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サーよし!2  作者: たらふく
23/413

23 小島の案




―――そして翌日。



小島は、森上の住む家の近くの商店街に来ていた。


「ええっと~パン屋、パン屋はどこや~」


小島は商店街を、左右見ながらパン屋を探した。

この時代、スーパーは既に存在したが、こうした地元の商店街も、まだまだ活気に満ち溢れ、人の往来も多かった。

小島が探すパン屋も一軒ではない。

小島は、店名を聞けばよかったと、後悔していた。


西区の九条商店街も・・結構賑わってるけど・・

ここも・・すごいな・・


小島の実家は、西区だった。


「さあ~今日は特別セールですよ!どの野菜も、いつもの半額、半額でっせ!」


八百屋の主人が、前掛けのポケットに入った小銭を、ジャラジャラさせながら、時にパンパンッと威勢のいい拍手で客引きをしていた。


「そこの姉ちゃん!活きのええんが入っとるで!今晩のおかずにどや!」


魚屋の主人が小島に声をかけた。


「ああ・・あの、パン屋さんってどこにありますか」

「パン屋てか。えーっとな、ここ真っすぐ行ったら、二軒あるで」

「そうですか、ありがとうございました」

「姉ちゃん、帰りに寄ってや!」

「はい、そうします」


小島は、本当に寄るつもりでいた。

そして魚屋の指示通りに歩くと、一軒のパン屋が見えた。

小島は外から中を覗いて見た。

すると森上が、レジに立っていた。


ああ・・ここや・・よかった・・


そして小島は中へ入った。

ここのパン屋は広く、店内にはトレーに乗った数々の菓子パンが左右に並べてれ置かれ、中央には食パン、フランスパン、サンドウィッチなどが置かれてあった。

現代では当たり前になっている、客がトレーとトングを持って、好きなパンを選び、それをレジまで持って行く方法をこの店はとっていた。

比較的新しい買い方に、客足も多かった。


「いらっしゃいませぇ」


森上の低い声が店内に響いていた。


「森上さん」


小島が声をかけると「あ・・小島さん・・」と驚いていた。


「繁盛してるね」

「はいぃ・・」

「休憩は、何時?」


今は、午前十一時だった。

昼休憩は、おそらく交代でとるだろうと、小島はあえて訊いたのだ。


「えっとぉ・・あと一時間くらいですけどぉ、どうしたんですかぁ」

「うん、ちょっと話があってな」

「そうなんですかぁ」

「休憩まで、そのへんウロウロしとくわな」

「なんかぁ、すみませぇん」


小島は小さく手を振って、外へ出た。


小島は思った。

この混雑ぶりでは、六月末の日曜日も、きっと混んでいるに違いない、と。

おそらく休むというのは、無理なんじゃないか、と。


小島は、ゆっくりと商店街を見て回った。

子供の頃から、弟の篤志の世話と、家事を手伝ってきた小島にとって、商店街を歩くのは好きだった。

そして、一軒の雑貨店が小島の目に留まった。


そうや・・

先生に、なんかプレゼントしようっと・・


小島は店に入り、何がいいか見て回った。


「いらっしゃい」


奥から中年の男性が小島を迎えた。


「こんにちは」

「なにをお探しで?」

「えっと、男の人の部屋に置く物って、なにがええですかね」

「ほーぅ、彼氏ですな」

「あはは、そうです」


小島はこの頃には、もう恥ずかしがることもなく、堂々としていた。


「うーん、お嬢さんの年齢からすると、相手の方は、二十歳そこそこかな?」

「いえ、今年、三十になるんです」

「えっ、三十・・だって、お嬢さん、まだ高校生と違うの?」

「いいえ、社会人です」

「そうですか・・三十なあ・・」


店主は困った風に、考え込んでいた。


「でも、見た目は大学生みたいで、気持ちも若いです」

「なるほど。それやったら・・これなんか、どうですかね」


店主はそう言って、写真立てを手にした。

薄茶色の木枠で作られた写真立ては、シンプルではあったが、とても落ち着いて上品だった。


「見た目が大学生や言うても、やはり三十といえば、男盛りですからね。これくらいがええと思いますよ」

「ああ~、確かにいいですね。ほな、それください」

「綺麗に包装しときましょか」

「はい、できればブルーの色で」

「はいはい、ちょっとお待ちくださいね」


そして店主は写真立てを箱に入れ、格子柄の青い包装紙に包み、小さな青いリボンも付けてやった。

小島は「ありがとうございます」と言って、お金を払って店を出た。

その後、小島は商店街を見て回り、正午が近づいたころ、パン屋へ戻った。


ほどなくして、小島は森山と話をすることになった。

二人は、パン屋の裏口に立っていた。


「すぐに済むからな」

「はいぃ」

「あのさ、一年生大会の話、先生から聞いてるよね?」

「はいぃ・・」

「それでな、先生もやけど、私も森上さんには出てほしいんよ」

「ああ~・・はいぃ・・」

「でも、バイト、休まれへんのやな?」

「忙しいんでぇ・・」

「そうか・・そらそうやな・・」

