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サーよし!2  作者: たらふく
214/413

214 虎の巻




―――そして放課後。



小屋に集まった彼女らは、台の傍で中川を取り囲んでいた。

中川はノートを手にして、「これさね・・」と深刻ぶって見せた。

和子は、何が始まるのかわからなかったが、とりあえず輪の中にいた。


「これは、私が心血を注いで書き留めた、虎の巻さね・・」

「ここに、三神のことが書かれてあるん?」


阿部が訊いた。


「そうさね・・やつらの一部始終を記した密書さね・・」

「へ・・へぇ・・」

「いいか!これは門外不出だ。口が裂けても外部に漏らすんじゃねぇぞ・・」

「ちょっと・・見たいねんけど・・」


重富が言った。


「今は練習前だ。チラッとだけだぜ・・」


その実、重富はオスカルとアンドレが、気になって仕方がなかった。

そして中川は、パラパラ漫画のようにページを捲った。


「ちょ・・それやったら、なんも見えへんねんけど」

「おめー、わがままだな」

「いや、そんなんちゃうし」

「仕方ねぇやな」


そして中川は、ノートを台の上に置き、野間ら五人のことが書かれてあるページを開いた。

すると四人は、文字を目で追っていた。


――野間はペンドラ。またの名を天地。中肉中背、割とかわいい。芸能人でいうと、天地真理。こいつがエース。


「天地て、野間っていう苗字なんや」


阿部が言った。


「それやったら、野間でええやん」


重富が突っ込んだ。


「っていうか・・天地真理からとったんか・・」

「へぇ・・かわいいんや」


――B野郎はペンの前陣。またの名をオスカル。「きよし」にしようと思ったが却下。ラバーは不明。背は低い。顔は普通。


「きよし・・て、なんなん」


阿部が訊いた。


「やつは、目が大きいんでぇ。だから西川きよしの、きよしさね」

「え・・」

「それでよかったんちゃう?」


重富が言った。


「いや、こいつはオスカルでぇ」


――C野郎はシェイクの攻撃。またの名をアンドレ。体はでかい。こいつもそうだが、みな、フットワークが抜群。


「アンドレ・・体が大きいんや・・」


重富が呟いた。


「そうさね」

「アンドレってな、身長、192cmやねん!これはぴったりやわ!でもなあ・・オスカルも178cmあるから・・やっぱりBは「きよし」にせぇへん?」

「いや、もう変更は効かねぇ」

「なんでよ、あんた次第やん」

「おめー、うるせぇよ。名付け親は私だ!」


――D野郎はペンの前陣。またの名をイカゲルゲ。得意技はミート打ち。


「出たっ・・イカゲルゲや・・」


阿部が言った。


「ミート打ちか・・十本の足で変幻自在ってわけやな・・」

「おっ、重富、なかなかうめぇこと言うな」


――E野郎はカットマン。またの名をクチビルゲ。まるでスッポンのようにボールに食らいつく。ミスが少ない。


「へぇ・・クチビルゲはカットマンなんや・・」


阿部が言った。


「そうさね。こいつぁ~しつけぇぜ」

「でも、これで三神の情報が入ったわけやん?」


重富が言った。


「おうよ。だからこれは門外不出。先生にも言うんじゃねぇぞ」

「そらそやな・・偵察なんてことがバレたら、先生、めっちゃ怒りはるやろし」

「そしたらぁ、試合にはぁ、須藤さんらは出てけぇへんってことなんやなぁ」


森上が言った。


「おうよ。それさね。真のエースは天地でぇ」

「なあ、コウって誰なん?」


阿部が訊いた。

コウとは、中国人留学生の江のことだ。


「チビ助・・こいつぁ・・中国人コーチでぇ・・」

「ええっ!中国人?」

「コウのサーブは・・はっきり言って、おめーらよりすげぇぜ」

「そ・・そうなんや・・」

「そのサーブを、天地らは、ミスもあったが返していたぜ」

「そ・・そっか・・」

「あっ」


そこで重富は何かに気づいた。


「ゼンジーて書いてあるけど、もしかして竹林さんのこと?」

「おうよ。ゼンジーが来てやがったんでぇ」

「へぇ・・そうなんや・・」


ガラガラ・・


そこで扉が開き、日置が入ってきた。

中川は、慌ててノートをTシャツの中に隠した。


「きみたち、そこでなにをやってるの?」

「なっ・・なんでもありません・・」


阿部が答えた。


「体操やったの?」

「いっ・・今からですっ」

「そうなんだ。じゃ始めて」


そして彼女らは間隔を開けて体操を始めた。

