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サーよし!2  作者: たらふく
222/413

222 英太郎との出遭い

                



―――そして翌日。



中川は、学校へ行く準備を整え、自宅の受話器を握っていた。

そしてダイヤルを回した。


「はい、滝本東高校ですが」


そう、かけた先は、滝本東高校だった。


「おそれいります、わたくし中川と申しますが、卓球部の大河さんをお願いできないかしら」

「卓球部の大河くんですね。少々お待ちください」


用務員はそう言って「卓球の大河くん、お電話がかかっております。至急、用務員室まで来てください」と放送をかけた。

大河を待つ間、電話口からは、おそらく用務員が視ているであろう、朝のテレビニュースが聴こえていた。

すると暫くしてから「大河です」という声が聴こえた。


「ああ、電話、そこな」

「はい」


大河は用務員に一礼して、受話器を手にした。


「もしもし、大河ですが」

「私だ」

「えっ」

「中川だ」


大河は、もう辞めた者がなんの用だと呆れていた。


「なんなん」

「おめーに言っておかなきゃならねぇことがあんだよ」

「だから、なんなん」

「卓球を辞めると言ったこと、あれは撤回する」

「ふーん」

「だから私は改めて、おめーに挑戦状を叩きつける」

「ちょっと、きみ、なんなん」

「さっきから、なんなん、なんなんと、なんなんでぇ」

「プッ」


大河は不覚にも、笑ってしまった。


「なに笑ってんだよ」

「あのさ、この際やから言うとくけど、挑戦とか僕は関係ないし」

「こっちにはあんだよ」

「もうええって」

「ほほう・・逃げるってのか」

「なんできみから逃げなあかんねん」

「じゃ、男らしく堂々と受けろよ」


ほんまに・・しつこい子や・・

うっとおしい・・

こうなったら・・とことん叩きのめすしかないな・・


「で、いつなん」

「それはまだ決めてねぇが、近々、連絡する」

「決めてないんかい!」


大河は大阪人の血が騒ぎ、思わず突っ込んだ。


「こっちにも事情ってもんがあんだよ」

「ほんまに・・自分勝手やな」

「でよ、おめーんちの番号教えろよ」

「え・・」

「学校に電話するってのも、面倒でいけねぇやな」


大河は家にまで連絡されることなど、絶対に拒否したかった。


「いや、それならこっちから決める」

「なに言ってんでぇ」

「そやな・・今度の土曜日。時間は夜八時。僕はセンターへ行く」

「次の土曜日か・・」


中川は、ズボールの完成に間に合うかどうか不安だった。


「なんや。あかんのか」

「再来週ってのは・・どうでぇ」

「あかん。次の土曜や」

「おめー、堅いこと言うなよ」

「きみさ、自分から申し込んどいて都合が悪かったら逃げるんか」

「逃げてねぇし」

「僕は、今度の土曜日しか行かへん。で、来るんかどうかを決めるんはきみ次第や。来んかったら逃げたと見做す」

「おのれ・・ジャガイモ・・」

「なんやねん、じゃじゃ馬」

「なっ・・」

「ほな、僕、練習に戻るから」

「よーーし、わかった!次の土曜日、首を洗って待ってやがれ!」


そして中川は、けたたましく受話器を置いた。

大河は、呆れ返っていたが、「辞めへんかったんや・・」と呟き、中川を見誤ってなかったことに、納得していた。

そう、大河は中川が辞めるはずがないと思っていたのだ。



―――そして中川は家を出た。



おのれ・・ジャガイモ・・

目に物を言わせてやっからな!


