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サーよし!2  作者: たらふく
241/413

241 ダブルスが鍵




―――「おい、ス~」



今しがた到着した早坂は、人を掻き分けながらやっとの思いで植木を見つけた。


「ああっ、編集長!遅いですよ!」


そこで小島と浅野は、早坂に軽く一礼した。


「おお、きみらも来てたんか」

「はい」

「編集長!森上さん、勝ちましたよ!しかも2セット目も5点ですよ!」

「それにしても、この人だかり、なんやねん」


早坂は辺りを見回していた。


「森上さんが勝ったからですよ!」

「で、次はダブルスか」

「そうです!」

「ほな、今は1-1か」

「そうなんですよ!」


興奮する植木を見て、小島と浅野はクスクスと笑っていたが、とても嬉しく思っていた。


「それにしてもあれやな。1点落とした三神は、穏やかやないやろな」

「そんなん関係ないですよ。なんせ相手は森上さんなんですから」

「お前、なに言うてんねん」

「え?」

「三神にとっては、二回戦やぞ。これがリーグならまだしも」

「桐花にとっても二回戦ですよ」

「お前はほんまにアホやな」

「なんですか・・アホて・・」

「もしやぞ・・もし・・」

「・・・」

「万が一、三神が負けてみぃ」

「別にええやないですか」

「インターハイどころか、近畿にも行かれへんのやぞ」

「あっ・・」


植木はやっと気が付いたようだ。


「それどろこか、来年はシードがないんや」

「ほ・・ほんまや・・」

「まあ・・まさか負けることはないと思うけどな」

「もし・・三神が負けたら・・」


植木は呆然としながら、ポツリと呟いた。


「いや・・桐花が勝つんはええんです。むしろ勝ってほしいですけど・・。でも、三神が近畿にも行かれへんて・・それはいくらなんでも・・」


植木は、全国でもトップの三神がリーグにも上がれない、近畿にも行けないとなることが、納得できなかった。

桐花はいい。むしろ勝ってくれ、と。

けれども小谷田や中井田、ひいてはもっと下の他校が代表になることがあっていいものか、と。

その意味で、植木はなんとも複雑な心境になっていた。


「植木さん」


小島が呼んだ。


「なに・・」

「私らかて、二年の時はそうでした」

「・・・」

「あの時は不正があったとはいえ、負けは負けでした」

「うん・・」

「私らは絶望感に襲われ、落ち込みもしましたが、次の年はインターハイへ行きました」

「うん・・」

「それは三神も同じとちゃいますかね」

「そらそうやけど・・」

「というか、桐花、まだ勝ってませんし」

「それやん。さも桐花が勝ったみたいな話になってますけど、ほんまの勝負はこっからですし、どう考えても有利なんは三神です」


浅野がそう言った。


「うん・・そやな・・」


植木が答えると、四人はコートに目を向けた。



―――桐花ベンチでは。



「さて、阿部さん、森上さん」


阿部と森上は日置の前に立っていた。


「中川さんの密書によると、山科さんのラバーは不明だ」

「はい」

「はいぃ」

「でもこれは打てばわかる」

「はい」

「はいぃ」

「森上さん」

「はいぃ」

「疲れはどう?」

「なんともありませぇん」


森上の体力は、まだまだ十分に残っていた。


「うん、それならいい。そこで、阿部さんは絶対に台から下がらないこと」

「はいっ」

「森上さんは早めにドライブを打って、返球を阿部さんが決める。その際、コースを狙うこと。これは絶対に怠らないように」

「はいっ」

「はいぃ」

「きみたちの攻撃パターンはこれだ。ここがしっかりできれば、互角に戦える」

「はいっ」

「はいぃ」

「このダブルスが鍵だ。わかってるね」

「はいっ」

「はいぃ」

「よし。徹底的に叩きのめしておいで」


日置は二人の肩をポンと叩いた。


「よーーし!天地ときよしなんざ、屁でもねぇぜ!出だしからガンガンぶっ飛ばしてやんな!」

