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サーよし!2  作者: たらふく
240/413

240 桐花のエース




そして仙崎はボールを手にして、「1本!」と気合の入った声を発した。

森上は黙ったままレシーブの構えに入り、仙崎のラケットを見ていた。

仙崎はバックコースから、上回転のかかったバックのロングサーブをフォアストレートに出した。

これもとてもいいサーブである。

普通の選手なら、合わせて返すのがやっとであろう。

けれども森上は、すぐさまフォアへ移動し、倍の回転でドライブをフォアクロスへ打った。


は・・速い・・


仙崎は慌てて後ろへ下がり、フォアカットで返した。

再度フォアへ入ったボールを、森上はバックストレートへドライブで返した。

仙崎は素早くバックへ移動し、なんなくバックカットで返した。

そのボールを森上は、仙崎の体をめがけてまたドライブを放った。

仙崎は体を詰まらせながらも、懸命にフォアカットで返したが、ボールが少し高くなった。


これや・・


森上はドライブを打つと見せかけて、寸でのところでストップをかけに行った。

仙崎はボールが高く上がった分、スマッシュを打たれると思い、動きが一歩出遅れた。

けれども懸命に前に走り寄った。

すると森上は、ストップする形から打ちに出た。

これもコンマ数秒の出来事だ。

仙崎の体に、一瞬悪寒が走った。

なんでこんなことができるんだ、と。

明らかにストップに入る体勢だったじゃないか、と。


そして森上は、仙崎をあざ笑うかのようにバッククロスへ「爆弾スマッシュ」を打ち込んだ。

仙崎は台の前で立ったまま、ラケットを出すことすらできずに呆然と森上を見ていた。


「サーよし!」


よし・・これで6-1や・・


「おおおおおお~~~~!」


この試合を観ている者から、驚きの歓声が上がった。


「ナイスボーーール!」


日置はまた、強く一拍手して、そう叫んだ。


「きゃあ~~~!恵美ちゃん~~、すごいいいい~~~」


阿部はもはや、ファンと化していた。


「ひゃあ~~~、今のなんなん!一秒くらいの間で、なんか色々とやったで!」

「いやあ~~~まいった!森上~~~おめー、ほんとすげぇーーーわ!」


重富と中川も、興奮しきりだった。


仙崎は、ボールを拾いながら、「どんまい」と言った。


この森上さん・・

ほんま・・穴がない・・

何を仕掛けても・・

全部万全で対応する力がある・・

実力という以前に・・

生まれ持っての身体能力がそうさせてるって感じや・・


そして森上はこの後も連続でポイントを取り、なんと9-1でサーブチェンジとなったのである。

まるで第一試合の野間がそうであったように、桐花のエースである森上は、三神にも引けをとらなかったのだ。

その後、仙崎も挽回すべく懸命になってカットし続けるも、森上はミスすることがなかった。

そして第1セットは、21-4で森上が取ったのである。

これはまさに、野間が重富から1セットを奪った時の点数と同じであった。


この時点で、館内は第1コートに注目する者が増えていた。


「あの三神が4点・・」

「森上って・・誰なん・・」

「仙崎さん・・不調なん・・?」

「嘘やろ・・これ、夢なんちゃう・・」


このような声があちこちから挙がっていた。

それは、二回戦を順当に勝ち上がっていた小谷田の監督である中澤も、中井田の監督である日下部も同様だった。


「森上・・こいつはバケモンや・・」


中澤がポツリと呟いた。


「昨年の一年生大会では・・ここまでやなかったですね・・」


日下部も呆然としていた。


「森上だけやない。トップで出た重富かて負けはしたものの・・あのブロックは・・」

「あれは・・野間さんやから勝てたんであって・・他校なら・・」

「ど素人やった重富が、あれだけ成長したということは・・阿部も中川も・・」

「確かにそうですね・・」

「ほんで、なんや変なサーブも出しとったしな・・」

「でも、三神が負けることはあり得ないですよ」

「うん。それはそうや」


中澤も日下部も来年のことを考えていた。

自分のブロックに入れば、リーグに上がるのはきついぞ、と。



―――後方の通路では。



「よ・・4点・・」


植木は、ほぼ放心状態で呟いた。


「三神に・・4点て・・」


小島も呆然としていた。


「これで森上さんの勝ちは確実や。ということは1-1でダブルスか」


浅野は意外と冷静だった。


「ちょっと僕、電話して来る!」


植木はそう言って、慌ててロビーに向かった。

小島と浅野は、植木の走って行く姿を、見るともなく見ていた。


「ダブルスて、やっぱりエースの野間さんと二番手やろな」


小島が言った。


「うん。そやと思うで」

「ほならこっちは、森上さんと阿部さんか」

「これ・・ひょっとしたらひょっとするかもやで・・」

「勝つってこと?ダブルスが?」

「だってさ、今の森上さん見たやろ。あの子はパワーだけやないで」

「うん。確かにな」

「せやけど、ダブルスはコンビネーションが大事やん。森上さんと阿部さんが、果たしてどうなんかやな・・」


浅野とて、森上と阿部のコンビネーションは、桂山で練習した際に、その良さは知っている。

けれども相手は三神だ。

なにがきっかけで、崩されるかもわからない。

一旦崩れてしまうと、雪崩のように止まらなくなることもある。

そうなると、もう立て直しが効かない。

