表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サーよし!2  作者: たらふく
217/413

217 日置の怒り




「話がある」と冷たく言われた彼女らは、一体何事かと思った。

けれども心当たりはあった。

そう、三神の偵察がバレたということだ。

しかし、誰も喋るはずがないと、そこは不可解だった。


それにしても先生よ・・

見たことないような・・

鬼の形相してやがるぜ・・

これゃあ~大変だ・・


さすがの中川も、どうしたものかと困惑していた。

中川ですらそうなのだから、阿部や重富や森上は、頭が真っ白になっていた。


「郡司さん」


日置が呼んだ。

和子は、なぜ自分が呼ばれたのかが理解できなかった。

それは阿部らも同様だった。

なぜ、郡司なんだ、と。


「はい・・」


和子は恐る恐る返事をした。


「これ、きみが僕の机に置いたんだよね」


日置は手紙が入った封筒を見せた。


「はい・・」

「そっか。わかった」

「その封筒、なんだってんでぇ」

「今はきみに訊いてない。黙ってろ」

「え・・」


彼女らは、更に唖然とした。

日置の言葉のきつさに、その怒りの度合いを見るようだった。


「僕は、卓球に関すること、予選に関することで隠し事は絶対に許さないと言ったはずだ」


彼女らは当然、口も開けないまま黙って聞いていた。


「でもきみたちは、それでも隠し事をした。そうだよね、阿部さん」

「え・・」

「森上さん」

「・・・」

「重富さん」

「・・・」

「中川さん」

「そうか、バレちまったんだな」

「なんだ!その言い草は!」


日置の怒鳴り声が小屋に響いた。


「何度も念を押したはずだ。それでもきみたちは僕に逆らった。僕の方針に従えないなら、監督を辞めると言ってあるよね」

「・・・」

「どうなんだ!答えてみろよ!」


日置は、三神に偵察へ行ったことなど、なんとも思ってなかった。

けれども隠し事するなと言ったにもかかわらず、彼女らは隠し事をした。

それが許せなかったのだ。


「あの・・先生・・」


和子が口を開いた。


「なんだよ」

「あの・・どうしてその手紙・・持って来たんですか・・」

「それはきみが、一番よく知ってるはずだよね」

「え・・」

「ここに書かれてあること、この場で言ってもいいの?」

「わ・・私は・・別に関係やこ・・ありゃせんし・・」

「きみ、なに言ってるの?」

「え・・」

「ここで読もうか?」

「神田さんのラブレターやこ・・聞いても意味がないです」

「え・・」

「そがなもん・・興味やこ・・ありゃせんです・・」

「神田さんって、同じクラスの子?」

「はい・・」

「でも、きみが僕の机に置いたんだよね」

「はい・・」

「手紙の差出人、きみになってたよ」

「えっ!」


そして和子は「見せてください!」と言って、日置から手紙を引き取って読んだ。

すると和子は愕然とした。

手紙の内容もさることながら、名前が自分になっていることを。


「こ・・これ・・書いたん、私じゃないけに!」

「どういうことなの?」

「私は・・神田さんに頼まれて・・先生の机に置きに行っただけじゃけに!」

「じゃ、ここに書かれてある内容はどういうこと?神田さんが、なぜ三神のこと知ってるの?」

「そ・・それは・・」


和子には心当たりがなかった。

そう、まさか聞かれていたとは思いもしなかったのだ。


「先生よ」


中川が呼んだ。

日置はそのまま中川を睨みつけた。


「その手紙とやら、読んでくんな」

「無論、そのつもりだ。郡司さんも、いいね」

「はい・・」


そして日置は読み始めた。


『日置先生へ。先生は知らないと思いますが、先輩たちは三神高校へ偵察に行き、そのことを内緒にしています。私も黙ってろと言われたんですが、このままだと先生は何も知らないことになります。先輩たちは言うつもりはないので私が告白することにしました。郡司和子』


