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サーよし!2  作者: たらふく
228/413

228 ズボールの完成




―――「で、コツを教えな、コツを」



この日の練習後、阿部と重富と中川は居残りをしていた。

中川はズボールを出すコツを、阿部に訊いた。


「それなんやけどな」


阿部はそう言いながら、中川のラケットを手して、台に着いた。


「とみちゃん、ボール出してくれる?」

「うん、わかった」


重富も台に着いて、ボールが入った籠を台の上に置いた。


「中川さんは、私の横で見てて」

「おうよ!おっ始めてくんな」


そして重富は裏でボールを送った。

阿部は後ろに下がったまま、台の下で素早くカットした。


ポーン・・コンコンコン・・


重富のコートに入ったボールは、曲がらなかった。


「ああ・・失敗やな。とみちゃん、続けて」


そして重富はボールを送った。

阿部は同じように返したが、ボールは曲がらなかった。


「チビ助よ、おめーカット下手だな」


中川は腕を組んで、阿部を見ていた。


「そっ・・そんなん、私カットマンちゃうもん」

「あはは、いいってことよ!さあ、続けてくんな」


こうして何度か返し続けた。

それが起こったのは十球目であった。

阿部がラケットを素早く動かしたカットボールは、重富のミドルでバウンドした。


「右」


阿部がそう言った。

するとボールは右へ曲がったのだ。


「なっ!」

「おおっ!」


中川も重富も右へ曲がったことに驚いていた。


「今度は左やで」


阿部はボールを打つ前から予言した。

そして重富がボールを送ると、阿部のカットボールは左へ曲がったのだ。


「なにいいいいいーーーっ!」

「いやあ~~阿部さん、すごいやん!」

「チビ助、教えろ!コツを、コツを!」

「あはは、どや!」


阿部は腰に手を当てて、胸を張っていた。

そして阿部は、カットのコツを中川に教えた。


「ちゃうねん、前後やねん」

「わかってらぁな!」

「そこっ!今や!」

「しゃらくせぇやね!」

「瞬間やで、ボールが離れる瞬間!」

「誰に言ってやがんでぇ!」

「瞬間って言うてるやろ!」

「焦るんじゃねぇ!」

「予選まで日にちがないねんで!」

「わかってらぁ!」

「天地、オスカル、アンドレ、イカゲルゲ、クチビルゲ、誰にあたってもええようにしとかんとな!」

「あたぼうさね!」


まるでケンカかと思うほど、二人は怒号にも似た声を挙げ続けた。

こうしてズボール完成のために、中川らは連日居残りをした。

そしてとうとうズボール完成の日を迎える時が来たのである。



―――それは予選を五日後に控えた日であった。



「さあ、もうほんまに時間がない。中川さん、絶対に完成させるで!」

「おうよ!日に日に手応えも感じてるし、ぜってーやってやる!」


ここまで中川は、ボールを曲げることはほぼやってのけた。

けれども、自身が思う方向へどうしても曲げられずにいたが、何球かに一球、といった具合で徐々に近づいていたのだ。


「まぐれで一球や二球出せても、それはまぐれでしかない。全部、思う方向に曲げるんやで」

「当然だ。それでなけりゃズボールの意味がねぇんだ」

「ほな、出すで」


重富がそう言った。


「おうよ!やってくんな!」


中川はカットしながら、右だ・・右だ・・と心で思っていた。

そしてボールは重富のコートでバウンドした。


「右だ!」


中川がそう言うと、ボールはククッと右へ曲がった。


「よーーし!」


中川は思わずガッツポーズをした。


「まだや」


阿部が言った。


「連続で成功させなあかん」

「けっ。わかってらぁな!」


そして中川はカットしながら、今度は、左だ・・左・・と心の中で思った。

ボールが重富のコートでバウンドする前、「左だ!」と言った。

するとボールがバウンドした瞬間、左へククッと曲がった。


「おらあ~~!やったぜ!」


中川はまたガッツポーズをした。


「まだや」


阿部が言った。


「おめー、うるせぇよ」

「そやな・・十球連続で成功させたら、完成と認めたる」

