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サーよし!2  作者: たらふく
190/413

190 真相




相沢と中野の試合は、一進一退の攻防を繰り広げていた。

二人はともにペンドラだ。

ドライブの引き合いで、互いにコートから大きく下がり、そのラリーは大観衆を魅了していた。


「おっちゃん、頑張れ~~~!」


観客席から慶太郎が必死に声を挙げていた。

そう、相沢は誘拐犯から自分を救ってくれた大恩人だからである。


「相沢さーーん!しっかりーー!」


無論、慶三も懸命に応援していた。

『たまたまおっさん』ベンチでも、これに勝ったらハワイ旅行だと思うと、応援にも一層、力が入っていた。

方や、『クラクラチーム』もそれは同じだった。

特に、この試合に他の者を誘った板倉は、「中野~~~!行け行け~~!」と大声を出していた。


相沢は懸命にどこまでも頑張り続けたが、そこは中野がやはり一枚上手だった。

まさに悦子が言ったように、相沢はクラブチームなのだ。

センターにも通い、上級者と練習することはある。

けれども、中野や板倉が所属する『長和自動車』は、精鋭ぞろいだ。

そもそも練習内容からして違うのだ。


結局試合は、21-16、21-14と、2-0で中野が勝利した。


「整列してください」


審判が両チームを呼んだ。

そして彼らは、それぞれ台に着いた。


「たまたまおっさん対クラクラチーム、3-2でクラクラチームの勝ちです。ありがとうございました」


審判が勝敗を告げると「ありがとうございました!」と双方は一礼してベンチに下がった。

相沢が「すまんかった」と詫び、彼らが励ましている傍らで、中川は悦子をじっと見ていた。

そう、中川は気掛かりなことが一つだけあったのだ。

そして中川は悦子の元へ向かった。


「よーう、北京さんよ」


悦子は、北京と呼ばれ、言い間違いに笑っていた。


「北京て、なんやねん」

「あっ、違った。ゼンジーさんよ」

「あはは、ほんまは、それもちゃうし」


悦子の横で、朝倉も笑っていた。


「あのよ、聞きたいことがあんだけどよ」

「うん」

「おめーさんよ、先生と板倉の試合の時、人体実験っつってたよな」

「うん」

「あれは、どういう意味だったんでぇ」

「そのままやで」

「そのまま?」

「あんたの監督、慎吾はな、板倉を使って阿部さんや重富さん、森上さんに戦い方を教えてたんや」

「え・・」

「慎吾てさ、バリバリのドライブマンやろ。せやけど1セット目はまったく下がらずにミート打ちを連発。ほんでそっからストップ」

「・・・」

「まさに、阿部さんと重富さんのタイプや。ほんで2セット目はドライブを連発。で、ストップ。これは森上さんやな」

「す・・するってぇと・・先生は・・緊張してたんじゃねぇのか・・」

「あはは、あんたさ、慎吾が緊張なんかするはずないやろ」

「・・・」

「中川さん」


朝倉が呼んだ。

中川は黙ったまま朝倉に目を向けた。


「日置さんは何も言わないけど、そういう人なのよ」

「え・・」

「緊張どころか、ものすごく余裕があったのよ」


おいおい・・

ほんとなのかよ・・


「でもよ・・先生、緊張してるって言ってたぜ・・」

「あはは、そんなん嘘や、嘘」


悦子は爆笑した。


「なんやようわからんけど、慎吾があんたにそう言うたんは、事情があったんとちゃうか」

「事情・・」


あっ!そういや・・チビ助がなんか「違うで」と言ってた時・・

先生はチビ助を連れて・・私から離れたよな・・

あれは・・そう言うことだったのか・・

するってぇと・・チビ助は・・先生の意図を読んでたってことか・・

もしかすると・・重富も森上も・・

知らなかったのは・・私だけかよ・・


「中川さん」


中川は呆然としたまま、悦子を見た。


「こんなん言うたら、慎吾に怒られるかもわからんけどな」

「え・・」

「あんた、文久、やったっけ。そこに助っ人として参加したやん」

「うん」

「で、揉めたんやろ」

「あ・・ああ」

「慎吾な、私に「中川を挑発してくれ」て、頼んだんやで」

「えっ」

「私な、気が進まんかったけど、やろと思てたんや。せやけど、男の人らに腹立ってな。結局、あんたを挑発すんのやめたんや」

「・・・」

「慎吾は、あんたもそうやけど、選手のことをいつも考えてるんやで。何も言わんだけでな」

「そ・・そうか・・」

「それでもまあ、あんたはええ選手や」

「え・・」

「なんちゅうんか、体裁なんか気にせんとさ、思たら思たまま行動する。それでええんちゃうか」

「・・・」

「心配せんでええ。あんたが暴走したら、慎吾がブレーキかけよる」


――「えー、ただ今より表彰式と閉会式を行いますので、選手の皆さんは中央へお集まりください」


本部席から放送がかかった。


「よし。ほな、ひなちゃん行こか」

「そうね」

「あっ・・あの・・ゼンジーさんよ・・」

「ん?」

「私は・・どうしたらいいんでぇ・・」

「なにをよ」

「その・・先生の意図を・・何もわかってなかった・・」

「うん」

「な・・なんて・・言えばいいんでぇ・・」

「なんも言わんでええがな」

「え・・」

「あんたは、あんたのままでええ。でもな、慎吾のことは理解したってや」

「・・・」

