表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サーよし!2  作者: たらふく
210/413

210 事件




―――それから三日後の朝。



「なっ・・なんやこれは・・」


一番早く出勤して職員室に到着した堤は、扉を開けて愕然としていた。

そう、校庭側の窓ガラスが割られ、職員室が何者かによって荒らされていたのである。

堤は、割れたガラスを片付けようとしたが、もしや窃盗ではないかと、踏みとどまった。

なぜなら、犯罪であれば現場検証をしなければならないからだ。


ほどなくして次から次へと出勤した教師らは、室内を見て唖然としていた。

その中には校長の工藤もいた。


「警察へ連絡しましょう」


工藤は校長室へ行き、すぐさま電話をかけた。

少し遅れて出勤した日置は、騒然とするこの場を見て、慌てて駆け寄った。


「どうしたんですか!」


日置は加賀見に訊いた。


「泥棒が入ったらしいんです」

「えっ!」

「窓ガラスが割れてて、犯人はそこから侵入したようです」

「なんてことだ・・」

「おお、日置くん」


堤が呼んだ。


「泥棒って・・」

「今、校長が警察へ電話しとる。それで、我々教師は生徒の身の安全を確保するため、今から各教室に回って、他にも被害がないか確かめるぞ」

「はい、わかりました」


「全校生徒の皆さん――」


工藤が放送をかけた。


「いいですか、よく聞いてください。みなさんは教室へ行かずに、校庭で待機しててください。おそらく昨夜か未明にかけて、何者かが侵入し職員室が荒らされています。そこで他にも被害がないか確かめますので、教室へ行かないように。いいですか、校庭で待機してください。繰り返します――」


工藤は、これを三回繰り返した。

この放送を聴いた生徒たちは、「ええええ~~泥棒!」と大騒ぎになった。

教師らは、各教室へ行き、異状がないか隅々まで確認して回った。


「おいおい、なんだってんでぇ」


今しがた登校した中川は、この騒ぎに唖然としていた。


「あっ!中川さん!」


阿部が見つけた。


「この騒ぎはなんだってんでぇ」

「なんか、泥棒が入ったらしいねん」

「なにぃーーーーっ」

「恵美ちゃんと、とみちゃん、見た?」

「いや、見てねぇけど、泥棒って、どこに入ったんでぇ」

「職員室らしいねん」

「学校に金なんかあるわけねぇだろ。バカじゃねぇのか」

「ほんで、私らは校庭で待機やねん」

「なんでだよ」

「今、先生らで各教室回ってはって、被害がないか確かめてはんねん」

「なるほど。おい、チビ助」

「なによ」

「小屋は大丈夫なのかよ」

「いや・・知らんし」


そこへ森上と重富も登校してきた。

当然、この騒ぎに驚き、何があったんだと阿部に訊いた。

そして阿部は、同じ説明をしていた。

中川は三人を置いて、小屋に向かっていた。


ほどなくして小屋に着いた中川は、まさかと思いながら扉を開けた。

するとどうだ。

部室のドアが開いており、ボールが転がっていた。


えっ・・

嘘だろ・・


慌てた中川は、靴も脱がすに中へ入り、部室の前に移動した。

すると籠に入ったボールは散乱し、卓球日誌も床に落ちてページが開いているものもあった。

けれども幸いにも、被害はこの程度だった。


ここにも入りやがったんだ・・

くそっ、とんでもねぇやつだ!


