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サーよし!2  作者: たらふく
280/413

280 一年生大会




―――そして翌日。



今日は一年生大会である。

まだ初々しい彼女ら一年生は、真新しいユニフォームに身を包み、試合前の練習を行っていた。

和子の姿もそこにあった。

和子は一球交代で、森上を相手にフォア打ちをしていた。


そんな中、三神、小谷田、中井田の一年生は、堂々としたものだ。

エレベータ進学や、引き抜きで入ったという自信は、他の者と明らかに違っていた。


阿部と重富は、和子の練習を見ながら、中川が来るのを待っていた。


「遅いな・・」


阿部が呟いた。


「やっぱり・・昨日のショックで来ぇへんのやろか・・」

「どうなんやろ・・」

「それにしてもさ・・大河くんって、結構、無神経やよな」

「ああ・・まあなあ・・」

「わざわざ須藤さん、連れてくるか?」

「それやねんな」

「須藤さんも須藤さんやで。迷惑とか、そんなん言う?」


彼女らは、「迷惑」といったのが須藤だったと、中川から聞いていた。


「止めの一撃って感じやよな・・」

「中川さん、かわいそうに・・」


「えー、それでは練習を止めて、選手の皆さんは集合してください」


本部席の三善が放送をかけた。


「いやっ、もう始まるやん・・」


重富は館内の時計を見た。


「今日は、中川さんが来ぇへんかっても、しゃあないな」

「うん、そやな・・」

「よし。私らで郡司さんを優勝させるで」

「了解」


そして選手たちは中央へ集合し、開会式が始まった。

阿部ら三人は、フロアの隅へ移動していた。


「中川さん、どしたぁん」


森上は、まだ来ていないことを訊いた。


「多分・・昨日のことで・・」


森上は彼女らから話を聞いていた。


「ああ・・そうかぁ・・」

「ちょっと私、入口見て来るわ」


重富はそう言って、ロビーに向かった。


「立ち直るまでに、どれくらい日にちがかかるんやろな・・」


阿部は、近畿大会とインターハイのことを心配していた。


「どうなんやろなぁ・・」


森上にもわかるはずがなかった。

やがて開会式も終わり、選手たちは試合するコートへ向かう者、ロビーに出る者など、三々五々に散らばって行った。

そこで阿部は組み合わせ表を貰うため、本部席に向かい、和子は、森上の元へやって来た。


「郡司さぁん、落ち着いてなあ」

「はい」

「去年はなぁ、先生が倒れはってぇ、大変やったんやでぇ」

「えっ、そうなんですか?」

「えらい熱、出さはってなぁ」

「あらら・・そうだったんですね」


そこへ阿部が本部席から戻って来た。


「一回戦の相手は、淀川南よどがわみなみ高校の、桑原(くわばら)さんやで」


阿部は表を見ながら言った。


「はい」

「まだタイプはわからんけど、あんたやったら大丈夫や」

「はい、頑張ります」



―――一方、体育館の入り口では。



重富は道に出て、中川の姿を探していた。


やっぱり・・来ぇへんのかな・・

電話したところで・・あかんやろしな・・


重富の横を、遅れてやって来た選手たちが何人も通り過ぎていた。

その様子を重富は、チラリと見ては前方に目を向けていた。

すると、その中の一人が重富を見ていた。

重富は視線を感じながらも、無視して前方を見ていた。


「おめー、なに無視してんだよ」

「えっ」


その言葉に重富は驚いて、その者を見た。


誰や・・この、顔パンパンに腫れた女子は・・


「嘘やん・・あんた・・中川さんなん・・」

「鳩が豆鉄砲食らったみてぇな顔してんじゃねぇぞ」

「いや・・えっ!」

「まあ、おめーが驚くのも無理ねぇやな」


そう、中川の顔は別人と化していた。

顔はむくんで、目は土偶のようになっていたのだ。

例えるなら、ボクサーが殴られて目を腫らしている状態に近い。

おまけに髪もボサボサだ。


「どっ・・どしたんよ・・しかも私服やし・・」


中川はTシャツとGパン姿だった。


「まあ、なんつーか、一晩中泣いてよ。で、これさね」


中川は泣きはらした上に、うつ伏せで寝ていた。

そう、中川は落ち込むと、うつ伏せで寝る癖があるのだ。


「おまけに寝がえり打った時によ、ベッドにぶつけちまって。もうさんざんさね」

「そうか・・一晩中泣いたんか・・」

「おめー、ここでなにしてんだよ」

「なにて、あんたを探してたに決まってるやん!」

「そうか・・うん、遅れて悪かった」

「大丈夫なんか・・?」

「おうよ。で、郡司はどうなってんでぇ」

「まだこれからやけど・・」

「そうか。じゃ、行くぜ」



―――そしてフロアでは。



「郡司さんは、第二試合やから、アップしとかなあかんで」


阿部らは、試合が行われる3コートの後方で立っていた。


「はい」


和子はバッグからラケットを取り出し、軽く素振りを始めた。

