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サーよし!2  作者: たらふく
291/413

291 真実を明かす




―――ここは桂山の体育館。



この日の練習後、大久保は小島を呼び寄せた。


「大久保さん、なんですか」


小島はタオルで汗を拭いていた。


「あのね、昨日、慎吾ちゃんと飲んだんやけどね」

「そうなんですか」


小島は、一切感情を出さなかった。


「小島ちゃん、慎吾ちゃんと、なんかあったんと違う?」

「なんかとは?」

「ケンカ、したんやろ・・」

「ああ・・まあ」


小島は大したことない、といった風にニッコリと笑った。


「でね、慎吾ちゃん、社員旅行のこと、すごく気にしててね」

「社員旅行?」


小島は意味がわからなかった。


「なんかね~、王様ゲームをすごく嫌ってて、それを小島ちゃんがさせられると、すごく心配してるのよ~」

「それ、なんなんですか」


そこで大久保は、王様ゲームの説明をした。

小島はゲームの内容を理解したが、なぜそんな話になっているのかが、全く不可解だった。


「そのゲームを私がさせられるって、どういうことですか」

「なんかさ~偶然らしいねんけどね、慎吾ちゃん、居酒屋でうちの社員を見たんやて」

「へぇー」

「で、その時、あんたの話が出てたらしくて、王様ゲームで小島ちゃんにキスさせるって、言うてたんやて」

「なんなんですか、それ」


小島は呆れて笑っていた。


「ま、とにかく、慎吾ちゃんの心配が尋常やなかったのよ」

「そうなんですね」

「今夜にでも、電話して安心させてあげてね~」

「はい、お気遣い、ありがとうございます」

「うん~そういうことよ~」


そして大久保は更衣室へ入って行った。

小島は大久保にああ言ったものの、その実、そんなことなどどうでもよかったのだ。

なぜなら、日置と女性が抱き合って、「帰らないで、僕は絶対にきみを離さない、誰にも渡さない」と言ったのは事実。

その事実の前では、日置が心配していたことなど、何も響かなかったのだ。

むしろ、さも心配してるように見せかけるのは、自分を引き止めて「保険」にしたいんじゃないのか、と。

つまり、女性に捨ててられた後の「保険」として、或いは「二号さん」として置いておくためだ、と。


こう考えた小島は、ますます日置への想いを封印しようと決めた。

バカにするな、と。

私だって、プライドがあるんだ、と。

誰が「保険」になんか、なってやるか、と。



―――ここは、学校の小屋。



彼女らは練習を終えて、それぞれ順番に着替えていた。

中川は順番を待っている間、ずっと考えていた。

昼間の日置は、どう考えてもおかしかった、と。

けれども日置と小島のことは、誰にも相談のしようがない。

どうしたものか、どうすればいいのか、と。


あれだよな・・

チビ助らに話しても・・もういいんじゃねぇのか・・

あいつらなら、ぜってー喋らねぇはずだ・・

私一人に・・なにができるってんでぇ・・


いつもの中川なら、リーダーシップを発揮し、それこそ止められても動くところだ。

けれども恋愛ど素人の中川にとって、こればっかりはどうしようもなかったのである。


「中川さん、恵美ちゃん、どうぞ」


部室から重富と阿部が出てきた。


「おい、チビ助、重富・・」


中川は小声で呼んだ。


「なによ・・」

「森上も、来な・・」


部室に入ろうとした森上も引き止めた。


「なんなぁん」

「郡司が帰ったあと、話があるからな・・」


中川は、さすがに和子に報せるのは躊躇した。

そして中川と森上は部室に入った。

ほどなくして着替えを済ませた中川と森上も含めた四人は、中川を取り囲んでいた。


「話して、なによ」


阿部が訊いた。


「おめーら、今から話すこと、ぜってー口が裂けても言うんじゃねぇぜ」

「ちょ・・また隠し事?」


重富が言った。


「おうよ・・」

「ちょっと、マジでなんなんよ」


