表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サーよし!2  作者: たらふく
327/413

327 娘たちの快挙




―――この日の夜。



家に帰った森上は、優勝したことを両親に報告すると、慶三も恵子も大喜びしていた。


「ええ~お姉ちゃん、優勝したん~」


慶太郎が訊いた。


「そやでぇ」


そこで森上はバッグからメダルを取り出し、慶太郎にかけてやった。


「わあ~金メダルや~~すごいやん~!おめでとう~~」

「ありがとぉ」


森上はそう言って慶太郎の頭を撫でた。


「近畿って、近畿二府四県のことやろ?」


慶三が訊いた。


「あはは、そやでぇ」

「へぇーー!そこで優勝か。これはすごいわ」

「お祝いせなね」


恵子が言った。


「いやいやぁ、近畿で優勝は当たり前やからぁ、お祝いなんかええねぇん」

「ひゃ~~恵美子、すごい自信やな」

「私らの目標はぁ、あくまでもインターハイで優勝やからぁ」

「そうか・・うん。そうやんね」

「それにしても、やっぱり日置先生はすごいな」

「ほんまそれよ」


恵子は思い出していた。

昨年の「騒動」の際、日置と口論になった時のことを。


「娘さんは、必ず全国レベルの選手になります」

「全国?それ、なんですの」

「インターハイです」

「あの、先生」

「はい」

「インターハイかチューハイか知りませんけどね、そんな夢物語聞かされても、迷惑なんですわ」

「夢物語ではありません。彼女なら、きっと成し得ます」


そしてこんなこともあった。


「森上は、卓球をやったと言っても、まだ何も始まってません。あの子は、これからの選手なんです。今すぐにとは言いません。ですが、森上から卓球を断ち切ることだけは考え直して頂けませんか」

