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サーよし!2  作者: たらふく
306/413

306 職員会議




―――校長室で、話は続いていた。



「それで、きみは卒業生の小島さんとお付き合いをしている、と」

「はい」

「二人の関係がギクシャクして、きみは小島さんを、その、王様ゲームとやらに参加させるのが嫌だった、と」

「はい」

「それを止めるためと、その・・お相手の西島さんから取り返すために、今回のことを仕組んだ。こういうわけですか」

「はい」

「なんてことだ・・」


工藤は、あまりにくだらない、しかも私的なことで生徒を巻き込んだことに、言葉も出なかった。


「きみ・・どうかしてますよ」

「はい、一言もありません」

「これは、問題ですよ」

「はい、わかっています」

「きみは生徒からも、親御さんからも信頼が厚く、教師としての仕事も全うしている。無論、卓球部監督としても優秀なのは論を俟たない。そのきみが・・恋人との不仲で・・ここまでになりますか・・」

「申し訳ありません」

「本来なら・・いえ、私の本音を言えば、今回のことは私の胸にしまっておきたいところですが、そうもいきません」

「はい」

「職員会議で諮って、きみの処分を決めます」

「どんな処分でも、全面的に受け入れます」

「それで放課後、部員たちを連れて来なさい」

「いえ、あの子たちは関係ありません。これは僕の問題です」


日置は、彼女らがこの話を黙って受け入れるはずないと、十分すぎるほどわかっていた。

そして、仕組んだのは自分たちだ、と白状するだろう。

そうなると、あの子たちにも処分が及ぶ。

日置は、それは絶対に避けたかった。

処分となると、近畿大会もインターハイも出場停止になり、なにより、自分のせいであの子たちの心が傷ついてしまう。

ともすれば、将来に影響を及ぼし兼ねない。


「いえ、部員の子たちにも話を聞かなければなりません」

「お願いです、僕は解雇されてもいいですから、あの子たちを巻き込まないでください」


日置はテーブルに頭を擦りつけた。


「お願いです。あの子たちは大事な試合が控えているんです。ここは、黙って私を解雇してください。いえ、僕から辞めます」

「日置くん・・」

「お願いします。どうかお願いします」

「きみから辞するというのは、処分にあたりませんから、今のは聞かなかったことにします」

「・・・」

「わかりました。部員の子たちには、後日訊くことにしましょう。とりあえず放課後、会議をします」



―――ここは桂山化学。



小島と浅野と蒲内は、三人で昼食を摂っていた。


「で、彩華。昨日、どうやったん?」


浅野が訊いた。


「それが・・先生な・・ドアノブ換えててん・・」

「えっ」

「彩華~・・それどういうことなん・・」

「私、合鍵持ってるやろ・・来るなってことや・・」

「ええ~~・・」

「先生と会われへんかったんか?」

「うん・・」

「嘘やろ・・ドアノブ換えるて・・マジか・・」

「電話は~?」

「通じへん・・」

「嘘やん~・・」


浅野と蒲内は、日置の頑なさに唖然としていた。


「でもさ、連絡さえ取れれば、問題は解決するやんか」

「あっ、あの子らがいてるやん~」


蒲内は、阿部らのことを言った。


「あああ、そやっ!あの子らが先生に話すはずや。だから、先生から連絡来るって!」

「そうなんかな・・」

「そうやって。今晩にでもかかって来るって」

「そうやと、ええんやけど・・」

「だってさ、誤解ってわかったら、問題解決やん」

「うん・・そうなんやけど・・」


小島は、漠然とだが、とても嫌な予感がしていた。

それが何かはわからないが、言いようのない不安に襲われていた。


「小島さん」


そこへ西島がやって来た。


「あ、西島さん」

「ここ、座ってもええ?」


西島は浅野に訊いた。


「はい、どうぞ」


そして西島は浅野の隣に座った。


「どうかしたんですか?」


小島が訊いた。


「それがな・・課長、学校に電話したらしいんや・・」

「え・・課長て、うちのですか?」

「うん」

「ちょ・・学校に電話って、一昨日のことですか」


浅野が訊いた。


「そやねん・・」


彼女らは、唖然としたまま顔を見合わせていた。

なぜ、報せたんだ、と。


「きみら、あの時、部屋から出て行ったから知らんやろけど、日置さんな、我々に向かって土下座したんやで」

「えっ!」


彼女らは愕然とした。

日置は土下座までしていたのか、と。


「懇親会を台無しにして申し訳ない、言うて・・。ほんで、課長が学校に報告する言うたんや。そしたら大久保さんが止めたんやけど、課長は、見過ごされへん言うてな」

「・・・」

「それで日置さんは、自分で報告する言うたんやけど、今朝になって課長が、信用でけん、言うてな」

「・・・」

「僕もまさか、ほんまに電話すると思てなかったから、小島さんにも言うてなかったんやけど、でも、したらしいねん」

「そう・・ですか・・」

「僕も、日置さんって、そんな変な人には思えんかったし、そこまでする必要ないと思てたんやけどな・・」

「先生は、変な人なんかじゃありません!」


小島は思わず大声を挙げて、そのまま庶務課へ向かった。


「えっ・・」


西島は唖然としていた。

浅野と蒲内は、学校で大変なことになってるのでは、と気が気じゃなかった。



―――ここは庶務課。



小島は慌てて課長の席へ行った。


