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サーよし!2  作者: たらふく
313/413

313 二人を会わせる




―――ここは、小屋。



日置と彼女らは、改めて今回のことを話し合おうとしていた。


「きみたち、ほんとに色々と迷惑かけて申し訳なかった。この通りです」


日置は彼女らに頭を下げた。


「先生、やめてください。悪いんは全部私らです。私らこそ先生を巻き込んでしまって、すみませんでした」


阿部はそう言って頭を下げた。


「そうです。私らが後先も考えんと、先生にあんなことさせて、すみませんでした」


重富も頭を下げた。


「私もですぅ。もしぃ、先生が辞めはったらぁ、私は一生後悔しましたぁ。すみませんでしたぁ」


森上も頭を下げた。


「私は・・とにかく、先生が辞めりゃせんかと、そればかり気になって・・でも辞めんでよかったと、ほんとにホッとしています」


和子はそう言った。


「先生よ・・」


中川が呼んだ。

日置は中川に目を向けた。


「ほんとに大変な思いさせちまって、申し訳ない。でも、郡司も言ったように、辞めねぇでくれて、ありがとな」


日置は五人の顔を見つめていた。


「もういいの。僕を救ってくれたのはきみたちだよ」

「先生・・」

「本音を言えばね、僕は辞めたくなかった。だってね、きみたちを放って辞めるなんてできないよ」

「先生」


阿部が呼んだ。


「ん?」

「もうすぐ近畿大会です。土曜日から練習してませんし、その分、取り返さんとあきませんね」

「そうだね」

「近畿の次はインターハイです」


重富が言った。


「うん、そうだね」

「よーーし、わかった!おめーら、今日から気合入れ直して、全国の猛者どもをぶっ倒しに行こうぜ!」


中川がそう言うと「おうさね!」と彼女らは声を揃えて言った。

その際、日置だけは「そうで」と言いかけて、口を噤んだ。


「およ?先生、間違えたな」


中川はいたずらな笑みを見せた。


「いや・・別に」

「あはは、そうやん。先生の口癖は、そうでなくちゃ、やん」

「ほんまや~先生、言うて下さい」

「いや・・なんというか・・」

「ほらほら、先生よ。照れんじゃねぇって」

「タイミングを外したというか・・」

「ったくよー、しょうがねぇやな。じゃ、全員で声を揃えて、大きな声で言うぞ!あっ!」


そこで中川は、扉を指した。

日置は、なんだ、と振り返った。

その隙に中川は「しーっ」という仕草をした。

彼女らは、中川の意を汲み取って頷いた。


「中川さん、どうしたの?なにかいたの?」

「蚊が飛んでたんでぇ」

「へぇ」

「じゃ、みんなで声を揃えて、せーーの!」


中川がそう言うと「そうでなくちゃ!」と日置だけが言った。

すると日置は、唖然としていた。

そして彼女らは声を挙げて笑った。


「きみたち、からかったね」

「あははは」

「まったく、しょうがない子たちだな」


ガラガラ・・


そこで扉が開いた。


みんなは一斉に扉に目をやった。

すると浅野と蒲内が顔を覗かせた。


「おおお~~あたま先輩に蒲内先輩じゃねぇか!」

「先輩!この間はありがとうございました!」

「先輩~~入ってください~~」

「先輩ぃ~こんにちはぁ」

「先輩~~」


彼女らは、二人が来てくれたことに喜んでいたが、日置の心境は複雑だった。

なぜなら、おそらく小島のことで来たに違いないからだ。


「あはは、あたま先輩、定着してんねや」


浅野がそう言った。


「おうよ!」

「先生、お邪魔します」

「お邪魔します~」


二人は靴を脱いで中に入った。


「きみたち、どうしたの」

「そらもう、決まってますやん」

「なにが」

「近畿はもうじき。この子らの相手しに来たんですよ」

「そうなんだ・・」

「先輩、わざわざありがとうございます。今から始めますのでよろしくお願いします」


阿部が言った。


「え、練習、今からなん?」

「はい」

「なんでよ」


浅野も蒲内も、この時間から始めることを不可解に思っていた。

なぜなら、時間はもう午後五時半を回っているからだ。


「先輩よ。この二日間で色々とあってよ」

「えっ、それってもしかして、先生のことか?」

「そうさね」

「先生、やっぱり問題になってたんですか!」

「先生よ、自宅謹慎食らってたんだぜ」

「いええええええ~~~!」


浅野と蒲内は同時に叫んだ。


「じっ・・自宅謹慎て!それで、なんでここにいてはるんですか!」

「話せば長げぇのさね。でも先輩たちの会社のことだもんな。ちゃんと言っとかないと、だぜ。先生よ」

「うん、そうだね」


そして日置は、事の顛末を話した。

その際、学校での事情は中川らの方が詳しいため、途中から中川が代わりに話した。

すると浅野と蒲内は、驚愕していた。


「そ・・そんな・・辞める辞めんの話にまでなってたんか・・」

「いやあ~もう、胸が苦しいです~」

「でも、もう解決したから、きみたちも心配しなくていいよ」

「ああああ・・なんか眩暈がしそうや・・」

「ほんまやわぁ~」

「じゃ、今から練習するから」

「よし。ほなら、私らも参加します」

「うん、ありがとう。きみたち、先輩にどんどん相手してもらいなさい」

「はいっ!」

「おうよ!」


そして練習が始まった。


日置は思った。

この後、きっと二人は話を訊いてくるはずだ、と。

けれども何も言うまい、と。

近々引っ越すことも。

そして、小屋には彼女らの元気な声が響いていた。


