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サーよし!2  作者: たらふく
262/413

262 取材とサイン




昼食を終えた中川は、三回戦までの時間を利用して、大河を探すことにした。

そして中川は、男子側の通路を歩き、一番奥のコートへ向かった。

すると滝本東の選手たちが、軽くアップをしていた。


あら・・今から試合なのね・・

えっと・・大河くん・・大河くんはっと・・

あっ、いたわ!


大河は背の高い森田の陰に隠れて、アップをしていた。


「大河くん!」


中川が呼ぶと、大河のみならずチームメイトも一斉に中川を見た。


「あ、中川さん」


大河は動きを止めた。


「今から試合なの?」

「そやねん」

「あの・・私たち、三神に勝ったの」

「うん、観てたで」

「あの・・大河くんが呼んでくれたおかげで、私は救われたの」


中川は、ラケットミスをせずに済んだことを言った。


「きみさ、なんでボール追いかけたん」


大河は半笑いだった。


「なんだか・・打って返そうと思ったの」

「あはは。ラケットミス知らんかったんやな」

「そうなの。危ないところだったの」

「でも、また同じことしとったけど、なんでなん」

「それは・・その・・また大河くんに呼んでほしくて・・」

「えっ」


大河は唖然としていた。

あれは、そういうことだったのか、と。

きみは、アホか、と。


「でもっ・・打つつもりはなかったの」

「当然やろ」

「三神に勝てたのは・・大河くんのおかげなの。それでお礼を言いたくて・・」

「別に僕のおかげとかちゃうけど、でもよう頑張ったと思う。おめでとう」

「ありがとう・・あの・・それで・・」

「なに」

「今度・・一緒に練習してくれないかしら・・」

「え・・」

「いえっ・・その・・決闘とかじゃなくて、ただ練習を・・」


中川は、試合でしか会えないことを、とても淋しく思っていた。

なんとかして、大河と繋がりを持ちたいと望んでいたのだ。


「うん、ええよ」

「えっ!ほんと?ほんとにいいの!」

「きみの、あの変化球、受けてみたいと思たし」

「じ・・じゃ・・いつがいいかしら・・」


中川は前のめりになっていた。


「今、決めんでええんちゃう」

「え・・」

「今度、会うた時でええやん」

「今度・・」

「うん」

「今度って・・いつなのかしら・・」


こ・・これは・・遠回しに断ってるのよね・・


「中川さん」


そこで、なんと森田が声をかけてきた。


「え?」

「桐花は、三神に勝ったんやろ」

「そうだけど・・」

「ほな、リーグに上がるんは確実やん」

「それが、なにか?」

「リーグって、明日やん」

「ああ・・そうね」

「大河は明日ってこと、言うてるんとちゃうか」

「そうなの?」


そこで中川は大河を見た。

すると大河は、からかうように笑っているではないか。


「今から試合やし、慌てて決めんでもええやん」


大河がそう言った。


「そ・・そうよね!私たちには明日があるのよ!」

「うわあ・・」


大河は引いていたが、チームメイトはケラケラと笑っていた。


「じゃ、大河くん。頑張ってね!」

「うん」

「ごめんあそばせ」


中川はそう言って、「明日という字は明るい日と書くのね~」と歌いながら、この場を離れたのだった。

ちなみにこの曲は、アン真理子が歌ってヒットした『悲しみは駆け足でやってくる』という楽曲だった―――



その後、三回戦四回戦五回戦と勝ち進んだ桐花は、当然のように明日のリーグ戦へコマを進めた。

試合は阿部が出なくても、森上、重富、中川のシングルや、重富と中川のダブルスで完勝していた。

それぞれの試合内容だが、森上は言うに及ばず、重富の必殺サーブは誰も取ることができず、板のボールにも対応しかねていた。

そして中川のズボールの前では、誰もが踊るように空振りをした。

ちなみに和子は三回戦だけ前半に出て、負けはしたものの、結果はセットオールと大健闘したのだ。


そして今日の試合が全て終わり、日置と彼女らはロビーに出ていた。


「阿部さん」


日置が呼んだ。


「はい」

「明日なんだけどね、試合は五人いなくちゃいけないから、きみを出すことは出すけど、名前だけね」

「え・・」

「きみは、試合しなくていいから」

「いえ、明日には治ってます!」

「ダメダメ。ここで無理したら、来週のシングルとダブルス、出られなくなるから」


日置は当然、シングルもダブルスもインターハイ出場を狙っていた。


「えぇ~~・・」

「千賀ちゃぁん~、先生の言う通りやでぇ」

「チビ助、おめーの力なんざ借りなくてもよ、私らで勝ってやるから、高みの見物、ぶっこいてな」

「そやで。無理したらあかん」

「そんなん言うたかて・・」


「日置さん!」


そこへ植木がやって来た。


「植木くん」


日置はニッコリと笑った。


「リーグ確定、おめでとうございます!」

「ありがとう」

「いやあ~僕、今日のこと、一生忘れられません!」

「僕もそうだよ」

「それにしても、三神に勝つやなんて、すごいですよ!」

「ありがとう」

「あっ、それで取材したいんですけど、ええですか」

「この子たちに?」

「はい!それと日置さんにも」

「よーう、あんちゃんよ」


中川が呼んだ。


「なに?」

「取材は別に構わねぇが、我々の手の内を記事にするんじゃねぇぜ」

「え・・」

