表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サーよし!2  作者: たらふく
324/413

324 森上対本城




やがてコートに着いた二人は3本練習を始めた。

二人の打ち合いは、試合が始まるとまさにパワー勝負になることを想像させるような激しいラリーだったが、本城は肩に力の入った「それ」だ。

一方で森上は、さして力が入っているわけでもなく、極めて冷静に打っていた。

そしてジャンケンをして勝った本城はサーブを選択した。


「ラブオール」


審判が試合開始を告げた。

二人は互いに「お願いします」と一礼した。


「森上ーーーー!ガンガン行けーーー!」

「恵美ちゃん、出だし1本な!」

「さあ~~~頑張れ~~~!」

「先輩、1本ですよ!」


彼女らは、まさに決勝戦という興奮も手伝って声援にも一層力が入っており、その横では市原がペンとノートを手にしていた。

観客席に座るスカウトマンらも、森上に目を向けていた。


本城は「1本!」と声を発し、サーブを出す構えに入った。

森上は前傾姿勢になり、本城のラケットを凝視していた。

本城はバックコースから、バックの下回転サーブをネット前に出した。

そう、ドライブを封印するためだ。


バックに入ったボールを森上は、バッククロスに長いツッツキで返した。

本城はすぐさま回り込み、先にドライブを打って出た。


よし・・

打って来た・・


バッククロスに入ったボールに、森上は後ろへ下がらず抜群のカウンターでフォアストレートに返した。


えっ・・


森上の対応の早さに慌てた本城は、ラケットを出すのが精一杯だった。

「チャンスボール」が返ってきた森上は、渾身の力を込めてバッククロスへスマッシュを打ち込んだ。


スパーン!


コートに突き刺さるかのような激しい音と共に、ボールは本城が手を出す前に後ろへ転がっていた。


「サーよし!」


森上は小さくガッツポーズをした。


「よーーし!ナイスボール!」


日置は手を叩いていた。


「よーし、森上ーーー!もう一発食らわせてやんな!」

「ナイスボール!」

「ええぞ~~~森上さん~~!」

「先輩~~もう1本です!」

「うわあ~~・・」


市原は、森上のスマッシュに今さらながら驚愕していた。



―――観客席では。



「あれをカウンターで返すんだよね」


丹波は感心したように言った。


「よく回り込みますよね・・」


白洲は森上のフットワークの良さを言った。

相手の本城は、京都で優勝した蝶花のエースだ。

この大会でも決勝に勝ち進んだ強豪校であり、言うまでもなくドライブも一級品だ。

白洲の言ったのは、今しがたのカウンターは一か八かの「賭け」であり、それを1球目からやってのける森上の積極性と、ずば抜けた身体能力の高さの意味が込められていた。


「それなんだよね。普通は間に合わないよね」


丹波も白洲の意を読み取っていた。


「ショートで返す方が確実ですよね」

「けど、森上さんは回り込んだ。ショートで返すこともありだけど、それだとチャンスを与えかねないよね」

「本城さんに付け入る隙を与えないってことですか・・」

「そうだね」


白洲は思った。

たとえ森上といえども、たかが女子高生だ。

この試合は決勝戦であり、誰しもが確実な1点を取りたいはずだ。

いや、取りに行くはずだ、と。

けれども森上は確実な1点より、ミスのリスクを冒しながらも「賭け」を選んだ。


この子は・・それほどまでに自信があるのか・・

近畿大会は大きな試合だぞ・・

しかも決勝戦だぞ・・

もしかすると・・僕が思っているより・・

遙かに優れた選手なのかもしれないな・・



本城は、まだ始まったばかりの試合に、今しがたの攻撃で恐怖すら覚えていた。

けれども自分は蝶花のエースだ。

引いてはならないと、二球目のサーブを出す構えに入った。

そして本城は、バックコースからフォアの斜め回転サーブをバッククロスへ送った。


森上はすぐさま回り込み、右腕を大きく下げてそのまま思い切り振り上げた。


ビュッ!


