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サーよし!2  作者: たらふく
27/413

27 大人の女性




―――そして翌日。



日置は森上との朝練を開始した。


「先生ぇ・・色々と大変でしたねぇ」


練習前、森上が言った。


「もう解決したから、心配ないよ」

「そうですかぁ、よかったですぅ」

「さ、今日もドライブね」


日置はカットマンのラケットを持っていた。


「ああ、そう言えばぁ、私ぃ、一年生大会に出られますぅ」

「ええっ!そうなの?」

「はいぃ」

「アルバイトはどうするの?」

「ああ・・休ませてくれることになりましたぁ」


森上は、小島から口止めされているので、そう言った。


「そうなんだ。よかったね!」


日置は、なんとも嬉しそうだった。


「じゃ、これから試合まで、もっと気合を入れないとね」

「はいぃ」

「僕は、カットするから、きみはドライブね」

「はいぃ、よろしくお願いしますぅ」


そして日置はカットし続けた。

日置の送るカットボールは、比較的簡単なものだったが、まず、カットマンのボールに慣れることが大事だ。

森上は、それらのボールも、全て打ち返していた。

しかも、超スピードドライブだ。

さすがの日置でも、ミスを連発した。


「ひゃ~きみのボール抑えるの大変だ~」

「すみませぇん」

「なに言ってるの。僕にミスさせる方がいいの」

「はいぃ」

「よーし、もっと切るよ」

「はいぃ」


日置の胸は、まさにワクワクしていた。

そう、三神の選手に勝ち、インターハイで優勝して大きく手を挙げている森上の姿が目に浮かんだのだ。


「ほら、もっと振りを鋭く」

「はいぃ」

「僕のカット程度で、ミスはダメだよ」

「はいぃ」


このように、ラリー中も檄を飛ばしていた。

そして約一時間、ドライブを徹底して行った。


「ああ~一時間って、あっという間だよね」

「そうですねぇ」

「それじゃ、明日もね」

「はいぃ、ありがとうございましたぁ」


そして日置は先に小屋を出て行った。

職員室に入った日置は、自分の席を見ると、何かが置かれているのに気が付いた。


あれ・・誰からかな・・


そう、それは日置ファンからのプレゼントだった。

ピンクの包み紙に、可愛いリボンが付けられてあった。


「さっきな、五組の子が置いて行ったで」


隣の席の堤が、からかうように笑った。


「そうなんですね」


日置は苦笑した。

そして日置は、後で開けようと引き出しの中に仕舞った。

その時だった。

日置は、小島からのプレゼントのことを思い出したのだ。


あああああ~~~!

