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サーよし!2  作者: たらふく
265/413

265 責任と自覚




3本練習を終えた両チームは、重富と船曳がジャンケンをして重富が勝ち、サーブを選択した。


「ほな、私から行くで」


重富は、コートに背を向けて中川に言った。


「おうよ。最初から必殺サーブで行きな」

「うん」


重富は軽く頷いて「1本!」と声を発し、サーブを出す構えに入った。

レシーブは船曳だ。

そして重富は、ミドルラインぎりぎりのところへ必殺サーブを出した。


うわっ・・なんじゃこりゃ・・


体を詰まらせた船曳はあえなくオーバーミスをした。


「サーよしっ!」


重富と中川は顔を見合わせてガッツポーズをした。


「よーし!ナイスサーブ!」


日置は拍手をしていた。


「とみちゃん!ナイスやで~~!」

「もう1本やでぇ~~!」


阿部と森上も大きな声を挙げていた。


「うわあ・・今のサーブ、なんなん・・」


市原はメモ帳を手にしながら、驚いていた。


「フネちゃん、どんまいどんまい」


室谷はそう言いつつも、顔を引きつらせていた。

今のサーブは、なんなんだ、と。

そもそも小谷田の選手らは、桐花と三神の試合を近くで観ていたわけではない。

いや、たとえ近くで観ていたとしても、目の前で対峙するのとでは、実感として雲泥の差があるのだ。


「どっちか、わからんな・・」


船曳も愕然としていた。


「よう見よ。大丈夫や」

「うん・・」

「コートに入れさえすれば、中川はカットマンやし」


室谷は、攻撃がないことを言った。

船曳は頼りなく頷いた。


「さあー重富よ。次も必殺サーブでご機嫌を覗いな」

「ご機嫌・・」

「ま、返せたら、てぇしたもんだがよ!」


中川がそう言うと、二人は睨んでいた。


「1本!」


船曳は気を取り直してレシーブの構えに入った。

そして重富は、再び必殺サーブを出した。

ネット際にポトンと落ちたボールに対し、船曳はツッツキに行ったが、またオーバーミスをした。


「サーよしっ!」


二人はまた力強いガッツポーズをした。

まったく回転が読めない船曳は、「ごめん」と室谷に頭を下げていた。


「どんまいやで」


室谷もそう言うしかなかった。


「船曳、よう見ろ!」


中澤が叫んだ。

船曳は振り向いて「はい」と答えた。


よう見てるんやけどな・・

まったくわからん・・

もう勘で返すしかないな・・


船曳は、このような有様だった。

そして次も、その次も船曳は憐れなほどにレシーブミスをし、とうとう1本も返せずにカウントは5-0となっていた。

中澤も彼女らも、想像以上のサーブの威力に言葉を失っていた。


「よーーし、重富よ、さすがだぜ!」


中川は重富の肩をポーンと叩いた。


「おう!」

「さてさて、やっとボールに触らせてもらえるぜ」


中川はそう言いながらレシーブの構えに入った。

船曳は情けない表情で、ボールを手にしていた。


「フネちゃん、こっからやで」


室谷が言った。


「うん」

「挽回するよ」

「うん」

「ほら、しっかり」


室谷は船曳の肩に手を置いた。

そして船曳は、なんとか気を取り直し、サーブを出す構えに入った。


「1本」


船曳は力のない声を発した。


中川は思った。

まだ決まったわけではないが、こんなチームがインターハイへ行くのか、と。

二回戦で負けた三神は近畿にすら出られないんだぞ、と。

代表になるべきは、間違いなく三神だろうと。


「よーう、船曳よ」


呼ばれた船曳は、構えに入ったまま中川を見た。


「おめー、恥ずかしくねぇのかよ」

「え・・」

「おめーら、インターハイへ行くために試合してんだよな」

「・・・」

「こちとら、三神の分まで責任を背負ってんだ。ちったぁ自覚しな」


その実、重富も中川と同じことを考えていた。

情けないぞ、と。

いや、野間に4点と5点で負けた自分が言えた義理ではないが、少なくとも自分は立ち向かっていった。

それが船曳はなんだ、と。

とはいえ、簡単に勝てることに越したことはない。

いや、むしろこんな相手は徹底的に叩きのめすしかない、と。


船曳は、戦前の勢いはすっかり影を潜め、中川の言葉に意気消沈していた。

それは室谷とて同じだった。

いや、室谷もまだボールに触っていない。

今後の展開も、どうなるかわからない。

挽回、或いは逆転する可能性もあるのだ。

けれども「三神の分まで責任を負っている」という中川の言葉に、自覚の足りなさを突きつけられていた。

そう、ただ代表になれればいいと思っていた、と。


そして船曳はサーブを出した。

中川はバックカットでなんなく返した。

バックストレートに入ったボールを、室谷は回り込んでドライブをかけた。

このドライブも重富にすれば、野間の足元にも及ばないし、ましてや森上とは比べものにならないボールだ。

