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サーよし!2  作者: たらふく
233/413

233 好きな人がいる




中川は、トイレから出た後、大河の姿を探した。


男子は・・女子と反対側だよな・・


中川はフロアへ戻り、男子が試合をしている側の通路を歩いていた。

すると一番奥の端で、滝本東の男子たちがたむろして立っているではないか。


いたっ!あの中に大河くんがいるはずでぇ・・


中川が通り過ぎるごとに、他校の男子らは中川に見惚れていた。

そんなことはお構いなしに、中川は一目散に大河の元へ急いだ。

すると大河は、チームメイトと楽しそうに話していた。


あら・・大河くん・・

なんて素敵な笑顔なの・・


中川は、急に心臓がドキドキしてきた。


ここは・・落ち着いて・・

「おはようございます」と言えばいいのよ・・

頑張るのよ・・私・・


そして中川は、さらに近寄った。

すると大河ではなく、チームメイトの男子らが中川に気が付いた。

その中には千里中央の駅前で、大河と一緒にいた男子もいた。


「この子・・」

「センターに来てた子やな・・」

「また・・ジャガイモて・・言いに来たんちゃうか・・」


「事情」を知っている男子は、「ちゃうで」と言いたかったが、大河に口止めされていたため、何も言わずに中川を見ていた。


「あ・・あの・・」


そこで中川が口を開いた。

すると大河は中川に気が付いたが、当然のように唖然としていた。


「たっ・・大河くん・・」

「なに・・」

「お・・おはよう・・でござる・・」


げぇ~~~・・

ござるってなんでぇ!


大河は「クスッ」と笑った。

そして他の者も「ござる・・」と言って笑っていた。


「いっ・・いえっ・・ござるではなくて・・ああっ、そうだわ。試合はどうなってらして・・?」

「これから」

「そっ・・そうなのね・・」

「中川さん」

「は・・はい・・」

「きみ、頑張ってたな」

「えっ」

「あのカット、ええやん」


大河はズボールのことを言った。


見てくれてた・・

大河くんは・・私の試合を見てくれてたんだ・・

きゃああああああ~~~!


