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サーよし!2  作者: たらふく
267/413

267 大阪代表の誇り




その後、桐花は中井田にも住之江西にも4-0と圧勝し、いち早くインターハイ出場を決めた。

しかも日置が指示したように、1セットも取らせないどころか、全セットに於いて10点も与えなかったのだ。

まさに三神と同等の責任を果たした日置は、胸をなでおろしていた。

そしてコートでは、小谷田と中井田が「残席」をかけて、熱戦を繰り広げていた―――



「皆藤さん」


日置は本部席へ行き声をかけた。


「日置くん」


皆藤はそう言って立ち上がり、ニッコリと微笑んだ。


「優勝、おめでとう」

「ありがとうございます」

「とてもいい試合でした。さすがです」

「いえ、責任を果たせてホッとしています」

「まだまだ、本当の勝負はこれからですよ」


皆藤はインターハイのことを言った。


「はい」

「昨年はうちが優勝しましたが、準優勝の真城(ましろ)高校は、強敵ですよ」

「どこですか」


日置は都道府県を訊いた。


「栃木です」

「そうなんですね」

「それと浅草西も、侮れませんよ」


浅草西とは、かつて小島らがベスト4をかけて対戦した相手である。

4-0と完敗したものの、四番に出た浅野は倒れる寸前まで戦い、1セットを取ったのである。

その後、浅野は倒れ、途中放棄となっていた。


「そうですね」

「桐花にシードはありませんが、きみたちならきっと勝ち上がれます」

「はい」

「阿部くんは、ダブルスも出ていませんでしたし、シングルは後半に置いていましたが、やはり足ですか」

「はい。まだ無理をさせてはいけないと思い、そう判断しました」

「そうですか。お大事にしてください」

「ありがとうございます」

「ところで・・」


皆藤はそう言って、少しだけ本部席から離れた。

日置は、どうしたのかと、不思議に思った。


「小谷田と中井田、どうですか」

「あ・・はい・・」


日置は皆藤の意を理解していた。


「あれじゃ・・いけません」


日置は返答のしようがなかった。


「きみは素人の子たちを、見事に育て上げているのに、小谷田も中井田も引き抜きですよ」

「はあ・・」

「慢心がすぎると思いませんか」

「・・・」

「いつもベスト4に甘んじ、インターハイへ行けたのも、棚ぼたのようなものです」


皆藤は昨年の小谷田のことを言った。


「うちを倒す気など、さらさらないのですよ」

「そう・・ですか・・」


日置は皆藤の心の内を見た気がした。

いつもニコニコと微笑み、平常心を崩さない皆藤だが、やはり悔しいのだ、と。

それは、うちに負けたことでもなく、インターハイを逃したことでもない、と。

いわば「やる気」のない、小谷田と中井田に対しての憤りのようなものなのだろう、と。


「先生は、お元気ですか」


皆藤は西藤のことを訊いた。


「はい、おかげさまで元気すぎます」


日置は話が変わったことでホッとしていた。


「また先生と、お話がしたいですね」

「私から、祖母にそう伝えます」

「そうしてくれるとありがたいです」

「では、これで失礼します」


日置はそう言ってこの場を離れた―――



ほどなくして全試合が終了し、男子は滝本東が優勝、準優勝は松吉高校、女子は桐花が優勝、準優勝は小谷田だった。


「えーでは、ただ今より表彰式と閉会式を行いますので、選手の皆さんは中央へお集まりください」


三善が放送をかけた。

そして全員が本部席前に集合して、表彰式が始まった。


「それでは、男子の優勝は滝本東高校、準優勝は松吉高校。それぞれ代表者は前に来てください」


そして滝本東と松吉のキャプテンと副キャプテンがが前に出て、皆藤から優勝旗と盾、表彰状を受け取っていた。


「それでは女子の優勝校、桐花学園と、準優勝校の小谷田高校の代表者は前に来てください」


すると阿部は、森上の手を引っ張った。


「えぇ・・私ぃ・・?」

「恵美ちゃん・・はよ・・」

「ここは、私の出番だな」


中川がそう言った。


「あんたはええ・・」

「森上よ、私に任せな」


中川は阿部の言うことなど無視して、ズカズカと前に進んだ。


「まったく・・もう・・」


阿部も仕方なく、中川の後に続いた。

そして二人は並んで皆藤の前に立った。


「優勝、おめでとう」


皆藤はニッコリと微笑んで、旗を阿部に渡した。


「ありがとうございます・・」


阿部は小さな体で重そうに旗を持った。

そして皆藤は盾を手にした。


「おめでとう」


そして次に表彰状も渡した。


「ありがとうございます!」


中川は大きな声で答えた。

そして中川は振り向いて、盾と表彰状を高く上げ、その場にいる者に見せた。

阿部は、また何をするのかと、中川を不安げに見ていた。


「我が桐花は、全国でもぜってー優勝する!それはここにいるおめーらとの約束だ!よーく覚えておきな!」


阿部は、ここに来てまた眩暈がしそうだった。


「うわあ・・中川さん・・」


