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サーよし!2  作者: たらふく
232/413

232 クラブ探しジジィの正体




その後、中川もダブルスも勝ち、この時点で桐花の勝利は決まったが、一回戦だけはラストまで試合をする。

そして和子は日置の前に立っていた―――



「さて、郡司さん」

「はい」

「練習通りにやればいいからね」

「はい」

「でも、試合には勝つこと。デビュー戦の一勝は今後に繋がる。いいね」

「はい」

「よし、徹底的に叩きのめしておいで」


日置は和子の肩をポンと叩いた。


「郡司さん、しっかりな!」

「大丈夫やでぇ~郡司さんなら勝てるよぉ」

「ファイトやで!」

「よーし、郡司よ、引っ越し野郎をぶっ倒してやんな!」


中川は審判に着くため、和子の肩を抱いて一緒にコートへ向かった。

和子はコートの前で、「ふぅ~・・」と緊張を解すように息を吐いた。


平常心で・・

そう・・平常心じゃけに・・


対する加瀬は、ダブルスに出たことと、もう負けは決まっているので緊張はなかった。

そして一勝くらいはしたいと思っていた。

やがて3本練習が始まったが、和子はミスを繰り返していた。


なんでな・・

腕が・・重い・・


「郡司さん、リラックス、リラックス」


日置は、肩を回しながら声をかけた。

和子は顔をひきつらせたまま、振り向いた。


「平気、平気」


日置はニッコリと微笑んだ。


「郡司さん、緊張してるな・・」


阿部が言った。


「そらそうやな・・」


重富は気の毒そうに答えた。



―――その頃、フロアの隅では。



「あの郡司って子、一年やな」


小谷田の監督、中澤がそう言った。


「そのようですね」


中井田の監督、日下部が答えた。


「森上も阿部も中川も成長しとるが、結局、三人だけやな」

「次は三神ですし、桐花はまた来年ですね」


この二人は、桐花が自分たちのブロックに入らなかったことで胸をなでおろしていた。


「でも、中澤さんとこには、山戸辺が入ってますね」

「山戸辺なあ。この二年余りで落ちたよな」


山戸辺は昨年、4には入れず、第二シードの小谷田のブロックに入っていた。

その山戸辺は、監督の平山が引き抜きをせず、今年の一年は素人だけで、実質、三年の五人と二年の二人というチームだが、平山の指導はうまくいっておらず、小谷田の敵ではなかった。