けれどもTシャツの中にノートを隠した中川は、日置に背を向けて、つまり窓側を向いて体を動かしていた。


「中川さん」


日置が呼んだ。


「なっ・・なんでぇ」


中川は動きを止めて、そのまま返事をした。


「なんでそっち向いてるの?」

「け・・景色を見てるんでぇ・・」

「あはは、窓が閉まってるのに、なに言ってるんだよ」

「・・・」

「それよりきみ。体操が終わったら訊きたいことがあるから」


そこで中川は振り向いて日置を見た。


「訊きたいこと・・?」

「それと、これも渡さないといけないからね」


そう言って日置はズボンのポケットから、十円玉を五枚取り出した。


「それ・・なんでぇ・・」

「きみ、電話かけてたでしょ」

「ああ・・」

「取り忘れてたよ」


なにっ・・

先生・・仕事が細けぇよ・・


「ああ~!そうだった。先生よ、わざわざ済まねぇな」


そう言って中川は日置に近づこうした。

するとTシャツの中から、ノートが落ちかけた。

中川は慌てて止めようとしたが、一瞬の差でノートは床に落ちた。

この様子を、阿部ら三人はハラハラしながら見ていた。

和子は、あまりわけがわからず、中川がどうするのかと見守っていた。


「ああっ!」


中川は慌ててノートを拾った。


「それ、なに?」

「なんでもねぇやな」

「えらく慌ててたけど」

「ったくよー、先生ってさ、なんで女心がわからねぇんだ」

「え・・」

「女子高生と言やあ、お年頃ってもんよ」

「・・・」

「男にゃ、言いたくねぇことだってあんだよ」

「うん・・そうだよね」

「ああ~手がかかるったら、ありゃしねぇぜ」


中川はそう言いながら部室に入った。


危ねぇ・・危ねぇ・・

これを見られちゃお終いよ・・


そしてノートを鞄の中にしまった。


「で、先生よ、話ってなんでぇ」


部室から出た中川は、日置の傍まで行った。


「とりあえずこれ、渡しとくね」


日置は中川の手に、十円玉を置いた。


「ありがとな」

「それで、僕ね、最近きみの様子がどうもおかしいと思ってるの」

「ほーう」

「なんだか、天地とかイカとか言ってるし、なにか隠してない?」

「隠してねぇよ」

「じゃ、天地とかイカとか、それはなんなの?」

「それはだな・・なんつーか・・」

「もし、卓球に関係することだったら、隠し事は許さないから」

「・・・」

「特に、予選に関してだったら、絶対に許さないよ」

「あ・・あの・・」


そこで阿部が口を開いた。


「なに?」

「あのっ・・中川さん・・最近、ある情報を手に入れまして・・」


そこで中川は、唖然としながら阿部を見た。


チビ助・・

おめー・・まさか、裏切るつもりじゃねぇだろうな・・


森上も重富も、まさかと思い、ハラハラしていた。


「情報ってなんなの」


そこで日置は彼女たちにも前に来るよう、手招きをした。

そして彼女らは慌てて日置の前に立った。


「阿部さん、なんなの」

「あのですね・・大阪誠愛高校という学校がありまして・・」

「うん」

「そこの卓球部は・・とても強いらしくて・・」

「そうなの?」

「それで・・中川さんは偶然センターで見かけたらしく・・」

「うん」

「それで・・名前がわからないので、天地とかイカゲルゲとか・・呼び名を付けて・・」

「そうなんだ」

「はい・・」

「中川さん」


日置が呼んだ。


「なんでぇ・・」

「強いって、レベルはどのくらいなの?」

「そりゃ・・おめー・・強いのは強いんでぇ・・」

「だから、レベルは?」

「さっ・・三神より・・ちょっと・・下かな・・」

「うちと誠愛、どっちが上?」

「そりゃ・・おめー・・やってみねぇと・・な・・」

「でも・・誠愛って聞いたことないなぁ」

「あの・・」


そこで和子が口を開いた。

みんなは、何を言うのかと、一斉に和子を見た。


「私・・ここを受験する時、他の学校も一応確かめたんです。参考のために」

「うん」

「その中に、大阪誠愛高校もありました」


彼女ら四人は愕然とした。

実在したのか、と。

中川は、思わず叫びそうになったが、懸命に堪えていた。


「そうなんだ。あるんだね」

「はい」

「そっ・・そうさね。あんだよ」

「そっか。天地の件は、そういうことだったんだね。わかった」


日置はある程度納得した様子だった。

そして電話の件も、大したことではないと思っていた。

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