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サーよし!2  作者: たらふく
225/413

225 渦巻く想い




元々一途な、いや、一途すぎる中川は、帰宅しても大河のことが頭から離れなかった。


「愛子、ご飯食べなさい」


母親の亜希子が、中川の自室の前で呼んだ。


「愛子」


コンコン・・


亜希子はドアをノックした。

すると中川は、ボ~ッとしながらドアを開けた。


「愛子、どうしたのよ」

「なんでもない・・」

「えっ」


亜希子は中川の言葉遣いに驚いていた。


「なに驚いてるの」

「いやっ・・えっ」


さらに亜希子は目が点になっていた。


「ご飯食べるね」

「あんた、具合でも悪いんじゃないの・・」

「お腹空いてるのよ。悪いわけないじゃない」

「いやいや・・ちょっと」


亜希子はそう言って、おでこに手を当てていた。


「お母さん」

「えっ」


亜希子はまた驚いた。

母ちゃんではなく、お母さんなのか、と。


「大丈夫だから」

「う・・うん・・」


そして二人はダイニングに移動した。


「愛子・・今日はセンターへ寄るって言ってたけど・・どうしたの・・」


亜希子は恐る恐る訊いた。


「それがね・・」


中川はダイニングの椅子に座っていた。


「うん・・」

「架空じゃない・・現実の誠さんがいたの」

「は・・はあ?」

「こんなことってあるのね・・」

「ちょっと、あんた変よ」

「なにが」

「誠さんなんているわけないじゃない」

「それがいたのよ・・」

「ああ~~とうとう行くところまで行ってしまったのね・・」


亜希子は、夢と現実が混同しているのだと思った。


「いい?太賀誠は漫画の世界の人!現実にはいないの」

「いるのよ・・」

「わかった・・月曜に病院へ行くわよ」

「私・・なにも変じゃないわよ」

「いや、いい。これは大変だわ・・」

「ってなこと言ってみたかったんでぇ!あははは」


中川は一変した。


「えっ」

「あはは、現実に誠さんなんているわけねぇだろがよ」

「ああああ~~よかった・・」


亜希子は、心底胸をなでおろしていた。


「よかったってよ、母ちゃんこそおかしいぞ」

「なにがよ」

「私は、普通に喋ってんだ。それをおかしいってなんでぇ。あははは」

「いやいや・・心の臓に悪いから、こんな遊びはこれっきりにして」

「ぎゃはは、心の臓って」


やたらと笑い飛ばす中川を、亜希子はまた変だと思った。

亜希子が心配した通り、中川は自分をどう保てばいいのかがわからなかったのだ。

心の中に芽生えた、太賀誠以外の男性に寄せる想いは、ある意味で「罪」だとも感じていた。

これは中川にとって初恋でもあった。



―――そして翌日。



彼女らは朝から練習に励んでいた。


「おらああ~~先生よ!そんなドライブじゃあ効かねぇぞ!」


中川は、いつにも増して声を出していた。


「きみ、すごく気合が入ってるね」

「あたぼうさね!」


日置は予選が近づいていることを、中川は自覚しているのだと思っていた。

無論、それは外れてはいなかったが、中川は、なんとかして大河を頭の中から消すことに必死だったのだ。


「おらあ~~おめーらも気合を入れろ!」


中川は阿部らにも檄を飛ばした。


「よーし、中川さんに負けてられへん!」

「ほな、中川さぁん。後で前後左右のフットワークなぁ」


森上はカットマンのフットワークのことを言った。

これは中川にとって、とても苦しい練習だ。


「しゃらくせぇやね!おめーが根を上げるまで拾ってやっから覚悟しときな!」

「先輩って、大河ドラマに出て来る戦国武将みたいですね!」


和子がそう言った。


「えっ」


中川は「大河」という言葉に反応した。


「なっ・・なに言ってやがんでぇ・・」

「え・・」

「そっ・・そんな・・ドラマなんざ・・知らねぇやな・・」

「先輩、大河ドラマ、観たことないんですか?」

「そっ・・し・・知らねぇって・・」

「ええ~~!大河ドラマですよ、大河!」

「ああああああ~~~!」


中川は耳を塞いで聴こえないようにした。


「中川さん、どうしたの?」


日置が訊いた。


「ああああああ~~~!」


阿部は急いで中川に駆け寄った。


「中川さん!」


そして中川の手を掴んだ。


「なっ・・なんでぇ・・」

「なに叫んでるんよ」

「やまびこが・・鳴ってらあ」

「は・・はあ?」

「中川さん、ほんとにどうしたの?」


日置が訊いた。


「ちょっと耳鳴りがしただけさね!」

「ええっ、大丈夫なの?」

「おい、郡司」


中川が呼んだ。


「はい・・」

「ドラマの話は二度とすんじゃねぇぞ」

「え・・」

「わかったな」

「ああ・・はい」


みんなは首をかしげながらも、練習を続けた。

やがてこの日の練習は終わり、彼女らは順番に部室で着替えていた。


「中川さん」


順番を待っている中川を日置が呼んだ。


「なんでぇ」

「ノート読ませてもらったけど、きみ、あの日は滝本東にも行ったんだね」

「えっ・・」


中川は焦った。

そう、当然、大河のことを訊かれると思ったからだ。


「行ったんでしょ?」

「ああ・・まあな・・」

「なにしに行ったの?」

「そっ・・それはだな・・」

「隠し事はダメだよ」

「かっ・・隠し事なんか・・」

「ジャガイモって誰なの?」

「じゃ・・ジャガイモ・・?」

「きみ、書いてたよね」


そこへ部室から阿部と森上が出て来た。

中川は「きっ・・着替えてくらぁ!」と言って、慌てて部室に入った。


「どうしたのかな・・」

「なにがですか?」


阿部が訊いた。


「阿部さん、ジャガイモって誰か知ってる?」

「ああ~、それって滝本東の男子で、大河くんって子です」

「へぇ、そうなんだ」

「それがどうかしたんですか?」

「僕、さっき訊いたんだけど、中川さん、なにも答えなくてね」


「こらあーーーっ、チビ助!その話は、もういいんでぇ!」


中川は部室から叫んだ。

一緒にいる重富は「うるさぁ・・」とこぼしていた。


「なんか・・ようわかりませんけど・・」


阿部は小声で囁いた。


「うん」

「多分ですけど・・中川さん、大河くんのこと・・好きやと思うんです・・」

「えっ」


日置は唖然とした。

なぜなら、恋は卓球にとって邪魔になるからだ。

中川のような一途な子なら、尚更だ、と。


「あくまでも・・これは私の勘でしかありませんので・・」

「その大河くんって・・もしかしてセンターでフラれた相手?」

「はい・・」

「そうなんだ・・」

「なんかあの子・・大河くんに拘ってるんで・・それで、そうちゃうかな・・と思て・・」

「うん、わかった」


日置はそう言ったものの、これは厄介だと思っていた。

練習はいいとしても、予選は男子も参加する。

つまり、当日、顔を合わせるわけだ。

すぐに感情に左右される中川は、果たして「中川」として試合が出来るのだろうか、と。

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