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サーよし!2  作者: たらふく
333/413

333 市原の報告




一方、小屋では彼女らの元気な声が響き渡っていた。

日置も吉住のことは、もう深く考えないことにした。

そして三日後に迫るインターハイに向けて、一層力が入っていた―――



「それっ、それっ、ほらもっとミートを効かせて!」


日置は多球練習で、阿部にボールを送っていた。


「はいっ」

「送るコースだよ!」

「はいっ」

「それっ、頑張れ!」


別のコートでは、中川が森上を相手にフットワークをしていた。


「おらあ~~森上!生ぬるいボール送ってんじゃねぇぜ!」

「言うたなあ~」

「もっと活きのいいの、打ちやがれってんでぇ!」

「よっしゃあ~~」


そして森上は全力でドライブを打った。

中川は懸命に拾った。


「ほらぁ~もう一発行くでぇ~」

「来やがれってんでぇ!」


森上のドライブを中川はズボールで返した。


「クルクルと踊りやがれ!」

「甘いでぇ~」


森上はボールが曲がる前に、ドライブを打った。


「くそっ、おめーにズボールは通用しねぇのかよ!」


そう、森上にズボールは無意味なのである。

また別のコートでは、重富相手に和子はフットワークをしていた。


「ハアッ・・ハアッ・・」


和子は息を荒くしながら、左右に動いていた。


「あともうちょっとやで!」

「ハアッ・・ハアッ・・」

「それ、頑張れ!」

「クッ・・ハアッ・・ハアッ・・」


ガラガラ・・


そこで扉が開いた。

すると日置らは打つのを止めて入口を見た。


「こんにちは・・」


市原がひょこっと顔を覗かせた。


「あ、市原さん。どうしたの?」

「ああ・・突然、すみません・・」


市原は靴を脱いで中に入った。


「市原さん、ハアハア・・どうしたんなら・・ハアハア・・」


和子はタオルで汗を拭きながら訊いた。


「あっ・・練習の邪魔してごめん」

「いや、ええけんど・・ハアハア・・どしたんなら」

「先生」


市原が呼んだ。


「なに?」

「お話があるんですけど・・」


そこで日置も彼女らも、何事かと市原の元へ行った。


「よーう、ブン屋。話ってなんでぇ」

「私、団体戦の翌日、また試合を観に行ったんです」

「試合って近畿大会のこと?」


日置が訊いた。


「はい。三神の試合を観たくて」

「そうなんだ」


日置は熱心だな、とばかりに優しく微笑んだ。


「それでその時、めっちゃ感じの悪い二人に会ったんです」

「へぇー」

「それ、誰でぇ」

「なんか、増江高校いう学校の選手やったみたいで、その子らもインターハイ出てるみたいなんです」

「ほーう」

「それで、えっと・・なんやったかな・・あっ、栃木の真城、東京の浅草西やったかな、私はようわからんのですけど、ダメダメ言うてまして」

「栃木の真城高校は、昨年の準優勝チームで、浅草西はきみたちの先輩が対戦してコテンパにやられた強豪校だよ」

「あっ、浅草西は知ってます」


日誌を読んでいる阿部が言った。


「でよ、ダメってのはどういう意味でぇ」

「大したことないって意味です」

「ほーう」

「それで、三神のこともダメやと言うてました」

「けっ、そいつらの目、節穴だな」

「それで私、二人に声をかけられたんです」

「おおっ、タイマンの始まりってわけだな」

「こら、中川さん、あんたとちゃうで」


阿部がたしなめた。


「それで?」


日置が訊いた。


「桐花って知ってるかって訊かれたんで、私はそこの生徒ですって答えたんです」

「うん」

「実力はどれくらいとか訊かれて、めっちゃ強いですって言うたんです」

「うん」

「ほなら、桐花の情報なんて必要ないと、もう一人の子が言いまして、私、腹立ったんで、昨日優勝したんですって言うたら、その程度で自慢されてもって言われて・・」

「そうなんだ」

「ほんで私、香川で見たらびっくりしますよ!って言うたったんです。そしたら、びっくりさせてくれたら嬉しいとか言うて・・」

「ふふふ・・」


そこで中川は不気味に笑った。


「なに笑ろてんのよ」


阿部が訊いた。


「フツフツと・・燃えて来やがるってもんよ・・」

「え・・」

「血かたぎるってのは、このことでぇ!」

「で、どうしたの?」


日置は中川を無視して訊いた。


「はい、それでその子らトリプル優勝するって言うてたんで、そんなこと絶対にさせませんって言うたったんです」

「うん」

「そしたら、部員の子たちに・・負けても落ち込まなくていいからって言うといてって・・」

「そっか」

「二人のうち、一人はめっちゃ背が高くて、森上先輩より高かったです」

「へぇーそうなんだね」

「よし、ブン屋、報告ご苦労だった!」

「あれやな、その子ら偵察に来たってわけか」


重富が訊いた。


「おそらくそうやと思います。ほんで増江高校は関東やと思います」

「なんで?」