「あんたが思てるほど、単細胞やないってことや」

「う・・うん・・」

「ほなな」


そして悦子と朝倉は中央へ移動した―――



やがて閉会式も終え、日置らは体育館を出ようとしていた。


「日置くん!」


相沢が慌てて追いかけて来た。

そこで日置らは立ち止まった。


「はい」

「これ、この子らにやるわ」


相沢は、二位の副賞としてウォークマンを四台を手にしていた。


「いえ、頂けません」

「なに言うてんねや。きみが参加してくれたおかげでええ試合が出来た。ほんでこの子らも精一杯応援してくれた。そのお礼や」

「いえ、そんな」

「中川さん」


相沢が呼んだ。

中川は黙ったまま相沢を見上げた。


「どないしたんや」


そう、中川は元気を失っていたのだ。


「どうもしねぇさ」

「ほれ、これ受け取ってくれ」

「いや・・そんなわけにはいかねぇ」

「いや、ちゃうねん。わしらな、こんなハイカラなもん、いらんねや」

「え・・」

「みんな年寄りばっかりやろ。持ってても意味ないねん」

「吉野が・・いるじゃねぇか・・」


ちなみに吉野は、日置と同い年だ。


「あいつは、もう持っとんねや」

「そうなのか・・」

「な、日置くん、そういうことやから、受け取ってくれ」

「そうですか・・なんだか申し訳ありません」

「よし。ほな、これな」


相沢はそう言って、彼女らに一台ずつ渡していた。


「すみません、ありがとうございます」

「ありがとうございますぅ」

「ありがとうございます」


阿部ら三人は丁寧に頭を下げた。


「中川さん?」


何も言わない中川を、日置は心配した。

それは彼女たちも同じだった。

さっきまでの勢いはどこへ行ったんだ、と。


「え・・」


中川はぼんやりと日置を見た。


「ちゃんとお礼を言いなさい」

「あ・・ああ。ありがとうございます・・」

「日置くん、きみら、ほんまにおおきにな。ほな、またな」


そう言って相沢は、吉野らの元へ戻って行った。


「中川さん、どうしたの?」

「どうもしねぇさ」

「具合でも悪いの?」

「先生よ・・」

「なに?」

「今日は・・帰ってもいいか・・」

「え・・」

「練習は明日からちゃんとする。でも今日は帰らせてくれ・・」


中川はそう言い残して、先に体育館を後にした。


「中川さん・・」


阿部も呆然としていた。


「中川さぁん・・どないしたんやろうぅ・・」

「あの・・先生」


重富が呼んだ。


「なに?」

「訊きたいことがあるんですけど」

「うん」

「中川さん、大村さんと揉めてチームを抜けましたよね」

「うん」

「でも先生が引き止めてくれはったんですよね」

「うん」

「私・・思うんですけど、中川さんやったら、いくら引き止められても戻らないと思てたんですけど、あの子は戻ってきました。ほんで、大村さんに「すみませんでした」って頭を下げたんです」

「うん」

「先生、どうやって中川さんを説得しはったんですか」

「ああ、それね。僕はきみのために頭を下げろって言ったの」

「え・・それって私のことですか」

「そうだよ」

「なんで・・私のために・・」

「クラクラチームと対戦させたかったからだよ」

「え・・」

「中川はね、自分のためなら絶対に動かない。でも、重富さんのために頭を下げるならできると思ったの」

「そうやったんですか・・」


「事件」を知らない阿部と森上は、なんの話だ、と驚いていた。


「あの子は、そういう子だよ」

「中川さん・・私のために頭を・・そうやったんや・・」


そこで重富は「中川さん~~!」と叫びながら体育館を出て行った。

阿部と森上も、重富を追った。


中川さん・・私のために我慢して・・

あんた・・なんで言うてくれへんかったんや・・


重富は必死で中川を追いかけた。


「中川さん!」


中川に追いついた重富は、思わず腕を掴んだ。

驚いて振り向いた中川の目には、涙があふれていた。


「中川さん・・どうしたん?」

「なんでもねぇって・・」

「いや、あのさ、あんた、私のために頭を下げてくれたんやろ」

「え・・」

「チームに戻った時」

「あ・・ああ」

「なんで言うてくれへんかったんよ」

「別に・・言うほどのことでもねぇさ」

「ほんで・・なんで泣いてんの・・」


そこへ阿部と森上も追いついた。


「中川さん・・」


阿部と森上は「あの」中川が泣いていることが信じられなかった。


「中川さぁん、どうしたぁん」

「どうもしねぇさ」

「いや、中川さん、なにがあったん?」


阿部が訊いた。


「チビ助・・おめーよ、知ってんだな・・」

「なにを?」

「先生の試合のことさね・・」

「あ・・ああ」

「重富も、森上も知ってたんだな・・」

「うん・・」

「そうか・・やっぱりな・・」

「それがどないしたんよ」


阿部が再び訊いた。


「いや、私はさ、チビ助が言うように、なんも知らねぇで出しゃばってよ・・」

「え・・」

「反省してんだ・・」

「いや・・そんなこと・・」

「ちょっと頭を冷やしてぇんだ。だから帰る」

「そんな・・」

「にしても・・先生って、でけぇ人間だな」

「・・・」

「ほんと・・すげぇぜ・・」


そう言って中川はこの場を去った。

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