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サーよし!2  作者: たらふく
239/413

239 予想外




そして森上は、ボールをポーンと高く上げ、鋭い上回転のかかったロングサーブをミドルへ出した。

仙崎はすっと右へ移動し、バックカットで返した。

けれどもこのカットは、横回転が少し入った斜め回転のボールだった。

フォアに入ったボールを、森上はドライブではなく、鋭いミート打ちで返したが、下回転だと見誤った森上は、ラケットコントロールを間違えてオーバーミスをした。


「サーよし」


仙崎はやっと1点を取ったが、その声は冷静そのものだった。


「ナイスカットですよ」

「もう1本ですよ」

「挽回しますよ」


ベンチからも冷静な声が挙がっていた。


「どんまい、どんまい!」


日置は、気にすることはない、と言わんばかりに拍手をしていた。


「恵美ちゃん~どんまいやで~!」

「ここ1本取るで!」

「今の1点なんざ、ご愛敬よ!気にするこたぁねぇぜ~~~!」


彼女らも檄を飛ばした。


「どんまい」


森上もそう声を発した。


ここは・・

3-2やなくて・・4-1でサーブチェンジにせんと・・


森上はサーブの構えに入り、もう一度ボールをポーンと高く上げた。

そしてさっきと同じ要領で、今度はバックのネット際に小さなサーブを出した。

仙崎は、なんなくツッツキでバックコースへ返した。

森上もツッツキをバックに送った。


すると仙崎は、ツッッキながらボールが離れる瞬間、横回転をかけて返した。

ボールは森上の右側を流れるようにカーブした。

森上はすぐさまフォアへ移動し、バウンドした瞬間、ミドルへ叩き込んだ。

体を詰まらせた仙崎は、苦し紛れのバックカットでなんとか返した。


ミドルに入ったボールを、森上は渾身の力を込めてドライブを打ちに行った。

これもコースはミドルだ。

また体を詰まらせた仙崎は、今度はフォアカットで返した。


仙崎くん・・

この1本は大事ですよ・・

必ず取りなさい・・


皆藤はそう思いながら観ていた。


クチビルゲ・・だいぶ後ろへ下がってる・・

ここは・・どっちがええかな・・


そう、森上はドライブなのかストップなのかを考えていた。


このような場合、攻撃側は早く決めたいという意思が働く。

カットマン相手に、なるべくなら長いラリーを続けたくない。

けれども森上は、早く決めるのではなく、ここは絶対に1点取って4-1にすることが大事なのだと冷静に考えていた。


そして森上は、ドライブではなくストップをかけた。

仙崎は全速力で前に駆け寄って拾った。

けれどもボールが少し長くなった。

森上はすぐさまドライブを打つ構えに入った。

すると仙崎は反射的に後ろへ下がった。

その動きを見逃さなかった森上は、寸でのところで再びストップをかけた。

仙崎の足は止まったまま、ボールは台上でコンコン・・とツーバウンドしていた。


「サーよし!」


今しがたの戦術は、まったく森上らしくない。

日置やチームメイトに限らず、森上の武器はスーパードライブだと誰しもが疑わない。

そもそも試合開始からの森上の攻撃は、ドライブを打ちもしたが、それは決めボールではなく、点を取ったのは台上の処理、カウンターのミート打ち、サーブ、そして今のストップである。

森上自身は無意識だったが、ドライブばかりで勝負すれば、点を取るのに苦労する。

そこで「小技」も使い、幸いにも点に繋がった。

同時に、皆藤や仙崎の頭には、「小技」がインプットされた。

となると、ドライブを打つと見せかけて「小技」の場合もある、という意識が働く。

それこそが、ここぞという時、森上のドライブが何倍もの効果を発揮するのだ。


「ナイスボール!」


日置は4-1になったことで、ますますこっちが有利になったと思っていた。


「よっしゃ~~~!ナイスストップ!」

「あれは取れんわ~~~!」

「よーーし!クチビルゲの足を雁字搦めにしてやんな!」


副審を務めている和子も、「森上先輩・・すご過ぎる・・」と心の中で呟いていた。

そしてサーブチェンジとなり、仙崎はボールを手に乗せて構えに入った。


たかが・・4-1・・

まだ試合は始まったばかり・・

絶対に挽回する・・

三神が負けるわけにはいかん・・


仙崎は森上に厳しい視線を向け、ボールをポーンと高く上げた。

そう、投げ上げサーブである。

複雑にラケットを動かして出したサーブは、まるで必殺サーブが如く台上で左にカーブした。


フォアの斜めや・・


仙崎はバック面で出したのだが、回転はフォアの斜めと同じだ。

阿部や重富の必殺サーブを嫌というほど受けて来た森上は、回転を見破った。

そしてすぐさま回り込み、フォアストレートへドライブを打った。

けれども仙崎は、このボールを待っていた。

そう、三球目攻撃である。

仙崎は後ろへ下がらず、スマッシュを打ちに出た。

そしてフォアクロスへ鋭いスマッシュが入った。


パシーン!


