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サーよし!2  作者: たらふく
329/413

329 謎めいた二人




―――ここは奈良中央体育館。



熱心な市原は、三神の試合を観るため朝からここへ訪れていた。


「えーっと・・野間さんやろ・・ほんで山科さんやろ・・」


市原は本部席で組み合わせ表をもらい、それぞれ三神が試合をするコートを巡っていた。


「みんな勝ち上がって、次は三回戦やな・・」

「あっ、市原さんやん」


そこで植木が市原を見つけた。


「ああ、植木さん。こんにちは」


市原は軽く一礼した。


「桐花、出てないのに来たん?」

「はい。私、三神の試合が観たくて来たんです」

「へぇー!めっちゃ熱心やな」

「でも、あまり強さがわからんというか・・」

「そらそうやで。三神の敵なんかいてへんしな」

「ああ・・なるほど」


ここまで三神が対戦した相手は、全て10点以下、2-0で負かしていたので、本当の強さがわからないのも無理はない。


「優勝は、野間さんで決まりやで」

「そうなんですね」

「決勝戦かて、昨日の桐花と同じやろな」

「なるほど。一方的ってことですね」

「うん」

「そう考えると、やっぱり予選で観たかったなあ」

「あれはすごかったな。まさに全国レベルの対戦やったで」

「フィルムもあと数枚やし、植木さん、撮ってあげます」


そう言って市原はカメラを構えた。


「ええ~なんで僕やねん」

「まあまあ、ええやないですか。行きますよ~」


市原はファインダーを覗いてシャッターを押した。


「現像したら、差し上げますね」

「ええって」


植木は苦笑した。


「ほな、僕、男子の方へ行くわな」

「はい」


そして市原は、須藤が試合をするコートへ向かった。

第15コートでは、チームメイトの菅原と関根がベンチに着いていた。


「こんにちは」


市原が声をかけると、見知らぬ女子に彼女らは戸惑いつつも軽く一礼していた。


「ここで試合を観させてもらってもいいですかね」

「あなたは、誰ですか」


菅原が訊いた。


「私、桐花学園の生徒で、新聞部に所属してます市原と申します」

「へぇ・・桐花なんですか」

「三神の試合を観たくて来ました」

「そうなんですか。いいですよ」

「優勝、おめでとうございます」


関根は優しく微笑んでそう言った。


「ありがとうございます!」

「市原さんて、何年生ですか?」

「一年です」

「それにしてもうちの試合が観たいやなんて、熱心ですね」

「同じクラスの郡司さんから、三神はすごく強いんじゃけに!と、もう~嫌というほど聞かされてますから」

「郡司さんって・・ああ、あの子ですね」


関根は予選の際、中川と向井の試合の審判を一緒にやったことを思い出していた。


「須藤ちゃん、頑張りますよ」


コートでは試合が始まろうとしていた。

そして菅原が声をかけた。


「出だし1本ですよ」


関根もそう言った。

そして市原もコートに目を向けた。

試合が始まったものの、戦況は一方的に須藤が押していた。

須藤はラケットをクルクルと反転させて変化をつけ、相手は翻弄されっ放しだ。


「ナイスカットですよ」

「次、1本ですよ」


一年生大会の時もそうやったけど・・

この人ら、大声挙げたりせんのやな・・

しかも丁寧な言葉遣いやし・・

中川先輩と、真逆やな・・


市原はクスッと笑った。

そしてコートでは、須藤の矢のようなスマッシュが決まっていた。


「ナイスボールですよ」

「もう1本ですよ」

「ナイスボールですよーーー!」


市原は思わず叫んだ。

すると須藤は振り向いて、誰やねんと思っていたが、それでもニッコリと笑って応えていた。


「なんか・・大人と子供みたいな試合ですね」


市原が言った。


「当然です」


菅原は即答した。


「須藤ちゃんは、二年のエースですからね」


関根が言った。


「へぇ・・エースなんですね」


市原はそう言いつつも、森上の方がずっと上だと思った。

そして来年も桐花が勝つと、素人なりに確信していた。

須藤の試合はすぐに終わり、その後、市原は観客席で座っていた。


やっぱり・・桐花との試合やないと・・

力が湧いてこんというか・・

パンでも食べよ・・


市原は、事前に購入していたサンドウィッチと缶コーヒーをバッグから取り出した。


植木さんは・・優勝は野間さんで決まりというてはったし・・

最後まで観ることもないか・・


市原は口をモゴモゴさせながら、こんな風に考えていた。


「ふーん、これが三神の実力なんだ」


