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サーよし!2  作者: たらふく
223/413

223 英太郎と彼女たち




小屋に到着した二人は、「ここでぇ」と中川が言って扉を開けた。


ガラガラ・・


中では日置も含めた五人が練習していた。


「あ、中川さん」


日置は振り向いてそう言った。


「中川さん!」

「先輩!」


阿部らも打つのを止めて、中川が来たことに喜んでいた。


「よーう、先生、おめーら」


中川はそう言いながら靴を脱いでいた。


「おめー、入んな」


中川は英太郎に入るよう促した。


「誰か来てるの?」


日置が訊いた。


「おうよ!今日は、スペシャルゲストのお出ましだ!」


するとそこで、英太郎がヒョコっと顔をのぞかせた。


「ああっ!三島くんじゃないか!」


日置がそう言うと、和子以外の者が「ええええええ~~~~!」と叫び声を挙げた。


「中川さん、どうして三島くんと」

「あっはは!これも神のおぼしめしってもんよ!」


そして中川は「さあー入れ」と英太郎を中に入れた。


「三島くん、よく来てくれたね」


日置は優しく微笑んだ。


「突然、すみません」

「きみたち」


日置はそう言って、彼女らを呼び寄せた。

彼女らは急いで日置の元へ駆け寄った。


「この子が三島くんだよ」

「初めまして、三島英太郎です・・」


英太郎は、女子に囲まれて恥ずかしそうにしていた。


「阿部です。めっちゃええ曲、作ってくれて、ほんまにありがとう」

「重富です。毎日聴いてるよ~、ありがとうな」

「森上ですぅ。三島くんの曲にぃ、すごく励まされてますぅ」


和子は、何のことだかわからず、「郡司です・・」とだけ言った。


「郡司さん」


日置が呼んだ。


「はい」

「三島くんってね、桐花卓球部の応援歌を作ってくれた子なんだよ」

「へぇ・・」

「それが、すっごくいい曲なの。あっ、ちょっと待ってて」


日置はそう言って、小屋を出て行った。


「中川さん」


阿部が呼んだ。


「なんでぇ」

「なんで三島くんと・・」

「おうよ、それさね。こいつと偶然電車で会ったんでぇ」

「へぇー」

「んでよ、私、栄光を掴めを聴いてて、思わずメロディーを口ずさんでいたところ、こいつが聴いたってわけさね」

「なるほど。それって、ほんまに偶然っていうか、神のおぼしめしやな」

「中川さん」


重富が呼んだ。


「なんでぇ」

「あんた・・元気になって・・」


重富は、目がウルウルしていた。


「あはは!私が辞めるとでも思ったか?」

「だって・・そうやん・・」

「私らぁ・・心配してたんよぉ」


森上がそう言った。


「うん。悪かった。でも、もう辞めるなんざ二度と言わねぇ。約束する」


英太郎は、中川が「いい仕事しやがって」と言った言葉を、彼女らの会話から読み取っていた。

その意味で、英太郎は曲が役に立っていることを嬉しく思っていた。

ほどなくして日置は、カセットデッキを持って小屋に戻って来た。


「音楽室に行ってはったんですか」


阿部が訊いた。


「うん。郡司さんにも聴かせてあげたいからね」


日置はそう言いながら、コンセントを差し込んでいた。


「なら、これを使いな」


中川はウォークマンからカセットを取り出し、日置に渡した。


「ありがとう。じゃ、郡司さん、聴いててね」

「はい」


そして日置は再生ボタンを押した。

すると、ノリのいいバンド演奏が流れた。

和子は、ずっとデッキを見ていた。

英太郎も少し照れながら、デッキを見ていた。

そう、どこに目をやっていいのかわからないのだ。


そして一番のAメロが始まると「これ、歌ってるん私やで」と重富が言った。


「えっ!そうなんですか」


和子は仰天していた。

そしてサビに差し掛かると、「わあ~・・」と和子は感激している様子だった。

二番のAメロが始まると「これ、私やねん」と阿部が言った。

すると和子は、また仰天していた。

間奏が入り、三番のAメロが始まると「これぇ、私やねぇん」と森上が言った。


「へぇーー!」


和子は、歌唱力は別としても、プロ並みの仕上がりに、なんだ、これは・・と驚愕していた。

そして曲は終わった。


「こ・・これ・・すごいです・・」


