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サーよし!2  作者: たらふく
196/413

196 成長




一通りの基本練習を終えて、それぞれの台ではオールラウンドを始めようとしていた―――



「遠慮せんと、全力で来てや」


阿部の相手である安住がそう言った。


「はいっ」


そして阿部はボールを手にして、必殺サーブを出そうと思った。


よーし・・

絶対にミスさせる・・


阿部がサーブを出すと、安住は回転を見誤りオーバーミスをした。


「あれっ」


安住は首をかしげたが、さして気に留めてなかった。

そして阿部は、もう一度同じサーブを出した。

すると安住はまたミスをした。


「えー、なんでや」


安住は思わず自分のラケットを見た。


「今の、もっかい出してくれる?」

「はいっ」


阿部は同じサーブを出した。

自分のレシーブは間違ってないと思った安住だったが、試しに逆方向へ返球しようと考えた。

するとどうだ。

見事なレシーブが返ったではないか。


「えっ」


安住はちゃんと返したにもかかわらず、驚いていた。

おかしいぞ、と。


「阿部さん」

「はい」

「今の、フォアの横回転やんな」

「いえ、回転は逆です」

「えっ、嘘やん!」

「だから、バックの横回転やったんです」

「えええええ~~!ちょ、もっかい出して」

「はい」


そして阿部は同じサーブを出した。

安住はショートでバックへ送った。

安住にすれば、なんとも気持ち悪いことなのだ。

なぜなら、当然フォアへ送るべきところを、わざわざミスをするようにバックへ送ったからである。

そしてボールは綺麗に返球された。


「嘘やろ・・」


安住は呆然としていた。


「このサーブも受けてもらえますか」


阿部が言った。


「え・・」

「出してもええですか」

「あ・・ああ、うん」


そして阿部は、斜め回転のサーブを出した。

けれども、どう見ても横回転にしか見えないのだ。

しかも回転は逆だ。

安住はショートで返すとネットミスをした。


「え・・今の・・下も入ってたんや・・」

「はい」

「きみ、すごいやん!」

「ありがとうございます!」


これを見て驚いたのが彼女たちだ。

なんだ、あのサーブは、と。

そして他の台でも大久保と高岡も、重富と森上のサーブに仰天していた。

中川と打っている遠藤は、最初はミスをしたものの、すぐに回転を見破って返球していた。


先生が言うてはったん・・

これやったんや・・


そう、小島だけは日置から聞いて知っていた。

けれども実際に目にするまでは、逆回転なるものがどんなものかは実感できなかったのである。


これは・・すごい・・

これやったら・・三神にも勝てる・・

あの三神に勝てるんや!


「重富ちゃん~そのサーブ、慎吾ちゃん直伝やの~?」


大久保が訊いた。


「いえ、阿部さんに教えてもらったんです」

「いっやあ~~~阿部ちゃんやったの~すごいやないの~~」


そして小島ら八人も「レシーブさせてくれ~~」と言い、男性陣と交代した。

阿部らのサーブを受けた彼女らは「げぇ~~なんなん!」と驚愕していた。


「ちょ・・森上さん、もっかい出して」


為所が言った。


「はいぃ」


普通にレシーブしても返せないなら、ここはドライブだと為所は思った。

そして森上がサーブを出すと、為所はすぐさま回り込んでドライブをかけに行った。

なんとかコートに入ったものの、それでも威力のあるボールだ。

森上はそのボールを抜群のカウンターで返した。

為所は手を出したが空振りに終わった。


「ぎゃあ~~~」


為所は思わず叫んだ。


「いやあ~森上さん、すごい~~」


コートの後ろでは蒲内が手を叩いていた。

もう男性陣も打つのを止めて、四台のコートに注目していた。


「森上さん、すごいな」


遠藤は腕を組んで、森上に見入っていた。


「安住~」


大久保が呼んだ。


「なんですか」

「森上ちゃんの威力、あんたよりすごいで」

「なっ。これでも僕、男ですよ」

「いやいや~負けてるわよ~」


一方で、中川のサーブはあまり通用せず、中川はカットマンキラーの杉裏と打っていた。


「よーう、杉裏先輩」

「なに?」

「私のサーブよ、まだまだだよな」

「いや、そんなことないけど、あんたはカットマンやから、ラリーでミスさせるほうがええで」

「わかってんだけどよー、悔しいぜ」

「あはは。ほら続けるで」

「おうよ!」


杉裏はミート打ちで中川を下げ、間に抜群のストップを入れた。


おいおい、杉裏先輩よ・・

私を舐めてもらっちゃあ困るぜ・・


中川は全速力で前に駆け寄り、ツッツキで拾うのではなく、手首を上手く使って台上のボールをはたいた。


パシーン!


