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サーよし!2  作者: たらふく
279/413

279 すれ違う気持ち




ほどなくして卓球専門店に到着した中川は、意気揚々と中へ入った。


「いらっしゃいませ。あっ、きみ」


店員はすぐに中川だとわかった。


「どうも、こんばんは」

「こんばんは」

「大河くん、来てるかしら」

「え・・来てないけど」

「あら・・そうなのね・・じゃ、二階で待たせていただいてもよろしくて?」

「あ、練習するんやな」

「そうですの」

「うん、かまへんよ」


店員は優しく微笑んだ。


「恐れ入ります」


中川は一礼して二階へ上がった。

一方、店の外では、阿部と重富が立っていた。


「阿部さん、どうする?」

「どうしよかな・・二階へ行くわけにはいかんしな・・」

「出て来るん、ここで待つ?」

「そやなぁ・・でも、最低でも一時間は練習するやろしなぁ」

「とりあえず、店に入ってみる?」

「うん、そうしょうか」


そして二人が店に入ろうとした時だった。

左側前方から、大河と須藤が並んで歩いて来たではないか。


「ちょっと・・阿部さん」


重富は店に入るのを止め、阿部の制服を引っ張った。


「どしたんよ」

「こっち・・こっち・・」


重富は阿部を引っ張って、ビルの横へ連れて行った。


「とみちゃん、なんなん」

「あれ、見てみ・・」


重富は二人が歩いて来る方を指した。

すると阿部は、指の視線を追って二人の姿を確認した。


「え・・あれって・・須藤さんやん・・」

「大河くん・・なに考えてんねや・・」


阿部も重富も、須藤が「恋敵」であると勘違いしたままだ。

その須藤を連れてくるとは、どういうことだ、と。


「これって・・どういうことなん・・」


重富が訊いた。


「わからん・・」

「いずれにしても・・修羅場になるで・・」

「えぇ~・・」


そして阿部と重富の心配をよそに、大河と須藤は、店の中に入って行った。



―――一方、二階では。



中川は着替えを済ませて、大河の到着を待っていた。

そして手には、プレゼントを用意していた。


トントントン・・

トントントン・・


階段を上がってくる足音がした。

けれども、音は一人ではなかった。


え・・


不思議に思った中川は椅子から立ち上がり、階段の方へ目を向けた。

すると大河の後に須藤がいるではないか。


「ごめん、待った?」


大河が言った。


「いえ・・待ってないけど・・」

「中川さん、久しぶりやね」


須藤はそう言ったが、中川にはどことなく顔色が冴えないようにも見えた。


「大河くん」


中川が呼んだ。


「なに」

「どうして須藤さんが・・」

「せっかくやから、一緒に練習したらええと思てな」

「せっかくって・・」

「須藤さんも友達やし」


嘘よ・・

大河くん・・友達なんて言ってるけど・・嘘だわ・・

私が大河くんを好きなこと・・知ってるのに・・

わざわざ連れてくるなんて・・

これは・・そういうことよね・・


「私・・二人で練習するものだとばかり・・」

「中川さん」


須藤が呼んだ。


「なに・・」

「あの・・いきなりでごめんやけど・・」

「え・・」

「こんなん、私から言うこととちゃうけどな・・」

「・・・」

「大河くん、中川さんから想いを寄せられるん・・迷惑らしいねん」


そこで中川は大河を見た。


「大河くん・・」

「なに」

「迷惑って・・ほんとなの」

「うん・・」


大河はそう言いつつも、目を逸らした。


「そうよね・・わかってたわ」

「え・・」

「大河くんは、ずっと私のこと嫌ってたもの」

「・・・」

「私って、バカよね。試合で救ってくれたことや、棄権してまでお見舞いに来てくれたことで、私は都合のいいように勘違いしてたのね」

「・・・」

「須藤さんがいるんだもの。迷惑なのは当たり前よね」

「須藤さんは友達やで・・」

「中川さん、それは勘違いせんといて。いや、してほしくないねん」


須藤は語気を強めて言った。

そう、須藤は大河など好みのタイプではなかった。

けれども須藤の言うことなど、中川にはどうでもよかった。

大河が言うことが本当ならば、むしろ、友達関係であるにもかかわらず、わざわざ連れて来て「迷惑」とまで言わせるほど、自分は嫌われているのだ、と。


「これ以上、大河くんに迷惑かけたくないので、練習もなかったことにしましょう・・」