中川は小屋を出て、阿部らの元へ急いだ。


「おい、おめーら!」

「中川さん、どこ行ってたんよ」

「おめーら、驚くんじゃねぇぜ」

「なによ」

「小屋にも侵入してやがったぜ」

「えええええ~~~!」


阿部ら三人は、驚愕の声を挙げた。


「先生に言わんと!」


重富が言った。


「せやけど、先生、どこなん!」


阿部はかなり動揺していた。


「おめーら、落ち着きやがれってんだ」

「せ・・せやけど・・小屋にも入ってたやなんて・・なんか・・怖い・・」

「ほんまや・・気持ち悪い・・」

「千賀ちゃぁん、とみちゃぁん、落ち着いた方がええよぉ」

「小屋・・どうなってたん・・」


阿部が訊いた。


「部室が開いててよ、んでボールが散乱して、日誌も床に落ちてたぜ」

「うわああああ~~~」

「でも他は、なんともねぇ。だからチビ助、落ち着けよ」

「ああ・・めっちゃ気持ち悪い・・」


重富が言った。


「あっ、きみたち、校庭に行きなさい」


そこへ日置が走って来た。


「先生~~!小屋にも泥棒が入ってたみたいです・・」


阿部が言った。


「どうしてわかったの?」

「中川さんが確かめに行って・・それで・・」


そこで日置は中川を見た。


「ボールが散乱して、ノートが床に落ちてた」

「そうなんだ・・あっ、中には入らないで。警察が来るから」

「っんなこたぁわかってらぁな。現場検証ってやつさね」

「きみ、よく知ってるね。それより、早く校庭へ行きなさい」

「教室は・・教室はどうなってるんですか!」

「阿部さん、落ち着いて。今、先生方でそれを調べてるの」

「そ・・そうですか・・」


そして日置は、また走って行った。


「チビ助、おめー落ち着けって」

「千賀ちゃぁん」


森上はそう言って、阿部の肩を抱いていた。


「おめーら、後はサツに任せて、校庭へ行くぜ」

「中川さん・・めっちゃ落ち着いてるな・・」


重富が言った。


「っんなもんよ、慌てたってしょうがねゃやな」

「うん・・そうなんやけど・・」

「ほら、行くぜ」


やがて警察が訪れ、現場検証も終えた。

検証の結果、被害に遭ったのは職員室と小屋だけで、結局、犯人は何も盗らずに逃走中とのことだった。

当然ながら、この日は授業どころではなかった。

その殆どが自習となり、教師たちは今後の対策をとるべく、職員会議に追われていた。



―――ここは一年五組。



「それにしてもさあ、泥棒って、めっちゃ怖いよな」

「でも、大した被害もなくてよかったで」

「先生ら、大変やな・・」

「今日は、一日中、自習か・・」


このように、彼女らは自習どころではなく、事件の話題でもちきりだった。

そんな中、神田は誰とも口を利くことがなく、犯人が小屋にも侵入したことを「ざあまみろ」と思っていたのだ。


「なあなあ、郡司さん」


最近、和子と仲良くなった市原いちはら美代子みよこが声をかけた。


「なに?」

「卓球部も被害に遭って、大変やな」

「でも・・被害は少なかったようじゃし」

「それ、不幸中の幸いやったよなあ」

「うん、そうじゃの」

「それより、どう?」

「どうって?」

「卓球やん。頑張ってる?」

「うん。今は素振りじゃけど、先生がもうじき打たせてくれるみたいじゃけに」

「そうなんや!素振り500回、やったんや」

「それをせんと、次に進めんのよ」

「いやあ~郡司さんすごいわ」

「そがなこと、ねぇけに・・」


和子は少し照れた。


「ああ、先輩に中川さんていてるやん」

「うん」

「どう?怖い?」

「ううん。優しいええ人じゃけに」

「えええ~~そうなんや。八つ裂きにするとか言うとったらしいやん」

「あれは言葉だけ。ほんまええ人じゃけに」

「そうか~、卓球部は強いし、これからやな」


市原は優しく微笑んだ。


「市原さんは、何部じゃった?」

「私さ~、とりあえず新聞部に入ってるんやけど、これもただ入っただけやねん」

「そうなんや」

「ほら、校則ではどっかに入らなあかんってなってるやん。それで」

「頑張りゃええのに」

「まあなあ・・」


この会話を近くで聞いていた神田は、なんとも面白くなかったのである。

そして和子は視線を感じ、チラリと神田を見た。

すると神田は「ふんっ」とソッポを向いた。

和子はとても嫌な気持ちになったが、気にしないでおこうと努めた。



―――そして放課後。



「今日は、大変な日だったね」


練習前、日置がみんなに向けてそう言った。


「でもよ、ここの窓が壊されていたら、練習もなにもあったもんじゃなかったぜ」

「確かにそうだよね。それで、その練習のことなんだけどね」

「なんでぇ」

「阿部さんと中川さん、きみたち最近、居残りやってるよね」

「おうよ」

「実は、職員会議で決まったんだけど、教師不在の練習はしばらく禁止になったの」

「ええええええ~~~!」


中川は思わず叫んだ。

ズボールはどうなるんだ、と。


「これは卓球部だけじゃないの。全クラブでそう決まったの」

「あのよ、んじゃ朝練ってのはどうでぇ」

「それもダメ」

「なっ・・なんだとおおおお!」

「とにかく、少なくとも犯人が捕まらないうちは禁止。捕まっても、模倣犯が出ないとも限らないってことで、しばらくは禁止」

「くっそぉ~~~!おのれ、泥棒め!コソコソ逃げ回ってんじゃねぇよ!」

「そういうことだから。じゃ、練習始めるよ」


小屋は、ずっと施錠はしてなかった。

まさか、泥棒が入るとも思わなかったし、施錠をしていると、鍵を持っている者が来ない限り中には入れないし、なにかと不便だったからである。

これは小島らの時代からそうだった。

この日を境に帰る時は施錠し、鍵は小屋の裏手の土の中に隠すことになったのである。



―――この日の練習後。



「チビ助よ」


歩きながら中川が呼んだ。


「なに?」


阿部もすっかり落ち着きを取り戻していた。


「ズボール・・どうすんでぇ・・」

「ああ・・それやんな・・」

「居残りができねぇとなると・・場所がねぇぜ・・」


阿部はガレージに卓球台を置いてあることは、まだ報せてなかった。

特に隠していたわけでもないが、サーブを編み出すまで言いたくなかったのだ。

その後、言おうと思えば言えたが、単に忘れていただけなのである。


「あのさ、中川さん」

「なんでぇ」

「ズボールの練習、出来るかどうかわからんねんけどな」

「ん?」

「私の家のガレージに、卓球台、置いてあるねん」

「え・・」


中川は思わず立ち止まった。


「いや・・だからガレージに・・」

「おいおいおい、チビ助よ!なんで早く言わなかったんでぇ!」

「いや・・まあ、特には・・」

「おめー、それを使えっつってんだな!」

「それがさ、言うてもガレージやん?だから狭いねん」

「っんなこたぁ構わねぇさ!やらねぇよりはマシさね!」

「ほんなら、今から行く?」

「あたぼうよ!」


こうして阿部は、中川を連れて自宅へ向かったのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