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サーよし!2  作者: たらふく
290/413

290 続く懸念





一方で、日置と大久保は居酒屋へ入り、二人席へ案内されて座っていた。


「慎吾ちゃんからのお誘いやなんて~驚いたわ~」


大久保は嬉しそうに、おしぼりで手を拭いていた。


「久しぶりに会いたくなってね」


日置も手を拭いていた。


「いやあ~それって愛の告白~?」

「あはは、なに言ってるの」

「照れんでもええのよ~」

「それより、宗介はどうしたの?」


日置は安住も来るものだと思っていた。


「いらんいらん~私たちの間に、邪魔はいらんのよ~」

「あはは、ほんと虎太郎って、おもしろいよね」


その実、安住は風邪で会社を休んでいたのだ。


「あいつ、アホのくせに、風邪ひいたんよ」

「え・・大丈夫なの」

「心配ご無用やわ~、アホやからすぐに治るんよ~」

「酷いな」


日置はそう言いながらも笑っていた。

ほどなくしてテーブルには、生ビールと鶏の唐揚げと冷奴が並んだ。


「じゃ、乾杯」

「かんぱーい!」


二人はジョッキをチンと鳴らし、ゴクゴクと流し込んだ。


「あ、ところでさ」


日置が言った。


「なに~」

「僕、この間、安永へ行ったんだよ」

「えっ、一人でか?」

「うん」

「いやあ~~なんで誘てくれへんかったんよ~」

「ごめん、ごめん」

「でもさ、なんで行ったんよ」


大久保も朱花と同様、不可解に思った。

なぜなら、日置のような人物が一人で行くはずがないからである。


「なんとなく、行きたくなっちゃって」

「あら~なんかあったんと違うの~」

「それでね、僕、すごく酔っちゃって、お金払ってないの」

「あらら、そうなんやね~」

「払うには、また行けばいいかな」

「私が立て替えてあげるわ~」

「え・・」

「また行くし~、その時、払っとくわ~」

「ありがとう。助かるよ」

「いいのよ~ん」

「金額、また報せてね」

「合点承知の助よ~」

「でさ、僕、どうやって帰ったのか全く憶えてないの」

「あらら、そうとう酔ったんやね~」

「うん」

「おそらくやけど~、朱花ママが送り届けてくれたんとちゃうかな~」

「そうなの?」

「朱花ママは、お客さんを大事にする人やからね~」

「でも・・住所とか・・どうしたんだろう」

「また、私が訊いとくわ~」


それから二人は唐揚げも冷奴も平らげ、ビールのおかわりをして、ほどよく酔い始めていた。


「虎太郎」

「なに~」

「今度、社員旅行があるんだよね」

「あるわよ~」

「それって、いつなの」

「えっと~、七月の二週目と三週目の土日よ~」

「え・・二週続けて行くの?」

「あはは、まさか~。班に分かれて行くのよ~」

「そうなんだ」

「桂山は工場といえども、大人数やからね~、それで分かれて行くのよ~」

「小島は、どっち」

「小島ちゃんらは~二週目の土日よ~」

「虎太郎は?」

「次の週よ~」

「そっか・・」


日置は大久保がいれば、小島のことを守ってもらおうと思っていたのだ。

あんな野獣のような連中の中に、小島を放つわけにはいかない、と。


「それが、どうかしたんか~」

「それで、どこへ行くの」

「伊勢よ~」

「伊勢・・」

「夫婦岩のあるところよ~」

「そうなんだ・・」

「慎吾ちゃん、行ったことないの?」

「うん」

「あら~~夫婦岩は日の出が有名で、早朝からみんな拝むのよ~」

「へぇ・・」

「泊まる旅館ってね、それはそれは大きくてね~」

「そうなんだ」

「大浴場はあるわ、ゲームコーナーも広いし~、大広間は何室も当たり前、他にレストランやラウンジもあってね~」

「ふーん・・」

「卓球台も、もちろんあるのよ~」

「それ、なんていう旅館?」

「伊勢清風旅館よ~」

「そっか・・」

「ちょっと慎吾ちゃん、えらい気にしてるけど、どうしたんや」

「いや・・あのさ」

「ん?」

「ほんとは小島を行かせたくないんだよ」

「え・・なんでなん」

「でも・・朱花さんに相談したら、束縛するなって言われちゃってさ・・」


大久保は思った。

日置に何があったのか知らないが、『安永』へ行ったのは、そういうことだったのか、と。


「行かせたくないて、なんでやの」

「だってさ、王様ゲームなんていう、下品なことを小島にさせるわけにはいかない」

「王様ゲーム?」

「虎太郎、知らないのか」

「いや・・知ってるけど・・」

「じゃ、下品だと思うだろう」

「ああ~、内容によっては確かにそうやけど、なんでそんなこと心配してるの?っていうか、なんで知ってるの~」

「僕、偶然、桂山の社員さんたちの話を聞いたんだよ」

「あらら、どこで?」

「難波の居酒屋」

「そうなんやね~、それで?」

「その男性たちは、小島のことを話してて、その時、王様ゲームで小島にキスをさせるって言ってたんだよ」