中川は思わず叫びそうになった。



―――その頃、観客席では。



「中川さん、トイレ行ったきり、帰って来ぇへんな」


重富は後方の通路に目をやっていた。


「どうしたんやろうなぁ・・」


森上も心配していた。


「やっぱりな・・」


阿部が呟いた。


「どしたん?」


重富が訊いた。


「こんなこともあろうかと思て、これを持って来たんや」


阿部はバッグから小さな双眼鏡を取り出し、それで館内を見回していた。


「阿部さん、もしかして中川さんを探してんの?」

「そやで」

「ひゃあ~~すごいな」

「あの風来坊は、大河くんを探してるはずや」


阿部の勘は的中し、男子側を見ていた。


「おった!」

「ええっ、どこなん?」

「向こう側の一番端や!」


重富と森上と和子は、そこへ目をやった。


「よう見えへんけど、確かに男子の中に女子がいてるな」


重富が言った。


「その女子が中川さんや。大河くんもおるで」

「まったく・・次は三神やと言うのに・・」

「でもぉ、中川さんらしいなぁ」


森上は呑気に笑っていた。


「どういうこと?」


重富が訊いた。


「三神戦を目の前にしてもぉ、全く緊張してないってことやぁん」

「なるほど・・そういやそうやな」

「中川先輩って、かわいい人ですよね」

「なにがかわいいねん!ズボール、バラしよってからに」


阿部はそう言って、双眼鏡を外した。


「貸して、貸して」


重富は阿部から双眼鏡を引き取って、目にあてた。


「あはは、ほんまや。中川さん、男子に交じってる」

「まったく・・」


阿部はまだ呆れていた。


「まあまあ、千賀ちゃぁん。試合まで時間があるしぃ、ええと思うよぉ」

「確かに、緊張するよりはマシかも」


そう言って阿部は、自分を納得させていた。

重富は、和子に双眼鏡を渡し、「な?いてるやろ」と笑っていた。



―――彼女らと離れて座っている日置は。



何度もオーダーを書いては消し、を繰り返していた。


ここは・・トップは重富さんが面白いんだけどな・・

三神は、重富さんを補欠だと思ってるに違いない・・

でも・・出鼻は挫けたとしても・・果たして勝てるかどうかなんだよね・・

やっぱり・・森上さんかな・・

いや・・中川さんでも面白いんだよね・・

ズボール・・?だっけか・・

あれは通用する・・

うーん・・なんとしてでも・・トップは取りたい・・

そしたら・・絶対にうちが有利になるんだ・・


思い返せば三年前、今日と同じように三神と対戦する際、日置はオーダーに苦慮した。

けれどもあの日は、負けるという前提で、杉裏や岩水をシングルとダブルスで出した。

そう、場慣れさせるために。

ところが今日は違う。

誰をどこで出せば面白い試合になるか、或いは勝てるか、という本気で勝ちに行くためのオーダーだ。


日置の胸は、ある種、ワクワクしていた。

そのワクワクの一因は、まさに彼女たちの姿勢だった。

彼女たちは委縮するどころか、阿部などは中川がズボールを見せてしまったことで、本気で怒り心頭になっていた。

これは、とりもなおさず、勝ちに行く決意の表れだ。


そして今は、席が離れているとは言え、彼女らの会話は耳に入っていた。

ある意味、呑気に双眼鏡で中川を探している。

全く緊張してないぞ、と。

とはいえ、不安要素は一つある。

そう、中川が大河の元から戻った時、どうなっているかだ。

頼むから、落ち込んでくれるな、と日置は願っていた。



―――その頃、中川は。



「じ・・じゃ・・大河くん・・頑張ってね」


中川は、叫びたい気持ちを懸命に堪えていた。


「うん。中川さんも」

「あっ・・あのっ・・私、次は三神なの・・」

「うん」


いや・・うんじゃなくて・・なにか言ってほしいんだけど・・


「三神って・・とても強いの・・」

「知ってるで」


いやいや・・そうじゃなくて・・

きみは、僕のために頑張れ・・とか・・

勝てば・・付き合ってあげるとか・・


「私・・勝てるかしら・・」

「あのさ、はよ戻った方がええんとちゃう」

「え・・」


ぐぬぬ・・

やっぱり・・ダメなのね・・


「あっ・・あのっ・・」

「なに」

「試合を・・観てくれるのかしら・・」

「須藤さん、出ぇへんやろし、時間があれば観るかも」


なにっ・・

なぜ・・

須藤の名前を・・

も・・もしかして・・

須藤と・・

いやだ・・

嫌だああああああ~~~!


「じ・・じゃ・・私、行くわね・・」

「うん」


中川は、走ってこの場を去った。

チームメイトは、二人の「事情」を完全に悟った。

そして、あんな美人に好かれている大河を羨ましいと思った。


「なあ、大河」


一人が呼んだ。


「なに?」

「あの子、完全にお前のこと好きやん」

「僕には関係ない」

「冷たいな。かわいそうに」

「お前ってさ、須藤さんと、どういう関係なんや」


別の男子が訊いた。


「なんも関係ないで」

「ほな、なんで名前を出したんや」

「あの子とは中学の時から友達やし、単にそう言うただけやで」


大河の言葉に嘘はなかった。

須藤とは、単なる友達だったのだ。


「中川さん、多分、勘違いしてるで」

「もうその話、止めてくれへん。須藤さんも中川さんも、僕には関係ない」



―――一方、中川は。



傷心のまま、阿部らが待つ観客席に戻った。


「こら!中川さん。勝手に離れたらあかんやろ」


阿部が叱った。


「チビ助・・」

「なによ・・」

「大河くんさ・・好きなやつがいるんでぇ・・」


中川の言葉に、重富も森上も和子も驚いていた。


「あんた、まさか、こんな時にまた告白したんか?」


阿部が訊いた。


「いや・・」

「ほな、なんでそんな話になってるんよ」

「須藤のことが・・好きなんだとさ・・」

「え・・三神の?」

「おうよ・・」

「いやいや、ちょっと待ちぃな。一旦それは、横に置いて」

「え・・」

「あんた、これから試合なんやで!そんなん言うてる場合か!」

「でもよ・・須藤が出ねぇから・・試合には興味がないんだとさ・・」

「そんなん知らんがな!もう~~大河くん、こんな時に!」

「千賀ちゃぁん、落ち着いてぇ」

「そやで。阿部さん、落ち着いて」


森上も重富も、どうしたものかと困惑していた。

そこへ日置が「中川さん」と言いながら歩いてきた。

中川は「なんでぇ・・」と悲しげな眼をしていた。


「あのね、今の話、聞いてたんだけど」

「うん・・」

「僕は男だからわかるんだけど」

「なにをさね・・」

「大河くんだっけ。おそらくきみのことが気になってると思うんだよ」


恋愛は三流の日置が、大河の気持ちなどわかるはずもなかった。

日置は、なんとか中川を立ち直らせたい一心でそう言った。


「えっ」

「だから、わざと須藤さんの名前を出して、きみをからかったんだよ」

「そ・・そうなのかよ・・」

「こういうことは、男にしかわからないんだよ」

「ほんとか・・そうなのか・・」

「だってさ、誠だって愛お嬢さんが好きなのに、高原由紀とドライブしたでしょ」

「あっ!」

「そういうこと」

「なるほどさね!そーか、そーか!」


一方で、これまた恋愛に三流の中川は、いとも簡単に納得してしまった。

例えが『愛と誠』だっただけに、尚更だ。


「だから、大河くんのことは阿部さんの言うように一旦横に置いて。いいね」

「おうよ!打倒三神に力が漲ってきやがるぜ!」


日置は、大河に申し訳ないと思いつつも、中川が立ち直って一安心していた。

そして阿部らも、やれやれ・・と胸をなでおろしていた。

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