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サーよし!2  作者: たらふく
319/413

319 桐花対紀伊南




その後、日置ら一行は一回戦の時を迎え、試合コートである15コートに向かっていた。

その際、遅れて到着していた植木も同行していた。


「ああ~、間に合わんとこやったですわ」


植木は日置にそう言った。


「ギリギリだね」


日置は苦笑した。


「よーう、あんちゃんよ」


中川が呼んだ。


「なに?」

「一回戦なんざ、ほんのご挨拶さね・・」

「え・・」

「口汚しっつーか、ご愛敬っつーかよ」

「・・・」

「ま、高みの見物、ぶっこいてな」

「ぶっこく・・」


日置は二人を見て苦笑していた。


「植木さん、お久しぶりです~」


市原がそう言った。


「きみも、なかなか熱心やな」

「はい。私は新聞部でも、クラブ活動を担当してるんです」

「そうなんや」

「中でも、卓球部は学校でも群を抜いてますし、そら、来んとあきませんからね」

「記者として、ええ心掛けやな」

「ありがとうございます~」


この二人は、以前もそうだったが、なんとなく気が合っていた。

やがて到着すると、コートの向こう側では既に紀伊南の選手は体を解していた。


「きみたちも、柔軟やって」


そして日置は、今試合の審判をしている地元の高校生のところへ移動し、オーダー用紙を受け取っていた。

ベンチに下がった日置は、ペンを手にしてオーダーを書いていた。


「きみたち」


日置が声をかけると彼女らは、柔軟を止めて日置の前に立った。


「オーダーを言うね。トップ、森上さん」

「はいぃ!」

「二番、中川さん」

「おうよ!」

「ダブルス、森上さん、阿部さん」

「はいっ」

「はいぃ!」

「四番、重富さん」

「はいっ」

「ラスト、阿部さん」

「はいっ」

「よし。これで勝ちに行くよ」

「はいっ!」

「合点承知の助ってんでぇ!」


「なあ、郡司さん」


市原が呼んだ。


「なに?」

「審判て、あの子らがすんの?」


市原は、コートの横に立っている二人の女子のことを訊いた。


「うん、ここは大きい試合じゃけに、元々から審判がついとんよ」

「へぇー!」

「そやけに、私は気にせんと、応援できるんじゃけに」

「なるほどなあ」


市原はそう言いながら、改めて館内を見回していた。

すると「めざせ!優勝!○○高校」といった横断幕が、あちこちに掲げられているではないか。


「大きい試合って、こんな感じなんやなあ」


市原はノートとペンを取り出し、早速メモしていた。


「じゃ、整列するよ」


日置がそう言うと、阿部ら四人も台に向かって歩いた。

そして紀伊南も整列した。

日置と小野は審判にオーダー用紙を提出した。


「それではただいまより、紀伊南高校対桐花学園の試合を行います。トップ、速水(はやみ)対森上」


速水は小柄な選手だった。

そして森上を見て、小さく手を挙げていた。


「二番、横溝(よこみぞ)対中川」

「おうよ!」


中川はすぐに右手を挙げた。

すると横溝は、「やらかしたあいつだ」と思っていた。

それは小野も、他の者も同じように感じていた。


「ダブルス、横溝、水内(みずうち)対森上、阿部」


四人は手を挙げて一礼した。


「四番、片山(かたやま)対重富」


二人は手を挙げて一礼した。


「ラスト、水内対阿部。お願いします」


主審がそう言うと「お願いします!」と双方も大きな声を発してそれぞれベンチに下がった。

桐花の補欠は和子だけだったが、紀伊南には、他に三年生が一人、二年生が五人と、観客席ではベンチに入れなかった一年生が見守っていた。


「さて、森上さん」


森上は日置の前に立っていた。


「はいぃ」

「速水さんは小柄だから、おそらく前陣速攻だ」

「はいぃ」

「ラバーは打てばわかる」

「はいぃ」

「遠慮することは一切ない。出だしからガンガン飛ばして行こう」

「はいぃ」

「よし、徹底的に叩きのめしておいで」


日置は森上の肩をポンと叩いた。


「よーーし、森上よ。3-0で勝つぜ。わかってるよな」

「うん、わかってるぅ」

「恵美ちゃん、しっかりな!」

「森上さん、ファイトやで!」

「先輩、出だし1本ですよ!」

「わかったぁ」


そう言って森上はゆっくりとコートへ向かった。



―――一方、紀伊南ベンチでは。



「速水」


速水は小野の前に立っていた。


「はい」

「森上は、体がデカイぶん、動きは遅いはずや」

「はい」

「お前の速攻で掻き回してやれ」

「はいっ」

「お前の速攻は、県でトップや」

「はいっ」

「よーーし、行って来い!」


そして速水はチームメイトにも励まされ、小走りでコートに向かった。


「3本練習」


やがて台に着いた二人に審判はそう言って、速水にボールを渡した。

そしてフォア打ちが始まった。


裏やな・・


森上はすぐにラバーがわかった。

それは速水も同じだった。


裏か・・

大きいし・・

フォア打ちも力がある・・

おそらくドライブが武器やな・・

よし・・先生の言う通り・・

出だしから、速攻で行く・・


