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サーよし!2  作者: たらふく
269/413

269 インタビュー

               



―――ここは一年五組。



「市原さん、昨日はありがとう」


教室に入った和子は、市原に声をかけた。


「おおっ、郡司さん。おはよ~」

「おはよう」

「昨日、めっちゃ楽しかったわ~」

「レストランのこと?」

「そうそう。あの大久保って人、見た目は怪物みたいやのに、話し方は女の人みたいで」

「そうじゃな」

「でもさ~、卓球部ってええよなあ」

「なにが?」

「だって、大阪で一位やし、先輩らもみんなええ人やし」

「新聞部は、どげな?」

「先輩いうたかて、二人だけやで」

「そうなんや」

「で、一年生は私だけ」

「そうかぁ。三人は淋しかろなぁ。って、卓球部かて五人じゃけに」


和子はそう言って笑った。


「いやっ、例え五人でも、いや、むしろ五人しかしてへんのに、インターハイやで。これってすごいやん」

「私は戦力にはなりゃせんけに」

「いやいや、これからこれから」


キーンコーンカーンコーン


そこで始業ベルが鳴った。


「ほな、またあとで」


和子はそう言って自分の席へ移動した。

そして鞄を机の横にかけて、一時間目の教科書とノートを取り出していた。

ほどなくして担任の松尾が教室に入って来た。


「起立」


学級委員が号令をかけ、生徒らは礼をして着席した。


「おはようございまぁす」


松尾が挨拶すると生徒たちは「おはようございまーす」と、だるそうな返事をした。


「きみたちぃ~月曜の朝じゃないかぁ~」


松尾は覇気のない返事に不満を持った。


「まあいい~。今日は、嬉しいニュースがありますぞぉ~」


すると生徒たちは、ほんの少しだけ興味を持った。


「なんと!卓球部がインターハイ出場を決めましたぞぉ~!しかもっ、優勝ですぞぉ~!」


松尾がそう言うと、生徒たちは一斉に和子に注目した。


「えええええ~~郡司さん、すごいやん!」

「優勝て、すごすぎる~~」

「インターハイやで!野球でいうたら甲子園やん!」

「いやあ~~おめでとう~~!」


そこで大きな拍手が起こった。


「ああ・・ありがとうございます」


和子は立ち上がって頭を下げていた。


「でも、私は戦力じゃないけに。強いんは、先輩なんじゃけに」

「なに言うてんのよ~、立派な卓球部員やん!」

「そやで~!素振り500回やっただけでも、大したもんやん!」

「なーなー、インターハイて、どこであるん?」


和子の隣の席の者が訊いた。


「香川なんじゃ」

「えっ、それって郡司さんの田舎やん!」

「ちょ・・ほなら日置先生と旅行~~~!?」

「きゃあ~~~!私も今から卓球部に入る~~!」

「いやあ~~めっちゃ羨ましい~~~!」

「ひおきんの寝顔ってどんなんやろ~~」

「見たい~~見たい~~~」


「こらああああ~きみたちぃ~静かにしなさぁぁぁ~い」


松尾が頼りない声で制すと、生徒たちはとりあえず収まった。


「まったくぅ~きみたちは~どうなっとるのかねぇ~」

「はい!」


そこで市原が手を挙げた。


「市原さん、なんだねぇ~」


そして市原は立ち上がった。


「私は新聞部として、昨日の試合を観てきました」

「おおおおお~~」


一斉に声が挙がった。


「我が卓球部は、ほんとに強くて、群を抜いてました。これはお世辞ではありません」

「おおおおお~~」

「実は、私も試合を観るまでよくわかりませんでしたが、その強さに驚きました。それで、来月に出す校内新聞には、このことを書きますので、読んでもらえればわかると思います」

