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サーよし!2  作者: たらふく
195/413

195 三神と桐花




―――それから三日後。



江美友は、チームメイトの朝岡あさおかと一緒に三神高校へ向かっていた。


「メイちゃん、わかってる?」


江はチームメイトから、メイちゃんと呼ばれていた。


「わかてるよ」


江は、日本語をすぐに覚えたが、話す方は苦手だった。


「そけならええけど・・」

「朝岡ぁ、お前、心配性ね」

「ほら、それやん。お前やなくて、あなた」

「あなたね、あなた」

「ほら、着いたよ」

「おー、学校、綺麗ね」


そして二人は校門を抜けて、体育館へ向かった。

ほどなくして入口に到着した二人は、ドアを開けて中に入った。

すると、二人を見つけた野間は、急いで駆け寄った。


「わざわざお越しくださってありがとうございます。本日はよろしくお願いします」

「朝岡です。で、こちらが江さんです」

「お前、慌てて、どした」

「え・・」

「ああ、ごめん。江さんな、日本語はわかるんやけど、話す方が苦手で」

「いえ。ではどうぞ」


その後、皆藤や他の者たちとも挨拶を交わし、いよいよ練習が始まろうとしていた。


「それで、なに、教えてほしいか」


江は皆藤に訊いた。


「実はですね、回転が逆に見えるサーブは出せますか」

「逆て、なに」

「右回転のはずが、実は左回転だった、と」

「ああ、そいうことか」


江はすぐに理解した。


「お前、ボール」


江にそう言われた菅原は「あ、はい」と言って、直ぐにボールを渡した。


「お前、そのまま台に着くね」


江はレシーブのことを言った。

そして菅原はすぐに台に着いた。


「これ、よく見とけ」


そして江は、いとも簡単にサーブを出した。

そのラケットさばきたるや、どんな回転なのかもわからないほどだ。

レシーブに着いた菅原は、仰天していた。

なんだ、このサーブは、と。


「菅原くん」


皆藤が呼んだ。


「はい」

「どうですか」

「回転が全くわかりません」

「そうですね」

「今の、バックの横回転よ」


江のフォームは、明らかにフォアの横回転を出したはずだった。

けれどもラケットにあたった瞬間、逆回転をかけていたのだ。


「お前、ちゃんとレシーブする」

「はいっ」


こうして次から次へと、彼女たちは交代しながら江のサーブを受け続けた。

さすがの三神の彼女らでも、すぐに見破るのは無理だった。

もし三宅が須藤に喋ってなければ、予選でどうなっていたかは想像に難くない。


「お前、回転よく見ろ」


ミスを繰り返す者に、江は檄を飛ばした。


「はいっ」

「いいか。フォームじゃない。ラケットにあたった時ね」


江はボールがラケットにあたった瞬間に、手首がどう動いているかを言った。


「どっちに回転かけてるか、見るよ」

「はいっ」

「回転見破れば、むつかしボールじゃない」

「はいっ」

「ただの横回転。それと斜め」

「はいっ」

「じゃ、どんどん取れ」


こうしてレシーブの練習は延々と続けられた。

江は、「見てるか?目、どこについてる!」と、ずっと檄を飛ばしていた―――



「朝岡くんでしたか」


皆藤が呼んだ。


「はい」

「この子たちは、とてもずば抜けた選手ばかりですが、今日一日で見破るのは無理です」

「はい」

「それで申し訳ないのですが、都合のよい時、また来て頂けませんかね」

「ああ、はい」

「ありがとう」

「江は日本語を話すのが苦手なもので、無礼をお許しください」

「いえいえ、なんの。慣れない日本へ来て、さぞかし大変でしょう」

「悪い子ではないんです」

「ええ。わかっていますよ」


江の言葉はぶっきら棒だが、彼女らに接する真摯な姿勢で、皆藤は江の人間性を見抜いていた―――



―――一方で桐花の彼女たちは、今日から桂山へ通うことになっていた。



「それじゃ、きみたち。気を付けて行くんだよ」


練習後、日置は彼女らに向けてそう言った。


「はいっ」

「おうよ!」


「主将の遠藤さんには、もう話してあるけど、くれぐれも失礼のないように」


そこで日置は中川を見た。


「なんでぇ」

「きみ、わかってるね」

「けっ、わかってらぁな!」

「先生、中川さんのことは私に任せてください」


阿部は、もう堂々としたものだ。


「ったくよーチビ助。こんな私の方がいいっつってたのは、どこのどいつでぇ」

「それとこれとは別」

「かぁ~~難しいお年頃ってやつかい」