やがてジャンケンをして勝った速水は、「サーブでお願いします」と言った。

すると森上は「こっちでぇ」と、自分が立っているコートを指した。


「ラブオール」


審判が試合開始を告げた。

森上と速水は「お願いします」と一礼した。

そして速水はボールを手にしてサーブを出す構えに入った。


「1本!」


速水から大きな声が挙がった。


「1本!」


森上も負けじと声を挙げた。

そして速水は、バックコースからフォアの横回転サーブを出した。

そう、三球目攻撃をするためである。

バッククロスに入ったボールに、森上はショートでフォアストレートに送った。

速水は狙い通りのボールが来たといわんばかりに、すぐさまフォアへ移動し、抜群のミート打ちでフォアクロスへスマッシュを打ち込んだ。

この時点で、紀伊南ベンチは誰もが決まったと思った。

中には声を挙げんがため、手を口元へ持って行く者すらいた。


けれども桐花ベンチは違った。


「あれが抜けるはずがない」と。


桐花ベンチの思惑通り、森上はそのボールを抜群のカウンターで打ち返した。

唖然とした速水は、フォアクロスへ抜けるボールを立ち尽くしたまま見送っていた。


「サーよし!」


森上は左手でガッツポーズをした。


「ナイスボール!」


日置はパーンと一拍手した。


「よっしゃあ~~~!森上~~~もう一発、食らわしてやんな!」

「ナイスボール~~~!」

「ええぞ~~~」

「先輩~~!ナイスです~~!」


ベンチからはやんやの声が挙がった。


「ひぃ~~!森上先輩、相変わらずすごい~~」


市原も驚いていた。


「さすが、森上さんや!」


植木も興奮していた。


「ナイスボールですよ」

「もう1本ですよ」


コートに近い観客席からは、三神の彼女らが応援していた。

森上の試合を初めて観る一年生らは、言葉を失っていた。

なんだ、あの矢のようなカウンターは、と。


「今日も、絶好調ですね」


皆藤はニッコリと微笑んでいた。



―――一方、紀伊南ベンチでは。



「なんやねん・・あれ・・」


小野はポツリと呟いた。

彼女らも、今しがたのカウンターに、度肝を抜かれていた。

なぜなら速水の攻撃は、予選の際、武器として通用するだけでなく、ここ一番では何度もチームの危機を救っていたからである。

そして速水の速攻をカウンターで返されたことなど、一度もなかったのだ。


「あんな返し方・・見たことない・・」

「森上さん・・すぐにフォアへ移動したけど・・」

「フットワーク・・めっちゃええやん・・」

「それに・・あのパワーやん・・」

「これ・・危ないんとちゃうか・・」


まだ一回戦の第一試合の第一球であるにもかかわらず、小野も彼女らも、森上のプレーで桐花の強さを思い知るようだった。


「どんまい!どんまいやぞ!」


小野が声を挙げた。

速水は振り向いて「はい・・」と小さな声で答えた。


「そうそう、どんまい。次1本よ!」

「まだ始まったばかり!」

「今から、今から!」

「サーブ、考えるよ!」


彼女らも何とか声を発し、速水を励ました。

そして速水はサーブを出す構えに入った。


「1本!」


速水は何とか声を振り絞った。


「1本!」


森上も声を挙げた。


ここは・・下回転の短いやつで行こ・・


こう思った速水は、バックコースから、バックの下回転サーブを出した。

そう、森上にツッツかせて、その後、コースを打ち分けての速攻を狙った。

森上は、ツッツかずにストップをかけた。

バックのネット際に入ったボールを、速水もストップでバックへ返した。

すると森上はすぐさま回り込み、台上のボールを思い切り叩きに行った。


速水は反射的に一歩後ろへ下がった。

すると森上は、速水をあざ笑うかのように、寸でのところでストップをかけた。

慌てた速水は懸命に体を戻し、なんとかボールを拾った。

けれども単に入れただけのボールは、ミドルの中途半端なところでバウンドした。

すると森上は再びスマッシュを打ちに出た。


速水は成す術がないとばかりに、後方に下がってボールを待った。

すると森上は、また速水をあざ笑うかのように、なんとも緩いボールをバッククロスへ流し打ちをした。

速水は呆然としたまま、ボールの行方を目で追うしかなかった。


「サーよし!」


森上は、決まったのは当然だと言わんばかりに、小さくガッツポーズをした。


「よーーし!ナイスコース!」


日置は手を叩いていた。


「ひゃっはーーー!森上よーーー!酷なことしやがるぜ!」

「ナイスボール!」

「ええぞ~~森上さんーーー!」

「ひゃあ~~先輩、落ち着いてはる~~!」


そう、和子が言うように、森上はとても冷静だった。

なんでもかんでもパワーで押し切るのではなく、「小技」を見せることで、こっちは極めて冷静だぞ、という精神的プレッシャーを与えられることに加えて、相手の送るコースが厳しくならざるを得ないと追い詰める。

つまり、厳しいコースを狙うことは、ミスというリスクが伴うのだ。

この時点でカウントは2-0と森上がリードしていたものの、小野や速水は、大差がついたような錯覚に陥っていたのである。

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