内容を聞いた阿部ら三人は、愕然としていた。


「おい、郡司」


中川が呼んだ。


「はい・・」

「おめーが書いてねぇってことくれぇ、わかってるから安心しな」

「・・・」

「んでよ、先生」

「なんだよ」

「三神に偵察に行ったのは私だ。だからチビ助たちは関係ねぇぜ。無論、郡司も無関係だ」

「きみさ、なぜ言わなかったんだよ」

「一言もねぇ。全て私の責任だ。誠愛って校名も出まかせだった。バレたらマズイと思ってそうした」

「僕は何度も言ったよね。最近、きみの様子が変だからって、それも訊いたよね」

「ああ」

「なぜ言わなかったんだ」

「だから一言もねぇっつってんだろ」

「そんな、嘘に嘘を重ねて、挙句はこのざまだよ」

「・・・」

「きみの暴走に、他の子たちは何度も巻き込まれた。きみは、今後もそうするつもりなのか」

「いや、そこは心配ご無用だ」

「どういうことだ」

「私が辞める。それで全ては解決だ」

「ちょっと、中川さん!」


阿部が呼んだ。


「黙ってたんは、私らの責任やん!そんな辞めるやなんて、言わんといて!」


重富がそう言った。


「中川さぁん、冷静にならんとあかんよぉ」

「おめーら、迷惑かけたな。私の分まで三神をぶっ倒してくんな」


中川はそう言って部室に入った。


「先生!引き止めてください!」

「ここで中川さんが辞めたら、インターハイどころか、これまでの苦労が水の泡になります!」

「先生ぇ!中川さんが悪いんとちゃいますぅ!あの子はチームのことを考えてぇ!」


彼女らは縋るように日置にそう言った。


「ここで投げ出すくらいなら、その程度だったってことだよ」

「先生!」


阿部が叫んだ。


「なにが三神をぶっ倒すだよ。嘘がばれたらとっとと尻尾を巻いて逃げ出すようじゃ、三神どころか一回戦も勝てないね!」

「もう、止めて下さい!」


重富が止めた。

そこへ着替えを済ませた中川が出て来た。


「おうよ、先生の言う通りだぜ!私は尻尾を巻いて逃げ出すくれぇの、つまらねぇ野郎だったってことさね!」

「中川さん!」


阿部は中川の腕を掴んだ。


「チビ助、離してくんな」

「いやや!」

「いいから離せって」

「いやや!」

「くだらない茶番なんてやめろよ」


日置は蔑むように言った。


「先生!」


今度は重富が叫んだ。


「辞めるなら好きにすればいい。で、郡司さん」


日置は郡司の方を向いた。


「はい・・」

「これ、書いたの神田さんなんだね」

「はい・・」

「わかった」


日置はそう言って手紙をズボンのポケットに仕舞い、小屋を出て行ったのだった。

この場は、なんとも言えない空気が漂っていた。


「中川さん、今は頭に血が上ってるから、辞めるやなんて言うたんやと思うけど、まさかほんまに辞めへんよな」


阿部が訊いた。


「いや、あんなに言われたんじゃあ、辞めるしかねぇだろ」

「なに言うてんのよ!」

「しかしまあ・・先生、今回ばかりはマジだったな」

「先生かて、冷静やなかった」

「そやで。先生、頭に来てただけで、明日になったら後悔すると思う」

「私もそう思うよぉ。中川さんが辞めたら、一番後悔するんはぁ、先生やでぇ」

「おめーら、ほんとに迷惑かけた。済まねぇ。でもよ、今日は帰らせてくれ」

「今日は、ということは、明日はここに来るってことやんな?」


阿部が訊いた。


「・・・」


中川は何も答えずに小屋を後にした。


「恵美ちゃん、とみちゃん・・どうしょう・・」


阿部は今にも泣き出しそうに、オロオロとしていた。


「千賀ちゃぁん、落ち着いてぇ」

「でも先生・・ほんまに怒っとったな・・」


重富は、ため息をつくようにそう言った。


「あっ!」


そこで和子が叫んだ。


「どうしたん?」


阿部が訊いた。


「私・・思い出しました・・」

「なにを?」

「昼休みに・・お弁当食べてる時・・クラスの子に話しました・・」

「え・・?」

「その子、新聞部の子なんですけど、クラブの取材する言うて・・ほんで私は、今は止めた方がええと言うて・・」

「・・・」

「それで理由を訊かれたんです・・その時・・三神へ偵察に行ったことで、先生と先輩らの間で隠し事があると・・言うてしまいました・・」

「そやったんか・・」

「その話しを・・神田さんに聞かれてしまったんやと思います・・すみません・・」

「いや、その話しはええねん。あんたが話さんかっても、いずれはバレてたはずや・・それより・・」


阿部がそう言うと、四人は顔を見合わせて、思わずため息をついていた。



―――その頃、中川は。



トボトボと、最寄り駅に向かって歩いていた。


あ~あ・・

ズボール・・あと少しで完成だったのによ・・

しくじっちまったなあ・・

後悔しても・・時すでに遅し・・か・・


にしてもよ・・先生、結構きついこと言うんだな・・


「ここで投げ出すくらいなら、その程度だったってことだ」


その程度・・か・・

そうさね・・

先生にすりゃあ・・そう思うのは当然だ・・

あれだけ必死に練習してきてよ・・

今さら投げ出すってなりゃあ・・

先生にすれば・・やりきれないよな・・

全部が無駄になんだもんな・・


インターハイかぁ・・

そういや・・ジャガイモとの対戦も・・まだだ・・

ゼンジー・・「来るんやったら正面から来んかい」っつってたな・・

ほんとそうだぜ・・

今さらながら・・ゼンジーの言葉が身に染みるぜ・・


でもよ・・先生のあの様子じゃ・・今回ばかりは許してくんねぇ・・

仏の顔も三度まで・・

私は三度どころか・・何度も先生を困らせてよ・・

ああ~~、考えても仕方ねぇやな・・

これを機に、軽音部作ってバンドでもやっかな・・


そんな中川の後姿を、日置はじっと見つめていた―――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