「写真も載せるん?」


一人が訊いた。


「そうそう。バッチリ撮ったで」

「きゃあ~~~それって、ひおきんも映ってる?」

「もちろんやで」

「きゃあ~~~永久保存版にする~~~!」

「私も~~~!」

「切り抜いて、生徒手帳に挟む~~!」

「あっ!ハート形に切り抜こっと!」


「こらあぁぁぁ~静かにしなさぁぁ~い」


そして松尾は、また頼りなく叫んだのであった。



―――そして昼休み。



「ほな、行こか」


昼食を終えた阿部がそう言った。

阿部らは、全校生徒に向けて試合の結果報告をするため、放送室へ行こうとしていた。


「よーーし、ここは私の出番さね」

「いや、放送はキャプテンである阿部さんの役目やで」


重富が制した。


「なに言ってやがんでぇ。ここは、景気よく、ぶっかまさねぇとな」

「あかん、あかんで」

「はいはい、わかってますって」


中川はわざと呆れた風にそう言った。

そして四人は教室を出て、放送室へ向かった。


「せやけど私、ちゃんと言えるかなぁ」


歩きながら阿部が言った。


「千賀ちゃぁん、大丈夫やでぇ」

「台本もないし・・」


阿部は不安げだった。


「チビ助よ、思ったことを言えばいいんでぇ」

「そうやけど・・」

「っんなもん、マイクに向かって話すだけだろ。屁でもねぇって」

「あんたは、そやろけどさぁ・・」

「まあまあ、困った時にゃあ、私が控えてるってこと忘れんじゃねぇぜ」

「いや、その時は、とみちゃんに頼む」

「けっ、相変わらず口が減らねぇな」


ほどなくして彼女らは放送室の前に到着した。


「先生は?」


重富が訊いた。


「来はると思うんやけど・・ああ~緊張してきた」


するとそこへ、「ごめん、ごめん」と言いながら日置が走って来た。


「先生よ、こちとら五年も待ったぜ」

「なんでやねん」


日置は思わず大阪弁で突っ込んだ。


「おっ、先生の大阪弁、初めて聞いたな」

「ほんまやぁ~」


重富と森上は笑っていたが、阿部の顔は緊張で強張っていた。


「じゃ、入るよ」


日置はそう言って扉を開けると、中では部員がすでに準備を整えていた。


「お世話かけます。よろしくね」

「はい。もう準備は出来てますんで、マイクの前に立ってください」


部員がそう言うと、阿部はゆっくりとマイクの前に移動した。


「恵美ちゃん・・どうしょう・・」

「大丈夫やでぇ」

「昨日の結果を、そのまま話せばいいだけだよ」


日置は優しく微笑んだ。


「はい・・」

「おめー、ほんとに大丈夫か?」

「うん・・大丈夫やと思う・・」

「おいおい・・ほんとかよ」

「阿部さん、大丈夫やで」


重富も励ました。


「じゃ、私がこれを鳴らして先に話しますので、その後で」


部員は阿部にそう言った。

阿部は頼りなく頷いた。

そして部員は、鉄琴をピンポンパンポーンと鳴らし「ただいまより、卓球部からの臨時放送を行います」と言った後、阿部にマイクを譲った。


「えー・・たっ・・卓球部の阿部です・・えーっと・・昨日・・」


そこで阿部は日置を見た。


「インターハイの予選がありまして・・」


日置は小声でそう伝えた。


「いっ・・インターハイの予選がありまして・・それで・・いや・・えっと・・試合は一昨日でして・・せやけど昨日も・・試合でして・・」


阿部の額には汗が滲んでいた。


かぁ~・・チビ助・・

まったくダメじゃねぇか・・


そこで中川はマイクの横へ移動し「代われ」と口パクで伝えた。

けれども阿部は重富を見た。

すると中川は埒があかないと思い、強引にマイクの前に立った。


「全校生徒の皆さん、お昼休みのひと時、いかがお過ごしかしら?」


中川が話し始めると、もう観念したように阿部は引き下がった。

そして日置も重富も森上も、中川に任せることにした。


「わたくしは、桐花テレビの新人レポーターで、お嬢中川と申します。なんと!今日は桐花学園にお邪魔しておりますのよ!」


中川の話に、全員が唖然としていた。

桐花テレビとは、なんだ、と。


「それでですね、なんと!卓球部の皆さんは団体戦でインターハイ出場を決めたということです!すごいですわね~!そこでですね、今から選手の皆さんにインタビューを致しますわよ!」