「しゃらくせぇやね!こちとら百球でもやってやるぜ!」


こうしてカットしたボールは、中川の思い通りの方向へ曲がり続けた。


「よし。あと一球やな」


阿部が言った。

中川は九球連続で成功させていた。


「ふふふ・・いよいよズボール完成の時が来たぜ・・」

「失敗したら、一からやし、完成とは認めん」

「誰が失敗なんぞするかっての!」

「ほな、ラスト一球、行くで」


重富が言った。


「おうよ!来やがれってんでぇ!」


そして重富はボールを送った。

中川は台の下で素早くラケットを動かしたが、阿部には妙に映った。


あれやったら・・曲がれへんやん・・

失敗や・・

また一からや・・


そしてボールは、重富のコートでバウンドした。


「曲がらねぇぜ」


中川が言った。

するとボールは真っすぐ後方へ転がって行った。


「あかん・・失敗やな」


阿部が言った。


「チビ助よ、私の言ったこと、聞いてなかったのかよ」

「なにをよ」

「私は曲がらねぇっつったぜ」

「それって、曲がらんってわかったから言うたんちゃうの」

「ちげー、ちげーって」

「なんやのよ」

「わざと曲げなかったんだ」

「え・・」

「試合は命のやり取りでぇ。ここを使えよ、ここを」


中川は自分の頭を指した。


「なによ・・」

「台の下でカットすんだろうがよ」

「うん」

「するってぇと、相手には見えねぇってわけさね」

「うん」

「相手は、曲がると思ってやがるところを、曲げないとなると、どうでぇ」

「ああ・・なるほど」

「なるほどじゃねぇし」

「それは確かにそうやな」


重富が言った。


「だろ?」

「曲げてばっかりやと、回転かて見破られかねんし。ズボールかて、ここぞって時に出すんがええんちゃう?」

「おお、重富、なるほどさね」

「うん、確かにとみちゃんの言う通りや。ずっと出しっ放しは、むしろ逆効果っていうか、三神ともなるとズボール封じとか、試合中でも考えそうやしな」

「おうよ、その通りでぇ」

「まさにズボールは秘密兵器やな!」


重富がそう言うと、中川は「おめーも秘密兵器だぜ」と言った。


「ああ・・そや。私って秘密兵器やったんや・・」

「三神の野郎どもは、おめーの上達ぶりに、泡食うだろうぜ」

「うん、そやな」

「それによ、私とおめーは、ゼンジーと対戦してんでぇ。いわば三神の実力は体が覚えてるってわけさね」

「ああ・・ゼンジーさんな。あの人はうまかった」

「その分、こっちが有利さね!」

「うん、私、絶対に頑張る!」

「それにしても・・いよいよやな・・」


阿部がポツリと呟いた。


「こっちはやることやったんでぇ。それを全部試合で出す!」

「それにしても私・・去年の今ごろは演劇部やったんやなあ・・」


重富は、しみじみとそう言った。


「おめー、それを言うなら、私なんざ、まだ東京にいたんだぜ」

「去年の今ごろかぁ・・先生は、恵美ちゃん入部させるのに、必死やったなぁ・・」

「大変やったらしいな・・」

「知ってる?私と恵美ちゃん、同じ部員やのに、一緒に練習でけへんかったんやで」

「そうなんやあ・・」

「色々あって・・全部乗り越えて・・ほんま・・ようここまで来たな・・」

「チビ助よ・・」

「なに」

「感慨にふけるなんざぁ・・インターハイを決めてからにしな」

「そらそうやけど・・」

「そこでだ。いいか、おめーら」


阿部と重富は、何を言うのかと改めて中川を見た。


「試合当日は、ウォークマン持ってきな」

「今も持ってるけど」


阿部が突っ込むと「おめー・・」と中川は、うるさいという表情をした。


「三島の曲を聴きながら、試合を待つんでぇ」

「うん、それはええかも」


重富が言った。


「そんなん、私なんか、既に考えてたで」


阿部がそう言った。


「ほんとかよ」


中川は疑っていた。


「それでよ、試合中、挫けそうになったら、歌詞を思い出せ」


すると阿部と重富は「うん」と力強く頷いた。

そしていよいよ試合当日を迎えることとなるが、この日、誰一人として想像しえなかった「大事件」が起こるのである―――

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