「やっぱり、上田さんがいた時がピークでしたね」

「まあ、山戸辺のことはええとして、今年も三神とうちの勝負やな」

「言ってくれますね。今年はうちですよ」

「なんでやねぇーん!」


中澤は、漫才師の突っ込みを真似て、日下部の胸を叩いた。



―――一方、コートでは。



和子は出だしこそ緊張してミスも多かったが、そこは基礎を十分に熟してきた実力が徐々にものをいい始めていた。

手本のような和子のフォームは、狙ったところへ確実に入り、強打しなくとも、加瀬は翻弄されていた。


「よしよし、ナイスボール!」

「それそれ~それやで~!」

「ここから一気に離すで!」

「そのまま押すよぉ~!」


日置や彼女らの応援を受け、和子には笑顔さえ見られた。


「サーよし!」


1本取るごとに、和子は小さくガッツポーズをしていた。


私に、チームの勝敗はかかっとらんけど・・

やっぱり私も勝ちたい・・

私が負けてしもうたら・・三神との対戦で・・縁起が悪うなるけに・・


そして和子はどんどん点を重ねていき、やがて1セットを21-13で先取した。

もうここまで来ると、和子の勝利は確実だった。


「よし、郡司さん」


和子は日置の前に立っていた。


「はい」

「次はもっと打って行こうか」


和子はミスを恐れ、スマッシュできるボールも繋いでいた。


「はい」

「試合でスマッシュを1本決めるってことは、何時間もの練習に匹敵するんだよ」

「はい」

「じゃ、最後まで気を抜かずに徹底的に叩きのめしておいで」


日置は和子の方をポンと叩いて送り出した。



―――本部席では。



「郡司くん・・」


皆藤がポツリと呟いた。

横に座る三善は、雑務を熟しながら半ば呆れていた。

他のチームも少しは気にしたらどうか、と。


「どうかしましたか?」


それでも三善はそう言った。


「あの子は、素人同然です」

「そうなんですね」


三善は書き物をしていた。


「そしてラストが阿部くん」

「そうなんですね」

「今の桐花が、全てわかりました」

「そうですか」

「もう少しやると思っていたのですがね」

「そうですか」

「きみ・・」


そこで三善は皆藤を見た。


「はい?」

「いえ、いいです」


皆藤は、少し喋りすぎたかな、といった風に苦笑した。

そして三善を手伝った。



―――その後、和子は無難に勝ちを収め、ラストの阿部も完勝して桐花は5-0と好スタートを切った。



日置らは観客席に向かうため、ロビーに出た。


「ちょっくらトイレ行ってくらぁ」


中川はそう言って、日置らと別れた。

そして中川がトイレに向かおうとすると、皆藤と出くわした。


あっ・・このジジィ・・

あの日の、クラブ探しジジィじゃねぇか・・

性懲りもなく・・高校生の試合にまで顔出してんのかよ・・


「あの日」とは、ハワイ旅行をかけた大会のことである。

皆藤を三神の監督だと知らない中川は、なんと「スケベジジィ」と罵っていたのである。


「よーう、じいさんよ」


中川は声をかけた。


「おや、きみは中川くん」


皆藤はニッコリと微笑んだ。


「じいさんよ、今日の試合は高校生だけ。じいさんが入るクラブなんざねぇぜ」

「そうでしたか」

「ったくよー、まだ見つかんねぇのかよ」

「ええ、そうですね」

「私が紹介してやんぞ?マジで」

「いえいえ、それには及びません」


そこへ、三神の彼女らがやって来た。

中川と話す皆藤を、彼女らは唖然として見ていた。


「よーう、おめーら」


中川がそう言うと、三年生たちは仰天していた。

いや、中川の試合を観て知ってはいたが、まさか自分たちに「おめーら」などと言うとは思いもしなかったのだ。


「じいさんよ、こいつら三神って高校の選手なんでぇ。知ってっか?」

「はい、知ってます」

「次は、こいつらと対戦するんでぇ」

「そうですか」

「まあ、うちがぶっ倒してやる様を、じいさん、観て行きな」

「ええ、とくと観させていただきますよ」

「先生」


野間が呼んだ。


「きみたち、向こうへ行きますよ」

「はい」


えっ・・

せ・・先生・・?

おいおい・・ちょっと待ちやがれ・・

先生ってのは・・どういう意味でぇ・・


「ちょっと待ってくんな」


中川は皆藤の腕を掴んだ。


「なんですか」

「先生って、どういうことでぇ」

「私はこの子たちの監督です」

「え・・?」

「三神の監督、皆藤です」

「か・・監督って・・おめー・・クラブ探しジジィじゃねぇのかよ!」

「あはは、今のところクラブ探しは間に合ってますよ」

「嘘だろーーーーーーっ!おめー騙しやがったな!」

「騙してませんよ。きみが勝手にクラブ探しジジィと勘違いしただけです」

「なんてこった!かあ~~一本取られちまったぜ!」

「対戦、楽しみにしていますよ」

「あたぼうよ!首を洗って待ちやがれってんでぇ!」


彼女らは呆れながら、皆藤と共にこの場を去ろうとした。


「あっ!自己紹介する!」


中川が引き止めた。


「私は桐花学園の中川だ。よろしくな」


そして野間に手を出した。

野間はそれに応えず「野間です」とだけ言った。


おうよ・・おめーが野間だってことは知ってるぜ・・天地よ・・


「山科です」


おお・・オスカルは山科ってんだな・・


「向井です」


アンドレは、向井・・と。


「磯部です」


あはは・・イカゲルゲは磯部ってんだな・・


「仙崎です」


こいつがクチビルゲ・・仙崎な・・


「おう、挨拶、痛み入るぜ。じゃ、コートで会おうぜ!」


中川はそう言ってトイレに向かった。

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