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サーよし!2  作者: たらふく
298/413

298 チャンス到来




―――その頃、日置は。



たった一人で部屋で食事を摂っていた。

味は抜群だったが、この後の「一発逆転」のことで頭が一杯で、箸が進まずにいた。

それと、やはり小島と西島のことだ。

食事が済むと余興が始まるに違いない。

酒もたんまり入った中、王様ゲームが始まるかと思うと、いてもたってもいられなかった。


でも・・

呼びに来るまでここにいろって言ってたし・・


そう、中川は部屋で待機することを命じていた。


それに・・あの子たち、仲居なんて・・大丈夫なのかな・・

なにするつもりなんだろう・・


中川は「作戦」の内容は話してなかった。

ただ「先輩を守ってやるから安心しな」とだけ告げていたのである。


「失礼いたします・・」


そこへ一人の仲居が来た。


「はい、どうぞ」


日置が返事をすると、仲居は襖を開けて中に入って来た。

そして正座をして、指をついて一礼した。


「お客さま、なにかご用はございませんか」

「いえ・・」

「さようでございますか。あら・・あまり召し上がっておられませんが、お口に合いませんでしたか」

「いえ、とても美味しいです」

「お気に召さないようでしたら、なにか他の物をお持ちいたしましょうか」

「いいえ、これで十分です」

「さようでございますか。では、ご用がございましたら、電話でお知らせいただければ、すぐに伺いますので」

「ありがとうございます」

「では、失礼します」


仲居は畳に指をついて一礼し、出て行こうとした。


「あの」

「はい?」

「その・・見習いの子を呼んで頂けませんか」

「見習い・・ですか・・」


この仲居は、さきほど出勤したばかりで、彼女らのことは知らなかった。

しかもこの仲居は、少人数の客を担当していた。

つまり「持ち場」が違うのだ。

そもそもこの旅館で働く従業員の数は多く、仲居だけでも百名は優に超える。


「あ・・いえ、いいんです」


彼女らを知らないと悟った日置は、余計な仕事を増やしては申し訳ないと思った。


「さようでございますか・・」

「すみません」

「では・・失礼します」


仲居が出て行くと、日置は「はあ・・」とため息をついた。



―――宴会場では。



「えー、それでは、ここからお待ちかねの、余興を始めたいと思います」


西島は、部屋の前方中央に立ってそう言った。

西島の横には、小島も立っていた。


「ヒューヒューええぞ~~!」

「待ってましたあ!」

「去年の罰ゲームは、おもろかったな」

「今年は、課長の裸踊りは勘弁してや~~!」


彼ら彼女らは酒も入り、場は大いに盛り上がっていた。


「おめーら・・」


中川ら四人は、部屋の後方端で立って見ていた。


「なに・・」

「あいつが西島って野郎さね・・」

「なるほど・・」

「かっこええな・・」

「こらっ、重富。なに言ってんでぇ」

「ああ・・ごめん」

「でだ。先生が登場する時、配置につくんだぜ」

「うん・・わかってる・・」

「いいな・・先生は、あくまでも新人歌手という(てい)だ。あたま先輩や、蒲内先輩、さらには予定外だった大久保の旦那や安住のあんちゃんの対応・・ぬかるんじゃねぇぜ・・」

