表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サーよし!2  作者: たらふく
201/413

201 滝本東高校




中川は、三神を後にしてから千里中央に出て、駅前のハンバーガーショップへ寄った。


「いらっしゃいませ、ご注文をどうぞ」


店員は、こぼれる様な笑顔で訊いた。

けれどもその笑顔は、中川の風貌が可笑しいせいもあった。


「ハンバーガーとポテトとコーラ」

「かしこまりました」


店内はお昼時とあって、カップルや家族連れで混雑していた。

やがて中川は、注文した品を持ってテーブルに着いた。


ああ~~・・疲れたな・・

にしても・・ゼンジーはいいとして・・

三神って、監督いねぇのかよ・・


中川は、ハンバーガーを頬ばりながら、そんなことを考えていた。

そして、試合の時にロビーで会った「クラブ探しジジィ」が、まさか監督だとは夢にも思わなかった。

ほどなくして中川は、鞄からノートとボールペンを取り出した。


どれどれ・・


中川はメモした内容を読んでいた。


天地は確かにうめぇ・・


天地とは、野間のことである。


というか・・三神の野郎は、全員が動きが速かった・・

フットワークの良さは、群を抜いてやがったぜ・・

それとレシーブだ・・

コウって野郎のサーブを・・どいつもこいつも返してやがった・・

やっぱり予選では・・チビ助らのサーブは通用しねぇぜ・・


そして中川はボールペンを手にした。


B野郎・・こいつの呼び名はなんにすっかな・・


B野郎とは山科のことである。

そして中川は、苗字がわからないので、それぞれの特徴を捉えて三年生に呼び名をつけ始めた。

野間のことは既に天地で確定していた。


うーん、特徴っつったてな・・

見た目は天地だけだしよ・・

かぁ~~・・めんどくせぇ~~

仕方ねぇやな・・


なかなかいい案が浮かばなかった中川は、適当につけ始めた。


B野郎はオスカル・・

C野郎はアンドレ・・


C野郎とは向井のことである。

オスカルとアンドレとは、『ベルサイユのばら』という池田理代子が描いた漫画の登場人物の名前である。


あと二人か・・

うーん・・なんにすっかな・・

あっ・・これなんか、どうでぇ・・

ふふっ・・


D野郎はイカゲルゲ・・

E野郎はクチビルゲ・・


D野郎とは磯部で、E野郎とは仙崎のことである。

イカゲルゲとクチビルゲとは、さいとうたかお原作の漫画を、『超人バロム1』という子供向け特撮ヒーローものを実写化した際に登場する悪者ドルゲ魔人の名前である。


よしよし・・これでいいな・・

あ・・そういや・・これだよ、これ・・


中川は「魔球」のことを思い出した。


チビ助に訊くのもいいが・・

私はカットマンでぇ・・

小島先輩・・なんか知ってっかな・・

待てよ・・もしかすると卓球日誌に、なんか書いてあるかもしんねぇぞ・・

まずは・・それを読んでからだな・・


ほどなくして中川は店を後にした―――



中川は、そのまま家に帰ろうと思ったが、ふと大河のことが頭に浮かんだ。


あいつ・・滝本東っつってたな・・

今日も、練習してるはずだ・・

つーか・・滝本東ってどこにあんだよ・・


その実、滝本東高校も、吹田市だった。

駅前からバスに乗り、滝本東高校前で降りれば行けるのだ。

とりあえず中川は、改札の駅員に訊くことにした。


「あの、滝本東高校って、ご存じかしら?」


駅員は、変な風貌の中川に少々驚いていた。


「あの、滝本東でございますの。ご存じ?」

「ここからバスに乗ったら行けますよ」

「あら・・そうでしたの。あのバス停でよろしいの?」


中川はバス停を指した。


「そうですよ」


駅員は、笑っていた。


「どうも」


そして中川は、またバス停で待った。


けどよ・・

今日はラケットも靴も持ってねぇし・・

行ったところで、なにすりゃいいんでぇ・・

ま、いいさね・・

乗り掛かったバスでぇ・・


中川は自身の例えに、思わず「ぷっ」と笑った。

ほどなくしてバスが到着し、中川は乗り込んだ。


そういや・・須藤も菅原も・・立ってたよな・・

よーーし、負けてらんねぇぜ!


席はたくさん空いていたが、中川は立ったままバスは出発した。

すると電車と違い、バスの揺れはきつい。

特に右折や左折をするときなどは、つり革を持たないと、とてもじゃないが立ってられないほどだ。

中川は何度も転びそうになり、座席の取っ手を掴む始末だ。


うーむ・・あいつら・・

これに耐えてやがったのか・・

ってことはよ・・三神の野郎は全員がこれに耐えられるってことさね・・

足腰・・半端ねぇってことだ・・

これもあとで・・書き足さねぇとな・・


中川は揺れに耐えられず、つり革を持った。

そしてバスは、滝本東高校前で停車し、中川は下車した。

ほどなくして校門に到着した中川は、躊躇なく中へ入った。

そして体育館をすぐに見つけ、そのまま向かった。


かぁ~~~なんてぇ贅沢な体育館でぇ・・


改修されたての体育館は、外観もそうだが、入り口のドアから何から新品同様で、まさにピカピカだった。


「いやあ~大久保くん。この度はたくさん寄付をしてくれて、深く感謝しております」


中川の横を、年行の男性が大久保と共に通り過ぎようとしていた。


げ~~~あれは、大久保さんじゃねぇか!

こんなとこで・・なにやってんでぇ!