誰もが決まったと思った。

けれども森上は、懸命に走ってそのボールに追いついた。


あれに追いつくのですか・・


皆藤は唖然としていた。

なぜなら、ボールがバウンドする寸前には、森上はまだバックコースにいたからである。


「うわああああ~~~!」


阿部と重富は驚愕の声を挙げた。


「行け行け~~~~~!」


中川は右手を挙げてそう言った。


ボールに追いついた森上は、そのままカウンターでフォアに叩き込んだ。

仙崎は、まさか返って来るとは思いもせず、少し慌てたが再度スマッシュを打ち込んだ。

森上は打った勢いで、まだフォアコースの端にいた。

仙崎が打ったボールは慌てた分だけ、コースはミドルだ。

森上は回り込むのは無理だと思い、バックでボールを高く打ち返した。

そう、ロビングである。

ここで有利になった仙崎は、またスマッシュを打った。

森上は前には戻らず、後ろでずっと高いボールを返し続けた。


「おおおおおお~~~!」


この試合を観ていた館内の者からは、どっちが根負けするんだ、と言わんばかりの声が挙がった。


「粘れ~~~森上~~~!」


中川が大声で叫んだ。


「恵美ちゃん~~~!しっかり~~~!」

「後ろから打て~~~!」


重富は思わずそう叫んだ。


とみちゃん・・

言われんでもわかってるで・・


そう、森上は後ろから打って出ようとタイミングを図っていたのだ。

そして五球目のボールが返って来た時だった。

森上は姿勢を低くし、万全の体勢からスーパードライブを放った。


ビュッ!


まるで音が聴こえそうなボールは、仙崎のフォアクロスに叩き込まれた。

仙崎は後ろへ下がることができず、なんとかラケットを合わせに行ったがボールの勢いに押されて後逸した。

そう、前に飛ばなかったのだ。


「サーよし!」


まさに森上は絶好調だった。

やることなすこと、全て成功していた。


「ナイスボーーーール!」


日置の体には鳥肌が立っていた。


僕は・・何度思い浮かべただろう・・

きみが縦横無尽に動き回って・・

三神を叩きのめす姿を・・

あの時・・きみを諦めなくてよかった・・

ほんとうに・・よかった・・


あの時とは、昨年のさまざまな「騒動」のことである。


「きゃあ~~~~恵美ちゃん~~~!」

「前からすごいと思てたけど、ほんまにあんたはすごい~~~!」

「これやぁ~~~!マジでたまんねぇって!森上~~~!おめー最高だぜ!」



―――三神ベンチでは。



「ふむ・・」


皆藤は、仙崎では勝てないと悟った。

彼女らも、予想以上の森上の実力に唖然とするばかりだった。

中でも須藤は、その意を強くしていた。


森上さん・・

この子は、別格や・・

今の私でも勝てるかどうかわからん・・

せやけど・・

来年は必ず対決する・・

森上さんを倒さな・・桐花に勝ったとは言えん・・

三神は・・一敗することも許されへんのや・・


「仙崎くん」


皆藤が呼んだ。


「はい」


仙崎は振り向いて答えた。


「タイムを取りなさい」


仙崎は静かに頷いてタイムを取ってベンチに下がり、皆藤の前に立った。


「今しがたの三球目はよかったのですが、攻撃では森上くんは抜けません」

「はい」

「きみはカットに徹しなさい」

「はい」

「まだ5-1です。これから挽回しなさい」

「はい」


仙崎は顔色一つ変えなかったが、その心中たるや、無論、穏やかではなかった。

そう、まだ1点しか取れてないからである。


「せんちゃん、頑張りますよ」


野間が肩を抱いて声をかけた。


「そう、せんちゃん、ここからですよ」

「挽回しますよ」

「1本ずつ取りましょう」


山科、向井、磯部も仙崎を励ました。


「先輩、1本ですよ」

「頑張りますよ」

「ファイトですよ、先輩」

「3-0で勝ちますよ」


須藤、菅原、関根、福田も懸命に励ました。


「はい、頑張ります」


仙崎はニッコリと笑ってコートへ向かった。



―――桐花ベンチでは。



森上は日置の前に立っていた。


「ここまでは、完璧だよ」

「はいぃ」

「でも、相手は何といっても三神だ。奥の手があるかもしれないし、21点の声を聴くまで、何があるわからない」

「はいぃ」

「ここはしっかり気を入れ直して、どこまでも挑む気持ちを忘れないように」

「はいぃ」

「よし。徹底的に叩きのめしておいで」


日置は森上の肩をポンと叩いた。


「恵美ちゃん!このままやで!」

「森上さん、いけるよ!頑張れ!」

「ふっふっふ」


中川は妙な笑い声を発して、森上の肩に手を置いた。

森上はキョトンとしながら中川を見た。


「おめー、まだまだこんなもんで収まるタマじゃねぇよな」

「え・・」

「おめーには、爆弾スマッシュがあんだろうがよ」

「爆弾・・」


そう、森上はまだ渾身のスマッシュを打ってなかった。


「爆弾スマッシュで、クチビルゲのラケットに穴をあけてやんな」

「あはは・・それは無理やでぇ」

「いいってことよ!さあーーー!クチビルゲを撃沈だ!」


中川は森上の背中をバーンと叩いた。

森上は「うん」と頷き、ゆっくりとコートへ向かった。

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