けれども、自分たちが三神と対戦した時よりは、勝てる可能性が遙かに高い。

頼むから勝ってくれ。

打倒三神を目の前で見せてくれと、二人は心の中で願っていた。



―――ロビーでは。



植木は早坂に電話をしていた。


「もしもしっ!」


植木は興奮していた。


「なんや、ス~、どないしたんや」

「あのっ・・あのですね!」

「またなんかあったんか」


早坂は呆れていた。

お前が電話してくるときは、いつも「事件」が発生している、と。

少しは落ち着けよ、と。


「あったんです!あったんですよ!」

「なにがやねん」

「いやっ・・というか、桐花はまた二回戦で三神となんですよ!」

「へぇ」

「へぇ・・て」

「桐花も不運やな。日置は、またかい!と言いたなるやろな」

「ちゃうんです!いやっ、そうなんですけど、ちゃうんです!」

「だからなにがやねん」

「トップは三神のエースにボロ負けしたんですけど、二番の森上さん、1セット目、4本で勝ったんですよ!」

「はあ?」


さすがの早坂も、聴き間違いではないのかと思った。


「お前、それ逆ちゃうんか」

「ちゃいますって!森上さんが4点で勝ったんですよ!」

「ほっ・・ほんまか!いや、待て。相手、三神か?」

「だから、三神て言うてますやん!」

「ほんまか・・」


早坂は信じられないと思った。

相手は王者、三神だぞ、と。

1セット取るのにも難しいどころか、相手に10点も与えないのが当たり前なんだぞ、と。

それが、10点どころか1セット取った上に、4点はあり得ない、と。


「三神、誰やねん」

「仙崎さんっていう、カットマンです」

「体調、悪いんとちゃうか」

「そんなことないです!動きまくってますし!」

「よし。わしも今から行く!」

「はい!待ってます!」


そして植木は受話器を置いて、急いでフロアに戻った。



―――コートでは。



仙崎は1セット目を忘れようと努めていた。

そして、なんとしてでもこのセットを取り、3セット目に持ち込むと強く決意していた。


一方で森上は、熱くなり過ぎずに平静を保とうと努めていた。

その意味で、森上も1セット目は忘れることにしていた。

ここで森上に、少しでも慢心があると、仙崎に付け入る隙を与えたかもしれない。

けれども森上は、このセットを取られると負けてしまう、というプレッシャーを自らに課していたのだ。

森上の実力に加え、このメンタルで臨まれると、仙崎には打開策はないといっても過言ではない。


やがて試合が始まったが、戦況は変わることはなかった。

森上はどこまでもボールを追い続け、また仙崎もどこまでも拾い続けた。

そんな中、三神ベンチはいつものように冷静で、例え仙崎が負けたとしても、チームが負けるはずがないという余裕があった。

いや、余裕というよりプライドがそうさせていた。


一方で、桐花ベンチは蜂の巣をつついたような「騒ぎ」になっていた。

なぜなら、試合も最終局面を迎えた時点で、なんとカウントは20-5と森上がほぼ勝利を収めていたからである。


よし・・ラスト1本や・・

絶対に天地と同じ点数で勝つ・・


野間対重富は、2セット目は21-5で野間が勝っていた。

森上は、このことに拘っていたのだ。

なぜなら自分は桐花のエースだ、と。

同じ点数で勝ちを収めれば、1-1のイーブンになることもそうだが、力も均衡しているんだと三神に知らしめたかったのだ。


「ラスト1本!」


森上は、気合いの入った声を発し、レシーブの構えに入った。

仙崎も、最後まで諦めないといった表情を見せ、サーブを出す構えに入った。


そして仙崎は、森上に打たせまいと、下回転の短いサーブをバックコースに出した。

森上はツッツキでバックコースへ長く返した。

そう、ドライブを打つためである。

術中に嵌ってなるものかと、仙崎はストップをかけた。

再度バックに入ったボールに、森上はすぐさま回り込み、台上で叩きに行った。

バックに入ったボールに、仙崎はすぐに後ろへ下がって懸命にカットして返した。


森上は、これが最後だといわんばかりに、渾身のドライブをフォアストレートへ放った。

仙崎はすぐにフォアへ動いてカットしたが、予想以上の威力に押され、ボールは高く返った。


「おおおおお~~~!」


館内からまた歓声が挙がった。

まるで、どんなスマッシュを打つんだと期待するような声だ。

ミドルに入ったボールに、森上は万全の態勢で打つ構えに入った。

この時点で、仙崎は後ろへ下がったままである。


確実な1点を取る・・


こう思った森上は、寸でのところでストップをかけた。

普通、森上レベルのドライブやスマッシュを打てる者であれば、最後も打って決めたいというのが人情というもの。

けれども森上はそれを選ばなかったのだ。


仙崎は、もう動くこともなかった。

そしてボールは台上でツーバウンドしていた。


「サーよし!」


森上は最後も派手に喜ぶことはなく、力強いガッツポーズをした。


「よーーし!よーーし!」


日置は、両手でガッツポーズをしていた。


「よっしゃあ~~~!恵美ちゃん~~~!ナイスゲーム!」

「やったああああ!これで1-1や~~~!」

「森上~~~!おめーーほんとに撃沈させやがった!すげぇーーーぜ!」


この時点で館内は「三神の二番が負けた」という「ニュース」が飛び交ったていた。

そして第1コートの通路では、人も通れないくらいのギャラリーが押し寄せていたのである―――

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