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サーよし!2  作者: たらふく
184/413

184 助っ人




「相沢さん、決勝戦ですね」


日置はニッコリと微笑んだ。


「うん」

「ラストの箱崎さんの試合、すごかったですね」


そこで相沢は、日置の顔を覗き込むように見た。


「あのな」

「はい?」

「きみ、決勝戦、うちで出てくれへんか」

「え・・」

「きみ、今日はどこにも参加してないやろ」

「いや・・そうですけど、いきなり僕が入るなんて・・」

「そんなん、かめへんがな。公式戦やあるまいし」

「いや・・やっぱりそれはできません」


日置は思った。

最初から『たまたまおっさん』の助っ人として参加していたならまだしも、決勝戦だけというのは、あまりにも身勝手だと。


「慎吾、出ろよ」


八代が言った。


「なに言ってるんだよ。そんなの無理」

「八代くん、もっと言うたってくれ。この生真面目男に」

「ほんとですよ。慎吾、あまり堅く考えなんって」

「日置くんやったらわかるやろ。この決勝戦がどないなるか」


相沢は、はなから勝負にならない対戦のことを言った。

けれども日置が入れば、まさに決勝戦に相応しい試合が出来る、と。

それにこれは公式試合ではない。

誰が助っ人で入ったところで、文句など出るはずもない、と。

なにより、観客席で見守る観戦者たちのためにも、決勝戦に相応しい試合を見せるべきだ、と。


このやり取りを聞いて、苛立ったのが中川だ。


「よーう、相沢さんとやら」


中川が呼んだ。

相沢は、中川の話しぶりに目が点になっていた。


「こんな煮え切らねぇ先生に頼むより、ここは私が助太刀するぜ」

「きみ・・日置くんの生徒なんか?」

「そうさね」

「そうさね・・て・・」

「相沢さん、気にしないでください」


日置は半ば呆れながら、中川を制した。


「この子、こんな喋り方なんです。すみません」


阿部がすぐさま詫びた。


「いや、そんなんかめへんねやけど」

「で、どうでぇ。私がおっさんに加わるってのはよ」

「中川さん」


日置は強い口調で制した。


「なんでぇ」

「きみ、文久で出たんだから、違反だって言ったはずでしょ」

「ならよ、先生、助太刀してやんな」

「だから――」

「だからとか、できねぇとか、つべこべ言ってんじゃねぇよ!」

「なんだよ」

「相沢さんはよ、おめーの力を借りてぇっつってんだろ。ここは応えねぇと男じゃねぇぜ」

「おめー・・」


日置は呆れていたが、相沢はクスクスと笑っていた。


「慎吾、中川さんの言う通りだよ」


八代が言った。


「おうよ!秀の字さんよ、わかってんじゃねぇか」

「まったく・・きみって子は・・」

「中川さん・・きみ、めっちゃおもろいなあ」


相沢は嬉しそうに笑っていた。


「なにが面白れぇのかわからねぇが、ま、いいさね」

「で、日置くん。参加してくれるか?」

「はい、わかりました。よろしくお願いします」


日置は丁寧に頭を下げた。


「よーーし!決まりだ。先生よ、クラクラ野郎をぶっ倒してやんな!」


そう言って中川は、日置の背中をバーンと叩いた―――



そして日置と相沢は、その足で『クラクラチーム』がいるところへ向かった。


「えっちゃん」


日置が呼ぶと「おう、慎吾」と悦子が答えた。


「あのね、話があるんだけど」

「なんやねん」

「中野くんたちも聞いてね」


すると中野と板倉、朝倉は何事だと日置らを見た。


「実は、決勝戦なんだけど、僕は、たまたまおっさんで参加することになったけど、構わないかな」

「え・・ほんまかいな!」

「急遽、助っ人ってことで」

「えっちゃん、いいんじゃない?」


朝倉は乗り気だった。

無論、悦子も異論などなかった。

けれども板倉は、日置が入るとハワイ旅行を逃してしまうことを心配した。


「でもなあ・・」


板倉がそう呟いた。


「板倉くん、どうしたの?」


朝倉が訊いた。


「日置さんが入ると・・」

「入ると、なに?」

「ハワイ旅行が・・」

「おーい、板倉」


悦子は低い声で呼んだ。


「なに・・」

「実力でもぎ取れよ」

「まあ・・な・・」

「中野はどうやねん」


悦子が訊いた。


「僕はええけど」

「そうか。ほな、こっちは問題なしや」

「ありがとう」


日置は丁寧に頭を下げた。


「すまんな。でもこれでええ試合ができる。おおきにな」


相沢も一礼した。


「じゃ、あとでね」


日置はそう言って、相沢と共に『たまたまおっさん』の元へ向かった。