バッククロスへ入ったボールに、重富はバウンドしてすぐにフォアストレートへプッシュした。

すると船曳は、ボールに追いつけずに空振りをした。


「サーよしっ!」


これで6-0だ。


「よーーし、重富、ナイスプッシュでぇ!」

「おうさね!」


畠山は改めて思った。

あの時の重富はど素人で、自分は重富の滑稽な様子に笑っていたぞ、と。

中澤やチームメイトも試合に関心はなく、決勝であたる三神を見ていたぞ、と。

そして笑っていた自分を、中澤は叱っていたぞ、と。


そこで畠山は、中澤をチラリと見た。

するとどうだ。

中澤の顔は強張り、言葉さえ発していないではないか。

あれからたった半年だぞ、と。

まさに悪夢ではないかのか、と。


その後、試合は進むも戦況は言うに及ばず、重富と中川の独壇場だった。

結局、21-3で桐花は1セットを取った。


「よーし!よーし!」


日置は拍手で二人を迎えた。


「ナイスゲームやったで!」


阿部は椅子に座ったまま、そう言った。


「次もぉ~今の調子やでぇ~」


森上はアップに余念がなかった。

新聞部の市原は、卓球の内容こそよくわからなかったが、桐花が群を抜いて強いということだけはわかった。

そしてメモ帳にペンを走らせていた。


「なにも言うことはないよ」


日置はニッコリと笑っていた。


「ったくよー、張り合いがねぇったりゃありゃしねぇぜ」


中川は不満げだった。

なぜなら、まだズボールを出していないからである。

そう、ズボールを出す前に小谷田はミスをしていたのだ。

それだけ重富のブロックが冴えていたというわけだ。


「きみたちには、どう足掻いても勝てないとわかったんだよ」

「それにしたってよー」

「よし、中川さん、行くで」


重富がそう言うと「はいはい」と中川は呆れたふうに答えた。


「徹底的に叩きのめしておいで」


日置は二人の肩をポンと叩いて送り出した―――



本部席で試合を観ていた皆藤は、ニコニコと笑っていた。

その様子を見て、三善は不思議に思った。

なぜなら、まるで三神の選手を見ているような表情だからである。


「なんですか」


三善の視線に気が付いた皆藤が訊いた。


「いえ、別に」

「桐花は、ほんとにいいですね」

「そう・・ですか」

「それにしても中澤くん・・もう少しやると思っていたのですがね」

「・・・」

「早くも戦意喪失です」

「そうですか・・」

「これではまともに戦えません」

「・・・」

「小谷田ですら、この始末なのだから、中井田や住之江西など話になりませんね」

「・・・」

「もっと頑張ってもらわないといけませんね」



―――その頃、観客席では。



和子の母親、節江は今しがた到着して席に座ったところだった。


あ・・和子、審判しとんじゃな・・

まあまあ・・堂々と・・

それにしても・・広い体育館じゃなぁ・・


節江は改めて館内を見回していた。


「おらあ~~いつまでビビってやがんでぇ!」


中川の声が響いた。


あらあら・・中川さん・・

あはは・・相変わらずじゃな・・


節江は苦笑した。

そして節江は他のコートにも目を向けた。


みんな・・上手いんじゃなあ・・

こんな中で・・

和子も選手の一人として参加しとんじゃの・・

すごいが・・


「もう~~、ほんまは昨日の試合、観たかったのにい~」


そこへ文句を言いながら、一人の男性が歩いてきた。

その後ろには小柄な男性が「しゃあないやないですか」と言いながら、着いて来ていた。

節江は思わず二人を見ていた。


「っんもう~~小島ちゃんら、ずるいわ~~」

「だから、今さら言うたってしゃあないでしょ」

「安住っ!あんたうるさいねん」


そう、この二人は大久保と安住だったのだ。

昨日、桂山へ戻った小島から、三神に勝ったことを報らされた大久保は、地団太を踏みながら悔しがっていた。


「あら~やってるわ~」


重富と中川を見つけた大久保と安住は、観客席の最前列に移動した。

そして節江は、大久保の話しぶりに仰天していた。


「中川ちゃ~~ん、重富ちゃ~~ん」


大久保は二人を呼んだ。

すると声に気が付いた日置は前に出て、観客席を見上げていた。


「あら~~慎吾ちゃ~~ん!来たわよ~~」


大久保は嬉しそうに手を振っていた。


「ありがとう」


日置は手を振って応えた。


「頑張ってください!」


安住も前に乗り出して手を振った。


「ありがとう」


日置は手を振りながら、ニッコリと微笑んだ。


「大久保さん」


安住が呼んだ。


「なによ~」

「あっちで、滝本東やってますよ」

「わかってるやんかいさ~、後で行くわ~。まずはお嬢ちゃんたちよ~」


そして試合は結局、2セット目も21-4で桐花が勝ちを収めたのであった―――

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