「あたま先輩って、なんなん」


阿部が訊いた。


「ないしょうあたまさね・・」

「ああ・・」

「あんた、あたま先輩って呼んでんねや・・」


重富が言った。


「細けぇことは、いいんでぇ・・それより・・」

「・・・」

「この後の王様ゲームだ・・」

「うん、それやん」


「ちょっと、お姉さん」


社員の一人が呼んだ。


「はいはい、なんでございますか」


中川が答えた。


「ビール30本追加。それと日本酒も20本持って来て」

「はい、かしこまりました」

「私が行って来る」

「私も行くぅ」


阿部と森上はそう言って、すぐに出て行った。


「えーそれでは、まずは二人羽織から始めます」


小島が説明役だった。


「それぞれの課から二名ずつ選出してください。勝ったお二人には、商品をご用意しています」

「おおおお~~~!」

「ええぞ~~!」

「小島さーーん!」

「彩ちゃ~~ん、かわいい~~」

「結婚してーーー!」


男性らは、酔った勢いで小島をからかっていた。


「ぐぬぬ・・野獣どもめ・・どうしょうもねぇ連中だな・・」

「先生が聞いたら・・嫌やろな・・」

「それさね・・重富、口が裂けても言うんじゃねぇぜ」

「言えいわれても、言えんわ・・」


そして二人羽織が終わると、「箱の中身はなんだろな」というゲームに移った。

段ボール箱の中に物を置いて、見えない状態の中、手探りで中身を当てるというゲームだ。

見ている者からは中身が確認でき、「きゃ~~怖い~」や「噛みつくぞ」などとヤジを飛ばして楽しむのだ。

このゲームには、課を代表して浅野と蒲内も参加していた。

女性の方が、怖がる様が面白いというわけだ。

ところが、浅野はなんら躊躇もなく、「たわし!」と、三十秒で当てていた。


「おいおい~~浅野さん~~もっと怖がってくれなあ~~」

「そやで~~、きゃあ~~言うてくれんと~~」


男性らから、不満の声が挙がっていた。

次は蒲内だ。


「では、蒲内さん、箱の後ろに立ってください」


小島が促した。


「いやあ~怖いわあ~」


蒲内はそう言いながら箱の後ろに立った。


「では、手を入れてください」

「彩華あ~何が入ってんの~」

「あはは、それ言うたら、ゲームになれへんやん」


中身はこんにゃくだった。


「蒲内さん~~ヘビやで~~」

「ほらほら、動いてるし~~」

「あんなん、見たことないで!」


と、このように男性らは蒲内を脅かしていた。


一方でみっちゃんは「あたんら」と言いながら、おしぼりを持って来た。


「これ、みなさんにお配りして」

「はいっ!」


するとそこへ別の仲居が現れ「ちょっとみっちゃん」と呼んだ。


「なに?」

「梅の間で、ケンカが始まった・・」

「えっ」

「あんたも来て」

「うん、わかった」


そしてみっちゃんは「あんたら、ここは任せるけどええな」と彼女らに言った。


「お任せください!」


彼女らは声を揃えて返事をした。


「うん、頼むで」


みっちゃんはそう言って、慌てて部屋を出て行った。


「よし・・これで邪魔者は消えたぜ・・」

「邪魔者て・・」

「いや、あやつがいたんじゃあ・・上手く事が運ばねぇってもんよ」

「ほな、どうするつもりやったん?」


阿部が訊いた。


「そりゃよ、おめー、トイレにぶち込んでだな」

「えっ」

「まあまあ、っんなこたぁいい。これ、配んぞ」


そして彼女らは、おしぼりを配り始めた。


「おしぼりでございまぁ~す、おしぼりはいかがですかぁ~」


中川は、甘い声を発しながら、まるで客室乗務員のように配っていた。


「お姉さん、おしぼり、なんぼ」


この男性は、中川に「乗っかって」冗談を言った。


「百万円でございまぁ~す」

「あはは、お姉さん、おもろいな」

「ありがとうございまぁ~す」


この間、中川は小島と西島を見ていた。

すると二人は、なにやら顔を寄せて話をしているではないか。


おのれ・・西島・・

先輩をたぶらかそうったって、そうはいかねぇぜ・・

くそっ・・


「ほな、次は、これですね」


小島が西島にそう言った。


「そやな。小島さん、ここはもうええから、座っとき」

「なに言うてはるんですか。西島さんこそ、お酒飲んでください」

「ほな、後でお酌してもらおかな」

「飲み比べします?」

「えっ・・」

「私に勝ったら、なんでも言うこと聞いてあげます」

「ええ~・・そんなに強いん?」

「はい」


小島は余裕の笑みを見せた。


「うわあ~これはあかんわ。負け、決定や」

「西島さん、弱いんですか?」

「そやねん。だからあんまり飲んでないし」

「あらら、そうだったんですね」

「でも、小島さんのお酌なら、頑張って飲めるかも」

「あはは、なに言うてはるんですか」


と、このように二人はとても意気投合していた。


おいおい・・小島先輩よ・・

なに楽しそうに笑ってやがんでぇ・・

そんなだと・・西島の思うツボだぜ・・


そして「箱の中身はなんだろな」が終わった。


「えー、それでは次のゲームですが、叩いて被ってジャンケンポンを行います」


西島がそう言った。

すると、誰が出るのだと、各課では相談していた。


「西島くん!」


そこで一人の男性が手を挙げた。

この男性は、中川に「おもろいな」と言った者である。


「はい」

「このお姉さん、推薦する!」


男性は中川を指してそう言った。


「え・・仲居さんにですか」

「この人、おもろいねや」

「そうですか・・」

「どうされますか」


小島が訊いた。


「わたくし?ええ、もちろんさせていただきますことよ」

「ほな、前に来て頂けますか」

「はい~」


その実、中川はチャンスが来たと思った。

そう、西島を相手に選んでぶちのめしてやろうと考えたのだ。


「中川さん・・あんた、大丈夫なんか・・」


阿部が小声で訊いた。


「任せな。あの野郎・・目にもの言わせてやっからな・・」

「え・・まさか西島さんを相手に・・?」

「おうさね・・」

「えぇ・・大丈夫か・・」


阿部だけではなく、重富も森上も心配していた。

あの中川だ。

なにをやらかすかわかったものではない。


そして中川は、前方に向かったのである―――

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