―――「えー、ではただ今より、たまたまおっさん対クラクラチームの決勝戦を行います。選手の皆さんはコートに集合してください」



本部席から放送がかかった。

すると双方のチームはコートに向かって歩いた。


「いやあ~~先生、出はるんや~~」


観客席で座っている中島が言った。


「ほんまやわ~~かっこええ先生、見られるわ~~」


柳田も興奮していた。


「ええか、柳田さん。叫ぶで」

「わかった!」


すると二人は「きゃあ~~~!日置先生~~!頑張って~~~!」と大声で叫んだ。

日置は思わず観客席を見上げた。

中島と柳田は「きゃあ~~ここよ~~!」と言って手を振っていた。

この様子を、『よちよち』の秋川と後藤は苦笑しながら見ていた。


また別の観客席では「日置さ~~~ん!」と山崎、木津、加茂の三人が叫んでいた。

日置はそこにも目をやった。


「ここやで~~!ここ~~!頑張って~~!」


三人は団子になりながら手を振っていた。

日置は、中島らと山崎らに軽く手を振って応えていた。


「おい、チビ助」


日置の後ろを歩きながら、中川が呼んだ。


「なに?」

「なんだ、この騒ぎはよ」

「私、知らんで」

「みんな、おばさんじゃねぇか」

「そうやな」

「ったく、先生よ、隅に置けねぇぜ」

「え・・」

「マダムキラーだよ」

「へ・・へぇ・・」

「小島先輩にチクってやんぞ」

「え・・?」

「あっ・・いや、なんでもねぇ」


危ねぇ・・

つい喋っちまうとこだった・・


「さて、オーダーやけど、一番は日置くんでどうや」


ベンチに着いて、相沢がそう言った。


「そりゃ日置さんがトップですよー」

「うん、それがええ」

「わしも、賛成や」


吉野も三木も箱崎も賛成した。


「ほなら二番は吉野くんや」

「わかりましたー!」

「ダブルがわしと日置くん。四番が三木さん。で、ラストがわし。これでどうや」


みんな異論はなかった。

日置は床に座って体を解していた。


「日置くん、ええな」

「はい、わかりました」


日置はニッコリと微笑んだ。


「先生がトップか・・」


中川がポツリと呟いた。


「ええんちゃうの?」


重富が訊いた。


「大丈夫なのかよ・・」

「え・・」

「だってよ、ゼンジーか助手が出て来てみろ。これは厄介だぜ」

「うーん・・先生やったら大丈夫ちゃうかなあ」


そう言いながらも、重富も不安に思っていた。

なぜなら、悦子と中野の力を嫌というほど思い知らされたからだ。


「あと、板倉って野郎も、なかなかだぜ」

「うん、確かに・・」


そして双方のチームは台に整列した。


「では、これより決勝戦を行います」


審判がそう言った。


「一番、日置対板倉」


二人は手を挙げて一礼した。


「むっ・・板倉か・・」


中川が言った。


「二番、吉野対竹林」


二人は手を挙げて一礼した。


「ゼンジー・・二番か。さっきと逆だな」


中川は自分たちとの対戦のことを言った。


「ダブルス、相沢、日置対中野、竹林」


四人は手を挙げて一礼した。


「四番、三木対朝倉」


二人は手を挙げて一礼した。


「朝倉ってねぇさんよ、初めて出るな」

「初めてというか、回らんかったからな」


重富は3-0で勝負がついたことを言った。


「ラスト、相沢対中野。お願いします」


審判がそう言うと、両チームは「お願いします」と頭を下げてベンチに下がった。


「先生よ」


中川が呼んだ。


「ん?」


日置は腰を落として、バッグからラケットを取り出していた。


「トップは勝たなきゃなんねぇぞ」

「ああ・・そうだね」

「そうだねって・・」

「わかってるよ」


日置はニッコリと微笑んで立ち上がった。


「まあいいさね。とにかく緊張すんじゃねぇぞ」

「うん」

「ぜってークラクラ野郎をぶっ倒しな」

「うん」

「おいおい・・大丈夫か?」

「きみ、応援してくれるんでしょ」

「かあ~~!応援に頼ってるようじゃ、いけねぇやな」

「応援がないと、僕、とても不安だよ」


日置はわざとそう言った。


「しっかりしろってんだ!」

「うん、頑張るね」

「ちげーだろ。徹底的に叩きのめす!いつも言ってんじゃねぇか」

「ああ、そうだった。じゃ、行って来るね」

「おうよ!負けたら承知しねぇからな!」


中川は、本当に大丈夫なのかと不安に思いながら、コートへ向かって歩く日置の後姿を見ていた。

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