3コートの第一試合は、三神の榎木(えのき)という選手だった。

和子が勝てば、榎木と対戦するのだ。

阿部と森上は、榎木がどんな試合をするのか、当然観るつもりでいた。


「郡司さん~~」


そこへ市原がやって来た。


「あ、市原さん」

「ああ~~遅れた、遅れた」


市原はカメラを手にしていた。


「どうも、おはようございます」


市原は阿部と森上に挨拶をした。


「おはよう」

「おはよぉ」

「今日も、取材しますんで、よろしくお願いします」

「うん、頑張ってな」

「それで、今から試合なん?」


市原は和子に訊いた。


「いや、次じゃけに」

「おお、そうなんや」


そこで市原はコートに目を向けた。


「あっ・・三神高校・・」


市原は榎木のゼッケンでわかった。


「そうなんよ」

「三神て、一年でも強いん?」

「うん、強いと思う」

「おお、これは観んといかんな」


三神ベンチには、同じ一年生の宇都宮(うつのみや)が着いていた。


「きのこちゃん、頑張りますよ」


榎木は「きのこ」というあだ名だった。

そう、えのきだけの「えのき」から取ったのだ。


「はい」


榎木は振り向いて、余裕の笑顔を見せた。

一方、フロアに足を踏み入れた重富と中川は、阿部らを探していた。

その際、中川は別の意味で他校の者たちから注目されていた。

なんだ、この土偶のような女子は、と。


「あっ、おった。3コートや」


重富がそう言うと、二人は3コート後方へ向かった。


「阿部さん、森上さん。中川さん来たで!」


阿部と森上は、どこだ、と中川を探した。

まさか重富の横を歩いている女子が、中川だとは思わなかった。


「とみちゃん、中川さんどこなん」


阿部は「見知らぬ」女子をチラリと見たが、すぐに目を逸らした。


「チビ助よ、私だ、私」

「えっ!」

「中川さぁん・・その顔、どないしたぁん」

「まったくよ、無様ったらありゃしねぇよな」


そして和子も市原も、中川を見て仰天していた。


「まあ時間が経てば、元に戻るだろうぜ。よーう、ブン屋、来てたのか」

「は・・はい・・」

「おめー、今のうちに写真撮ってくんな」

「え・・」

「記念だよ、記念」

「記念て・・なんのですか・・」

「失恋記念さ」

「えぇ・・」

「ほら、早くしな」


そして市原は、カメラを構えてシャッターを押した。


「それ、現像したら、私にくれ」

「ああ・・はい・・」


ほどなくして3コートで試合が始まると、ペンドラの榎木は相手を圧倒していた。

体の大きな榎木は両足を大きく広げ、まるで男子を思わせるドライブは、相手のラケットに触れさせなかった。

そして榎木が点を取るたび、「ナイスボールですよ」と宇都宮は冷静な声を挙げていた。


「郡司さん・・」


市原が呼んだ。


「なに?」

「三神てさ・・よっしゃー!とか言わへんの?」

「ああ、三神って、いつも冷静というか」

「へぇ・・」

「強い、いう自信があるんじゃろな」

「なるほどなぁ・・」


市原は館内を見回し、各コートで「サーよしっ!」という大きな声が挙がっているのを聴いた。

そんな中、冷静沈着なのは三神だけだ、と。


「それって、二年も三年も同じなん?」

「うん」

「へぇ・・」


市原は、よくそんなチームに勝ったな、と思った。


「それにしても、この榎木さんって、すごいよな・・」

「私、一回戦勝ったら、この子とあたるんじゃけに」

「えっ!そうなん?」


市原は驚いた。

そして郡司は大丈夫なのか、と思った。


「でも、まずは一回戦を勝たんといかんけに」

「うん、そらそうや」



―――その頃、体育館の入口では。



今しがた到着した神田は、中に入ろうかどうしようかと迷っていた。

すると体育館から出てきた女子高生二人が通りかかった。


「まさか、森上さんが来てるとは思わんかったわ」

「あはは、あんた必死やな」

「せやかて、森上さんって、二年やん?」

「うん」

「近畿もあるし、インターハイもあるんやから、てっきり練習してはると思うやん」


神田は彼女らの会話を聞いて、「森上」が桐花の森上だとすぐにわかった。


「で、どうすんのよ」

「今日は・・握手してもらうねん」

「おおっ」


そう、握手してもらうと言ったのは、予選の際、森上にサインを求めた女子だった。


「ああ~それにしても、郡司さんが羨ましいなぁ」

「またそれ言うてる」

「だってな、一緒に練習できるやなんて、夢みたいやもん」

「試合、観てもろたら?」

「あかん、あかん。緊張してなんもできひんようになる・・」


神田は思った。

桐花はそれほどに強いのか。と。

ファンがいるほど、強いのか、と。

そんな強いチームに、郡司は一員としている。

やっぱり、一度観るべきだ、と。


そして神田はロビーに足を踏み入れたのだった―――

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