「課長!」

「おう、小島さん。どしたんや」


久世は愛妻弁当を食べていた。


「どうしたもこうしたも・・」

「え・・なんかあったんか?」

「課長!なんであのこと学校に報告したんですか!」

「あのことて?」

「宴会のことですよ!」

「きみ、なに怒ってんねや」

「なんでなんですか!」

「だってやな、あの教師、おかしいやろ」

「・・・」

「生徒に仲居をさせて、自分は歌手て。なにが岩窟屁太郎や」

「それは違うんです!誤解なんです!」

「なにが」

「もう~~ええです!」


そう言って小島は部屋を出て行った。


先生・・

きっと・・学校では問題になってるはずや・・

いや・・課長が言わんかっても・・

先生が「報告する」言うたんやったら・・

事態は同じや・・

いずれにせよ・・問題になってることは間違いない・・

そうか・・

嫌な予感したんは・・

このことやったんや・・



―――そして放課後。



「阿部さん」


日置は小屋へ向かうであろう阿部に声をかけた。

ちなみに、中川らは掃除当番だった。


「はい」

「あのね、今から職員会議があるの」

「そうなんですね」

「だから、僕は遅れるから、きみ、頼んだよ」

「はい、わかりました」


阿部は、今から行われる会議の議題を想像すらしていなかった。

そしてニコッと笑って小屋に向かったのである。

日置は向きを変えて、そのまま職員室に戻った。



―――「では、今から会議を始めます」



職員全員を前にして、工藤の顔は強張っていた。


「本日の議題ですが、とある問題が発生しましてね」


工藤がそう言うと、職員らは何事だ、という表情に変わっていた。


「一昨日、日置先生は卓球部員を連れて伊勢へ行かれました」


そこで日置の隣に座る堤は、それがどうしたのだ、と言った風に工藤を見ていた。

単なる合宿だろう、と。


「ところが、日置先生は部員を仲居として働かせ、先生自らは歌手に扮して桂山化学の宴席に入り、場を台無しにしたそうです」

「えええ~~!」


職員から一斉に声が挙がった。

堤は当然、耳を疑った。

まさか、そんなことあるはずかない、と。

そして日置を見ていた。


「なぜそんなことをしたのか、その理由ですが、日置先生は恋仲の方と不仲になっており、まあ、内容は詳しく申しませんが、その方を取り返すために、伊勢へ行ったとのことです」

「相手は桂山の社員ということですか」


一人の職員が訊いた。


「そうです。今朝、桂山から連絡がありまして、お叱りを受けました」

「俄かに信じられへんな・・」

「日置先生が・・まさかそんなこと・・」

「あり得ない・・」


このような声が、あちこちから挙がっていた。


「日置くん・・ほんまなんか・・」


堤は小声で訊いた。


「はい」

「嘘やろ・・」


堤は愕然としていた。


「それで、先方は教育委員会へ報告するつもりだったと仰ってましたが、武士の情けということで、ここへ連絡くださったのです」

「日置先生、今の話、本当なんですか」


加賀見が立ち上がって訊いた。

そこで日置も立ち上がった。


「校長が仰ったことは事実です。僕は生徒を連れて伊勢へ行き、仲居として働かせました。そして僕は歌手に扮しました。それもこれも、彼女を取り返すために仕組んだことです」

「嘘・・」

「あかん・・悪夢を見てるみたいや・・」

「まさか・・日置先生が・・」


職員らは、日置自身の口から出た言葉を信じざるを得なかった。

それだもまだ、何かの間違いではないのかと、頭が混乱していた。


「日置くん、きみ、なんか隠してないか」


堤が言った。


「なにも隠してません。今の話が全てです」

「ほな、部員を呼ぶべきや」

「うん、そうですよ。あの子らに訊けばわかることですよ」

「それがええ。そうしよ」

「小屋にいてるんやな」


堤が訊いた。


「堤先生」


工藤が呼んだ。


「はい」

「部員の子たちには、後日、私から訊きます」

「どうしてですか。今、呼んで訊けばええやないですか」

「いえ、こんな大勢の前で、あの子たちに話させるわけにはいきません」

「・・・」

「混乱するだけです」

「そうですか・・」


堤も確かにそうだと思った。

一旦は、個々で聞き取りをして、改めて会議で諮るべきだ、と。


「それでですね、処分が決定するまで、日置先生は自宅謹慎とします。無論、クラブ活動も中止です」

「あのっ!」


日置が口を開いた。


「なんですか」

「僕はそれで構いませんが、部は続けさせてくれませんか」

「あの子たちですか」

「はい。月末には近畿大会、来月にはインターハイがあります。あの子たちだけでも練習させてやってください」

「そうですか・・わかりました」

「ありがとうございます!」


日置は深々と頭を下げた。

そして会議は終わり、日置はそのまま学校を後にした。

一方、工藤は小屋に向かっていた。


ガラガラ・・


扉が開くと、彼女らはボールを打つ手を止めて工藤を見た。


「校長先生、どうしはったんですか」


阿部が訊いた。


「きみたちに報告があります」

「おいおい、先生よ、なに深刻ぶってんだよ」

「会議、終わったんですか?」


重富が訊いた。


「今日から、日置先生は自宅謹慎となりましたので、そのつもりで」


工藤は強張った表情で、そう言った―――

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