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サーよし!2  作者: たらふく
202/413

202 新学期




―――「和子、大丈夫か?」



母親の郡司節江は、和子の初登校を、とても心配していた。


「大丈夫」

「田舎もんじゃけに・・いじめられたりせんかのぉ・・」

「そがなこと、ありゃせんじゃろ」

「言葉も・・直した方がええけに・・」

「まあ、そのうちな」


節江と和子は、春休み中に大阪へ引っ越していた。

節江は、母であるトミを一人置いて出ることをとても気にしていたが、それ以上に和子を一人にするのはもっと心配だった。


「じゃ、行ってきます」


そう言って和子は家を出た―――



学校は今日から新年度だ。

乙女たちの元気な声が、学園内に戻っていた。

新入生らは、真新しいセーラー服を身に着け、これから始まる学園生活に、期待と不安が入り混じった気持ちを抱えていた。

その中に、和子もいた。

けれども和子は、卓球部に入るため入学したのだ。

そう、ちゃんとした目標を持って桐花へ来たわけだ。

その意味では、他の子たちよりも気持ちは前に向いていた。


やがて全校生徒が校庭に集まり、始業式が始まった。

生徒が見守る中、校長の工藤が朝礼台に上がった。


「えー、全校生徒の皆さん、おはようございます。今日から新年度です。新入生の皆さんはなにかと不安もあるでしょうが、きっと素晴らしい学園生活が待っています。今日から三年間、勉強にスポーツにと、精一杯頑張ってください」


