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サーよし!2  作者: たらふく
325/413

325 強すぎる桐花




そしてコートに着いた二人は3本練習を始めた。

小柄な駒田は、板のボールに慣れてないのか、とても打ちにくそうにしてラリーが続かなかった。

そう、駒田は板と対戦するのは初めてだったのだ。


なんや・・

この打ちにくいボールは・・

でも・・全部ナックルやな・・

逆に、慣れればこっちのもんやな・・

裏面にラバー貼ってるけど・・

これはサーブで使うだけやな・・


こう考えていた駒田だったが、まさかラリー中に裏で打って来るとは思いもしなかったのだ。

ジャンケンをして勝った駒田はサーブを選択し、重富は自分が立っているコートを選択した。


「ラブオール」


審判が試合開始を告げた。

二人は互いに一礼し「お願いします!」と言った。

ボールを手にした駒田は、回転をかけても意味がないと判断し、バックコースから上回転のロングサーブを出した。

バックに入ったボールに重富は、プッシュする形でフォアストレートギリギリのところへ送った。


速い・・


一瞬焦った駒田だったが、なんとか足を動かしてフォアクロスへ強打したが、大きくオーバーミスをした。


「サーよし!」


重富は力強くガッツポーズをした。


「よーーし!ナイスコース!」


日置は大きな拍手を送っていた。


「っしゃあ~~~!駒田はおめーのボール、嫌がってんぞ!」

「とみちゃん、ナイス!」

「もう1本やでぇ~~!」

「先輩、ナイスボールです!」


彼女らも大きな声援を送った。

一方で高杉は「無理するな!繋げ!」と叫んでいた。

駒田は振り向いて頷いた。


そやな・・

慣れるまでは繋がなあかん・・


そして駒田は「1本!」と言ってサーブを出す構えに入った。


よし・・今度は小さなサーブや・・


こう考えた駒田は、バックのネット際にナックルサーブを出した。

重富は、プッシュでバックへ返した。

これも、ラインぎりぎりの深いところに入ったいいレシーブである。

押されそうになった駒田だったが、なんとかショートで返した。

すると重富は瞬時にラケットを反転させ、バックに入ったボールをフォアストレートへプッシュで返した。


えっ!


まさか裏で打つとは思ってなかった駒田は、ラケットの面が上向きになっており、ボールがあたった瞬間コントロールできずにオーバーミスをした。


「サーよし!」


重富は思った。

天地の方が、何倍も何十倍も強かったぞ、と。

そして同時に、三神の強さはやはり並ではなかった、と。

目の前の相手は、強いといってもレベルはずいぶん下だ。

けれどもそんなことは関係ない。

ここは徹底的に叩きのめしてやる、と。


その後、駒田は板を打ちあぐね、時折裏を混ぜて来る重富の「攻撃」に翻弄された。

そう、重富は自ら打って出るとこはなかった。

悉くコースを狙い、守りながら「攻撃」していたのだ。

そして5-0でサーブチェンジとなった。


よし・・ここは必殺サーブで突き放すで!