そう、大久保は滝本東の出身なのである。


「いえいえ~少ないですけど~お役に立てたなら~なによりです~」

「それにしてもきみ、桂山で頑張っているみたいで」

「はい~不動のエースとして、活躍しております~」

「見て行かないのですか」


男性は卓球部の練習のことを言った。

そこで大久保は、中川に気が付いた。

けれども、あの中川だとは思いもしなかった。


「あらあら~お嬢ちゃん~、ここは男子校よ~」

「えっ・・」

「ここで何してるの~」

「いやっ・・私は・・」

「きみ」


男性が呼んだ。

ちなみにこの男性は校長だった。


「なにかしら・・」

「部外者が勝手に入られると困るんやけどね」

「そ・・そうでございますわね・・おほほ・・」

「ここでなにしてたんや」

「なにって・・ああっ、とても美しい体育館ですこと・・」

「え・・」

「見惚れておりましたの・・」

「お嬢ちゃん・・あんた、もしかして・・」


そう、大久保は中川の話しぶりで気が付き始めた。


「なっ・・なんでございましょう・・」

「中川さんと違う~?」

「えっ・・」

「その、変なメガネとマスク外してみ~」

「大久保くん、知ってる子なんですか」

「ええ~多分~」

「きみ、マスクとメガネをとりなさい」


ぐぬぬ・・こうなったからにゃあ・・とるしかねぇか・・


そして中川は、マスクとメガネを外した。

すると校長は、その美貌に唖然としていた。


「あはは、やっぱり中川ちゃんやないの~」

「お・・おう・・」

「こんなとこで、なにしてたんや~」

「いや、そのよ・・ここの卓球部にちょっとした知り合いがいてよ」


校長は、中川の話しぶりに、さらに仰天していた。


「知り合いて、誰なん~」

「大河って野郎さね」

「あらまっ、大河坊や知ってるのね~」

「ぼっ・・坊や・・」

「それで~、坊やに会いに来たんか~」

「いや・・そういうわけでもなくてよ・・」

「なによ~」

「私は、あの野郎に借りがあるんでぇ」

「借り?」

「あいつに、コテンパにされたままなんでぇ。だからよ、また対戦してぇと思ってよ。それでなんとなく・・」

「あらま~そうやったんや~。うんうん、ええやないの~」

「でも、今日は帰る」

「あらら、なんでなん~」

「なんか・・違う気がしてよ」

「なにが違うんや~」

「その・・コソコソと・・」


中川は、「来るんやったら堂々と正面から来んかい」と、悦子に言われたことを思い出していた。


「あはは、別にええやないの~。どれどれ、私が連れてったげる」

「大久保くん、こんな野蛮な子・・」


校長は、中川の話しぶりが気に入らなかった。


「いえいえ、校長。この子はええ子です~」

「えぇ・・」

「大久保さんよ」


中川が呼んだ。


「なんや~」

「おめーさんの気持ちはありがてぇけどよ、今日はやっぱり帰る」


中川は、大久保に迷惑をかけたくなかった。


「あらま~」

「その代わりといっちゃなんだが、大河の野郎に、センターへ来るよう言ってくんねぇか」

「卓球センターか?」

「おうよ。週末・・今度の土曜日、夜八時。中川が待ってると伝えてくれ」

「そうか~、うん、合点承知の助よ~」

「それと!」

「えっ・・」

「来なかった場合・・私から逃げたと見做すってことも、伝えてくんな」

「はいはい、わったわ~」

「恩に着るぜ。邪魔したな」


そう言って中川は、この場を去った。

そして大久保は、その足で体育館に入った。


「坊やたち~」


大久保が呼ぶと「うーーっす」と後輩たちは挨拶をした。


「大河ちゃ~ん」

「はい」

「ちょっとおいで~」


大河は何事かと、小走りで大久保に駆け寄った。


「なんですか」

「あんた、中川さんて知ってるか~」

「中川さん・・ですか」

「とってもきれいな女子高生よ~」

「あっ!あの中川さんですか」


大河の表情は一気に曇った。


「あんた、あの子とどういう関係なんや~」

「どういうて・・僕、はっきり言うて、あの子嫌いなんです」

「あらまっ、なんでやの~」

「めっちゃ生意気ですし、言葉遣いも乱暴で」

「あはは、うん、わかるわ~」

「で、その中川さんがどうかしたんですか」

「今度の土曜日、夜八時にセンターへ来いって」

「え・・」

「来んかったら、逃げたと見做すて」

「逃げたて・・僕がですか」

「そう言うてたわよ~」

「なんであの子から逃げんとあかんねや・・」


大河はあまりの無礼に、呆れ返っていた。


「言いたいのはそれだけよ~」

「先輩って、中川さんと知り合いなんですか」

「そうよ~」

「そ・・そうなんですか・・」

「あの子、言葉は乱暴やけどね~、持ってるもんは他の子と違うわよ~」

「持ってるもん?」

「ここよ、ここ」


大久保は自分の胸を叩いた。


「どういう意味ですか」

「あんた、対戦したことあるんやったら、わかってるはずよ~」

「別に・・僕は・・」


大河とて、大久保の言葉の意味は、なんとなく理解していた。

そう、中川は他の子にはない、とんでもない度胸と一途な面があることを。


「ほな、伝えたからね~」


大久保が帰ろうとすると「練習、見て行ってください」と大河が言った。


「私は用事があるのよ~。だから帰るわね~」

「そうですか。また来てください」

「合点承知の助よ~、ほなね~」


そして大久保は、学校を後にした。

大河は「来なかったら逃げたと見做す」と言い放った中川を、再び叩き潰してやろうと思っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