市原の席から、少し離れて座る女子がそう言った。


「全国王者がこれだよ」


連れの者もそう言った。

市原は思わずその二人に目を向けた。


なんやねん・・この人ら・・

ジャージ着てるし・・この試合に出てるんかな・・


「栃木の真城もダメ。東京の浅草西もダメ」

「そして三神もダメ」

「そういうこと」

「でもさ、三神に勝った桐花って、出てないよね」

「団体だけらしいよ」

「ということは、まぐれで勝ったんだよ」


な・・なに言うてんねや・・

まぐれなもんか・・

実力で勝ったんやで・・

それにしても、三神がダメて・・何様やねん・・

この暑いのに・・変な帽子被りやがって・・


そう、この二人は黒のニット帽を被っていた。


「まあ桐花なんて問題外。そして三神もこの程度」

「ほんと、気が抜けるとはこのことだよ」

「ま、今年はうちのトリプル優勝で決まりだね」

「それに価値があるのかって話だよ」


この子ら・・インターハイに出てるんやな・・

どこや・・

どこの学校やねん・・


そこで市原は、階段を上がって二人の後部に回ってみた。

すると背中に校名が書かれてあったが、背もたれで半分しか見えなかった。


「結局、無駄足だったね」


一人がそう言って立ち上がった。

すると背中には、増江(ますえ)高校と書かれてあった。


増江高校て・・どこやねん・・

聞いたことないけど・・

言葉は関東弁や・・


その実、増江高校は神奈川県横浜市に所在する学校だった。

彼女ら増江の選手は、レギュラーが五人、補欠が五人の十人で編成されたチームだ。

中でもレギュラー五人は精鋭中の精鋭の集まりで、初出場でありながら神奈川県予選を圧倒的な力でトリプル優勝を果たしていた。

彼女たちがなぜ、それほどまでに強いのかは、インターハイ当日、知ることとなる。


「そうだね」


そう言ってもう一人が立ち上がると、なんと森上よりも背が高かったのだ。

おそらく180くらいはあろうかという身長と、ジャージを着ているとはいえ、肉付きの良さはまさに男子そのものだった。


う・・うわあ・・

めっちゃ・・でかい・・

ほんまに女子なんか・・


市原が呆気に取られて見ていると、二人は視線を感じた。


「なによ」


小さい方の女子が、怪訝な表情で訊いた。

小さいといっても、ごく平均的な身長だ。


「あ・・いえ・・」


市原は思わず委縮した。

そして二人は階段を上がり、市原の横に立った。


「あんたさ、地元の子?」


大きい女子が訊いた。


「いえ・・私は大阪です・・」

「ふーん」

「三神の応援?」

「ええ・・まあ・・」

「だったらさ、桐花って高校知ってる?」

「私・・そこの生徒です・・」

「えっ、そうなんだ」

「あんたさ、卓球部なの?」

「いえ・・違います・・」

「卓球部って、どれくらいの実力なの」

「そらもう・・めちゃくちゃ強いです」

「あはは、とりあえずみんなそう言うんだよ」

「ま、桐花の情報なんて、私らには必要ないし」

「だね」


二人はそう言ってこの場を去ろうとした。


なんやねん・・

初対面のくせに・・失礼なやつらや・・

中川先輩がおったら・・全面戦争になってるとこや・・


「桐花は強いんです!」


それでも市原は我慢が出来ずにそう言った。


「はあ?」


二人は呆れて振り向いた。


「き・・昨日かて・・ダントツで優勝したんです!」

「あははは」


二人は同時に、バカにしたように笑った。


「近畿で優勝してもねぇ」

「その程度で自慢されても困るんだけど」

「か・・香川で・・実際に見たら・・びっくりしますよ!」

「はいはい、わかった、わかった」

「ほんとにびっくりさせてくれたら、嬉しいんだけど」

「と・・トリブル優勝とか・・言うてたけど・・絶対にそんなことさせません!」

「じゃさ、部員の子たちに言っといて」

「な・・なにをですか・・」

「負けても落ち込まなくていいからって」

「え・・」

「ま、私たちと試合が出来たら、の話ね」


そして二人は、ロビーに向かって歩いて行った。


なんやねん・・

くそっ・・

森上先輩も・・阿部先輩も・・重富先輩も・・中川先輩も・・

めっちゃ強いんやからな!


せやけど今の二人・・

虚勢を張ってるようには思えんかった・・

あっ・・

しもた・・

名前くらい聞いとけばよかったな・・

でも高校はわかった・・

増江高校・・か・・


そして市原も体育館を後にし、大阪へ出てから写真専門店に寄ってフィルムを出した。

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