中川はウォークマンをジャージの上着のポケットに入れて、耳にはイヤホンを装着していた。

曲は、もちろん『栄光を掴め』だった。

地下鉄に乗った中川は、席に座らずにドアの前で立っていた。

そして、何気にメロディーをハミングしていた。


「フフフフン~フフフン~」


すると、中川の程近くに座っていた男子高校生が、中川を見ていた。

そう、三島英太郎である。


このメロディ・・僕の・・


英太郎は、ギターの弦を買いに、梅田まで行く予定だ。

けれども英太郎は、中川が気になり、なんと次の駅で一緒に降りたのだ。

中川の後をつけた英太郎は、この人は桐花卓球部の人なのだと確信していた。

そして、自分の曲を聴いてくれていることを、とても嬉しく思っていた。


環状線の改札横で、英太郎は慌てて「大阪」までの切符を買った。

「大阪」とは梅田のことである。

そして英太郎は中川を追いかけた。


ほどなくして環状線に乗った二人だったが、中川は席が空いているにもかかわらず、ドアの前で立ったままだ。

そこで英太郎は、中川の前に立った。

その時、中川は英太郎を見て、迷惑そうに直ぐに目を逸らした。


見んなよ・・ガキが・・


それでも英太郎は中川を見つめたままだ。


この人・・めっちゃ綺麗や・・

四人のうちの誰なんやろな・・


そう、英太郎は姉の幸子から、彼女ら四人の名前を聞いて知っていた。


「おい、おめー」


中川はイヤホンを外し、英太郎を呼んだ。


「え・・」

「ガキのくせに、じろじろ見てんじゃねぇよ」

「えっ」


英太郎は、当然、驚愕していた。


「チッ・・ったく、うぜぇったらありゃしねぇぜ」


中川はそう言って場所を移動した。


「あの・・」


英太郎が呼んだ。

それでも中川は無視をして、別の車両に向かって歩いていた。

英太郎は中川を追いかけた。


「あの・・」

「っんだよ!おめー、しつけーんだよ」


中川は立ち止まってそう言った。


「あの・・僕・・」

「私は今から練習に行くんだ。おめーみてぇなガキを相手してる暇なんざありゃしねぇのさ」

「そ・・それって・・卓球ですよね・・」

「え・・」

「桐花卓球部の人ですよね・・」

「おめー、なんで知ってんだ」

「ぼ・・僕・・三島英太郎です・・」

「・・・」


なにっ・・

こいつ・・今、なんつった・・

三島英太郎・・つったよな・・


「あの・・三島英太郎です・・」

「なにいいいいいーーーーーっ!」


大声で叫んだ中川を、乗客たちは何事かと注目していた。


「おめー、三島かよ」

「はい・・」

「あははは!なんでぇ、おめーそれを早く言えっての!」

「はあ・・」

「いやあ~~そうか、そうか。おめーが三島か!」


中川はそう言って、英太郎の肩をバンバンと叩いていた。


「でもよ、なんで私が卓球部員ってわかったんだ」

「えっと・・メロディーをハミングしてはったから・・」

「ああっ!なるほどさね!そうか、そうかー」

「はい・・」


英太郎は少しだけ微笑んだ。


「で、おめー、どこへ行くんでぇ」

「弦を買いに・・梅田まで・・」

「ほーう、ギターの弦か。それならよ、今日中に買えばいいだろ」

「え・・」

「ここで会ったのもなにかの縁だ。私に着いて来な」

「えっ・・」

「連れてってやるっつってんだよ」

「ど・・どこに・・」

「我が卓球部の練習場さね」―――



こうして英太郎は、強引な中川に小屋へ連れて行かれることとなった。

やがて最寄り駅に着いた二人は、学校に向かって歩いていてた。


「ところでおめー、学校はどこ行ってんだ」

弘南こうなん高校です」


弘南高校は、大阪府下でもトップクラスの進学校だった。


「へぇー」


中川は、そんなことは知らなかった。


「あの・・名前を教えて頂けませんか」

「おうよ!私は中川愛子ってんだ。よろしくな」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

「しかしよー、おめーの曲、すげーいいぜ」

「ありがとうございます!めっちゃ嬉しいです」

「栄光を掴めの歌詞、どうやって考えたんでぇ」

「んー、なんていうか、素人がインターハイへ行くやなんて、並大抵やないと思たんです」

「おうよ、確かにそうさね」

「それで、想像っていうか、色々な苦労が、他人にはわからん苦労が絶対にあるはずやと思て」

「おうよ」

「それで、僕と年も近いし、ある程度気持ちもわかってるつもりやったし。そんな感じで書きました」

「んだな。ジジィには書けねぇやな」

「あはは、ジジィって」

「ああ~~それにしてもいい天気だぜ」


中川はそう言って空を見上げた。


「ほんまですね」


英太郎も空を見上げていた。


「おめーの曲よ・・」


中川は空を見たままポツリと呟いた。


「はい」


英太郎は中川を見た。


「いや・・おめーの歌詞よ・・」

「はい」

「いい仕事しやがってよ・・」


中川は、日置が家に来た時、英太郎の歌詞を引用し「意味を理解してるのか」と訊いたことを思い浮かべていた。


「仕事?」

「あはは!なんでもねぇよ!」


中川はそう言って、英太郎の肩をバーンと叩いた。


「おらあ~学校はすぐそこだ!走るぜ!」

「はい」


そして二人は走って小屋へ向かった。

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