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サーよし!2  作者: たらふく
197/413

197 事の真相




この日の練習後、浅野は三宅と会う約束をしていた。


「なあ、彩華」


工場を出たところで浅野が呼んだ。


「ん?」

「あんた、今からどうすんの」

「いや、帰るだけやけど」

「先生は?」

「あはは、毎日会うてどないすんねん」


そう、小島は昨日も一昨日も日置と会っていた。


「ほんならさ、一緒に行かへん?」

「えー、あんた三宅くんとデートやろ」

「いや、それがさ、どうもおかしいねん」

「なにがよ」

「あいつ、センターへ行った日のこと訊いたら、なんかしどろもどろになりよんねや」

「なりよんねや、て」


小島は「あはは」と笑った。

そう、三宅は中川との練習を隠していたことに、後ろめたさを感じていたのだ。


「私は、なんか隠しとると思てんねや」

「そんなことないんちゃう?」

「いやっ、なんか怪しい・・」

「あはは。だってさ、三宅くん、あんたにベタ惚れやん」

「そこで、勘の鋭いあんたが着いて来てくれたら、吐かせられると思てんねや」

「あはは、私て、なんやねん」

「まあまあ、ほな、行くで」


そして小島と浅野は、待ち合わせ場所へ向かった―――



「くみちゃん~」


呑気な三宅は手を振りながら、浅野の元へ駆け寄って来た。


「あれっ、小島さん・・」

「どうも」

「どしたん・・?」

「数馬くん」


浅野が呼んだ。


「なに?」

「それ以上訊くな」

「え・・」

「ほな、ご飯食べに行こか」


浅野が強引にそう言うと、三宅は黙って浅野に従った。


くみちゃん・・

せっかくのデートやのに・・

なんでなん・・


食事をした後、ホテルへ誘うつもりだった三宅は肩を落とした。

ほどなくして、うどん店に入った三人は、それぞれ定食を注文した。


「数馬くんさ」


浅野が呼んだ。


「なに?」

「センターへ行った日、私、キャンセルしてごめんな」

「えっ・・」

「せっかく待っててくれてたのに、悪かったなと思て」

「そっ・・その話は、もう何回もしてるやん・・」


三宅はしどろもどろになり、目も泳いでいた。

それこそ勘のいい小島は、浅野の言う通りだと思った。

なにか隠してるぞ、と。


「あの日、多田くんだけやったん?」

「そっ・・そうやで・・」

「ふーん」

「あっ、俺、トイレ行って来る!」


三宅はそう言って席を立ち、逃げるようにしてトイレへ向かった。


「彩華・・どうよ」

「うん、確かに怪しいな」

「これは、女やな」

「どうなんやろなあ」

「女やて。まったくあいつめ・・」

「まあ、そう決めつけるんも、どうなんやろ」

「なんでよ」

「だってさ・・私かて先生に彼女がいてるとか、早苗さんの時なんか、ざんざんなことしたやろ」

「ああ・・」

「だから、あまり決めつけるんは、よくないと思う」

「確かにな・・」

「ここは、話を変えて」

「まあなあ」


ほどなくして三宅はトイレから戻った。

そして三宅は二人の顔を、窺うように見た。


「なんやのよ」


浅野は不満げな表情で見返した。


「いや・・別に・・」

「ああ、ところでさ」


小島が口を開いた。


「今日さ、後輩が桂山に来たんやけど、そっらもう~すごかったんやで、な?」


小島は浅野に訊いた。


「ああ、そやなあ」

「もう、めっちゃ強よなってて、あっ、ほんでサーブやん、サーブ」

「うん、確かにすごかった」

「あんなん、三神でも取られへんで」

「へぇ・・」


三宅は、なんとなく返事をした。


「三宅くん、どんなサーブやと思う?」

「どんなて・・さあ・・」

「それがさ、回転が逆になってんねん」

「え・・」

「フォアの横やのに、回転が逆やねん。つまりバックの横になってるんよ」

「逆・・」

「桂山の男の人でさえ、取るんに苦労してたくらいやで」


回転が逆・・

そんなサーブ・・誰でも出せるもんやない・・

というか、見たことない・・

そういや・・中川さんて・・そんなこと言うとったな・・

嘘やん・・まさか・・


「あの・・小島さん」

「なに?」

「そのサーブて・・いや・・後輩て、何人いてるん?」

「四人やで」

「四人・・」


中川さんは・・あと三人いてると言うてた・・

ほんなら・・中川さん入れて・・四人やん・・


「後輩の中に・・カットマンいてる?」

「うん」

「その子・・」


そこで三宅はチラリと浅野を見た。

浅野は、まだ不機嫌な様子だ。


あかん・・超美人とか・・訊いたら殺される・・


「いや・・その子・・名前はなんていうん・・」

「え・・」

「苗字・・」

「中川さんやけど」


や・・やっぱりそうやん・・

え・・ちょっと待って・・

俺・・須藤さんに話してしもたやん・・

うわあ~~どうしょう~~


「三宅くん、どうしたん?」

「あっ・・あのっ・・うわあ・・どうしょう」


三宅は慌てふためき、水の入ったコップを床に落としてしまった。


ガチャン!