大河は焦った。

迷惑じゃないんだ、と。

ただ、ブレーキをかけた方がお互いのためなんだ、と。


「これ・・お見舞いのお礼に買ったの。持って帰るのも嫌だし、受け取ってくれるかしら・・」


中川は紙袋を差し出した。


「お礼やなんて・・そんなんええし・・」

「いらないなら、捨ててください」


中川はそれを大河に渡して、更衣室に入った。


「大河くん・・どうすんのよ・・」


須藤は小声で囁いた。


「どうって・・」

「中川さん・・めっちゃ落ち込んでるで・・」

「・・・」

「でも、これでよかったんやろ・・?」

「ああ・・まあ・・」


ほどなくして着替えを済ませた中川が、更衣室から出てきた。

大河は中川を見ることができず、用事もないのにネットの高さを確認していた。

須藤は、なんとも言えない表情で中川を見ていた。


「それじゃ・・」


中川はそれだけ言って階段を下りて行った。

すると大河はネットから目を離し、中川の後姿を見ていた。


「大河くん」


須藤が呼んだ。


「なに」

「練習・・どうするん」

「あ・・ああ・・」

「とてもやないけど・・そんな感じじゃないよな・・」

「・・・」

「ほな、私、帰るけど」

「うん・・ごめん」


そして須藤も階段を下りて行った。

一人残った大河は、椅子に座って紙袋を見ていた。


お礼か・・


大河は袋から中身を取り出した。

すると丸々と太ったペンギンが、ニッコリと笑っているではないか。

大河は思わず、口元が緩んだ。


なんか・・悪かったかな・・


大河の胸は、ほんの少し痛んだ。



―――店の外では。



「あっ!」


入口で立って見ていた二人は、生気の消えた中川が階段を下りてきたのを確認した。


「やっぱり、なんかあったんや・・」


阿部が言った。


「そらそうやろ・・」

「出て来る!」


中川が入り口に向かって歩いて来ると、彼女らは慌ててビルの横へ移動した。

そして顔を覗かせると、中川が店から出てきた。


「阿部さん、どうする・・」

「このまま放っとくいうんは、違う気がする・・」

「そやな・・」


そして二人は顔を見合わせて、そのまま中川を追いかけた。


「中川さん!」


阿部が呼ぶと、中川は立ち止まって振り向いた。


「おめーら・・」

「偶然・・偶然やねん!」

「そう、偶然、通りかかってん」

「はあ?」

「いやっ・・なんちゅうんか・・」

「やっばり、つけて来たんだな」

「えっ・・ああ・・まあ・・」

「ごめん・・心配やってん・・」

「っんなこたぁ、どうでもいいやな」


意外にも怒らない中川に、二人は驚いていた。


「練習・・どうなったん・・?」


阿部が訊いた。


「なんかよ、大河くん、私のことが迷惑だとさ」

「えっ」

「わざわざ須藤を連れて来やがってよ。っんな小細工してさ」

「・・・」

「まあいいやね。それだけ私は嫌われてるってことさね」

「そんな・・」


そこでしばらく沈黙の時間が流れた。

阿部と重富は、声のかけようがなかった。


「嫌いなら・・迷惑なら・・なんで見舞いに来たんだ・・」


中川の肩が震えていた。


「中川さん・・」


阿部と重富は、なんとも切なくなった。


「なんで・・頭なんか・・撫でやがったんだ・・」


中川の目から涙が零れた。


「ほんまやな・・」


重富は思わずそう呟いた。


「もういいさ・・」

「え・・」

「諦める・・」

「・・・」

「おめーら、心配してくれて、ありがとな」


中川は涙を拭いて笑った。


「大丈夫・・?」


阿部が訊いた。


「おう。大丈夫さね」

「中川さんやったら、引く手数多やし、なんぼでも素敵な男子、現れるって」


重富が言った。


「あはは、なんだよ、それ」

「よーし、今からなんか食べに行こか」


阿部は、なんとか中川を元気づけようとそう言った。


「ほんまやな。やけ食いや、やけ食い!」

「なに食べる?」

「ここはやっぱりお好み焼きやろ」

「いや、うどんやで」

「阿部さん、ほんまうどん好きやなあ」

「とみちゃんかて、いっつもお好み焼きやん」

「粉もんは、大阪の命!」

「うどんかて、粉もんやで」

「ぐぬぬ・・」


中川は、二人の気遣いが嬉しかった。

けれども心の中は、どんよりと暗雲が漂っていたのである―――

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