そこで中川は阿部を引っ張って横に立たせた。


「あなた、お名前は?」

「え・・」

「え・・じゃなくて、お名前よ、お名前」

「あ・・阿部です」

「まあ、阿部さん!それで試合はどうでした?」

「ああ・・えっと、ベスト4に入って、優勝しました」

「言いたいことはそうじゃございませんわね。確か、三神とかいう鬼のような強豪校と対戦したんじゃなくて?」

「ああ・・はい」

「で、三神はどうでした?」

「はい、そらもう強かったです」

「まあ、なにを仰ってるのかしら。あなたは確か、天地ときよしと対戦したんではなくて?」

「いや・・きよしやなくて山科さん・・」


あはは・・チビ助、おめー、天地はそのままでいいのかよ・・


「で、どうでした?」

「そらもう、めちゃくちゃ強かったです」

「あら・・あなた足が痛いのね。おかわいそうに」

「ああ・・はい」

「試合で、お痛めになったの?」

「はい」

「それはいけませんわ。お大事にね。では、次の方どうぞ」


そこで中川は森上に手招きした。

森上は戸惑いながらも中川の隣に立った。


「まあ~~これはこれは、とても逞しい女性が現れましてよ。あなた、お名前は?」

「森上ですぅ」

「まあ~~森上さん。で、試合はどうでした?」

「はいぃ・・頑張って勝ちましたぁ」

「そうじゃないですわね。あなた、確かクチビルゲと対戦なさったのよね」


そこで放送部員は「ぷっ」と声を漏らした。


「ああ・・はいぃ」

「で、クチビルゲはどうでした?」

「強かったですぅ」

「嘘おっしゃいな。あなた、4点と5点でお勝ちになったのよね」

「ああ・・はいぃ」

「放送をご覧の皆さま!卓球は21点取らなければならなくてよ。それを森上さんは4点と5点でお勝ちになったのよ。すごいですわね!」

「ご覧て・・見えてへんし・・」


阿部がポツリと呟いた。


「そこのあなた!細けぇことはよろしいんですのよ。では、次の方、どうぞ」


重富はすぐに中川の横へ移動した。


「あなた、お名前は?」

「重富です」

「まあ~~重富さん!試合はどうでしたの?」

「私は三神の天地にコテンパにやられましたが、その後は、全試合勝ちましたっ!」

「まあ~~なんと素晴らしいのかしら。みなさんお聴きになって?重富さんは半年前までは演劇部だったのでございますわよ。それがたった半年で三神のエースと対戦し、大健闘したのでございますよ!」

「はーい!私はレポーターの重富でーす!」


重富は突然そう言い放った。

すると中川は、唖然として重富を見ていた。


「あなた、お名前は?」

「中川でぇ」


中川は重富の「芝居」に乗った。


「まあ~~中川さん!あなたは誰と対戦したんですか」

「聞いて驚くんじゃねぇぜ。なんとアンドレって野郎でぇ!」

「きゃあ~~アンドレは、私の憧れですよ!それとオスカルも。で、試合はどうでした?」

「それさね・・あれはいつだったか・・」


中川は、またあさっての方を向いた。


「いつて・・一昨日と昨日でしょ」

「あやつは、とんでもねぇ野郎よ・・」

「とんでもないとは?」

「3メートルもあろうかという・・でけぇ女だった・・」

「さ・・3メートル!」

「おうよ・・やつは私を見下ろし・・こう言いやがった・・」

「な・・なんでしょうか・・」

「なんで私がアンドレなんだ、と・・」

「おお・・」

「そこで私は言ってやったのさね・・」

「な・・なんと・・?」

「おんどれはアンドレだ・・とね・・」

「あははは」


重富は思わず声を挙げて笑った。

そう、これは偶然にも吉本新喜劇のチャーリー浜のギャグと重なっていたのだ。

そこで日置は、二人の首根っこを掴まえて引っ張った。

中川と重富は「あああ~~」と言いながら後ろへ下げられた。

そして日置はマイクの前に立った。


「みなさん、卓球部監督の日置です。このたび、卓球部は団体戦で優勝を果たし、近畿大会とインターハイの出場が決まりました。部員は五人だけですが、みんなで力を合わせて勝ち取った栄誉です。今週末にはシングルとダブルスの予選が控えています。こちらも全力で頑張りますので、応援をよろしくお願いします。以上、卓球部からの報告でした。ありがとうございました」


そして日置は、放送部員に場所を譲った。


「えー、そ・・それでは・・」


部員の声は震えていた。

そう、必死で笑いを堪えていたのだ。


「これで・・ぷっ・・ああっ、臨時放送を・・ぷっ・・あっ、終わります・・」


そして部員は鉄琴を鳴らしたが、手が震えて音階がめちゃくちゃだった。

その様子を見て、彼女らはつられて笑っていたが、「きみ、ごめんね」と日置は気の毒そうに詫びていた―――

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