「なんかぁ、すみませぇん」

「いや、ええねん。あのさ、バイトって交代できる?」

「え・・」

「その日、私が代わりに入るん、できるかな」

「えぇ~・・それはぁ訊いてみんとわかりませんけどぉ・・」

「店長さん、いてはる?」

「はいぃ・・いてますけどぉ」

「ちょっと・・呼んでくれへんかな」

「いやぁ・・そんなん、小島さんに悪いですぅ」

「私はええねん。その日のバイト代も、森上さんのやから」

「ええっ!それはあきませぇん」

「ええから。ほな、店長、呼んで来て」

「えぇ・・」


森上は躊躇していたが、裏口から中へ戻って行った。

するとほどなくして、三十代と思しき男性が現れた。


「話て、なんですか」


店長の毛利もうりは、焦った風に小島に話しかけた。


「お忙しいところすみません、森上さんの知り合いで小島と申します」

「はい、で、なんですか」


そこで小島は、月末の日曜日にバイトの交代が可能かを訊いた。


「交代いうたかて、きみ、できるんですか?」

「はい!子供の頃から家事もやってきましたし、100%自信はあります!」

「そうですか・・」

「出勤も早めに来て、教えてくだされば、すぐに覚えます。それと、残業してもいいです!」

「そうなんや・・うーん・・」

「森上さんの三倍は働きます!」

「まあ、こっちとしては仕事さえちゃんとやってくれたら、ええんですけどね」

「はいっ!やります!」

「それやったら、許可します。せやけど、足手まといになるようでしたら、その時点で帰ってもらいますからね」

「はい、承知しました!」

「ほな、これで」


毛利は、慌ただしく店内に戻って行った。


「よっしゃー!これで森上さんは試合に出られるな」

「なんかぁ・・ほんまに、すみませぇん」

「ええねん。それより、試合、頑張るんやで」

「でも私ぃ・・練習時間短いですしぃ・・勝てる自信はありませぇん」

「ええねや。勝ち負けやない。まず、試合に出て、場の雰囲気になれることや。あんたの目標は全国や。その一歩やと考えたらええねん」

「そうですかぁ・・ほんまに迷惑ばかりかけてぇ・・すみませぇん」

「時間取らせてごめんな。お昼、食べて」

「はいぃ・・」

「あっ!それと、このこと、先生には絶対に言うたらアカンで」

「え・・なんでですかぁ・・」

「あのおっさんな、心配しぃやねん。だから、内緒やで。これ、絶対に守ってや」

「はいぃ・・わかりましたぁ」

「ほなな」


そう言って小島は、この場を後にした。


よし・・これで森上さんは試合に出られる・・

今後も、試合の度に、私が交代したらええねや・・

そう、それでええやん!

さてさて~・・午前の練習を取り戻さんといかん!

行くぞ~~!


小島は、ウキウキ気分で桂山化学へ向かった。

そして、魚屋へ寄ることは、すっかり忘れていたのである。



―――この日の夜。



小島は、また日置のマンションへ寄った。

そう、プレゼントを渡すためだ。


ピンポーン


しばらく待ったが、日置は出てこない。


あれ・・いてへんのかな・・


小島はもう一度呼び鈴を鳴らした。

けれども、なんの反応もない。

そこで小島は、日置から渡されていた合鍵をバッグから出した。


なんか・・これって、気持ちのええもんではないな・・


小島はそう思いながらも、鍵を開けて中へ入った。


「先生~」


とりあえず小島は日置を呼んだ。


やっぱり、まだ帰ってないんや・・

まあ、ええか・・


そして小島は部屋に上がり、バッグの中からプレゼントを出した。


ふふ・・先生、喜んでくれるかな・・


小島はメモ帳も取り出し、一枚破って置き手紙を書いた。


『先生へ。今日、写真立てを買いました。部屋に飾ってくれると嬉しいです。彩華より』


うん、これでええな・・


ルルルル・・


そこで電話が鳴った。


ええっ・・どうしょう・・

出た方がええんかな・・

せやけど・・

勝手に出たらあかんよな・・


しばらく鳴り続けたが、そのうちチンと切れた。


早よ帰ろ・・


小島がそう思った時、再び電話が鳴った。


ええ~~・・

どうしょう・・


小島は躊躇したが、相手が誰なのか気になり、受話器を取った。


「もしもし・・日置先生のお宅ですか・・」


げ・・女の人やん・・

誰やねん・・


「あの・・もしもし、日置先生」


しかも・・若い声やん・・

嘘やろ・・

これは・・高校生やない・・

落ち着いてる・・


「あら・・間違えたんかしら・・すみません」


そう言って電話は切れた。


先生・・まさか・・他にも彼女が・・

いや・・

先生に限って、そんなことない・・

私のこと・・好きや言うてはるし・・

でも・・でも・・

先生・・モテはるし・・


ちょっと待てよ・・

先生は・・私をここへは絶対に泊めようとせん・・

もしかして・・それって・・


小島は不安を抱えながら、部屋を後にしたのだった。

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