スーパードライブが本城のバッククロスを襲った。

本城はショートで対応し、フォアストレートに送った。

森上は後ろへ下がらずに、フォアクロスへ大砲のようなスマッシュを打ち込んだ。

ボールは本城がラケットを出す前に、後ろへ転がっていた。


「サーよし!」


森上は小さくガッツポーズをした。


「ナイスボール!」


日置はパンパンと拍手をした。


「よっしゃーーー!そのまま行けーーー!」

「ナイスボールやーーー!」

「ええぞ~~~!」

「先輩、すごい~~~!」


彼女らもやんやの声援を送った。


なんで・・

あんなに速く動けるんや・・

回り込んでドライブかけて・・

私・・厳しいコースに送ったで・・


本城は、成す術がないと思っていた。


「本城!1本やぞ!」


高杉が檄を飛ばした。


「挽回するよ!」

「平気、平気!」

「次、1本よ!」


チームメイトらも懸命に本城を励ましていたが、同時に森上の圧倒的な力に気持ちは押されていた。

そして結局、4-1でサーブチェンジとなった。

本城が取った1点は、自身のネットインによるものだった。


そして森上は、サーブを出す構えに入り「1本!」と声を発した。

なんとか挽回しようと本城も「1本!」と返した。


ここは・・最初から必殺サーブを出す・・


こう考えた森上は、バックコースから複雑にラケットを動かし、サーブを出した。

すると全く回転が読めなかった本城は、当然のようにミスをした。


い・・今の・・なんなん・・


本城は思わず自分のラケットを見ていた。


「どんまい、どんまいや!」


高杉が叫んだ。


「ボール、よく見て!」

「取れる、取れるよ!」


ベンチから声が挙がり、本城は思わず振り向いた。

すると情けない表情を見た高杉は「タイムや!」といい、本城はタイムを取ってベンチに下がった。


「ここは、踏ん張り時やぞ!」


高杉は檄を飛ばすしかなかった。

そう、策などなかったのだ。


「あのサーブ・・どうやって取ればええんですか・・」

「回転を見るしかない」

「見るしかない・・て・・そんなん無理です」

「とにかく、なんでもええ。返せばええ」

「そんな・・」

「コートに入れんことには、話にならん」

「・・・」

「入れさえすれば、回転が残ったまま返る。そしたらミスも出る」

「はい・・」

「ええな、とにかく入れることや」

「わかりました・・」


そして本城は、「入れればええ」という、策とも言えないアドバイスだったが、それしかないと思っていた。

そう、実際、そうするしかないのだ。



―――桐花ベンチでは。



「ここまでは、完璧な出来だよ」


森上は日置の前に立っていた。


「はいぃ」

「でもまだ、5-1。試合はこれからだから、気を引き締めてね」

「はいぃ」

「よし。じゃ、行っておいで」


日置は森上の肩をポンと叩いた。


「よーし、森上よ。ガレージサーブを嫌というほどお見舞いしてやんな!」

「恵美ちゃん、ガンガン行くで!」

「森上さん、しっかりな!」

「先輩、すごいです~~!」


彼女らも森上を励ました。


「いやあ~それにしても、森上先輩、すご過ぎます!」


市原が言った。

すると森上は照れたようにニッコリと笑ってコートに向かった。

ほどなくして試合は再開されたが、本城は森上のサーブに翻弄されていた。

そう、どうしても返せないのだ。

そして1点、また1点と点数が加算され、カウントは8-1になっていた。


あかん・・

どうしても返せん・・

せやけど・・

このままやと・・

次のサーブの時も・・1本も取れんと終わる・・

自分がサーブになっても・・ラリーさえ続かん・・

どうしたらええねや・・どうしたら・・


とてつもなく焦っていた本城だったが、ここは一か八かで打って出ようと決めた。

そして森上はサーブを出す構えに入った。

森上はバックコースから、フォアのサーブをバックへ送った。

けれども回転は逆であり、おまけに下回転も入っていた。


本城はすぐさま回り込み、打ちに出た。

するとボールはバッククロスへ入った。


よし!

入った!


こう思った本城だったが、なんと森上は、すぐさま回り込み、またカウンターで打ち返したのだ。


スパーン!


矢のようなボールはフォアストレートを襲い、本城は呆然としたまま見送るしか出来なかった。


「サーよし!」


森上は小さくガッツポーズをした。


「よしよし!ナイスボール!」


日置は拍手をした。


「ひゃっは~~~!森上、すげーーーぜ!」

「恵美ちゃん、ナイス~~~!」

「あんた、ほんますごいわ!」

「きゃ~~先輩!すごい~~~!」


彼女らも興奮しきりだ。


本城は、もう本当に成す術がないと落胆した。


この子は・・別格や・・

別格過ぎる・・

こんな強い子・・見たことない・・


そして森上は、1セット目を21-3、2セット目を21-4で完勝したのだった。


「よーーし、森上、ご苦労だった!」


ベンチに下がった森上の肩を、中川がパンパンと叩いた。


「恵美ちゃん、絶好調やな!」


阿部が言った。


「先輩、さすがです!」


和子も嬉しそうだった。


「よし・・やったるで・・」


二番に出る重富は、ラケットを手にして日置の前に立った。


「さて、重富さん」

「はいっ」

駒田こまださんは裏の前陣速攻だよ」

「はいっ」

「おそらく早めに攻撃を仕掛けて来ると思うけど、そこは我慢だよ」

「はいっ」

「しっかりコースを狙って、動かしてやればいい」

「はいっ」

「そして、ここぞって時に裏で対応ね」

「はいっ」

「よし、徹底的に叩きのめしておいで」


日置は重富の肩をポンと叩いた。


「よーーし、重富よ。おめーが負けても私が控えてっから、気楽にやんな」


中川は重富の肩に手を置いた。


「いや、あんたまで回さへんし」

「おめーよ、私も決勝戦に出たいっつーの」

「とみちゃん、中川さんまで回したらあかんで」

「チビ助、おめーはダブルスに出られるからいいけどよ、この中川さまがだな、決勝戦に出ないで終わるっつーのは、ドラマの最終回を見逃すようなもんだぜ」

「とみちゃぁん、3-0で勝つよぉ」

「なっ!森上まで、なに言ってやがんでぇ」

「先輩!3-0で完全優勝ですよ!」

「郡司まで!かぁ~~まあいいやね。高みの見物、ぶっこいてやっから、コテンパに叩きのめしな!」

「おうさね!」


重富はそう答えて、ゆっくりとコートに向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