こう考えた重富は、バックコースから必殺サーブを出した。


えっ・・

これ・・なんなん・・


全く回転を見破れなかった駒田は、サーブの威力に度肝を抜かれていた。

ボールは全く逆の方を飛び、大きくオーバーミスをした。


「サーよし!」


重富は、どうだと言わんばかりに力強いガッツポーズをした。


「ナイスサーブ!」


日置は何度も手を叩いていた。


重富さん・・

きみは・・ほんとによく努力したね・・

たった七ヶ月でここまで成長した・・

近畿大会の決勝戦に・・

きみは出てるんだよ・・


日置は昨年の一年生大会のことを思い出していた。

思い返せば重富は「数合わせ」として試合に参加していた。

影の大番長として演技もしたが、いわば大観衆の中で恥を晒したのだ。

その重富が板と裏を使いこなし、まさに相手に付け入る隙を与えない卓球をしている。

もう立派な選手の一人だ、と。


「よっしゃ~~とみちゃん、ナイスサーブ!」

「もう1本やでぇ~~!」

「見たかーーー!駒田よ!このサーブはぜってー取れねぇぜーーー!」

「先輩~~!ナイスです~~!」


そして重富は、次もその次も、全部必殺サーブをお見舞いしていた。

結局、駒田は1本も返せずに、カウントはなんと10-0で重富が圧倒していた。


観客席で見守るスカウトマンらは、重富の実力に感服していた。

無論、丹波と白洲も同じだった。

そんな中、驚いていたのが三神である。


「重富さんて・・裏も使えるようになってますね」


野間が言った。


「きみに完敗した後、ずっと練習を続けていたのでしょう」


皆藤が答えた。


「でも、えっと・・二か月・・たった二ヶ月ですよ・・」


山科が言った。


「期間ではありません。要は本人のやる気と練習内容です」

「はい・・」

「この分じゃ、重富くんは完勝です。次のダブルスもそうでしょう」

「はい」

「いいですね、桐花。大阪のチャンピオンとしての自覚が彼女たちにはあります」

「そうですね」

「エースの森上くんにフットワークのいい阿部くん。そしてこの重富くんに、あの中川くんです」

「・・・」

「ほんとにいいチームです」


皆藤の言葉を彼女らも実感していた。


「でも来年はそうはさせませんよ」


皆藤は優勝奪還のことを言った。

すると須藤ら二年は「はい」と力強い返事をしてコートを見ていた―――



結局、重富は1セット目21-4、2セット目21-6と完勝し、いよいよ優勝が目前に迫っていた。


「重富さん、ナイスゲームだったよ」


日置は重富の頭をくしゃくしゃと撫でていた。


「よーーし、重富よ。ご苦労だった!」


中川は重富の肩をポンポンと叩いていた。


「とみちゃん、ナイス!」

「完璧やったよぉ~」


阿部と森上はラケットを手にしてそう言った。


「先輩~~!すごかったです~~」


和子もとても嬉しそうだった。


「よーーしっ!阿部さん、森上さん。バトンは渡した。ここで決めてや!」

「おうさね!」

「わかってるぅ」


そして阿部と森上は日置の前に立った。


「本城さんはわかってると思うけど、井口さんはシェイクの攻撃型だよ。裏裏ね」

「はいっ」

「はいぃ」

「いつも通りに阿部さんは台から離れないこと」

「はいっ」

「遠慮は無用。出だしからガンガン押して行こう」

「はいっ」

「はいぃ」

「よし。徹底的に叩きのめしておいで」


日置は二人の肩をポンと叩いた。


「よーーし、おめーらで引の導を渡してやんな!」

「あはは、なによそれ」

「チビ助、細けぇことはいいんでぇ。とにかく!桐花にはどう足掻いても勝てねぇってこと、あやつらに叩きつけてやんな!」

「わかってる」

「そのつもりやでぇ」

「先輩、ファイトです!」


そして二人はゆっくりとコートへ向かった。


「いやあ~~桐花ってほんまにダントツで強いなあ」


市原はノートを手にして、感慨深げにそう言った。

すると和子は嬉しそうに市原を見た。


「ようさん書けた?」

「書けた書けた。写真も撮ったし。これ、やっぱり二学期が始まったら号外で出そかな」

「ええ~号外?」

「でもな~インターハイの記事が書かれへんのが残念」

「ああ~そうじゃな」

「よーし、ここは応援や!阿部先輩~~森上先輩~~頑張ってください~~!」


市原が大声で叫ぶと、二人は振り向いてニコッと笑った。



―――蝶花ベンチでは。



「ええか、本城、井口」


二人は高杉の前に立っていた。


「もう後がない」

「はい」

「正直・・桐花は強すぎる」

「・・・」

「二年前の沢畠と山上も負けたけど、相手はこんなもんやなかった」

「・・・」

「もうここは、開き直るしかない」

「はい・・」

「ええか、気持ちだけは負けたらあかんぞ」

「はい」

「よし、行って来い!」


そして彼女らは、チームメイトにも励まされながらコートに向かった。


やがて試合が始まったものの、戦況は言うに及ばず阿部と森上が圧倒していた。

そもそも森上のスーパードライブを止めることができず、ラリーが続かない。

加えて阿部の速攻にも振り回され、本城と井口は何度も衝突する始末だ。

館内のギャラリーからは、これが決勝戦なのか、と不満の声さえ挙がっていた。


一方で阿部と森上に限らず重富と中川も、自分たちの実力がこれほどまでに秀でていたのかと今さらながら気が付いていた。


そういえばよ・・

「きみたちは恵まれている」と先生は言ってたけどよ・・

確かにそうさね・・

三神がいなければ・・私らはここまで強くなれなかったに違いねぇ・・

いや・・ならなかったに違いねぇ・・

必殺サーブも・・ズボールも・・

三神がいたからこそ・・生まれたんでぇ・・


「チビ助~~~!森上~~~!っんなやる気のねぇ蝶花ごとき、とっとと片付けてやんな!」


試合も2セット目終盤を迎え、中川が叫んだ。

そう、本城と井口は「気持ちで負けるな」と高杉に言われていたが、そもそも無理というもの。

信じられないような森上のドライブ、阿部の速攻、そして必殺サーブ。

これらの洗礼を浴びて、気持ちが前を向くはずがないのである。

もはや蝶花ベンチからも、声さえ挙がらない。


「こ・・こんな・・強いチーム・・見たことない・・」


井口がポツリと呟いた。


「うん・・」


本城の声にも力がなかった。

その頃、観客席では、早々と負けていた一人の男子が試合を観ていた。

そう、選手宣誓したあの男子である。


あの変な子が・・

あんな宣誓したけど・・

そうか・・こういうことやったんや・・

桐花て・・とんでもないチームやったんや・・

この中の誰よりも・・血へどを吐く練習したってことやな・・


そして試合は20-4でラストを迎えていた。


「よし、1本な」


阿部が口元を隠して森上に言った。


「わかってるよぉ」


森上は冷静に答えた。

そして阿部はレシーブの構えに入った。

サーブは井口だ。


井口は無言のまま、下回転の短いサーブを出した。

阿部はバックストレートに、長いツッツキで返した。

そう、最後も森上に打たせるためだ。

もはや回り込みすらしない本城は、ツッツキでバックへ返した。

すると森上はすぐさま回り込み、フォアストレートへドライブを放った。

井口の足は動くことなく、ラケットすら出さずにボールを見送った。


「サーよし!」


阿部と森上は互いを見ながら、渾身のガッツポーズをした。


「よーーーし!よーーーし!」


日置は、まずは近畿で優勝という目標を達成したことで安堵していた。

いや、優勝は確実だと戦前からわかっていたものの、実際に成し遂げたことで、監督としての責任を全うできた喜びを感じていた。


「よっしゃーーーー!優勝だあーーーー!」

「やった~~~!やった~~~!」

「先輩~~~!すごいいいい~~~!」


彼女らは二人に駆け寄った。

遅れて日置も二人の元へ行き、「よく頑張った。完璧な試合だったよ」と称えた。

そして両校は整列し、「3-0で桐花学園の勝ちです。ありがとうございました」と主審が告げた。


こうして桐花は、完璧な戦いぶりで近畿でトップ校となったのである。

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