阿部は深刻な表情に変わっていた。

いや、阿部だけではない。

重富も森上も同じだった。


「今度ばかりは、マジだからな」

「だから、なんなんよ」

「もう・・これ以上、問題とか・・あかんで」

「中川さぁん、どうしたぁん」

「あのよ・・実はだな、先生のことなんでぇ」

「先生て、日置先生のこと?」


阿部が訊いた。


「おうよ・・」

「で、先生がなんなんよ」

「先生には彼女がいるんでぇ・・」

「へぇー」


阿部らは特に驚きもしなかった。

日置なら、むしろ当然だろう、と。


「その彼女ってのがよ・・小島先輩なんでぇ・・」

「えええええええ~~~~!」


さすがの三人も、相手が小島だと知り、大声で叫んだ。


「へぇーそうなんや!」

「これは意外やったなあ~~!」

「小島先輩なんやぁ~」

「でよ・・先生は、このことを生徒に知られるのが嫌なんでぇ」

「へぇー」

「私も、きつく口止めされててよ・・」

「っていうか、あんた、なんで知ってんのよ」


重富が訊いた。


「あれはいつだったか・・」


中川は、またあさっての方を向いた。


「去年の文化祭でよ・・」

「いつだったかって、それ文化祭ってわかってるやん」

「重富よ、細けぇことはいいんでぇ」

「ほんで?」

「おうよ・・で、私は偶然知ったのさね・・」

「へぇ」

「ほんで、なんで今頃言う気になったんよ」


阿部が訊いた。


「チビ助、それさね!」


そこで中川は、一年生大会の際、小島が過去の話をしてくれて励ましてくれたこと、そのことがきっかけで二人がケンカになったことなど、経緯を説明した。


「なるほど・・あんたが言うてた大人の話っていうんは、そういうことやったんやな」

「それにしても、先生って、よっぽど知られたくないんやな」

「おうさね。それでケンカの原因が私だってことで、どうすりゃいいもんかと・・な・・」

「そんなん、私らにかて、わからんなあ」

「でよ、桂山の社員で西島って野郎がいるんでぇ」

「へぇ」

「どうやら先生は、西島の野郎が気にいらねぇらしいんでぇ」

「あんた、なんでも知ってんねんな」

「昨日、見たのさね」

「どこでよ」

「天王寺でぇ」

「あっ、もしかしてぇ、中川さぁん、おらんようになったんはぁ、そういうことやったぁん」

「察しの通りでぇ・・」


そこで森上は、阿部と重富に事情を説明した。


「で、私は確かめてやろうと喫茶店に入ったんだけどよ、先輩と西島は社員旅行のプランを練ってただけなんでぇ」

「それやったら、別にええんとちゃうの」

「ところがどっこい。先生にそのこと話したら、見る見るうちに顔色が変わってよ、めちゃくちゃ怒ってんだよ」

「そうなんや・・」

「小島はどんなだったとか、どんな風に話してたんだとか、しつこく訊かれてよ」

「へぇ・・」

「私は困っちまってよ・・はあ・・」

「あれかな・・その西島さんって人に、小島先輩の気持ちが傾いてるんとちゃう」


阿部が言った。


「ああ・・阿部さんの言う通りかも」

「だから先生は、怒ってはったんちゃう」

「どうなんだろうな・・小島先輩は、至って普通だったぜ」

「そうなんや・・」

「私はさ、なんとしてでも二人を仲直りさせてぇんだ」

「うん、わかるけど」

「で、おめーら、二人のことはぜってー誰にも喋んじゃねぇぞ」

「うん、言わへんし」

「私も」

「私もぉ」


こうして事実を打ち明けた結果、中川ら四人は、阿部と重富と森上も二人の関係を知っているこというこを、日置に話すことにしたのだ。

なぜなら秘密にしていると、碌なことがないからである。

三神の偵察の件で、四人は懲りていたのだ。



―――そして翌日。



彼女ら四人は、昼食を終えて職員室に向かった。


「先生、怒るかな」


歩きながら阿部が言った。


「黙ってるよりはええで」


重富が答えた。


「いや、おめーらが叱られることはねぇ。叱られるとしたら私だ」

「そらそうやろけど・・」

「どうなるんやろな・・」