ボールは杉裏のバックを抜けて、後ろへ転がった。


「げ・・」


あれをはたくんや・・

いや・・はたけるんや・・

なんちゅう速さや・・


杉裏は中川の足のことを思った。

これを見ていた小島と浅野は、中川がどれだけ苦しい練習を重ねてきたかが手に取るようにわかった。


「あのストップを叩けるということは、ツッツキやったら軽く返せるな」


浅野が言った。


「それにしても杉裏のストップを、ああ返すか・・」

「カットも、そうとう切れてるで」

「それやん」

「彩華、重富さん見てみ」


重富は井ノ下と打っていた。

重富が返すコースはとても厳しく、井ノ下は右へ左へと動かされていた。


くっそ~~、コース、どれもギリギリやん・・

よーし、ここはいっちょ、スマッシュで抜くしかない・・


そう思った井ノ下は、バックへ入ったボールを思い切り打ちにいった。

左利きの井ノ下にすれば、フォアコースだ。

そして井ノ下は抜群のミート打ちで、バッククロスへ打った。


このラリーを見ていた者は、決まったと思った。

ところがどうだ。

後ろへ下がらない重富は、抜群のショートでフォアストレートに返した。

井ノ下は打った勢いで、体はまだバックコースで立ったままだ。


「げぇ~~~」


井ノ下はボールを目で追うしかなかった。


「おおおおお~~~」


見ていた者から思わず驚嘆の声が挙がった。


「あれを・・止めるんか・・」


高岡は呆然と呟いた。


「あっらあ~~、重富ちゃん~~、もうびっくり仰天よ~~」


大久保がそう言うと、重富はニッコリと笑った。


「ちょ・・重富さん」


井ノ下が呼んだ。


「はい」

「あんた・・去年の十二月まで演劇部やったよな」

「はい」

「もしかして、あんた双子?」

「え・・」


そう、井ノ下は重富が双子で、一人は演劇部、もう一人は子供の頃から卓球をやっているのではないのか、と言いたかった。


「いや・・まさかな」

「あはは、私は双子とちゃいます」

「そらそやな・・」


重富は嬉しかった。

ここにいるのは、インターハイへ行きベスト8に入った先輩だちだ。

その先輩が、自分のプレーを見て驚いている。

井ノ下は「双子」とまで言った。

自分は、こんなに力をつけたんだ、と。


そしてこうも思った。

それもこれも日置のおかげだと。

日置は来る日も来る日も自分につきっきりで特訓を続けてくれた。

もうダメだ、苦しい、出来ないと何度思ったことか。

あの時、もし辞めていれば、今の自分はなかった。

こうして先輩たちを驚かせることもなかったのだ、と。


一方、遠藤はこう思っていた。

日置から頼まれた時は、また女子高生か、と。

それでも遠藤は、大久保らと日置の繋がりや、小島ら八人のかつての監督であることも鑑み、いわば仕方なく受けたのだ。

それがどうだ。

女子高生と舐めていた自分は、間違っていた、と。


そこで遠藤は、あることに気が付いた。

さすが日置だ、と。

なぜなら、彼女らに力がついたからこそ、頼んできたのだと。

つまり、我々の練習の邪魔にならないと思ったからこそなのだ、と。


「よーし、ほんなら今からゲームしよか」


遠藤がみんなにそう言った。


「対戦相手は、好きに選んで進めていくこと。シングルでもダブルでも構わんで」

「はいっ」

「うーーっす」

「ほなら、始めて」


こうしてそれぞれは互いに声をかけあい、コートに着いていた。

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