「なんやねん、それ」


阿部は思わず笑っていた。


「まあいいさね。おめーら、行くぜ!」


そして彼女らは桂山へ向かった。

ほどなくして桂山に着いた彼女らは、工場出入口の守衛に事情を説明して体育館へ行き、やがてドアの前に立った。


「おおお~~やってんじゃねぇか!」


中川は中を覗いてそう言った。


「やってるに決まってるやろ」


阿部が答えた。


「おめー、うるせぇよ」

「挨拶は、ちゃんとする。わかってるな」

「わかってらぁな」

「ほな、入ろか」


阿部はドアを開けて「こんばんは!」と大きな声で挨拶をした。

阿部の声に気が付いた彼ら彼女らは、打つのを止めて入口を見た。


「あらあ~お嬢ちゃんたち~久しぶりやないの~こっちおいで~」


大久保は手招きをして呼び寄せた。

阿部らは小走りで、彼らの元へ行った。


「桐花学園の阿部です。今日から通わせていただくことになりました。よろしくお願いします」

「重富です、よろしくお願いします」

「森上ですぅ、よろしくお願いしますぅ」

「中川でございます。こんな私たちですが、どうぞお見知りおきを・・おほほ」


中川を初めて見る男性陣は、「めっちゃ美人や・・」と囁いていた。

一方で、中川の「正体」を知っている大久保や安住や高岡、そして彼女らは可笑しくて仕方がなかった。


「よう来てくれた。話は監督から聞いてる。思う存分練習してくれたらええよ」


遠藤がそう言うと、早速それぞれに分かれて練習が始まった。

彼女らはまず、男性陣と打っていた。

森上を相手した高岡は、そのパワーに驚いていた。


「きみ、でぇれぇパワーじゃな。背も高けぇし」

「え・・」


森上は「でぇれぇ」の意味がわからなかった。


「ああ・・すごいパワーじゃけ」

「そうですかぁ」

「よーし、負けてられんけぇ」


そして阿部は安住と、重富は大久保と、中川は遠藤と打っていた。


「みんな、うまなってるなあ」


浅野は感心しながらそう言った。


「ほんまや~一年生大会の時と全く違うやん~」

「蒲ちゃん、それを言うなら重富さんやん。めっちゃすごいやん!」


外間がそう言った。

それもそのはず、彼女らが重富の試合を観た時、重富はまだ演劇部員であり、ど素人だったのだ。


「ちょ・・先生、どんな魔法をかけたんよ」


為所が言った。


「しぃちゃん、あの先生やで。そらもう、これくらい成長させるっちゅうねん」


井ノ下が答えた。


「いやいやあ~阿部さん、めっちゃすごいやん!」


同じ表の岩水が言った。


「ほんまや。あの動き、なんなん」


杉裏も驚いていた。


「中川さんも、うまなってるわ」


小島が言った。

けれどもこの時点で中川は、まだ「正体」を現してなかった。


「でもさ、彩華」


浅野が呼んだ。


「ん?」

「中川さん・・なんちゅうか、ぎこちなない?」


そう、太賀誠を封印していた中川は、いつもの調子ではなかった。


「そういや、そうやな」

「あれやろ。練習中、おらあ~とか言うてんねやろ?」

「うん」


小島は日置から、中川のことは詳しく聞かされていた。


「中川さん、来る前に釘刺されたんちゃうかな」

「先生に?」

「うん」

「でもさ、それやったら練習の意味ないやん」

「ほんまやな。ちょっとかわいそうやな」


そこで小島は中川の元へ行った。


「中川さん」


呼ばれた中川は打つのを止めて振り向いた。


「なんでございましょう」

「あはは、あんたさ」

「はい?」

「日頃のままでええで」

「あら・・なんのことかしら・・」


そこで小島は中川の傍に寄った。


「先生から聞いてるで・・」

「え・・」

「だから、遠慮せんと、いつものあんたでええで・・」

「そ・・そうか・・」


その実、中川は調子が出ないことにイライラしていた。

けれども日置のために、懸命に我慢していたのだ。


「頑張りや」


小島は「遠藤さん、ラリーを止めてすみません」と言って、浅野の元へ戻った。


「よーーう!遠藤さんとやら!ここからが真剣勝負さね!覚悟しな!」


突然の変貌ぶりに、中川に初めて会う男性陣と遠藤は仰天していた。


「えっ」

「ドライブ、ぶっ放してくんな!言っとくが、女子高生だと思って舐めてやがったら、痛い目見るぜ!」

「いや・・きみ・・」

「なんでぇ」

「いや、ええんやけど・・」

「さあ~~命のやり取りの始まりでぇ!」


大久保らと彼女らは、二人の様子を見て爆笑していた。

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