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サーよし!2  作者: たらふく
301/413

301 真相

               



―――そして、トイレでは。



「だから、彩華、なにがあったんか言うてくれんと、わからんやん」


小島は、ただ泣くばかりで、浅野も蒲内も困っていた。


「実はさ・・ううっ・・あんたらには言うてなかったんやけど・・」

「うん」

「先生な・・他に好きな人がいてんねん・・」

「えっ」

「彩華~、それまた勘違いとちゃうの~」

「ううん、ちゃうねん。私ははっきりこの目で見たし、この耳で聞いたんや・・ううっ・・」

「なにをよ」

「先生な・・女の人とマンションの部屋の前で抱き合ってて・・」

「嘘やん・・」

「それで・・帰らないで、きみを離さない、誰にも渡さないって言うてん・・ううう・・」

「それ・・聞き間違いとちゃうの」

「ううん。だってな・・その女の人も、帰りませんとか、わかってますよって、言うたんや・・」

「マジか・・」


浅野も蒲内も、それ以上言葉も出なかった。


あら・・この話って・・私のことよね・・


そう、個室には朱花がいたのだ。


そしたら・・話してるんは・・彩華さんなんやね・・

あらあら・・これは大変なことに・・

彩華さん・・見てはったんやね・・


そこで朱花はドアを開けて出た。

小島は俯いたままで、朱花だとは気づいてなかった。

浅野と蒲内は、朱花に軽く会釈をし、手洗い場を譲った。


「あの・・」


朱花が声をかけた。


「はい」


浅野が答えた。


「このお嬢さん・・小島彩華さんやね」


そこで小島は朱花に目を向けた。

すると驚いたのが小島だ。

この女じゃないか、と。

しかも、なんで名前を知ってるんだ、と。

ああ、そうか。

日置が言ったんだな、と。


そこで小島はトイレを出て行こうした。


「彩華さん」


朱花が引き止めた。

浅野と蒲内は唖然とするばかりだ。

誰なんだ、この人は、と。

なぜ小島の名前を知ってるんだ、と。


そして小島は、思わず立ち止まった。


「私の話を聞いてくれますか?」


朱花はとても落ち着いていた。


「話なんか・・ありません・・聞きたくもありません・・」


小島はソッポを向いたままだ。


「まあまあ、そう言わんと。あのね、あなたとんでもない誤解をしてるんよ」

「え・・」

「彩華さん、私と日置さんを見ていたんやね」

「・・・」

「あれはね、日置さんがとても酔ってらして、私は送り届けただけなんよ」

「・・・」

「日置さんね、あなたが心配で心配で、うちの店に来てくれはってね」


そこで小島は朱花を見た。


「心配て・・なんですか・・」

「この旅行のことよ」

「え・・」

「なんでも・・王様ゲームをさせられるとかで、それはそれは心配してはってね。日置さん、旅行に行かせたくないとまで仰ってね」


小島は思った。

確か、大久保もそんなことを言ってたぞ、と。

慎吾ちゃんが心配してるから、電話してあげて、と。


「私は色々と話をさせて頂いたんやけどね、結局、日置さん酔い潰れられて」

「・・・」

「それで、送り届けさせていただいたんやけど、その時、日置さん、私をあなたと勘違いしはってね」

「勘違い・・」

「彩ちゃんって仰って」

「え・・」

「絶対に行かせないって」

「でも・・あの・・帰りませんとか、わかってますよって、言うてはりましたよね・・」

「はい。彩華さんにはわからんやろけどね、この商売はそんなこと日常茶飯事なんよ」

「・・・」

「悩んでおられるお客さまを、突き放すはずがないんよ」

「・・・」

「優しく何でも受け入れて、慰めさせていただくんも、私らの仕事でね。あ、もちろん一線は超えませんよ」

「でも・・一緒に部屋に入りましたよね・・」

「はい。日置さんを寝かせて、私はすぐにお暇しました。時間にして三分もいてなかったんよ」

「ほ・・ほなら・・全部私の・・勘違いやったんですか・・」

「そうです」


朱花はニッコリと笑った。


「で・・でも・・ここには一緒に・・」

「いえいえ、私はお客さまの御呼ばれで来たのよ」

「でも・・なんか・・日置さんは二名で・・と聞いたんです・・」

「あらあら、それは私の与り知らないことよ」

「・・・」

「もし、疑うてはるんやったら、お客さまの所へお連れしてもいいわよ」

「あ・・いえ・・そんな・・」

「とにかく、全ては彩華さんの勘違い。ま、そうさせた私も悪かったね。ごめんなさいね」

「いえ・・」

「これだけは言うとくわね」

「・・・」

「日置さんが店に来てくれはったのは二回だけ。その二回とも、あなたのことで悩んではった時よ」

「・・・」

「それにね、日置さんがここへ来はったのは、あなたを守るためよ」

「・・・」

「王様ゲームから守るため」

「・・・」

「せやから・・信じて差し上げてね」

「・・・」

「日置さんは、あなたに夢中よ」


朱花は手を洗った後、トイレから出て行った。

小島の頭は混乱していた。

女性が言うように、自分の勘違いなら、日置になんてことをさせてしまったんだ、と。

電話で突き放し、工場前でも突き放した挙句、西島の腕に手を回した。

そしてさっきの歌だ。

日置なら死んでも断るはずの歌を、しかもあんな大勢の前で。