「必殺サーブ!そして門外不出のズボール!さらには各々の型や戦術!」

「・・・」

「これを書かれちゃあ、全国の野郎どもがビビるってもんよ」

「な・・なるほど・・」

「そうだな・・書くとするなら、趣味とか好きな食べ物とかにしな」

「え・・それって卓球と関係ないやん」

「つべこべ言いやがると、取材はさせねぇぜ」

「ああ・・いや、うん、わかった」


そして植木はメモ帳とペンを取り出して、「ほなら、阿部さんから」と言った。


「えっと、趣味はなんですか」

「えぇ・・趣味・・そうですねぇ・・釣りですかね」


阿部は釣りにはあまり興味がなかったが、子供の頃、よく父親に連れられて海に行ったことがあった。


「釣り・・渋いな・・」


植木はそう言いながらメモした。


「ほなら、好きな食べ物は?」

「うどんです」

「うどん・・と。で、卓球を始めたきっかけは?」


と、このように卓球に関しての質問もいくつかしたが、他校に知られても支障のない内容だった。


「じゃ、森上さん」

「はいぃ」

「趣味はなんですか」

「特にありませぇん」

「え、ないん?」

「はいぃ」

「そうか。じゃ、好きな食べ物は?」

「何でも食べますぅ」

「いや・・そうやなくて、特に」

「好き嫌いはないんですぅ」

「そうなんや・・」


そして森上にも卓球に関していくつか質問をした。


「じゃ、重富さん」

「はい」

「趣味は?」

「そらもう~~宝塚歌劇団の舞台を観ることです!」

「へぇー、宝塚、好きなんや」

「あの華やかなステージ・・私も一度でええから立ってみたいです・・」


重富は目を輝かせながら、あさっての方を見ていた。


「そ・・そうなんや・・じゃ、好きな食べ物は?」

「お好み焼きです」

「定番やな」


重富にも卓球に関することをいくつか質問し「じゃ、中川さん」と言った。


「趣味は、言うまでもねぇさ」


中川は植木が訊く前にそう言った。


「え・・なんなん」

「愛と誠さね!」

「ほ・・ほう・・」

「いやっ、趣味なんていうレベルじゃねぇさ。私の人生、そのものさね」

「なるほど・・じゃ、好きな食べ物――」


植木がそこまで言うと「誠さんとの出遭いは・・」と中川は続けた。


「いやいや、出遭いって、太賀誠って架空の人物やん」

「バカ言ってんじゃねぇぜ。私の中には誠さんがいるのさね・・」

「そ・・そうなんや・・。で、好きな食べ物は?」

「コーラだ・・」

「え・・」

「コーラだ・・」

「コーラって、飲み物やん」

「誠さんは、コーラの蓋を歯で開けるんだぜ・・」

「ええっ、そうなん?」

「おめー、できるか?」

「でっ・・出来るわけないやん」

「だうろさね・・」

「あ、そうそう」


そこで植木は鞄の中から、ウォークマンを取り出した。


「これ、借りてたやつ」


そう言って植木は、中川に渡した。


「おめー、聴いたか?」

「うん」

「べらぼうにいい曲だったろ」

「うん、めっちゃよかったし、僕、歌詞をメモしたで。で、これ、誰なん?」

「これはよ、私ら桐花卓球部の応援歌なんでぇ」

「へぇーー!そうなんや」

「歌ってるのは、私らだぜ」

「えっ!ほんまかいな!」

「まあ、そういうことさね」

「どういうことかわからんけど、応援歌ってすごいな」


こうして中川に質問をした後、和子と日置にも質問をし、取材は終わった。


「ほな、明日も来ますんで、頑張ってください!」

「ありがとう」


日置が礼を言った後、彼女たちも頭を下げていた。

そして植木は一足先に、体育館を出て行った。


「さて、帰るよ」


日置がそう言って一行が体育館を出ようとすると「あの・・森上さん・・」と、見知らぬ女子が森上に声をかけてきたのだ。

森上は振り向いて「なんですかぁ」と答えた。


「わ・・私・・森上さんの試合を観てて・・その・・」


女子は、とても緊張している様子だ。


「とてもすごいな、と思て・・それで・・サインを・・」

「え・・」


森上は唖然としていた。


「わ・・私・・森上さんのファンになったんです・・」

「ふ・・ファン・・」

「お願いします、サインして頂けませんか」


女子は手にしていたラケットケースとマジックを、森上に差し出した。


「私ぃ、サインなんかしたことないんですけどぉ」

「お願いします・・」

「よーう、森上よ」


中川が呼んだ。


「サインくれぇ、してやんな」

「でもぉ・・したことないしぃ」

「普通に字を書くだけだろうがよ」

「えぇ・・」

「おらおら、貸しな」


中川はそう言って女子からラケットケースとマジックを引き取り、森上に渡した。

森上は思わず日置を見た。

すると日置は「書いてあげなさい」と優しく微笑んだ。

そして森上は、縦書きで「森上恵美子」と書いた。


「日にちも書いてあげなさい」


日置が言った。


「ああ・・はいぃ」


そして森上は年月日も書いて、女子に返した。


「ありがとうございました!」


女子は照れながらも嬉しそうに、この場を去って行った。


「森上さん」


日置が呼んだ。


「はいぃ」

「きみ、今のうちに、サイン考えといた方がいいよ」


日置は現役時代、何度もサインをした経験があった。

きっと、森上もそうなるだろうと思ったのだ。


「よーし、私も考えるぜ」


まだ先の話ではあるが、中川は毎日のようにサインをする場に身を置くことになるのである―――

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