重富はポツリと呟いた。


「中川さぁん・・」


森上も唖然としていた。


「先輩・・」


それは和子も同じたった。

そして中川を知らない男子らは、仰天していた。

誰だ、このガラの悪い美人な子は、と。


中川さん・・きみはほんとにすごいよ・・


日置は、さして驚きもしなかった。

そして大河も、日置と同じように思っていた。


この子は・・ひょっとすると、大物かもしれんな・・

ほんま、おもろいな・・


「その意気ですよ、中川くん」


皆藤はそう言った。


「おうよ!大阪代表の誇りにかけて、暴れまくってやるぜ!」


皆藤は「大阪代表の誇り」という言葉に、うんうんと頷いていた。

そして阿部と中川は下がり、小谷田が表彰を受けていた。


「きみたちも、大阪代表として、精一杯頑張りなさい」


皆藤がそう言えども、富沢と室谷は「はい・・」と小さく返事するだけだった―――



ほどなくして帰り支度をしていた日置一行は、植木から写真撮影をせがまれていた。


「昨日、撮るん忘れてましたんで!」

「よーう、あんちゃんよ」

「なに?」

「ベストショット撮らねぇと、フィルム、燃やすぞ!」

「ひゃ~、こりゃちゃんと撮らなな」


そして日置と彼女らは、並んで立った。


「私も撮りますんで!」


市原も植木の横に立ち、カメラを構えた。


「きみ、学生さん?」


植木が訊いた。


「桐花の新聞部なんです」

「そうなんや。ほな、一緒に撮ろか」


そして五人は最高の笑顔を見せて、写真撮影は終わった。


「日置さん、きみら、優勝おめでとう!」


植木は本当に嬉しそうだった。


「ありがとう」

「いやあ~~、全国が楽しみでなりませんよ!」

「あはは、気が早いね」

「そらもう、僕は桐花ファンですから!」

「私も、同じ学園の生徒として、すごく誇りに思います!」


市原が言った。


「そやろ?そう思うやんな」

「はい!」

「きみ、ええ記事書きや」

「そらもう、大々的に紙面を割きます」

「あはは、ええ心がけや」


二人はなんとなく気が合っていた。

ほどなくしてロビーに出た一行は、節江や大久保、安住らと談笑していた。


「お母さん、試合、どげなかった?」


和子が訊いた。


「どうもなにも・・桐花は強いんじゃなあ」

「そじゃろ?私の言うた通りじゃったろ」

「もう、驚いて驚いて」

「あはは!」

「よーう、おっかさんよ」


中川が呼んだ。


「まあまあ、中川さん。いつも和子がお世話になってます」

「っんな、堅てぇことはいいんでぇ」

「それにしても中川さん、度胸があるのぉ・・」

「いやいや、あれくれぇかまさねぇと、大舞台では通用しねぇってもんよ」

「大したもんよのぉ」


節江はいたく感服していた。

その横では、大久保と安住が彼女らの健闘を称えていた。


「っんもう~お嬢ちゃんたち~すごいやないの~」

「ほんまほんま。優勝なんて、すごいで」

「ありがとうございます」

「慎吾ちゃん~」


大久保が呼んだ。


「なに?」

「お祝いに、お嬢ちゃんたちにご馳走してあげるわ~」

「ええ~、そんな、悪いよ」

「っんもう~なに言うてんのよ~、こんな時にご馳走せんと、いつするんよ~」

「ああ・・きみたち、どうする?」


日置が訊くと、阿部らはどう返答していいものかと戸惑っていた。


「どうするもなにもないわ~。これは命令よ~」

「そっか。じゃ、お言葉に甘えるね」

「いいのよ~ん」

「あ、先生」


市原が呼んだ。


「なに?」

「私はこれで帰りますね」

「こらこら~、新聞屋のお嬢ちゃん~、あんたも行くのよ~」

「えええ~~、私もですか」

「あったり前田のクラッカーやんかいさ~」


大久保がそう言うと、市原は爆笑していた。


「きみも一緒にね」


日置がそう言うと「はい」と市原は嬉しそうに答えた。

するとそこへ滝本東の一行がロビーに出てきた。


「あら~坊やたち~」


大久保が呼ぶと「うーすっ!」と彼らは頭を下げていた。


「よう頑張ったわね~」

「ありがとうございます!」


すると中川は、一行に気が付いた。


「おっかさんよ、ちょっと用事があるから、済まねぇな」


中川はそう言って大河の元へ行った。


「大河くん!」


中川は臆面もなく、大勢の前で大河を呼んだ。


「なに」

「その・・練習のことなんだけど・・」

「ああ・・それな。僕、考えたんやけど」

「なにを?」

「これこれ~坊やに中川ちゃん~」


大久保は二人の元へ移動し、それぞれの肩に手を置いた。


「先輩・・なんすか」

「坊や~、あんたも今から着いておいで」

「え・・」

「坊やたちもよ~」


大久保は、他の者にもそう言った。


「なにがですか」


別の男子が訊いた。


「優勝のお祝いよ~!」


すると男子たちは「やったーー!」と喜んでいた。

こうして、なんと大所帯で一行はレストランに向かったのであるが、さすがに節江は断り、一足先に帰路についていた―――

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