日置は自分を見つめながら「ねぇ彩ちゃん」と歌っていた。

なんてことをやらせてしまったんだ、と。


「彩華・・」


浅野が呼んだ。

小島は呆然自失状態だ。


「今の人、水商売の人やったけど、あの人の言うてることがほんまなんとちゃうか」

「・・・」

「私もそう思う~、嘘を言うてるようには思われへんかったで~」

「なあ、彩華」


浅野は小島の肩をゆすった。


「あんたが見て聞いたんは、ほんまやろけど、先生、さっきの人とあんたを勘違いしただけやで」

「・・・」

「彩華~、私かてな~、お父さんが酔っぱらって、康子~いうて抱きつかれたことあるもん~」


康子とは、蒲内の母親である。


「あんた、先生と何があったん?」

「わ・・私な・・さっきの人と先生が付き合ってると思て、それで・・前みたいに・・動揺するまいと決めて・・」

「うん」

「それで・・自然消滅させようと・・電話がかかって来ても・・突き放したり・・」

「うん」

「ほんで・・工場の前で先生・・待ってたことあったんや・・」

「ああ、それ知ってるで」

「うん・・その時、西島さんと一緒やったんやけど・・先生、話がある言うてな・・」

「うん」

「私はあの女の人との話やと思て、ご飯食べに行くいうて断って・・それで・・西島さんの腕に手を回して・・先生を置き去りにしたんや・・」

「嘘やろ・・」


浅野と蒲内は顔を見合わせて、なんとも複雑な表情を見せた。


「でもあれやな。あの子ら、先生とあんたの関係、知ってるってことやな」

「うん・・そやな・・」

「まあ、ようわからんけど、あの子ら、今回の事情を知ってることは確かやな」

「あ・・」


そこで小島は、何かを思い出した。


「どしたん」

「あれや・・あのことや・・」

「なによ」

「中川さんな・・ほら、大河くんのことで悩んでたやん」

「うん」

「それで、私、先生との過去のこと話して、励ましたって言うたやん」

「うん」

「それ、先生が怒ってケンカしたやん」

「うん」

「中川さんな・・自分が原因でケンカになってると思て、電話してきたんよ」

「そうなんや」

「私は、ちゃうというたんやけど・・あの子・・ずっと気にしてたんや・・」

「・・・」

「ほんで私は、先生に酷い態度を取り続けたやろ・・」

「うん」

「先生のことやん・・態度に出てたに違いない・・」

「なるほど・・それであの子らが先生を気にして・・」

「うん・・そうやと思う。まさか先生がこんなことするはずないもん。ましてや歌なんか・・」

「彩華~・・」


蒲内が呼んだ。


「なに・・」

「先生とこ、行った方がええんとちゃう~」

「それや!彩華。先生、絶対に傷ついてるはずやで」

「なあ・・内匠頭・・・蒲内・・」

「なに」

「私・・どうしょう・・どうしたらええの・・」

「どうしたらって、誤解してましたって言えばええだけやん」

「そんなんで・・先生・・納得するやろか・・」

「納得もなにも、それしかないやろ」

「そやで~彩華、はよ行かな~」

「先生の部屋て・・どこなんやろ・・」

「あの子らに訊けばわかるやん」

「そやな・・」


そして小島らは宴会場へ向かった。



―――一方、中川らは。



日置が出て行ったあと、宴会もお開きになり、しばらく経ってから部屋に向かっていた。


「あ、ちょっと、あんたら」


みっちゃんが声をかけてきた。


「はいっ」


四人は立ち止まった。


「どこ行くんよ」

「そのっ・・トイレに・・」

「後片付けがあるから、はよ戻って来てや」

「イエッサー!」


中川は敬礼して答えた。

そしてみっちゃんは、宴会場の後片付けに向かった。


「ここは、全員で先生の部屋へ行くってのは、無理だな」

「私、行って来る」


阿部が答えた。


「おうよ、じゃ、チビ助、頼んだぜ」

「わかった」


そして阿部は部屋に向かった。

中川ら三人は、そのまま宴会場へ引き返した。

ほどなくして日置の部屋に入った阿部は、唖然としていた。

そう、日置がいないのだ。

そして座卓の上には置手紙があった。

阿部はそれを手に取って読んだ。


――阿部さん、森上さん、重富さん、中川さんへ。申し訳ないけど、僕は帰ります。封筒の中に宿泊代と交通費をいれておきますので、これで支払ってください。僕のために仲居までやってくれて、ほんとうに申し訳なかった。せっかくきみたちが考えてくれたことだったけど、失敗に終わりました。だからもう、僕のことは気にしなくていいから、仲居の仕事も終わりにして明日、帰りなさい。本当にごめんね。でもきみたちの気持ちは、とても嬉しかった。ありがとう。日置より。


う・・嘘やろ・・

先生・・帰ってしもたんや・・

なんか・・先生・・校長に報告するとかいうてはったけど・・

これって・・問題になるんとちゃうやろか・・

まさか・・懲戒免職とか・・


せやけど・・先生・・

先輩に逃げられて・・

そら・・帰りたくもなるわな・・

先輩・・ほんまに先生のこと・・もう嫌いなんやろか・・

西島さんが・・好きなんやろか・・

それにしたって・・途中で席立つことないやん・・


それに・・宿泊費と交通費・・先生が負担するつもりやったんや・・

なんでやねん・・

そんなんあかんて・・


阿部は手紙と封筒を手にして、急いで宴会場へ向かったのである―――

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