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サーよし!2  作者: たらふく
198/413

198 事実を告げる辛さ




―――ここは小島家。



小島は、今しがた帰宅した。

そして、いてもたってもいられず、日置に電話をかけた。


「もしもし、日置です」

「あ、先生、私です」

「彩ちゃん、こんばんは」

「ああ・・こんばんは」

「こんな時間にどうしたの?もう遅いよ」


時間は十時半を回っていた。


「あの・・先生」


小島は、事実を話すと日置はショックを受けるだろうと、胸が痛んだ。


「ん?」

「あのですね・・」

「うん」

「えっと・・」

「あっ、わかった。僕に会いたいんだね」

「えっ・・」

「あはは、図星だね」


先生・・めっちゃ嬉しそうやん・・


上機嫌な日置に、小島は更に胸が苦しくなった。


「今日は、真っすぐ帰ったんでしょ?」

「あ・・いえ、内匠頭と・・」

「そうなんだ。ああ、それよりあの子たち、どうだった?」

「はい・・そらもうびっくりしました」

「でしょ!彩ちゃんもびっくりすると思ってたんだ」

「はい」

「それと、サーブ。すごかったでしょ」

「はい、そらもう、大久保さんらも驚いてました」

「そうなんだよ。あのサーブは、まさしく必殺なんだよ」

「はい、そう思います」

「それと、中川は失礼がなかった?」

「いえ・・全然・・」

「彩ちゃん」

「はい」

「どうしたの?」


日置は小島の声に張りがないと感じた。


言わんと・・

はよ・・言わんと・・


そして小島は覚悟を決めた。


「あのですね・・そのサーブのことなんですが・・」

「うん」

「実は・・――」


そして小島は、三宅の話をした。

すると日置は、次第に返事をしなくなっていた。


「あの・・先生?」

「・・ん?」

「せっかく・・阿部さんが編み出したサーブやのに・・ほんまになんて言うてええか・・」

「うん・・」

「一刻も早く知っとくべきやと思いましたんで・・電話しました」

「そうなんだ、ありがとう」

「あの・・今回のことは、誰も悪くないんです・・せやから・・中川さんを叱らんといてくださいね」

「わかってるよ」

「大丈夫ですって。もしサーブが通用せんかっても、あの子らには三神に勝てる実力があります」

「そうだね」

「だから、落ち込まんといてくださいね」

「彩ちゃん」

「はい」

「心配しなくていいよ。報せてくれてありがとう」


そして二人は、ほどなくして電話を切った。


そっか・・三宅くん、喋っちゃったんだ・・

でも、仕方がない・・

彩ちゃんが言うように・・誰も悪くない・・


日置はこう思っていたが、それは頭ではわかっていても、というやつだ。

せっかく阿部が苦心して編み出したサーブが、いわば泡となって消えるわけだ。

阿部や彼女らの気持ちを思いやると、日置はなんとも辛くてやりきれないのであった―――



翌日、彼女らは元気一杯に準備体操を始めていた。


「それにしてもさ、私らのサーブ、めっちゃ効いてたな」


阿部は、桂山でのことを言った。


「ほんまほんま。あの人らに通用したんやから、予選では絶対やで」


重富もそう言った。


「でもぉ~サーブだけに頼ったらぁ、通用せぇへんかった時ぃ、ショックやと思うでぇ」


森上は、奇しくもそう言った。


「おめーらは、いいよなあ。私なんざ、殆ど通用しなかったぜ」

「中川さんにはカットがあるやん」


阿部が言った。


「まあよ、私はサーブより、おめーが言うように、カットをもっと強化すんぞ。ストップなんざ、屁でもねぇぜっ!」

「その意気やでぇ~中川さぁん」

「おうよ!」


するとそこに、扉を開けて日置が入って来た。


「おはよう」

「先生、おはようございます!」

「おはようございます!」

「おはようございますぅ」

「よーう、先生」

「あはは、きみたち、元気一杯だね」

「あたぼうよ!こちとら元気も元気、やる気が漲って仕方ねぇやな!」


日置は、彼女たちの曇りのない表情を見て、胸が苦しくなった。

そして、事実を話すと中川が傷ついてしまうことが、とても心配だった。


「体操終わったら、話があるからね」

「はいっ」

「おうよ!」


この時点で彼女らは、まさかサーブのことが三神にばれていようとは夢にも思わなかった。

ほどなくして体操を終えた彼女らは、日置の前に整列した。


「話て、なんですか」


阿部が訊いた。


「うん、実はね、サーブのことなんだけど」

「サーブて、必殺サーブのことですか?」

「うん」


けして明るくはない日置の表情が、彼女らには不可解に映った。


「先生よ、それがどうしたってんでぇ」

「中川さん」