「ああっ」


すると店内の客は、三宅らの席に注目した。


「すっ・・すみません」


三宅は慌てて立ち上がり、割れたコップを拾おうとすると、店員が「ケガしますよ」と言って止めた。

そして後始末は店員がした。

小島と浅野は「すみません」と店員に詫び、客にも一礼していた。

そして店員は、水が入ったコップを三宅の前に置いて騒ぎは収まった。


「ちょっと、数馬くん。どうしたんよ」


さすがの浅野も三宅の慌てぶりに、妬いている場合ではないと平静を取り戻していた。


「いや・・あの・・なあ、くみちゃん、俺、どうしょう・・」

「だから、なにがよ」

「実は・・センターで練習した日な・・」

「うん」

「俺と紀彦、中川さんと練習したんや」

「えええ~~そうやったんや」


浅野と小島は、思わず顔を見合わせていた。


「俺な・・くみちゃんが、いや、そんなことどうでもええ。それより・・」

「なによ」

「中川さんから・・サーブのこと聞いてな・・ほんで俺・・三神の子に喋ってしもたんや・・」

「えっ・・」


浅野と小島は絶句した。

なにをやってくれたんだ、と。

いや、なぜ話したんだ、と。


「実はな――」


そこで三宅は、三神の選手が大学へ来たこと、その際、須藤がサーブのことを訊いてきたなどの一部始終を話した。


「ごめん・・ほんまにごめん・・中川さんが桐花て知ってたら・・絶対に言わんかったのに・・」

「中川さん、校名言わんかったん?」

「うん、紀彦が訊いてんけど、それを訊くのは野暮ってもんさね、とか言うて・・」

「これは・・えらいことになった・・」


小島がポツリと呟いた。

小島は、日置から聞いていた。

今年は絶対に三神に勝つ、いや、勝てるんだ、と。

勝てるサーブを編み出したんだ、と。


「小島さん・・ごめん・・」

「え・・いや・・うん・・」

「なあ、彩華」


浅野が呼んだ。


「なに・・」

「三神やったら・・絶対に対策取るはずや・・」

「・・・」

「だって、森上さん対策として数馬くんらの大学へ通ってたくらいやもん。サーブともなると・・それこそ試合に与える影響は半端ないやん・・」

「うん・・」

「三神やったら・・絶対にどないかするはずや・・」

「俺・・どうしたらええねや・・」

「あんたな!っもう~~いらんこと喋ってからに!」

「内匠頭」

「なによ」

「今さら言うたってしゃあない。三宅くんが悪いわけやない」

「そやかて・・」

「今ここで、事実がわかっただけでもええやん」

「なによ、それ」

「だってさ、試合当日になって、三神が簡単に返してみ、ショックを受けるんは先生とあの子らやん」

「確かにな・・」

「事前に知っといたら、ショックもない」

「うん、そやな」


そして三宅は、何度も何度も二人に頭を下げていた。


「三宅くん」


小島が呼んだ。


「なに・・」

「それ以上謝ったら、三宅くんの負けやで」

「え・・」

「だって、ごめんの「ん」は負けやん」


三宅は意味がわからなかった。


「卓球しりとり~~始めっ!」


小島がそう言うと、三宅も浅野も唖然としていた。


「そやな~まず、スマッシュのゆ!」


そして小島は三宅にバトンタッチした。


「え・・ゆ・・えっと・・緩いサーブ!」


三宅は浅野を見た。


「ブて・・ブ・・無難なサーブ!」

「あはは、ブばっかりやん。えっと~ブ・・部室!」

「つ・・つ・・ついに編み出した必殺サーブ!」


三宅がそう言うと、浅野が恐ろしい表情で見た。


「あっ・・ごめん・・」

「あはは、三宅くんの負け~」


小島がそう言うと、「あんたは、ほんまにアホやなっ」と、浅野は苦笑いをした。

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