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サーよし!2  作者: たらふく
24/413

24 複雑に絡む糸




この日の夜遅く、日置は帰宅した―――



日置は阿部との練習を終えた後、西藤の店に寄り、小島との交際が順調なことを報告した。

その際、西藤は大変喜んでいたが、「小島さんは十八や。滅多なことしたらあかんで。とにかく大事にしぃや」と釘を刺されていた。

西藤の若い時代は、結婚前に交渉を持つなどあり得ないと考えられていた。

それでも西藤の考え方は、割と先端をいっていたが、相手が十八とあっては、釘を刺さざるを得なかったのである。


日置は、西藤の思いを十分理解していたが、そこは日置も男だ。

つい魔がさす瞬間があるのだ。

だからこそ、今後も小島を泊めるつもりは一切なかった。


あれ・・


日置はダイニングのテーブルに置かれている、青い包みと置手紙を見つけた。


『先生へ。今日、写真立てを買いました。部屋に飾ってくれると嬉しいです。彩華より』


彩ちゃん・・来てたんだ・・


日置は包みを開けた。

すると中から、写真立てが出てきた。


そっか・・彩ちゃん、これを僕に渡そうとして来てくれたんだ・・

もっと早く帰ればよかったな・・

悪いことをしたな・・


日置は今度、小島と二人で写真を撮って、部屋に飾ろうと思った。

そして日置は、写真立ても包み紙も置手紙も、小物入れの引き出しに大事にしまった。


あ・・もう遅いから電話は無理だな・・


日置は時計を見てそう思った。

時間は午後十時半を回っていた。


ルルルル・・


そこで電話が鳴った。


あ、彩ちゃんかな・・


日置は直ぐに受話器を取った。


「もしもし、日置です」

「あ・・日置先生、こんなに遅く、すみません」


相手はさっきかけてきた女性だった。

日置は、聞き覚えがある気がしたが、誰かはわからなった。


「どちら様ですか」

「私、加賀見です」


そう、電話の主は加賀見だったのだ。


「ああ、加賀見先生。どうしたんですか」

「いえ、明日にしようと思ったんですが、実は今日、中尾さんから電話がありまして」

「ほう、中尾から」

「なんでも・・以前、南仁和高校の男子生徒と中尾さんたちは、あの店へ行きましたでしょう?」

「はい」

「それで、昨日の帰宅途中、その男子生徒たちに偶然会ったそうなんですが、なんでも酷く脅されたらしいんです」

「え・・どういうことですか」

「店の代金の十万払えだとか、生徒手帳を取り上げられて住所と電話番号を知られたり、挙句の果てには「覚えとけよ」と捨て台詞を吐いたそうなんです」

「それは酷いですね」

「それで、私、どうすればええのかと・・日置先生に相談したくてですね、それでお電話を差し上げました」

「中尾の親御さんは、ご存じなんですか」

「いえ・・話してないらしいんです」

「それは一度、親御さんと話をして、それと南仁和高校にも、出向いた方がいいですよ」

「あの・・日置先生・・」

「はい」

「お力を貸していただけませんか」

「はい、もちろんです」

「よ・・よかった。実は私、とても心細かったんです」

「僕に限らず、校長や他の先生方とも話し合いましょう」

「はい、そうですね。わかりました。夜分にすみませんでした」

「いいえ、では明日、学校で」


そして日置は電話を切った。



―――一方、小島は。



日置と加賀見が電話中、そうとは知らない小島は、日置から連絡がないことに不安を抱いていた。

日置なら、直ぐにかけてきて「彩ちゃん、ありがとう」と礼を言うはずだ。と。

小島は、遅い時間だとはわかっていたが、日置に電話をかけた。

幸い、両親も弟も、寝室だ。


ツーツーツー


え・・話し中やん・・


小島は番号を間違えたのだと「都合よく」考え、もう一度かけ直してみた。

その際、番号の一つ一つを確認するように、ボタンを押した。


ツーツーツー


やっぱり話し中や・・

きっと・・あの女の人に違いない・・

こんな夜遅くに話することなんてあるか・・?