「あらら、そうやったんやね」

「まったく、どうしようもない連中だよ」


日置は憤慨していた。


「まあまあ、慎吾ちゃん。落ち着いて」

「・・・」

「誰がいうてたんか知らんけど~、小島ちゃんがそんなことするはずないわ~」

「だってさ、命令って言ってたんだよ」

「あはは、慎吾ちゃん、なに言うてんのよ~」

「なんだよ」

「あくまでもゲームよ、ゲーム」

「だってさ・・」

「先遣隊には、浅野ちゃんと蒲内ちゃんも行くから大丈夫よ~」

「そうなんだ」

「庶務課の小島ちゃん、総務課の浅野ちゃん、人事課の蒲内ちゃん。この三部署で行くのよ~」

「そっか・・浅野さんや蒲内さんも一緒なんだね」

「慎吾ちゃん」


大久保は日置を覗きこむように見た。


「なに・・」

「小島ちゃんと、ケンカでもしたんか~」

「いや・・別に・・」

「なにもないんやったら、小島ちゃんに訊くはずよ~」

「あの子は忙しくて、連絡が取れないの」

「そうなんやね~」


大久保は納得したようにそう言ったが、おそらくケンカしたのだと悟った。


「まあまあ、心配せんでも大丈夫よ。お兄さ~~ん!」


大久保は店員を呼んだ。


「はい」

「ビールおかわりね~」


大久保はジョッキを手にしてそう言った。



―――そして翌日。



中川は、休み時間に職員室へ訪れていた。


「よーう、先生」


そして日置の席へ行った。


「あ、中川さん。どうしたの?」

「ちょっくら、話があるんでぇ」

「なに?」

「いいから、来てくんな」


そして中川は先に歩き、日置は立ち上がって後に続いた。

やがて校庭に出た二人は、向き合って立った。


「話しってなに?」

「いやさ、昨日のことなんだけどよ」

「うん」

「私、小島先輩に余計な詮索しちまってよ」

「え・・」

「実はさ・・昨日の帰り、天王寺で小島先輩を見たんでぇ」

「うん」

「で、その時、知らねぇ男と一緒に喫茶店に入って行ったから、私、心配になってよ」

「・・・」

「でも、その男ってのは、西島って野郎で、会社の先輩でよ」


日置は西島という苗字に、あの男か、と顔が浮かんだ。


「で、どうやら旅行の相談してたらしくてよ」

「・・・」

「仕事だったんでぇ」


日置は中川の話しが耳に入ってなかった。


「おい、先生よ」

「・・・」

「先生ってば!」

「え・・ああ、なに?」

「ったくよー、聞いてねぇのかよ」

「いや、聞いてる。それで?」

「で、先輩と西島は旅行の相談してて、仕事だったんでぇ」

「そうなんだ・・」

「それで、先生から先輩に謝っといてくんねぇかなと思ってよ」

「ああ・・」

「西島の野郎にも言われたんでぇ」

「なにを・・」

「僕らは先輩と後輩って」

「僕ら・・」

「うん、僕ら」

「なんだよ・・僕らって・・」

「え・・」

「そこは、僕と小島さんは、じゃないのか」

「えっ・・」

「きみ、そう思わないか」


日置はなぜか中川を睨んだ。


「お・・おいおい・・どうしたってんでぇ・・」

「あ・・ああ・・ごめん」

「先生、おかしいぜ・・」

「おかしくなんかない」

「まあ・・いいさね・・で、先輩に謝っといてくんな」


中川は、ここは早く立ち去る方がいいと判断して、歩こうとした。


「きみ」


すると日置は強い口調で引き止めた。


「な・・なんでぇ・・」

「小島はどんな感じだった」

「どんなって・・」

「どんな風に話してたの」

「そ・・そりゃおめー・・会社の仲間だしよ・・」

「なに」

「いがみ合うってのもおかしいやな・・」

「なに」

「ふ・・あっ・・そう、普通に話してたんでぇ・・」

「普通ってなに」


おいおい・・いつものニコニコスマイルはどうしたってんでぇ・・

なに怒ってんだよ・・

少なくとも・・楽しそうに笑ってたなんて、言えた雰囲気じゃねぇな・・


「なっ・・なんかよ・・深刻そうだったぜ・・」

「え・・」

「二人とも伏し目がちで・・なっ・・なんか・・悩んでるというか・・」

「そうなんだ・・」

「ま・・まあ・・それでもよ・・しっ・・仕事の話で・・悩んでたんだろうよ・・」

「旅行のことって言ったよね」

「あ・・ああ・・」

「やっぱりだ・・」

「え・・」

「いや、なんでもない」


日置はそう言い残して、職員室に戻って行った。


小島先輩・・アツアツだって言ってたじゃねぇか・・

あれは嘘だったのか・・

するってぇと・・あのことが原因で・・ケンカ中ってことかよ・・

それって・・私のせいじゃねぇか・・

今の先生は・・かなり深刻だったぜ・・

それに・・旅行のことを気にしてやがったな・・

なんだってんでぇ・・

いずれにせよ・・穏やかじゃねぇことは確かだ・・


中川は、どうすればいいのかと考えたが、策など浮かぶはずもなかったのである―――

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