「なんでぇ」

「きみ、三宅くんって知ってるよね」

「三宅・・うーんと、誰でぇ」


中川は苗字を忘れていた。


「センターで練習した男の子だよ」

「あっ!ああ~~はいはい、あいつらな。そうそう、三宅と多田って言ってたぜ」

「うん」

「で、三宅がどうしたってんでぇ」

「実は、三宅くんが通ってる大学に三神の選手が練習に行ったの」

「ほーう」

「で、その時ね、三宅くん、サーブのこと須藤さんに話したらしいの」

「え・・ちょっと待ってくんな。意味がわからねぇぜ」

「きみ、センターでサーブのこと多田くんと三宅くんに話したんだよね」

「あ・・」


そこで中川は思い出した。

確かに喋ったぞ、と。


「いやっ・・ちょっと考えさせてくんな・・」


中川は、あの日の会話を細かく思い出そうとした。


確か・・逆回転サーブがあると・・私は言った・・

誰も見破れねぇぜ・・と・・

でもよ・・なんで三宅が須藤に・・

なにっ!まさか・・


「するってぇと、あれか。三宅ってのは、三神の犬だったのかよ!」

「違うよ」

「私は確かに喋った。すげぇサーブがあると。誰も見破れねぇ逆回転サーブがあると。でもよ、万が一のことを考えて桐花とは言わなかったんだぜ」

「そっか」

「犬じゃねぇとしたら、三宅はなんで喋ったんでぇ!」

「単なる偶然。それだけ」

「ぐ・・偶然って・・」

「ということで、きみたちのサーブは、もう三神は知ってる」


阿部と森上と重富は、むごい事実を前に言葉も出なかった。


「それで、三神のことだから、きっと対策も取ってるはず」

「・・・」

「よって、予選では必殺サーブは通用しないと考えた方がいい」

「わっ・・私が・・調子に乗って・・三宅に喋っちまったから、こんなことに・・」


中川は、当然のように自分を責めた。


「チビ助、森上、重富、済まねぇ!ほんとに済まねぇ!」


なんと中川はその場で土下座をした。


「中川さん、そんなん止めて!」

「あんたのせいちゃう!」

「そやでぇ、中川さぁん、止めてぇ~」


彼女らは中川を立たせようとした。


「いやっ、私はおめーらと、先生に顔向けできねぇ・・」


中川は床に手をついたままだ。


「中川さん」


日置は静かに声をかけた。

中川は、ずっと俯いたままだ。


「私は・・先生に・・おめーらに迷惑ばっかりかけてよ・・。でもよ・・今回のことは迷惑というレベルの話じゃねぇ。取り返しのつかない失敗を・・」

「そんなん言わんといて。あんたのせいやない」


阿部が言った。


「そうやて。だから立って」


重富が言った。


「中川さぁん、迷惑なんて一回も思たとこないよぉ」


森上は、なんとも辛そうな表情だった。


「ねぇ中川さん」


日置が呼んだ。

中川は肩を震わせていた。


「僕ね、思ったんだよ」


彼女らは黙ったまま日置の話に耳を傾けた。


「須藤さんが三宅くんに話しかけてきたらしいの。サーブのことね。ということはだよ、それだけ三神は桐花を恐れてるんだなってね」


そこで中川は少しだけ顔を上げた。


「だってね、なんとも思ってなかったら、訊くはずないでしょ。気にしてるからこそだなって。だからね、今回のことで僕は三神の内面を見た気がした。そしてますます勝てると思ったんだよ」

「先生・・」


中川は蚊の鳴くような声で呟いた。


「だから中川さん、きみは悪くもないし、きみのせいでもない。さ、立って」


日置は中川に手を貸した。

中川はやっとのことで日置の手を掴み、そして立ち上がった。


「先生・・ほんとに・・済まねぇ・・」

「まだ言ってる」

「だってよ・・」

「僕は、きみたちに必殺サーブがなかったとしても勝てると思ってたし、勝つつもりでいたよ」

「・・・」

「だからいいの」

「・・・」

「それでね、早く知った方がいいと思って話したの。中川さん、きみを傷つけてしまってごめんね」

「なっ・・なに言ってやがんでぇ・・」

「先生!」


阿部が呼んだ。


「なに?」

「わかりました!三神が知ってようがいまいが、そんなん関係ありません!」

「そうです!私もそう思います!」

「私もぉ!そう思いますぅ!」


日置は嬉しそうに笑った。


「中川さん、きみもそうだよね」

「え・・」

「関係ないよね」

「そ・・そりゃまあ・・」

「違うでしょ」

「え・・」

「あたぼうよ!でしょ」

「ったく・・先生ってのは・・どうしてそんなに・・」


日置らは中川の「いつもの」の言葉を待っていた。


「おうよ!っんなもん関係あるかってんだ!あたぼうよ!」


中川がそう言うと「そうでなくちゃ」と四人は声を揃えてニッコリと微笑んだ。

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