小島は一瞬、貴理子かと思ったが、声が明らかに違っていた。

貴理子とは、かつて日置の婚約者だった。

日置と貴理子は見合いをして、結婚寸前までいったが、日置がフラれて破談になっていた。

その理由は、日置は小島のことが好きだったからである。


小島は仕方なく諦め、自室へ行った。


先生・・ほんまは私のこと・・


小島はベッドであおむけになり、天井を見つめていた。


先生にしたら・・

私て・・子供みたいなもんやもんな・・

もっと大人の女性っていうか・・

貴理子さんみたいな・・


そこで小島は、なんともバカな考えを巡らせた。

化粧を濃くして、肌を露出するような服に替えよう、と。

そして言葉遣いも、大阪弁を封印しよう、と。


冷静に考えれば、日置に直接訊けばすぐに解決することを、恋愛経験のない小島にとって、初めての「壁」にどう向き合えばいいのか困惑していた。

少なくとも日置は大人だ。しかも超モテモテ男だ。

そして自分は子供である、と。

日置に嫌われたくない、捨てられたくない、という恐怖心が、小島から冷静さを奪っていた。



―――そして翌日。



小島はなんと、朝から日置に電話をかけた。

時間はまだ七時で、しかも公衆電話だ。


ルルルル・・


何度かコールしたが、日置は出ない。


先生・・なんでやの・・

まさか・・あの後・・女性の家へ泊まりに・・?


小島は一旦切って、もう一度かけた。

けれども、日置は出なかった。


う・・嘘やん・・

これって・・どういうことなん・・


そう、小島は冷静ではなかった。

日置は、森上の朝練に行っているのだ。

そんなこともわからないほど、小島は動揺していた。

そして日置に別の彼女がいると、小島は確信してしまったのだ。


日置とて、小島に連絡して、写真立ての礼を言たくないはずがない。

けれども、早朝に電話をかけるのは、非常識だと判断したまでのことなのだ。



―――ここは桐花学園の校長室。



「ということなんです・・」


加賀見はたった今、校長の工藤に事の経緯を説明し終わった。

加賀見の他に、日置、中尾、木元、石川もいた。


「それで、中尾さん」


工藤が呼んだ。


「はい・・」

「相手の名前はかわりますか」

「えっと・・杉本と北野と森田です」

「学年は?」

「三年生です」

「わかりました。加賀見先生」

「はい」

「一度、南仁和高校へ出向いてくれませんか。その際、私から事前に連絡を入れておきます」

「はい」

「それで、その子たちの担任と話をして下さい」

「承知しました」

「日置先生も同行してください」

「わかりました」


そして日置と加賀見は、南仁和高校へ行くことが決まった。

中尾らは、日置と加賀見に「すみません・・」と、申し訳なさそうに小さくなって詫びた。


「いいのよ。私がきっと何とかする。それと、親御さん方にも話をしますからね」


加賀見は、前のめりになっていた。

以前のいじめ問題の「減点」を取り戻すためではなく、元来、真面目な加賀見は、心を入れ替えたと同時に担任としての責任を果たそうとしていた。

けれども、力が入り過ぎて、今にも糸が切れそうだった。

日置は、それが心配だった。

だからこそ工藤も、日置に同行するよう命じたのだ。


その後、日置は昼休み、阿部に放課後の練習は中止との旨を告げた。

そして日置と加賀見は二人で南仁和高校へ向かったのである。



―――「先生、ほんとにすみません」



最寄り駅へ向かう途中、加賀見が日置に詫びた。


「いいえ。こういうことは早め早めが肝心です。きちんと対処しておかないと、取り返しがつかなくなる場合もありますからね」

「えぇ。そうですね」

「加賀見先生」

「はい?」

「あまり力を入れ過ぎないようにね」

「私、力が入ってます?」

「めちゃくちゃ入ってます」


日置はそう言ってニッコリと笑った。


「あら・・そうでしたか・・」

「大丈夫。僕がちゃんとサポートしますから」

「よろしくお願いします」


ほどなくして、二人は天王寺に到着した。

南仁和高校は、市内の大正区という地域に所在していた。

環状線で行けば、二十分とかからない距離だ。


日置と加賀見は、券売機で切符を購入していた。

そこで間の悪いことに、外間が日置を見つけてしまったのだ。

外間は体調を崩し、仕事を早引けして帰宅する途中だったのだ。


あ・・先生やん・・


外間は声をかけようと思ったが、躊躇した。

なぜなら、偶然にも日置と加賀見は、互いにニッコリと微笑み合っていたからだ。

加賀見が小銭を落とし、それを日置が拾ってやった時に外間は見たのだ。


え・・あれ、誰なん・・


小島もそうだが、外間も彼女らも加賀見の顔は知らない。


ちょ・・これ、あかんのとちゃう・・

彩華が知ったら・・

いや・・あかんあかん・・

言われへんで・・


そして日置と加賀見は改札を入り、環状線のホームに向かうため、階段を下りて行った。

外間は、二人の後姿をずっと見ていた。

そして、呆然としたまま、地下鉄の駅へ向かった。

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