そしてこの後、工藤の話は、十分続いた。


「なげぇよ」


中川がそう言うと、周りの者は、クスクスと笑っていた。

中川ら四人は、また偶然にもクラスは同じで、二年六組だった。


「えー、それでは、きみたちの先生方を紹介します」


工藤がそう言うと、朝礼台の横に並んで立っている教師らは、名前を呼ばれるごとに一礼していった。


「そして、保健体育の日置先生です」


日置が一礼すると「きゃあ~~~」と新入生から、早速、黄色い声が挙がっていた。


「日置先生は、卓球部の監督もしておられます」


日置先生じゃ・・

人気があるんじゃのぉ・・

そりゃそうよの・・


和子は、久しぶりに見る日置に、懐かしさを覚えていた。


「あの先生、かっこええよね」


和子の横に並んでいる女子が声をかけてきた。


「うん・・そうよの・・」


和子の言葉に、女子は少し驚いていた。


「あんた・・大阪と違うん?」

「私は・・四国から来たんじゃけに」

「四国・・またなんで?」

「まあ・・色々と・・」

「ふーん」


和子は、なんとなく嫌な気がしていた。

これからも、方言のことを言われるだろう、と。


「私、神田かんだ咲良さくら

「私は・・郡司和子・・」

「郡司さん、一緒のクラスやんな」

「ああ・・うん」

「これからも、よろしく」

「こ・・こちらこそ・・」


和子と神田は同じクラスで、一年五組だ。

二人は友達になったように見えたが、神田は次第に和子の「優柔不断」な性格に苛立ちを覚え始める。



―――ここは二年六組。



「あはは、おめーら、また同じクラスかよ!」


中川が彼女ら三人に言った。


「それやん」


阿部は、わざとうんざりした風に返した。


「ったくよー、どこまで面倒かけやがんでぇ」

「こっちのセリフやっちゅうねん」

「チビ助、おめーほんとは嬉しいんだろ」

「なんでやねん」

「中川さぁん、私は嬉しいでぇ」

「おうよ!森上は素直でいいやな」

「ところでさ、中川さん」


重富が呼んだ。


「なんでぇ」

「あんた、昨日、なんで休んだんよ」

「まあまあ、私にも都合ってもんがあってよ」

「先生、めっちゃ心配してはったで」

「また今日から頑張るからよ、勘弁してくんな。それよりさ」

「なによ」

「今週の土曜日さね・・」


中川は、突然深刻ぶった。


「土曜日が、なんなんよ」


阿部が訊いた。


「決闘さね・・」

「えっ!」

「ちょ・・決闘て・・あんた、とうとう・・」

「中川さぁん・・そんなこと危ないよぉ」

「私は、あの野郎を呼び出したんでぇ」

「あの野郎て、誰なん?」

「呼び出したて、どこに!」

「あの野郎・・来ない場合は・・逃げたと見做す!」

「ちょっと、中川さん!」


阿部が怒鳴った。


「なんでぇ」

「暴力事件とか起こしたら、卓球部は廃部やで!」

「おいおい、チビ助よ」

「なによ」

「誰が暴力って言ったよ」

「だって、決闘て言うたやん」

「おうよ、命のやり取りでぇ」

「え・・あんた、それって卓球のことなん?」

「けっ、決まってんだろうがよ」

「呼び出したて、誰なん?」


重富が訊いた。


「ふふっ・・ジャガイモさね」

「ジャガイモ?」


重富は、まだ大河に会ったことがなかった。


「あ、おめーは知らねぇんだな」

「中川さぁん・・またジャガイモて・・あかんと思うよぉ」


森上はあだ名のことを言った。


「おうよ、そうだった。そいつは大河って野郎だ」

「で、その大河って人と、決闘すんねや」

「そうさね」

「わかった。私も行く」


阿部が言った。


「なんでだよ」

「あんた一人やったら、またなにするかわからんしな」

「ったくよー、保護者かよ」

「私も大河って人、見たいし行く」

「重富よ・・」

「なによ」

「気持ちはわかる、わかるぜ・・でもよ、おめーは秘密兵器なんでぇ」

「え・・」

「おめーの正体、ばらしちまったら、先生の計画がお釈迦だ」

「見学やったらええやん」

「あ・・そういや、そうだな」


中川がそう言うと、「あんた、しっかりしてそうで、おっちょこちょいやな」と阿部が突っ込んだ。



その後、一年五組では、和子と神田は一緒に教室を出て下校していた。


「郡司さん」


神田が歩きながら呼んだ。


「なに?」

「もうクラブ、決めてるん?」

「うん」

「え、何部なん?」

「卓球部」

「あ、わかった」

「え・・?」

「日置先生やな」


神田はいたずらな笑みを見せた。


「ああ・・そうなんじゃけど・・違う・・」

「違うて、なにが?」

「ここの卓球部は、ものすごく強ょおて・・」

「あはは、嘘って顔に書いてあるで」

「いや、ほんまじゃけに・・」

「まだ決めんでええやん」

「え・・」

「明日、クラブ紹介があるって言うてたし、その時でええんちゃう?」

「うん・・まあ・・」

「郡司さん」

「なに・・」

「同じクラブに入ろな」


神田は優しく微笑んだ。



―――この日の夜。



「学校、どげなかった?」


食事をしながら節江が訊いた。


「うん、特になんちゃありゃせんかったよ」

「友達は?」

「神田さんていう子と、友達になったんよ」

「あらま、よかったなあ」

「うん」


和子はそう言って笑った。


「それで、日置先生は?」

「ああ・・私が入学したこと、まだ知らんのよ」

「あらら、話しかけんかったんかいの」

「日置先生、人気があって」

「そりゃそうよの。ハンサムなんじゃけにの」

「お母さん、仕事はどげな?」

「あはは、心配せんかて、もう慣れとるよ」


節江は、近隣のスーパーで働いていた。

家賃と学費はトミの仕送りで賄えたし、食費もろもろは節江の稼ぎでも、贅沢さえしなければ食べていくには十分だった。


「明日は、先生に話しかけたらええが」

「うん、そうしてみるけに」

「驚くじゃろうの、先生」

「なんで来たんじゃって、言われたらどうすりゃええかの・・」

「あはは、あの先生は優しい人じゃが。そげなこと言やぁせん」


和子は神田に「同じクラブに入ろう」と言われたことが、心に引っかかっていた。

やや強引な気質の神田の誘いを断れるだろうか、と。

それより、自分が神田を誘えばどうかと。


そうじゃ・・

それがええが・・

一緒に卓球部に入って・・

インターハイを目指しゃあええんじゃ・・


こう考えた和子だったが、事態は反対の方向へ動くのであった。

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