しまったああ・・

連絡するの・・すっかり忘れてた・・

彩ちゃん・・怒ってるかな・・

今夜は絶対に電話をかけないと・・

ごめんよ~彩ちゃん・・



―――ここは桂山化学の社食。



小島と浅野は、一緒に昼食を摂っていた。

彼女らは、部署はそれぞれ違うが、みなデスクワークだ。

よって小島も浅野も、桂山の制服を着ていた。

けれども小島の顔は違った。

そう、化粧が厚いのだ。


「彩華・・ちょっと、濃すぎひん・・」

「そうかしら」

「口紅も・・赤いし・・」

「いいんじゃないかしら」

「アイシャドーも・・ベラみたいやで」


ベラとは、『妖怪人間ベム』というアニメに登場する主人公の一人で、ベラは女妖怪で化粧が厚く、アイシャドーは真っ青なのだ。


「それにさ、みんなと喋る時は、大阪弁でええやん」

「いや・・クセ、つけとかんとな」

「クセ、なあ」

「そうなのよ」

「なんか調子狂うなあ」

「我慢してよ」

「まあ、ええけど」

「私さ、先生に大人の女性って認めてもらいたいねん」

「うん、まあなあ」

「外間が見た女の人て、きっと大人やと思うねん」

「うーん」

「私さ、まあ言うたらこないだまで高校生やんか」

「うん」

「そらな、一気に大人にはなれへんけど、子供と思われたくないねん」

「でもさ・・先生が二股かけるて・・いまだに信じられへんのやけどなあ」

「でも、事実やん」

「そこやねん。っちゅうか、そとちゃんが目撃してるいうんがなあ、信憑性があるからなあ」

「私は、頑張る。先生に二股なんてアホやったって思わせる」

「あんまり、無理しなや」

「わかってる」



―――この日の放課後。



木元は、宿題の点数が低かったため、居残りをさせられていた。

中尾と石川は、終わるまで廊下で待っていた。


「木元、お前な、漢字の間違いが多すぎやねん」


国語担当の石坂いしざかは、木元の前の席に、椅子を跨いで逆向きに座っていた。


「ほら、これな、さかのぼるや。なにがぎゃくる、やねん」

「あはは・・」


木元は我がことながら、笑っていた。


「笑ろてる場合か。ほんで、これな、賄賂わいろて読むんや。なにが、かいかい、やねん」

「せやかて・・難しいんですもん」

「僕な、回答見ながら笑うん初めてやで」


と、このように補習は一時間ほど続いた。


「よっしゃ。これ家に帰ったら、もっかいやること」

「はい」

「ほな、帰ってよし」


廊下に出た石坂は、中尾と石川に「お待たせ」と言いながら、職員室へ向かった。

そして中尾ら三人は、学校を後にした。

やがて天王寺に到着した中尾らは、コンコースに入った。


一方、その頃、蒲内は仕事を終えた後、コンコース内のケーキ屋にいた。


「いちごショートと~モンブランと~チョコケーキください~」


蒲内は、練習の後だと店が閉まるので、この時間にケーキを買いに来ていた。

店員は、小さな箱にケーキを三つ入れて蒲内に渡した。

蒲内はお金を払って、桂山に戻りかけた。

その時、偶然にも、中尾らとバッタリ会った。


「あ・・」


蒲内も中尾らも、互いを確認し、少しだけ微笑んだ。


「あんたらやん~、この間は大変やったな~」

「あの日は、助けてくださって、ありがとうございました」


中尾がそう言った。

そして木元も石川も頭を下げた。


「ほんで~その後、どうなん~」

「はい、もう解決しました」

「そうなんや~よかったな~」

「先生らが、助けてくれはったんです」

「へぇ~誰先生~?私な~桐花の出身やねん~」


すると彼女らは「えええ~~そうやったんですか」と驚いたと同時に嬉しそうにしていた。


「日置先生と、担任の加賀見先生です」


中尾が答えた。


「ええ~日置先生やったんや~」

「はい、そうなんです」

「私な~元卓球部やってん~」

「ええっ!ほなら、インターハイ行ったん、先輩ですか」

「そやねん~」

「へぇー!」

「日置先生、どうやって解決しはったん~」


そこで中尾らは、事の経緯を説明した。

蒲内は、いかにも日置らしいと、感心していた。


「担任の加賀見先生も、女性でありながら南仁和高校に乗り込んでくれはって」

「そうなんや~よかったな~」


そこで蒲内は、ふと考えた。

そう、小島のことだ。


彩華は・・先生から連絡がないと言うてたけど・・

それと・・日にちが重なってるやん・・


「なあ~加賀見先生て~いくつくらいの人なん~」

「えっと・・まだ二十二か三ちゃいますかね」

「えっ・・」


もしかして・・先生が一緒にいてた人って・・加賀見先生ちゃうん・・

そうやとしたら・・とんでもない誤解やん・・


「あ・・私、もう行くわな~」


蒲内がそう言うと、中尾ら三人は「ありがとうございました」と頭を下げて見送った。


はよ・・はよ戻って・・

彩華に報せたらんと・・


走って桂山まで向かおうとした蒲内に、「あのぅ・・」と杖をついて和服を着た小柄な老女が声をかけた。


「え・・」


蒲内は、そこで止まった。


「すみませんがねぇ、梅田に行くにはどうしたらええですかねぇ」

「ああ・・梅田ですかぁ~」

「私ねぇ、今から梅田コマへ行くんですわぁ」


梅田コマとは、梅田コマ劇場といって、演劇やミュージカルなどが行われるホールのことである。


「地下鉄か~、環状線で行けますけど~」

「それ、どこですかいなぁ」


そこで蒲内は、埒があかないと思い、なんと老女を梅田コマまで連れていくことにしたのだ。


「えらい、すんませんなぁ」

「いいえ~いいんです~」


蒲内はそう言いながらも、内心は焦っていた。



―――その頃、桂山の体育館では。



「蒲ちゃん、ケーキ買いに行ったまま、帰って来ぇへんで」


岩水が言った。


「どこまで行っとるんやろな」


彼女らは、準備体操をしていた。

そこへ小島が入ってきた。

小島の化粧を見た彼女らと、大久保ら、男子部員は仰天していた。


「いやあ~小島ちゃん~えらい派手に化粧して~」

「どないしたんや・・」

「なんか・・別人みたいじゃけ・・」


小島は、大久保ら三人にニコッと笑った。

他の男子部員は、引き気味で無言だった。


「ちょ・・彩華、なによその化粧」


為所が訊いた。


「悪いけど・・似合ってないで」


井ノ下が言った。


「彩華・・もしかして、大人の女性って・・そういうことなん・・」


杉裏は、もはや呆れていた。

浅野は黙っていた。

そして小島は、みなの心配をよそに、更衣室へ入って行った。

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