関東人である亜希子は、西日本や四国の地理や地名に疎かった。


「この船は、高松行ですよ」

「えええええ~~~!」

「ですから――」

「じゃ・・愛子はこの船に乗ってないんだわ・・どうしよう・・」

「・・・」

「乗ってたとしたら・・あの子たちも間違えたんだわ・・」

「あの、お客さん」

「試合は明日なの!間に合わないわ~~!」


亀井と増田は顔を見合わせて、呆れ返っていた。

副船長も、時々振り向いて様子を見ていた。


「船長、どうしますか」

「そうやな・・困ったな・・」

「神戸で下船させて、警察に引き渡したらどうですか」

「えっ!」


亜希子は、警察という言葉に仰天した。


「私、なにも悪いことしてないわ!」

「いえ、そうやなくて」

「警察ってなによ!あっ、タダで乗ったことを言ってるのね!」

「違いますって」

「お金は持ってるの。払いますから、おいくらかしら」


亜希子は鞄から財布を取り出した。


「いえ、今ここで払われても困ります」

「じゃ、なに?警察ってなんなのよ!」

「お客さん、お名前は?」


亀井が訊いた。


「中川です!」

「あの、中川さん、神戸に到着するまで、ここで待っててください」

「え・・」

「そこの椅子にお座りください」


亜希子はパイプ椅子を見た。


「監禁ってことね・・」

「あほなこと言わないでください。人聞きの悪い」

「ううう・・愛子ぉ・・」


亜希子は椅子に座って泣き出した。



―――一方、日置らは。



二等室へ入り、空いている場所へ上がって座った。


「おおお~~毛布もあんのかよ」

「きみたち、それ一枚ずつ取って、今から寝るよ」

「ええ~もう寝るのかよ」

「明日試合だよ。ちゃんと睡眠はとらないとね」

「つまんねー」


中川は、さも納得したようにそう言ったが、ここでじっとしているわけがないのだ。

そう、みんなが寝静まったあと、「探検」してやろうと企んでいた。


「ほな、これ明日試合場で食べますか?」


阿部は紙袋を見せた。


「そうだね」

「ほな、これもやな」


重富がそう言った。


「ほならぁ、これもですねぇ」


森上もそう言った。


「だけど、ほんといいご両親だね」

「来るなって言うたのに・・」

「私もやん」

「私もぉ、まさか来るとは思いませんでしたぁ」

「郡司さんのお母さんは、先に行ってらっしゃるんだよね」


日置が訊いた。


「はい。朝の船でばあちゃんを迎えに行ってます」


日置も阿部らも、中川の親だけ来なかったことで、中川には何も言わなかった。

そう、来ないどころか、まさか船に乗っているなどとは思いもせずに。

日置らの「エリア」には、他に家族連れや友達同士の客もいた。

みな、帰省や旅行を楽しむように、和やかに話していた。

やがて時間も過ぎ、日置らも他の客も静かに眠りについた。


けれども日置は試合が気になり、目を瞑ってはいたがオーダーのことを考えていた。


とりあえず・・どこのブロックに入ってるかなんだよね・・

頼むから・・シードの近くに入ってませんように・・


日置は二回戦でシード校とあたることを思った。


いいところに入ってたら・・

勝ち上がって行くうちに、場慣れもするし、コンディションもよくなる・・

一回戦は・・そうだな・・

ダブルスは阿部と森上・・

シングルを、中川と重富・・どっちを二回出すかなんだよね・・


そこで中川は毛布から抜け出し、他の客を起こさないよう、靴が置いてあるところまでそっと移動していた。

日置は目を開けた。


中川さん・・

どこへ行くのかな・・

トイレかな・・


こう思った日置だったが、中川のことだ。

なにをしでかすか、わかったもんじゃない。

不安になった日置は、中川の後をつけようと思った。

やがて中川が二等室から出て行くと、日置も起き上がって部屋を出た。


あ・・やっぱりだ・・


そう、中川はトイレへ行かず、なんとデッキに出て行ったのだ。


まったく・・あの子はほんとに・・


日置はあとをつけた。


「ああ~~いい風だぜ!」


中川は海に向かって叫んでいた。


「しっかしよ~こんな暗くちゃ、なんも見えねぇな。ひゃっほーー!」


なにがひゃっほーだよ・・


「中川さん」


日置が呼んだ。


「あっ!先生じゃねぇか!」

「きみ、寝なさいって言ったよね」

「まあいいじゃねぇかよ。夜の海っての、見たかったんでぇ」

「まったく・・」


そして日置は中川の横に立った。


「これ、落ちたら助からねぇな」


中川は海を覗きこんでいた。


「なに言ってるの」

「あ・・そういえば先生よ」

「なに?」

「おめー、チビ助に嘘ついただろ」

「え?」

「ほら、写真のことさね」

「あ・・ああ・・」

「ほんとに供養したのか?」

「いや・・それがさ・・」

「なんでぇ」

「写真が消えたの」

「え・・」

「部屋の引き出しにしまったんだけど、ないんだよ」

「どういうことでぇ」

「それが、まったく見当もつかないんだよ」

「小島先輩が持ってるとかねぇのかよ」

「あの子はすごく怖がりでね。写真があるってだけで帰っちゃったんだよ」

「そ・・そうか・・」

「まあ、僕の勘違いかも知れないし」

「それってよ・・やっぱりヤベーんじゃねぇのか」

「ヤバイって?」

「心霊現象さね・・」

「ないない。ないけど、阿部さんに言っちゃダメだよ」

「言えるかってんだ」


「間もなく当船は神戸港に到着します」


そこで放送が流れた。


「あっ、先生、見てみろよ。あの夜景!」


神戸の夜景は「100万ドルの夜景」といわれており、見事な光を放っていた。


「わあ~とても綺麗だね」

「ひゃ~~これゃあ~~得したぜ!」

「まあね」


そこで乗降口に船員が準備のためにやってきた。

日置と中川は、邪魔にならないよう場所を譲った。


「ここで降りる客なんて、いんのかよ」

「どうなんだろうね」


その実、降りる客は皆無だった。

ここからは、また大勢の客が乗って来るのだ。


「それにしても綺麗だぜ・・」


中川は夜景のことを言った。


「戻るよ」


日置が言った。


「おうよ」


そして二人が船室に戻ろうとした時だった。

他の船員に交じって、なんと亜希子は船長の格好で現れたのだ―――

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