そして四人は職員室に到着し、「私が呼んでくる」と言って中川だけが入った。

ほどなくして日置と中川が職員室から出てきた。


「きみたち、どうしたの?」


日置は、阿部ら三人もいることに驚いていた。


「先生よ、さっきも言ったけど、話があるんでぇ」

「そうなんだ・・」


そして五人は校庭に出て、日置を囲んだ。


「話ってなに?」

「先生と先輩のこと、私はこいつらに打ち明けたぜ」

「え・・」


日置は愕然としていた。

なぜ、話したんだ、と。

中川は、誰にも話さないと信じていたのに、と。


「先に言っとくが、興味本位で話したんじゃねぇぜ」

「きみ、なに言ってるの」

「おっと、怒るのは後にしてくんな」

「先生」


阿部が呼んだ。

日置は黙ったまま阿部に目を向けた。


「私ら、絶対に誰にも言いません」

「私もです」

「私もですぅ」

「言いませんって・・」


日置は唖然としていた。


「でだ。私がなぜこいつらに話したか、わけを言うぜ」


そこで中川は、事情を説明した。

すると日置は、なんとも居心地が悪そうな表情を見せた。


「先輩とケンカしたのは、私が原因だよな」

「別に・・ケンカなんか・・」

「もういいって。こっちは何もかもお見通しなんでぇ」

「・・・」

「でよ、私は先生と先輩に、仲良くやってほしいんだ」

「・・・」

「先生よ、おめー旅行のこと気にしてやがったが、あれか、西島って野郎と一緒だからか」

「そんなこと、きみには関係ないよ」

「だから、意地張んなって」

「・・・」

「旅行って言やあ~、少なくとも一泊はするだろうぜ」

「・・・」

「それを心配してんだろ」

「別にそうじゃないけど・・」

「じゃ、なんなんでぇ」

「王様ゲームだよ」

「王様ゲーム?それ、なんだよ」

「それ・・知ってる・・」


阿部は、遠慮気味に口を開いた。


「チビ助、教えてくんな」

「なんでも・・――」


そこで阿部が説明をすると、中川も重富も森上も驚愕していた。

なんだ、その下品なゲームは、と。


「チビ助、おめー、なんで知ってんだよ」

「お父さんに聞いた・・」

「なるほどさね。で、先生よ、そのゲームがどうしたってんでぇ」

「小島が、ゲームに参加させられそうなんだよ」

「げっ・・マジかよ」

「僕は、絶対にそんなことさせたくない」

「そりゃそうさね」


中川の言葉に、阿部らも頷いていた。


「で、旅行はいつなんでぇ」

「七月の二週目の土日」

「なにっ、もうすぐじゃねぇか」

「うん」

「これゃあ~いけねぇやな」

「引き止めたら、ダメなんですか」


重富が訊いた。


「僕も引き止めたいんだけど、小島も一人前の社会人だしね・・」

「そうなんですか・・」

「くそっ・・西島の野郎・・許せねぇな・・」

「気にしてくれるのはありがたいけど、きみたちには関係ないから、もういいよ」

「おいおい、先生よ」

「なに」

「水臭せぇこと、言いっこなしだぜ」

「え・・」

「私はよ、先輩に救われたんでぇ。その先輩が西島に奪われようとしてんだ。黙って見てられるかってんだ」


中川は、もはや西島が恋敵だと決めつけていた。

日置も中川の言葉で、さらに不安が募っていた。

そう、奪われるかもしれない、と。

なぜなら「西島と小島さんをキスさせる」と、実際、彼らから聞いたからである。

それは、絶対に耐えられない。

そのことがきっかけで、小島の気持ちがどうなるかもわからないのだ。


一方で、日置は彼女らに知られたことを、最初は驚いたが意外にもホッとしていた。

なぜなら彼女らの態度に、からかう様子など全く見られなかったからである。

それどころか、自分を心配してくれている。

曲がりなりにも「相談相手」ができたことと、彼女らは小島と年が近いことで、気持ちもわかるだろうと思ったのだ。


そしてこの先、中川は「妙案」を思いつき、また「事件」が起こるのであった―――

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