「言葉が関東弁やったんで」

「これやぁ~~ますます闘志が漲ってくるってもんよ!増江かどすえか知らねぇが、首根っこ洗って待ちやがれってんでぇ!」

「まあまあ、中川さん落ち着いて」


日置がそう言うと「それで・・あの・・」と市原は困惑した表情で阿部を見た。


「なに?」


阿部は不思議に思って訊いた。


「私・・ようさん写真撮ったんですけど・・」

「うん」

「あっ、そうそう」


市原は鞄の中から写真を取り出し、大河の写真を中川に差し出した。


「これ、先輩にあげます」

「おおっ!おめー大河くんの写真も撮ったのかよ!」

「はい」

「あはは、でかしたぜ。ブン屋!ありがとな」


中川は嬉しそうに受け取った。


「これはどうですか?」


市原は植木の写真も見せた。


「かあ~あんちゃんの写真なんざ、まっぴらごめんの助ってんだ」

「そうですよね」


市原は苦笑した。


「それで、市原さん、どしたん?」


阿部が訊いた。


「え・・」

「いや、私の顔見とったし」

「ああ・・そうなんですけど・・」

「なんやのよ」

「ええ・・はい・・」

「市原さん、どしたんなら」


和子が訊いた。


「どうしたの?」


日置も訊いた。


「まあ・・私の勘違いやと思うんですけど・・」

「うん」


そこで市原は「心霊写真」を日置に見せた。


「これ、僕と阿部さんだよね」

「はい・・」

「これがなんなの?」

「先生・・気が付きませんか・・」

「なにを?」


煮え切らないと思った阿部は、日置から写真を引き取った。

すると阿部の顔色がみるみる変わっていった。


「これ・・なんなん・・」


阿部の手は震えていた。


「チビ助、どうしたってんでぇ」


そこで中川も写真を覗き込んだ。


「えっ!」


中川も驚いて声を挙げた。

すると重富は写真を引き取り、森上も和子も覗き込んだ。


「ちょ・・誰なん・・この坊主・・」

「えぇ~・・千賀ちゃんの背中にぃ・・」

「きゃあ~~~!」


和子は恐怖で叫んだ。


「なにが映ってるの?」


日置が訊いた。


「せ・・先生、これ、見えてないんですか・・」

「なにが?」


日置はもう一度写真を見た。


「ああ・・確かになにか映ってるけど・・これ、光の影響じゃないの?」

「おいおい、先生よ。これやぁ~光とかそんなんじゃねぇぜ。坊主の幽霊だぜ」

「そうかなあ。確かに幽霊に見えなくもないけど、これは違うよ」

「だってよ、チビ助の肩に手を置いてんじゃねぇか」

「これ、手なのかな・・」

「いやや・・嫌やああああ~~~!」


阿部が叫んだ。


「阿部さん、落ち着いて」


日置は阿部の肩に手を置いた。

すると阿部は「ぎゃあ~~~~!」といって、日置から離れた。


「先生よ、今、肩に手を置くタイミングかよ」


中川は呆れていた。

阿部は肩を手で払っていた。


「これ・・供養とかした方がええんとちゃう・・」


重富が言った。


「っんなもん、破って捨てりゃいいんだよ」

「あかん、あかん!そんなんしたら呪われる!」


阿部は冷静さを失っていた。


「呪われるとか、そんなことないから」


日置は、いわゆる超常現象の類など一切信じていなかった。


「千賀ちゃぁん、落ち着いてぇ」

「わかった。これは僕が持っておくね」


日置は写真をズボンのポケットにしまった。


「持っとくて・・どうするんですか」


重富が訊いた。


「近くのお寺に行って、供養してもらうよ」

「そう・・ですか・・」

「先生、ほんまにそうしてくれますか!」


阿部は怯えながら訊いた。


「うん」

「あかん・・夜寝られへん・・今も、肩にいてるんとちゃうやろか・・」


阿部がそう言うと、この場はシーンとなった。

そして彼女らは、互いの気持ちを探り合うかのように、誰が口を開くんだとばかりに見ていた。

和子は無意識に、森上の腕にしがみついていた。

さすがの中川でさえも、ほんの少し顔を引きつらせていた。


「わっ!」


日置が突然大声を挙げた。


「ぎゃあああああああ~~~~~!」


彼女らは驚いて絶叫した。


「あははは」


日置は呑気に笑っていた。


「おいおい、先生よ!なにやってんでぇ!」

「びっくりするやないですか!」

「ああ~~・・心臓が止まるかと思いましたぁ」

「ひぃ~~・・びっくりしたあ」

「先生、冗談きついですけに」

「先生・・酷い・・」


阿部はそう言って泣き出した。


「ああ、ごめん、阿部さんごめんね」

「私、怖がりなんです・・ううっ・・めっちゃ怖いんです・・」

「あーあ。泣かせちまったぜ。どうすんだよ」

「ごめん、悪かった」

「ううっ・・」

「供養するから、ね、もう泣かないで」

「は・・はい・・」


日置はそう言ったが、供養する気などさらさらなかった。

そう、心霊写真など単なる勘違いだと思っていた。

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