和子がそう言うと、英太郎はとても嬉しそうにしていた。


「これをよ!この三島が作ったんでぇ」


そう言って中川は、英太郎の肩をポンと叩いた。


「へ・・へぇ・・」


和子は改めて英太郎の顔をまじまじと見ていた。


「そういや、おめーと郡司は、タメだったよな」

「タメ・・ってなんですか・・」


和子が訊いた。


「同い年ってことさね」

「そ・・そうなんですか・・」


和子は思わず英太郎から目を逸らした。


「これよ、私がダビングしてやっから、おめーも家で聴きな」

「はい!ありがとうございます」


そして練習が始まった。

英太郎は椅子に座って、彼女らの打つ様子を見ていた。

まず英太郎が驚いたのは、森上だった。


この人・・体が大きいとはいえ・・

なんや・・このパワーは・・

とても・・女子やとは思われへん・・

すごいな・・


森上は中川相手に、ドライブを打ち続けていた。

そして間にストップも入れ、中川は「おらあ~~」と言いながら、全速力で前に駆け寄っていた。

そのボールを森上は、またスーパードライブで中川を後ろに下げた。

中川は後ろへ下がって、懸命にカットしていた。


へぇ・・中川さんって守備型なんやな・・


卓球のことはわからない英太郎でも、ラリーの内容で中川の「型」を見抜いていた。

そして阿部と重富は、阿部がミート打ち、重富がショートで返すというラリーをしていた。


この重富さんも・・いわば守備型なんやな・・

それにしても・・板を使ってるなんて・・珍しいな・・


日置と和子は、フォア打ちのラリーをしていた。


「今日も、100回だよ」


日置は打ちながらそう言っていた。


「はいっ」

「ミスしたら、一からだからね」

「はいっ」


和子は、ようやくラリーを続けられるようになっていた。

日置が教えた素振りのおかげで、ボールを打つそのフォームはとても美しく、まるで手本のようだ。

例えるなら、川上遼子と似ていた。

川上のフォームは、「フォーム選手権大会」がもしあったなら、間違いなく優勝するであろう、というほど美しいのである。


「そうそう、いいよ~いいよ~」

「はいっ」

「同じコースに送ること。それっ、頑張れ」

「はいっ」


彼女らが必死になって打つ姿を見て、英太郎は感激していた。


みんな・・ほんまにすごいな・・

汗もタラタラと流れてる・・

こんな・・窓を閉め切って・・

ようここまで動けるもんなんやな・・

これくらいやらんと・・インターハイには行かれへんのやな・・


英太郎はこう思っていたが、まだまだ序の口だったのである。

次に始まったのがフットワークで、森上は日置を相手に右へ左へと素早く移動しながらボールを打っていた。


「ハアッ・・ハアッ・・」


森上は息を荒くしながら、ボールを打ち続けた。


「それっ頑張れっ」

「ハアッ・・ハアッ・・」


こうしてフットワークは十五分続いた。


「じゃ、後ろからドライブ。それを前に来てスマッシュ」

「はいぃ・・ハアハア・・」


森上は肩で息をしていた。


え・・休憩もなしに・・続けるんや・・

大丈夫なんかな・・


「一分だけ休憩ね」

「はいぃ・・」


後方からドライブを打ち、日置がショートで返したボールをスマッシュする。

この練習は、フットワークより、断然楽なのだ。

そのことを知らない英太郎は、唖然としていた。


い・・一分・・

たった一分だけ・・


それでも森上の表情は、フットワークをやり終えたことで、安堵していた。


森上さん・・あんまり辛くなさそうやな・・

なんでなんや・・


別のコートでは「さあ~~来やがれってんでぇ!」と、中川は重富にボールを出してもらい、多球練習を始めていた。

とめどなく飛んでくるボールを、中川は懸命になってスマッシュを打ちこんでいた。

転がったボールを、和子は「先輩、ファイトですよ!」と言いながら球拾いをしていた。

そして阿部は、サーブ練習をしていた。


阿部のサーブを見て驚いたのが英太郎だ。

なんだ・・あの曲がり方は、と。


なんか・・想像してたんとちゃう・・

こんなに・・厳しい内容やったなんて・・

みんな、すごい・・

ほんまに・・すごい・・


そして英太郎は、この後一時間ほど見学して、小屋を後にしたのだった。

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