「オスカルやなくて、きよしに変更したんか・・」


阿部が言った。


「それでええと思う」


重富は、以前から「きよし」にすべきだと思っていた。


「いいってことよ!さあーーー命のやり取りでぇ!行って来な!」


中川は二人の背中をバーンと叩いた。

そして重富は副審に着くため、二人と一緒にコートへ向かった。


「先輩!ファイトです!」


和子がそう言うと、阿部と森上は振り向いて「うん」と頷いた。


「ああ~~、身震いがしやがるぜ」


中川は、わざと震える仕草をした。


「先輩、大丈夫ですか?」

「あはは、郡司よ。こういうのを武者震いってんだ」

「武者震い・・」

「森上とチビ助が勝つと、次の私で引導を渡してやる・・そういうことさね・・」

「なるほど・・」


中川はこう言ったものの、この後、また「事件」が勃発するのである。



―――三神ベンチでは。



「野間くん、山科くん」


二人は皆藤の前に立っていた。


「はい」

「森上くんの力は、きみたちも見ていた通りで群を抜いています」

「はい」

「森上くんにドライブを打たせてもいいです。きみたちなら対処できますね」

「はい」

「そこで狙うは阿部くんです」

「はい」

「阿部くんを崩せば、あの二人は並のペアです」

「はい」

「ダブルスは絶対です。落としてはなりませんよ」

「はい」

「頑張りなさい」


皆藤は厳しい表情でコクリと頷いた。


「野間ちゃん、山ちゃん、頑張りますよ」

「ここは絶対に取りますよ」

「出だし1本ですよ」

「先輩、頑張りますよ」


彼女らは、冷静に二人を励ました。

そして野間と山科は、一礼してコートへ向かった。


「山ちゃん」


歩きながら野間が呼んだ。


「はい」

「まずはこのセットを先に取りますよ」

「はい」

「山ちゃんが森上さんのボールを受けてください」

「それがいいですね」


野間が言いたいのはこうだ。

後ろへ下がらない山科が、早いタイミングで森上のドライブを前で受ける。

するととてつもなく速いボールが阿部に返る。

となると、スマッシュを決めたい阿部は、合わせるしかなくなる。

そして阿部のボールを自分が決める、と。

この作戦は、山科も理解していた。


皆藤が言った「阿部を崩す」とは、まさにこのことであろう、と。

スマッシュを封印された阿部には、焦りが生じる。

するとそこから、コンビネーションが崩れる。

まずは、メンタルで追い詰めることなのだ、と。



―――ここは桂山化学。



仕事を終えた彼女ら六人は、社食へ向かっていた。


「彩華と内匠頭は?」


為所が誰ともなく訊いた。


「さあ、知らんで」

「外へ行ったんかな」

「黙って行く?」

「知らんがな」


彼女らが話している横を、小島の男性上司が通りかかった。


「あの、すみません」


杉裏が声をかけた。


「なに?」

「小島さん、まだ事務室ですか」

「いや、早引けしたで」

「えっ」

「早引けて、体調でも悪かったんですか」


外間が訊いた。


「いや、用事があるとかで」

「用事・・」

「総務の浅野さんと二人で帰っとったで」

「え・・内匠頭と一緒に・・」


そこで彼女らは顔を見合わせて首をかしげていた。

そして上司はこの場を去った。


「用事て・・この後、練習やん」


岩水が言った。


「あれちゃうのん~今日、試合やん~」


蒲内は予選のことを言った。


「ああ・・確かにそうやけど」

「応援に行ったんとちゃうんかな~」

「応援か・・」

「でもさ、早引けしてまで行くか?」


井ノ下が言った。


「しかも内匠頭まで」


為所が言った。


「ちょ・・体育館に電話してみようや」


外間がそう言うと、六人は公衆電話へ向かった。

そして外間が電話をかけると、事務の男性は「二回戦で三神とやってます」とすぐに答えた。

驚いた彼女らは、慌てて体育館へ向かったのであった―――

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