やがて練習も終わり、阿部ら五人は先に帰った。

日置と浅野と蒲内は、校庭に立っていた。


「きみたち、今日は、わざわざありがとう。とてもいい練習になったよ」

「いえいえ、そんなんええんですよ」

「そうですよ~頑張ってもらわんとあきませんからね~」

「じゃ、僕は帰るね」

「あの、先生」

「なに?」

「なんか食べに行きましょうよ」

「そうそう~奢ってください~」

「え・・」

「ええやないですか。たまにはご馳走してくださいよ」

「それは構わないけど・・」

「よっしゃー、決まり」


浅野と蒲内の巧妙な策に、日置はまんまと乗せられた。

なぜなら「話がある」といえば、日置が断るのはわかっている。

そこで「奢ってくれ」と言われると、なかなか断れないとわかった上でそう言ったのだ。

そして三人は天王寺まで出て、駅前のレストランに入った。


席に着いた浅野と蒲内は「どうせ奢ってもらうんやったら、高いのにしよな」と話していた。

日置はニコニコと笑って、二人を見ていた。

やがて注文した料理も運ばれ、三人は美味しそうに口へ運んでいた。


「それにしても、先生、大変でしたね」


浅野が言った。


「そうだね」

「でも、解決したのが近畿前でよかったですよ」

「うん」

「あの子ら~三神に勝ったし~、優勝候補ですもんね~」

「そうだね」

「ところで先生」


浅野が呼んだ。


「なに?」

「彩華が言うてたんですけど、先生、ドアノブ換えはったんですよね」

「ああ・・うん」

「ドアノブって、あれなんですよ。年数が経つと、やっぱり劣化してくるっちゅうか。危ないですもんね」

「まあね・・」

「換えたのは正解ですよ。防犯はちゃんとせんとあきませんからね」

「うん」

「また、彩華に合鍵渡したってくださいね」


浅野は、さもなにも知らない風に話していた。


「うん・・」

「ああ、それと、蒲ちゃん、あれやん」

「ああ~そうやわ。先生」

「ん?」

「今度ね~彩華が、安永に行きたいって言うててね~」

「・・・」

「ほら、彩華、誤解してたでしょ~、それでママさんに謝りたいって~」

「そうなんだ・・」

「だから、連れて行ったってください~」

「私も行ってみたいな」


浅野が言った。


「それやったら~私も行きたい~」

「ダメダメ、きみたちはまだ未成年だよ」

「ブッブー」


蒲内が言った。


「なに」

「私~もう二十歳になりました~」

「え、そうだっんだ」

「私は八月ですから、もうすぐです~」

「そうなんだ」

「あっ!他の子も誘って、みんなでっていうん、どうです?」

「あのね、あそこは大人の店なの」

「私らかて、大人ですし」

「いや、そういう意味じゃなくね、わーわー騒ぐ店じゃないの」

「わーわーて。私らアホやないんですから、TPOは心得てますって」

「ダメダメ。きみたちにはまだ早い」

「ほなら、せめて彩華だけは連れたってくださいよ」

「そうですよ~、彩華、あれでも気にしぃやから、ちゃんと謝りたいって言うてるんです~」

「あのね・・きみたち」

「はい」

「もう、この際だから言うけど・・」

「なにをですか」


浅野は「来た」と思った。


「僕は、小島と別れることにしたんだ」

「えっ!」


浅野も蒲内も、わざと驚いて見せた。


「別れるて、どういうことですか・・」

「それはきみたちには関係ない。だから言わない」

「でも、誤解は解けたんですよね・・」

「うん・・」

「ほなら、なんでですか・・」

「・・・」

「あの・・彩華にはもう別れるて言うたんですか・・」

「うん」

「彩華・・それで納得したんですか・・」

「・・・」

「するはずがないですよね・・」

「この話は、もう終わり」

「そうですか・・」


浅野はどう攻めようかと考えた。

とにかく、二人を会わせないと何も始まらない。


うーん・・先生、意固地やし・・

なんて言えば・・会う気になるんや・・

それにしても先生・・

何に拘ってるんや・・

誤解は解けたはずなんやろ・・


「トイレ行って来るね」


日置はそう言って立ち上がり、トイレへ向かった。


「内匠頭・・どうすんの・・」

「蒲ちゃん」

「なに・・」

「今から、彩華、呼び出そか・・」

「え・・」

「あの子、今日は真っすぐ帰ってるはずや・・」

「うん・・練習ないしな・・」

「私が先生引き止めとくから、あんた今から電話して来て・・」

「うん・・わかった。でも・・どうやって引き止めるん・・」

「わからんけど・・なんかするわ・・」

「なんかて・・」

「はよ、先生戻ってくる前に、はよ」

「わかった・・」


そして蒲内は急いで店を出て行った。

ほどなくしてトイレから戻った日置は「あれ、蒲内さんは?」と訊いた。


「ああ、蒲ちゃん、用事を思い出して」

「用事?」

「いやっ、もう~先生、野暮ですね~」

「え・・なに・・」

「直樹くんですよ、直樹くん」

「あ・・ああ・・直樹くんね」

「電話かかって来るん、忘れてて、さっき思い出したんですよ。酷いと思いません?」

「あはは、そんなことないけど」

「ああ~、それにしても、私ね」

「うん」

「今・・めっちゃ悩んでるんです・・」

「え・・どうしたの」

「先生、聞いてくれます?」

「もちろん聞くよ」

「あのアホ・・」

「アホ・・」

「三宅のアホですよ」


と、このように浅野は、なんとか小島が来るまで話を延ばしに延ばした。

そして、小島は日置の元へ現れるのであった―――

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