「無理です」

「お母さん!」

「もうええです。帰ってください!」

「お母さんにはわからないかも知れませんが、あの子は将来、日本を背負って立つような選手に育つ可能性を秘めてるんです!疫病神なんかじゃないんです!」

「恵美子が疫病神と言うてませんやん!卓球が疫病神て言うてますんや!」

「だから、森上にとって卓球は疫病神どころか、あの子にとって・・輝かしい将来をもたらすものなんです!」


私は・・疫病神やと酷いことを言うた・・

せやけど先生は・・必死になって恵美子の可能性を・・

諦めずに何度も何度も・・

そして・・ほんまに近畿で優勝させはった・・


恵子は思わず泣けてきた。


「お母さん、どうしたん~」


慶太郎が心配した。


「お姉ちゃんがな、優勝したやろ。だから嬉しいんや」


恵子はエプロンで涙を拭っていた。

そして「恵美子、よかったな、よかったな」と言った。

これは優勝を喜ぶ意味もあったが、先生が日置先生でよかったな、という意だった。



―――ここは阿部家。



「よーーし、ビールや、ビール!」


父親の信次は、祝杯だと言わんばかりに手を叩きながら冷蔵庫へ向かった。


「はいはい」


母親の礼子は、信次がビールを出す前に冷蔵庫を開けた。


「どや、お前も一杯いくか?」


信次は阿部に訊いた。


「お父さん!なに言うてるんよ」


礼子が叱った。


「あはは、冗談やがな、冗談」

「まったく・・」


礼子はそう言いつつも、嬉しそうにビールを取り出し、グラスも用意した。


「千賀子はジュースでええね」

「うん、それでええよ」


阿部はリビングからそう言った。

そしてリビングのテーブルには、ビールとおつまみが用意された。

信次と礼子はグラスを持ち、阿部はジュースの入ったコップを持った。


「えー、では、千賀子の優勝を祝して、乾杯!」


信次がそう言うと、礼子と阿部も「カンパーイ!」と言って、ゴクゴクと飲んだ。


「いやあ~~それにしても、優勝とはすごいな!」

「ありがとう」

「近畿でナンバーワンなんて、ほんますごいよ」

「うん、そうなんやけど、私らの目標は全国優勝やから」

「そやっ!お前ならできる!」

「ところで千賀子」


礼子が呼んだ。


「なに?」

「中川さん、どないしてるの?」

「あの子な、もう~開会式でまたやらかしよってな」

「おおお~~なになに?」


信次は興味津々だった。

そして阿部は「事件」の話をした。


「あははは、さすが中川さんやな!」


信次は腹を抱えて笑っていた。


「いやあ~・・それにしても、ほんまにあの子は人並み外れてるわ」


礼子は唖然としていた。


「また連れて来ぃや」

「うん、今度な」

「お父さんな、あの子の話、直接聞きたいねん」

「そうなん?」

「だって、めっちゃおもろいやん」

「ちょっと・・私らの身にもなってぇや」

「なんでやねん」

「もう~いつもヒヤヒヤもんやで」

「あはは、そらそやな」



―――ここは重富家。



「ようやった、ようやったで!」


ここでも優勝の喜びに沸き上がっていた。


「ほんま、よう頑張ったね。おめでとう」


母親の素子が言った。


「ありがとう」

「それにしても、ほんまに優勝するとはなあ」


父親の昌朗が言った。


「私な、決勝戦の二番に出て、4点と6点で勝ってん」

「ええええええ~~~決勝で4点と6点てか!」

「そやで」


重富は、どうだと言わんばかりに笑った。


「しかも、全試合、3-0で勝ったんやで」

「へぇーーー!」

「桐花は、ほんま強いんやねぇ」

「そやねん。ダントツやったで」

「インターハイは一週間後やね」


素子はカレンダーを見た。


「うん」


素子に合わせて重富もカレンダーを見た。


「船で行くんやね」

「うん。弁天ふ頭から関西汽船で」

「香川かあ。行きたいけど、ちょっと遠いね」

「そんなん来んでもええって」

「見送りには行くわね」

「よっしゃ!全国優勝したら、ボーナスやる!」


昌朗がそう言うと、素子は呆れていた。


「お父さん、またお金で釣って」

「えっ、なんぼくれるん?」

「これ、文子」

「そやな~一万円や!」

「えええええ~~ほんま?」

「ほんまや!」

「よっしゃ~~約束やで!」

「おう!」


素子は呆れつつも、二人の様子を目を細めて見ていた。



―――ここは中川家。



「えええええ~~ゆ・・優勝?」


母親の亜希子は驚愕していた。


「そうさね」

「ひゃ~~桐花ってそんなに強かったの?」

「たりめーさね。この中川さまがいる限り、優勝以外は許されないのさね」

「大阪でも優勝。近畿でも優勝。これってすごいんじゃない?」

「チッチ・・」


中川は顔の前で指を動かした。


「なによ」

「全国優勝してこそ、真の王者さね・・」

「まあ、そりゃそうだろうけど、なかなか難しいんじゃないの」

「それが、そうじゃねぇんだな」


中川はそう言って「フッ」と笑った。


「なによ」

「私はよ、全国優勝に向けて、最高のエネルギーを注入してもらったのさね」


中川は事実上、大河に告白されたことを言った。


「エネルギーってなによ」

「ふふっ・・それを訊くのは野暮ってもんさね」

「まあいいわ。あっ、それよりさ」


亜希子はそう言って立ち上がり、ダイニングのテーブルへ移動した。


「あんた、これなんなのよ」


亜希子は一枚の紙を渡した。


「ああ、こんなのあったな」


それはかつて吉住から渡された、新人女優オーディションの用紙だった。


「掃除してたらさ、ベッドの下から出て来たのよ」


中川は紙を見ながら「明日か・・」と呟いた。


「あんた、それ行くの?」

「まさか。女優なんてガラじゃねぇし、興味もねぇよ」


中川はそう言いつつも、気分転換にもなるか、と思っていた。

なぜなら一週間後には、全国の猛者たちを倒さなければならない。

中には三神より上の学校もあるかもしれない。

こんな時だからこそ、あえて気分転換を図るべきだ、と。

そして中川は紙をポケットにしまった。



―――ここは郡司家。



「ええええ~~優勝!」


ここでも優勝を果たしたことに、節江は驚きの声を挙げた。


「そうなんじゃけに。ほなけんど私はずっとベンチ」


和子はそう言って笑った。


「いやいや、ベンチでも大したもんじゃが。そうか、そうか、優勝したんか」

「そらもう、先輩たち、すごかったんじゃけに。ダントツよ、ダントツ!」

「それにしてもまあ、あんたもメダルを貰ろうたんじゃな」


節江はメダルを手にしていた。


「うん」


和子は嬉しそうに笑った。


「まあまあ・・」


節江はメダルを見入っていた。


「ほなけに、インターハイも絶対に優勝じゃけに」

「そうじゃの」

「桐花が全国で一位。ああ~~私、やっぱり桐花に入ってよかった」

「ばあちゃんも、楽しみにしとるんよ」

「うん!インターハイは、私も試合に出るけに、ええとこ見せんとな!」

「ええええ~~和子も出るんか」

「そうなんじゃけに」

「ひゃ~~これは大変じゃが」

「なにが?」

「カメラも持って行かにゃあいけんが」

「でも私は勝てんと思う」

「そんなことやこ、ええが。先輩が勝ってくれるが」

「うん。ほなけに、伸び伸びやろうと思うとるんよ」



このように、どの家庭でも全国優勝も夢じゃないと本気で思っていた。

けれども試合当日、とんでもない強豪チームが現れることなど、誰も知る由がなかったのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